12.ご主人様がラスボスでした。
私は急いでお使いを終え、イーディス様の元に戻りました。
イーディス様のお側に上がったものの、カイル殿下の思い人を思いがけず知ってしまい、なんとなくお顔を正面から見ることができません。
だって、あの痴態ですよ。
国のシンボルである王族の王子が婚約者以外の女性に……。
殿下も目撃されるとは思ってもいなかったでしょうが、こちらもそれなりに衝撃を受けました。
「ダイナ、何かあったの?」
聡いイーディス様のことです。
落ち着きのない私の様子から異変を感じ取ったようです。
オーウェンといい、イーディス様といい、能力者か何かなのでしょうか。
特殊な才能は7巡目の人生を送っている私にあっても良さそうなのに、兆しもないのは不公平ではありませんか。
「……いいえ、特には。王宮が広くて迷ったくらいでしょうか」
「嘘おっしゃい。あなたが挙動不審になるなんて、私に関わる何かがあったのでしょう。きっとカイル殿下のことね」
私は目を逸らします。
ほんと、なんて鋭い方なのでしょう。
「イーディス様。どうしてお分かりになられるのです?」
「ダイナは考えていることが全部顔に出るのよ。あなたほど分かりやすい人はいないわ」
イーディス様はカラカラと笑います。
「カイル殿下の、そうね。密会現場でも見たのでしょう?」
「え!!」
いや待て。
これはカンが鋭いどころじゃないのでは?
オーウェンと私でイーディス様がショックを受けられては……と考えていたのは、なんの意味もなかったようです。
イーディス様は扇子を広げ、私に顔を寄せました。
「あまり大ぴらには言えないけれど、王宮に間諜を放ってるのよ。カイル殿下の一挙一動を把握しておきたいから。さっき殿下がメリッサと部屋に入ったと報告があったわ」
「イーディス様、それは……」
ストーカーではないですか!
しかもお金のある分、タチが悪いのでは??
間諜を使うこと自体は法には背きませんし、この世界では力のある貴族にとっては当たり前のことです。
イーディス様は侯爵令嬢ですので、使っていても不自然ではありません。
問題なのは対象です。
ターゲットのカイル殿下は、私ごときが言う立場にはないですが、監視するほどの価値があるようには思えません。
公人としての重要度ははっきり言って低い。
現国王の四男。権力も向上心もほどほどというか、保身の為あまり権力とは関わろうとしない。
持っているホルダーは近隣各国の上位貴族のお婿様候補、それくらいです。
ですので、監視させる意味は全くありません。
つまり王宮に放たれた間諜の意義は、政治的なものは一切なく、イーディス様の趣味でしかない、ということになります。
「ダイナ。あなただって好きな方のことは何でも知りたいでしょう? 私ね、カイル殿下のことは全部把握しておかないと気が済まないの。朝は何時に起きて、何を食べたのか。どんな服を着たのか、誰と話したのか」
イーディス様は頬を赤らめました。
恋する方々の独特の華やかさに、一生独り身の私は目が眩みます。
「どなたに想いを寄せているのか」
それはぞわりとする冷たい声でした。
私は身を震わせました。
こんなに冷たいイーディス様の声、聞いたことがありません。
いつも温厚で、侍女にも等しく優しいお方が私の主人イーディス様なのに。
目の前にあるのは若く美しい貴婦人ではなく、微かな狂気を漂わせる老獪な政治家のようです。
「ダイナ、それでカイル殿下はどうだったの? お相手はメリッサ・ウォードでしょう?」
「あ、はい。カイル殿下はメリッサ様にこっぴどく振られていました」
「そうでしょうね。社交界でメリッサが計算高い女性であることは常識よ。それなのに幼馴染とはいえカイル殿下があんな女に引っかかるだなんて。何ておかわいそうなお方かしら」
怖い怖い怖い。
イーディス様は女神ではなく悪m……。
だめです。主人を疑っては。
「カイル殿下は婚約者である私が救って差し上げないといけないわよね。ダイナ。手伝ってちょうだいね」
イーディス様がパチリと扇子を閉じました。
読んでいただきありがとうございます!
サブタイトルを全部変えてみました。
ちょっと読みやすくなったかな。
ブクマありがとうございます。
とても嬉しいです!!
では次回も読みにきてくださいね。




