13.闇落ちはさせません。
人の奥底に潜むどす黒く取り巻くもの、触れてはならない深淵を目撃した気がします。
私の知るイーディス様はもっと可憐で可愛らしいお方だったのに。私は表面しか見ていなかったのかもしれません。
「カイル殿下は妖女の毒沼にハマっていらっしゃるだけだわ。私が救い上げて差し上げれば良いことよ」
「イーディス様は、カイル殿下を心からお慕いなさっておいでなのですね」
「ダイナ、違うわ。好き、どころではないわ。殿下のこと愛しているの。今は私に気持ちが向いていなくても、構わないわ。いつか私のことしか見えなくなればいいの」
「さ……左様でございますか」
私は相槌を打つしかできません。
かなり歪んでいるけれど、相手への感情だと考えれば理解できなくもないような。
とにかくイーディス様のカイル殿下への愛情は本物のようです。
イーディス様の内面を知ってしまうと、発せられる言葉の一つ一つに別の意味が込められているのではと思ってしまいます。
真っ当に愛情を伝え、思い思われれば問題はないでしょうが……。
一方だけがこんなに重く歪んだ愛情ではうまくいかないのではないでしょうか。
カイル殿下が知ってしまったら、裸足で逃げ出しちゃいそうです。
でも、そうなったとしても、きっと、ううん、絶対。
イーディス様は地の果てまで追いかけて力技でキメるに決まっています。
持ちうる全ての権力を行使して。
私にはそのお手伝いをさせられる未来しか見えません。
貴族といえども、侯爵家の雇われの身ですから、小間使いとして命ぜられれば従わねばならないでしょう。
一体どんな汚れ仕事をさせられるのでしょうか。
戦々恐々です。
とりあえずNOという意思を伝えることくらいは、許していただけるはずです。
私は深々と頭を下げ、
「イーディス様。私のような者にその役は荷が重く……。愚かで浅慮である私ではなく、他の方をご所望くださいませ」
「そんなことないわ」
イーディス様はきっぱりと言い、扇子を私に向けた。
「ダイナは善良で忠実だわ。何よりも一番大事よ。それに私のこと信頼してくれているでしょう? だからこうして私の表沙汰にしたくないことも教えるのよ」
イーディス様も自分が受け入れられないことをやっていると、自覚があるのですね……。
「そこまで評価していただけているとは嬉しい限りです。恐れ入ります」
「ダイナ、私とカイル様はいずれ結婚するの。時がくればカイル様の器は手に入れることができるのよ。でもそれだけじゃ足りない。カイル様の全てが欲しいの。体も心も。絶対にカイル様の気持ちも手に入れたいわ」
手に入れるも何も。
強奪する気満々だ。
でも。無理矢理振り向かせてもだめじゃないかな。
自分の心もそうですが、人の心って自由にならないものです。
(イーディス様のやり方は強引すぎる。これでは逆効果だわ)
太陽のように、照らし、カイル殿下の方からイーディス様を選んでもらうのがベストじゃないでしょうか。
「イーディス様。間諜を使っての監視も結構ですが、それではカイル殿下の心を得ることはできません。反対に遠ざかることでしょう。程よい距離で接し、親身となるのが大切ではないですか?」
とりあえずイーディス様をこれ以上ダークサイドに踏み入れさせたくありません。
現世では恋愛経験値はありませんが、いずれかの過去の記憶を参考にすれば、あ、鹿以外のですけど、解決策もありそうです。
12話をお送りします。
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