クラスメイトが事故に遭って異世界転移したと思い込んでいる。
「俺…、異世界転移してるみたいなんだ…。」
絞り出すような声を出したこいつを、俺は冷めた目で見つめた。バカだバカだとは思っていたがやはりこいつは果てしないバカだ。
「信じられないのは分かる。でも俺なりに根拠は色々あるんだ…」
思えば事故にあってからこいつの様子はおかしかった。知らせを受けてアメリカ出張から病院に駆け付けたこいつの両親があまりに太って別人のようになったのがショックだったのだと単純に思っていた。俺だってかなりショックだった。あの時こいつは肉に埋もれながら言葉もなく混乱していた。
「一番は両親が別人な事だ。」
誰だってたった半年で座席2席分のスーパーサイズになって帰ってきたら戸惑うだろう。流石このバカの肉親だけあってどうかしている。
「だからあれはお前のりょうs「違うって言ってるだろっ!?」
ビックリした。叫んだ本人も自分で驚いたのか、気まずそうに「…ごめん」と呟くと床にへたり込む。
「…なんで信じてくれないんだよ…。」
頭を抱えるこいつには悪いが、俺に真実をねじ曲げる力はない。
「…まゆみ先生だって、俺の知ってる先生と違う。」
まゆみ先生は最近イメチェンしたと話題の女性教師だ。半年後の結婚式に向けたダイエットで15㎏の減量に成功し、女子の羨望の的になっている。奮発してエステにも頻繁に通い自分磨きに邁進していると聞く。
「まあ…まゆみ先生綺麗になったよな…あか抜けたってゆうk「痩せてあか抜けたくらいであんななるかよっ!?めちゃめちゃ綺麗なお姉さんになってんだろうがっ!!」
なんなんだこいつ。
「お前は!あのまゆみ先生見て何とも思わないのかよっ!!」
「てかお前はまゆみ先生見て何を思ってるんだよ。お前はまゆみ先生のなんなんだ。…先生だって綺麗なお姉さんになりたくて頑張ったんだろ?何が問題なんだよ。」
「っ…ごめん…つい興奮して。」
危険人物だ。まゆみ先生には今後こいつに近づかない様に忠告しとこう。
「…4階の西だって、前は誰も来ない穴場トイレだったのに、事故以来女子でいっぱいだ!なんなんだあいつら!」
そうそう、そうだよそうだった。
こいつ4階西の女子トイレで覗き騒動起こしてたんだ。言動がおかしいから俺が呼ばれた。
「女子トイレに女子がいてなn「だから!女子トイレってなんなんだよっ!!」
女子トイレは女子トイレだ。
少なくとも男が入るべきではない。何が言いたいんだ。だいたい穴場トイレってなんだよ。常習か?
「4階西トイレは俺のオアシスだったんだよ…。」
常習らしい。警察を呼ぼう。
もう俺がなんとか出来る範疇は越えた。
俺は携帯を取り出し3桁の番号を押す。コール音を聞きながら、こいつバカだけど誠実ではあったのにな…など考え涙が出そうになった。しかし嫌にコールが長い…繋がってんのか?
「………あのっ!けいs「ガガっ…コード確認しました。転移します。」
「は?」
その瞬間、突然目の前がホワイトアウトした。
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そういった経緯で俺はこの世界にやって来た。
あの瞬間俺を助けようと咄嗟に光に飛び込んだこいつも一緒だ。やっぱりこいつはバカで誠実だった。
そしてこいつの言い分通りに転移はあった。
ここは俺がいた世界とちょっとだけ違う異世界だ。
恐らく平行世界とか言うやつだろう。
こっちのこいつの両親はあっちとは全く別人の平凡で普通の両親だった。確かに別人だ、何が違うと聞かれても平凡すぎて人が違うとしか言いようがない、説明に困る。
まゆみ先生は最近イメチェンしたと話題の男性教師で、半年後の結婚式にむけて15㎏のビルドアップに成功し、男子の羨望の的になっている。奮発して日サロにも頻繁に通い、自分磨きに邁進していると聞く。まゆみ違いだ。
因みにこちらの世界ではトイレで排泄するのは男だけだそうだ。女は耳から可愛い形のシャボン玉が出る。排泄はないので女子トイレという概念がないらしい。昭和アイドルかよ。
元の世界に戻れたこいつは一頻り泣いて喜んだのが落ち着くと、今度は俺を心配して日々何かと気遣ってくれている。相変わらずこいつだけはあっちと変わらずバカだけど誠実でいてくれる。誤解で警察に引き渡そうとしたことが申し訳ない。
元の世界に帰る手段はまだわからない。俺は4階西トイレをオアシスに、小さなストレスを日々堪え忍びながら今日も元気に異世界生活をしている。
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