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悪の宰相を倒す話

悪の宰相を倒す話 side勇者

作者: くま

 一体、どこで間違ってこうなったのか……。



 魔王城の謁見の間で、死闘を繰り広げたオレたちは、魔王軍の勢力を三分の二くらいまで削ったところで力尽きた。そもそも、勇者と斥候、冒険者、魔法使い、僧侶の五人で六千の魔王軍の勢力削ぐって、無理ゲーすぎねぇ!?


 ちなみに、もうひとりいたメンバーは、王様に軍隊出してってお願いしにいってそのままトンズラした。そんときのみんなの第一声は「ズルい!」だった。

 もちろん、オレも。

 むしろ、オレこそ逃げたかったさ。勇者に祭り上げられてはいるけど、元は農民だし。二年前までは、剣すら握ったことなかったってのにさぁ。


 二年前、復活した魔王を退治?封じ込め?するために、国中に勇者を探すお触れが出た。同じ村の若い連中は「やるだけならタダだ」とか言って、みんな勇者の剣を抜くチャレンジをしたもんだ。もちろん、周りのやつらに誘われたオレも。


 ついうっかり、剣が抜けちまったのが運の尽きだった気がする。


 オレはあっという間に勇者として祭り上げられて、気付いたらレベル上げのためにダンジョンに放り込まれてた。

 その気もないけど逃げるに逃げれず、腐っていたオレは、魔王との戦いに疲れて目を閉じた。


 もういいだろ?十分頑張ったよ……。


 まさに気分は童話の主人公。と、言っても倒される側だけど。


 そんなとき、広間にいきなり場面に不釣り合いな男の高笑いが響いた。ひきつったみたいになってまで笑ってるのは、……たぶん、式典で『宰相』って呼ばれてた男。隣にまだ若い女の子を侍らせてる。

 紺色の詰襟は武官、深緑は文官だって教えてもらったことがあるから、きっとあの子は文官だ。文官の女の子は、宰相をちらっと見て、悪魔もビックリの邪悪な笑顔を浮かべた。え、なにこの子。怖いんだけど。ていうか、宰相のおっさんも、狂ったみたいに笑ってて怖い。魔王と戦った後じゃなきゃ、殴り倒してでも止めるのにぃ。


「これで私こそが実権を握るのだ!魔王でも!勇者でもなく!この私が!!」


 わあ、なんか、魔王より悪役っぽいこと言ってるよ。まさか、あれ、ラスボスとか言わないよね?魔王を見ると、すーげぇ残念なものを見る目で宰相を見てた。うん、魔王も知らないっぽい。


「なあ、あれって……」

「我は知らん」


 こっそり聞いてみたけど、やっぱり魔王は知らなかった。


「さあ、トドメを刺すのだ!」

「まさかの人任せ!?……かはっ」

「阿呆が」


 高らかに命じる宰相に、思わず突っ込んだ。ついでに吐血する。

 ぼそっとなにか呟いて、文官の女の子は倒れているオレたちに近付いてきた。オレが持っているのと同じ、でも輝きの明らかに違う聖剣と、なんか偉い魔法使いが持ってそうな感じの杖を原型をとどめてない床にぶっ刺して、腰のポシェットを漁っている。なにしてんの、この子?


 にたぁ。


 んん!?めっちゃゲスい笑顔で宰相を振り返ったよ!?なにこの子、怖い!!

 きゅっぽんって音がして、頭の上からなんかいい感じにHPが回復する液体が雑に振りかけられる。


「エリクサー……」


 呆然と魔王が呟く。みるみる治っていくケガにビックリしてると、「何をしている!」「裏切り者!」「傍に置いてやった恩を!」とかなんとか宰相が叫んでるのが聞こえた。

 それを鼻で笑って、女の子はまだ起き上がれないオレたちにいい笑顔で言いきった。


「勇者サマ、魔王サマ、私、自分の主人くらい選びたいんですよね。セクハラパワハラモラハラその他色々耐えてきたんですが、最大の屈辱と絶望を感じさせた上でアイツに死んで欲しいので、協力してくれません?あ、終わったら魔王と勇者で殺しあってもいいし、魔族と人間について話し合っても良いんで」

「ほう?」

「ねえ、これ本物?オレ今まで偽物で魔王とやりあってたわけ?そりゃ死にかけるって」


 ようやく起き上がれるようになったから、女の子がぶっ刺した聖剣を握る。悔しいくらい手に馴染んだ剣を二、三回素振りしてから構える。


「支援はしてやる」

「任せろ!」


 魔王ははやばやと杖を持って魔法を放つ詠唱を始めた。味方だったらこれ程心強いヤツもいないね!

 けどまあ、宰相はオレたちがタッグを組む必要ないくらい弱かった。魔王が足止めして、オレが切る。「少し離れておけ」って言われて撤退すると、魔王がトドメに爆散させてた。お前も怖いな、知ってたけど。


「片付いたな。あっけない」

「だねー。もうちょい強ければ楽しめたんだけど」

「端から強い者はこのような卑怯な手段なぞ使うまい」

「確かに」


 軽口叩いて、笑いあって。まるで友達とするみたいな気軽なやり取りは久しぶりだ。


「んで、これからどうする?続きやるってんなら付き合うぜ?」

「阿呆。せっかくのエリクサーを無駄にする気か。我はあの娘の下に下る。元より魔族とはそういうものだ」


 知らなかったけど、魔族って自分が認めた人の下に着くのがならわしなんだって。その辺、人間とは感覚が違うよなぁ。

 

 あっ。いいこと考えた♪


「なあ、じゃあさ……」


 魔王との話し合いを終えて、座り込んでる女の子に手を差し出す。


「なんだ、私だったら生き地獄見せたのに…」


 なんか怖いこと言ってるけど、全力で聞こえないフリをした。ドSが通り名の魔法使いがドン引きしてる。ある意味すげぇ。


「あのさぁ、魔王と話したんだけど、オレ勇者辞めるわ」

「はい?」

「私も貴様の軍門に下るのはやぶさかではない」

「えっとぉ……?」


 オレの言葉に、キョトンってする女の子。イミガワカラナイって顔するけど、そこを狙って魔王が畳み掛ける。

 立ち上がらせた女の子にふたりで頭を垂れる。またも魔法使いがドン引きしてたけど、まぁ、気にすることはないか。


「我らで新しい国を作るのだ」

「もちろん、君が王様だよ!」


 なにがどうしてこうなった!?


 彼女の声にならない叫びが聞こえた気がしたけど、まあ、こんなこともあると思って諦めてよ。ね、女王陛下。

お読みいただいてありがとうございます!

気になったら他の話も……(/ω・\)チラッ

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