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騎士科編:学院2年生春③ヴァルキュリアとスクナビコナと阿修羅の戦い

そんなこんなで、キャスを筆頭にして私とアイザックとハスウェルで一緒にいることが増えた。

アイザックは、あの時は変な奴だと思ったが、冷静な時は普通に常識人で安心した。

たまに、テンションが振り切れて美辞麗句をならべまくる時があるが、まぁ慣れた。


今日は、選抜メンバー交流の日だったので、訓練場に首席から拾席までのメンバーが集まった。

2学年と3学年と4学年のグループと5学年と6学年のグループに分けられている。


なるほどね、あまりに強い先輩とやっても力がつかないもんね。ふむふむ。

キファー先輩は、今年も首席かな?いるかないるかな?

首をキョロキョロして見渡すと、視界に翠色のストレートヘアーの少年をとらえた。


んー、あれかなぁ。こっち向けぇ、こっち向けぇ。

グヌヌっと念を送っていると、目があった。

やっぱり、正解!


「キファー先輩〜ぃ!やっほぅ。お久しぶりです♪」


キファーは、アリスンの姿を見て目を見開いて驚いた。

「なんで?お、お前文官じゃなかったかぁ!?」と指をさされた。


「そうなんですよ〜。文官って進路希望出したんですが、やんごとない方に気に入られちゃって。

大海湖を挟んだリンデンバルクの王女様に、護衛を仰せつかりまして...。騎士科にされちゃいました〜。」

と、目尻に手を当てオヨヨっと泣き真似をする。


「はぁ。気に入られるくらいで護衛なんてさせられないだろう。何があったんだ?」


「...キファー先輩のせいっすよ!

先輩、ローズマンテちゃんの時の私の行動を、ガウリー先生に言ったでしょ!?

あれで、私に白羽の矢が立ったんですよ!どうしてくれるんですか!?」

私は、プンプン激おこだ。


「そりゃぁ、報告するだろう。

唐辛子ナイフ投げるわ、消毒液撒き散らすわ、奇想天外な動きをされて迷惑被ったんだから。

報告義務があるだろう?仕方なかったんだ。」と悪びれもなくのたまった。


くそ〜!謝罪ないのかい!?

その報告のせいで、私の幸せに老衰計画の一部が崩れたんだぞ!

一人の乙女の人生狂わせておきながら、なんて奴だ。

脳内会議で、狂人マリアちゃん(私の4回目の人生。男と女が入り混じり、環境の順応ができなかった子。結構自己主張が激しくて、脳の片隅でいつも『キェぇえっ』と奇声をあげているのだ...。気を抜くと頭がガンガンする困ったちゃんである。)を頭の片隅に押しやりながら必死で今後の身の振り方を決めた私の苦労を思い知ればいいっ!


「..先輩、今年も首席ですか?」

思ったよりも低い声が出た。


「お、おぉっ。首席だな...。それがどうした?」

アリスンの雰囲気におされて、キファーは若干狼狽える。


「実は、私も2年の首席です...。奇遇ですね〜、一緒にペアを組みませんか?」と静かに威圧しながら提案した。


「.....。??はぁ?!首席?

お前女子だろう?今年の2年は弱いのか?」

キファーは、しばらく首席の意味をとらえられなくて沈黙していたが理解すると2年の心配をし出した。


心配しなくて大丈夫だ。私が最強すぎるだけだ、ふんっ!


「..そうかもしれませんね。実際に見て確認してくだされば早いかと...。

模擬試合をいたしませんか?ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。」


絶対タコ殴りしてやる!そして私が騎士科にきたことを後悔するがいいっ!!


心に闘志をメラメラと燃やしながら、私は冷静に丁寧に試合を申し込んだ。


先輩は、私の殊勝な態度に騙されてご機嫌だ。

「分かった!3年も4年も俺の好敵手がいないから2年に期待してたんだがな。仕方ない。

先輩として指導してやるよ!」とキメッキメのポーズで了承してくれた。


相変わらずの強気ナルシストは健在だ。



「アリスン、3年のメルゲルク先輩と知り合いなのか?」とアイザックが近づいてきた。

後ろにはキャスとハスウェルもいる。


「そうだよ。去年の演習でペアだったんだ。

アイザック、キファー先輩知ってるの?」と軽く私は問いかけたんだが、間違いだった。


アイザックは、目をギラギラさせてスイッチが急に入ってしまった。

「知ってるに決まっているだろう!

去年も首席で、剣の腕前は2年だったのにもかかわらず学院のトップクラスだ!」


アイザックは、目を閉じて恍惚な表情を浮かべながらアイザックワールドを展開しだした。

「最初は、2年生なのに強い人がいると聞いて、俺のライバルになる人かと軽い気持ちで偵察に行ったんだ...。

確か去年の初夏、学院の前の並木道の木々の葉っぱが所狭しと芽吹いて、高くなってきた太陽の光でキラキラと輝き少し暑くなってきた頃のことだ....。

それらしい人を探したんだが、分からず聞いて回ってメルゲルク先輩を特定したんだが信じられなかった。

だってこの容姿だぞっ!

初めてあいまみえた時は、まるで堅い蕾に隠された可憐な花のように、男性というよりは匂い立つような女性かと思う中性的な雰囲気で本当に強いのか疑った。

だが上着を脱いだ時の衝撃ときたらっ!

まるで加工しやすく伸びやかにして強い(はがね)によくなめした革を張ったように滑らかにして美しい筋肉と骨が現れて芸術作品のような形貌(けいぼう)

まるで、獰猛な本能を服で隠した虎!

均整がとれたバランスのいい体、無駄な筋肉が一切ないんだ!...美しい...。」


前のめりになり、私とアイザックの鼻と鼻がくっつきそうなほど近づいてきて鬱陶しくさらに語る。

「メルゲルク先輩の剣は見たことがあるか!?

そうか、あるんだな。素晴らしかっただろう!?

貴公子というトルコキキョウは知ってるか!?

翠色の可憐な花だ!

先輩の剣は、まるで貴公子!

可憐でいて、幾重にも重なった花弁のように多様な清廉としている剣舞!

小さな体にそぐわない大剣を難なく操る剣技は、まるでヴァルキュリア(戦女神)の再来...。

俺は落雷が落ちたかのように身体中に痺れがはしった!」


まだまだ、アイザックは語り続けるが私はほっとくことにした。

5分は軽く語り続けるからほっとくのが一番だ。


「先輩、お揃いですね。こないだ私も天上から舞い降りた女神と言われました。」とキファー先輩に話しかけた。

「....。」

キファー先輩は顔を引き攣らせながら無言だ。

最初は衝撃を受けるよな、振り切れたイケメンは脳が拒絶反応を示すのが普通だ。

一緒に行動することが増えたのでこんなことは日常茶飯事で、もう私たちは慣れたけどね。


「なあ、アイザック。結局先輩は貴公子なのか、女神なのかどっちだ?」

ハスウェルは、淡々とツッコむ有様だ。


「ちょっと、アイザック!私のアリスンが戦女神に決まってるでしょう?

こんな、男なのにちんちくりんな線が細い奴をヴァルキュリアなんて、あなた頭おかしいんじゃない?

せいぜいスクナビコナよ(小さな掌サイズの神)。」

キャスは、先輩を斜め上からバッサリ言葉の暴力をふるう。


先輩は、恥ずかしがったらいいのか、凹めばいいのかわからないようで、チベットスナ狐のような変な顔で止まっている。


なにこれ、ウケる。先輩精神的に大打撃だ。ププっ。


「...アリスン、お前の友達は個性が独特だな。

類は友を呼ぶっていい言葉だよな。

あいつは、いつになったら止まるんだ?」

やっと先輩が喋りだした。


「賛辞の言葉が出尽くしたらですかね。

基本同じ内容をいろんな例えで言ってるだけなので、30秒も聞けば後は放置でいいです。」


私は親切だから、アイザックの対処を教えてあげるよ!


そうこうしてるうちに、ガウリー先生がやってきた。

「これより選抜メンバーの合同訓練を行う。

2年は、初めての合同訓練だし、他学年も初めて選抜に入った奴もいるだろう。上級生は、しっかり指導してやれ。

今日は、他学年のメンバーとペアになって相手の技を吸収しろ。

武器は、そこにある模造剣らを使え。

剣の大きさ、種類など色々変えて最適な武器を相手によって変えて経験を積め。以上ペアになれ。」


「では、グループごとに模擬試合をする。

まず1組目、前に出ろ。

意識を飛ばす、もしくは参りましたと言うことで勝敗は決まる。

勝敗が決まったら、次の組が試合を開始しろ。では、はじめっ!」


さて、武器は何にしようかな。

先輩は、きっと大剣だから小回りが効く双剣がいいかな。

おっ、私の尊敬するマダムの鞭がある!!ちょっとつかってみたいな♪

でも、いきなり使いこなせないし今日の目標はキファー先輩をタコ殴りにすることだし、今度にしよう。

結局、私の今回の武器は双剣にした。実戦ならこれにナイフを使用するけどね。


おっ、ハスウェルだ!

相手は、マントが黄土色だから4年生の人か。やっぱり強そうな人を選んだみたいだ。

武器はたがいにバスターソード。

鍔迫り合いは、ハスウェルの方が力が強いみたいだ。ジリジリと後退させられて慌てて先輩が飛び下がってるもんね。

やっぱりハスウェルは筋がいい。

これで、独自の技が入ってくるともっと強くなるはずなんだけどなぁ。

まだ型式が整っているから防ぎやすいという弱点がある。

今はスピードが速いから相手は翻弄されてるだけだろうな。

あ、ハスウェルが勝ったね。


「なあ、アリスン。あいつ強いな。

俺といい感じに打ち合えそうだ。なん席だ?

ところであれよりお前本当に強いのか?」

キファー先輩は、ハスウェルをライバルと認めたようだ。そして私の強さを疑う。


「ハスウェルは、2年の次席ですよ。

先程の残念なイケメンのアイザックが、第参席です。

そしてもちろん私が首席♪私、強いんだから〜。

2年は弱くないでしょう?楽しみにしててください。」

ニコニコと満面の笑みで自慢した。


「先輩、今度はアイザックです。

見てください。アイザックは長い手足のリーチをうまく使って戦います。

手首の返しも上手いので、レイピアの湾曲した装飾を利用してくるくるとレイピアを回すこともできるんです。

ちょっと変則的な技があるので、相対すると厄介ですよ、覚えておいてください。

彼は重いレイピアをくるくる回せるくらい前腕筋群が異常に発達してるんです。

なかなか鍛えれない部位ですから、きっと体質ですね。

あ、アイザックが勝ちましたよ。

どうですか?参席も強いでしょう?私は、もっと強いですよ!」


「そうか。じゃあ、全力でかからないとな!楽しもうぜ!」


お互いに腕をぐっと曲げてごつんと3回。

手のひらでパシンパシンと2回。

最後にぐっとゲンコツを相手の胸に押さえつけてニヤッと笑い合って健闘をたたえた。


ゆっくりと試合場に歩いて向き合う。


お互いに剣を構えて呼吸を整える。


フーッ、フーッ、スゥーーーっ。

集中を極限まで上げて.....


ドンっ!!!!


お互いに左足に力をこめて一気に解放!

互いの間合いに踏み込む。


ガツンっ。ギリギリっ


キファー先輩は大剣を上から叩きつけ、私は双剣を重ねて正面から受けとめた。


うん、結構重いね。

アイザックが褒めるだけあるね。


小さい体だからって、油断するとまずいことになりそう。

体格と力がアンバランスで、タイミングが取りずらいかも。

身体強化の術をもう少し使ったほうがよさそうかなぁ

キファー先輩、無意識に少しだけ魔素を取り込んでるみたいだし。

うーん、ハスウェル仕様よりプラス5%にしようかな♪


スゥーーっ、『...身体強化十四%構築展開..発動!!』


一息に魔素を取り込んで、全身に纏わせ筋力強化をかける。そこから腕をおもいっきり開いて剣を弾く。


キファー先輩が、私の力に(ひる)んだ。

思いもよらない力に反応出来なくて先輩の体勢が崩れた。

先輩の胴が丸見えだ!


タターンっ。 ミシッ カスっ


バク宙しながら先輩の腹と顎に一撃ずつ蹴り込む。


チッ。顎は外した。


それでも先輩は腹の一撃でたたらを踏んだ。


私は挑発の意味を込めて手のひらで双剣をくるくる回して、余裕の笑みを見せる。ふっ。


「い、痛ぇ〜。アリスン、その腕と脚の筋肉でこの打撃は詐欺だなっ!腹なんてメリっと体が鳴ったぞ。」


「先輩こそ、詐欺です!その小さい体にしては力の重さがあってません。お互い様です。」


「今度はわたしから攻撃しますっ。」


ダダダダ、カキンっカキンっ


うん、大剣のリーチが長くてなかなか接近出来ないね!

よし、双剣で挟んで近寄るっ!


ガキンッ ギリっ うりゃぁ!!

ギギーーーーっチリチリ ギギギギギギっ


双剣で大剣を挟んだまま先輩に向かって体を突進っ、 させっ、 るっ。


キファーは目を見開いて驚き、大剣を動かそうとするが下にも上にも動かせない。


「やべっ。」


あともう少しで到達するってところで、キファーは瞬時に大剣を手放してバク転4連続して距離をとった。


私はキファー先輩の大剣を挟んでたので、すぐに追いかけられなかった。


ヨイショっと。 ズドンっ


先輩の大剣を地面に落として双剣を構える。


「先輩、武器が無くなりましたね。降参してください。」


「いや、もう一個あるからまだ降参しない。」


キファーは背中に手を回し、短剣を引き抜いた。


「ずっるい!先輩隠してましたね。

それがまかり通るなら、私もナイフを持っておけばよかった!!」


キファーは、深緑色のマントで見えない場所に短剣を持っていた。


くそっ、詐欺ばっかり野郎め。

ふんふんっ、こうして大剣を拾えなくしてやる!


足で柄のうえにザッザッと土を被せて、上からダンダンっと踏み固めた。

よしっ!これで簡単には持てないぞ。


「アリスン、それは卑怯だぞ。」

呆れ顔のキファーが言う。


「卑怯?それは先輩に言われたくありません。後出しって騎士道に反しますよ。」


「いやいや、お前に言われたくないぞ。

振り回されるのは想定済みだから、念には念を入れとくのは当然だ。お前相手だからこそだ。

お前にナイフ投げられたら厄介だからな。小回りがきく短剣を持っておくのは当然だ。」


そうですか、私相手なら何をしてもいいと思うのですね?望む所だ。


ダダダダダ、ダンっ


キンキン、カキン、どすっ カキン ぐっ カキン


「ぐえっ。」


短剣では一振りしか防げず、必ず1撃はキファーに刺さった。

キファーは、手・足・腹に強力な打撃が打ち込まれて辛そうだ。


「先輩、降参したらどうです?」「するかっ!真剣だとしても俺は死ぬまで抵抗する。」「うーん、じゃあ先輩どうしたら降参してくれます?意識刈りとらないとダメですか?」


それだと、悔しさが半減しちゃうよね?

参りましたと言われて、初めて胸がすくと思うんだよなぁ。

参りましたを言わせたいなぁ。


うーん、じゃあ剣を飛ばして関節技?

それも、失神するまで言わない気がする。

先輩めんどくさっ!どうしたらいいんだ。


ガッシャーン ギギギ ポォーイっとね。


短剣を双剣で挟んで、時計回りに捻って巻き込む。私の得意技だ。

剣を奪って、遠くに投げるのと同時に、体制を崩した先輩を足払いで転ばせる。


えいっ!


ズダンっ 


ざくっ ざくっ とすっ


倒れた先輩の両足を双剣で地面に縫い付け、素早く先輩のおでこに人差し指をあてる。

これで先輩は私の指をずらさない限り、立てない。


慌てて起きあがろうと、キファーが地面を押した手を足で簡単に絡めとる。

手は、抑えなくても起き上がることはできないけど、指をずらされたら起き上がれるからね。


これで意識を失わずに動けない状態を作り出せた。

屈辱だろう?


「はぁ、なんだこれ。なんで立てない?なんだこれ?」


人体には、体を動かす仕組みがあるのだ。

足が使えないと上半身を浮かせるにはまず顔を浮かす動きをしないと動けない。

そこを指を軽く押すだけで立ち上がれない状態を作ったのだ。


「ふふ、動けないですよね?私の勝ちです。さぁ、宣言してください♪」ニタニタと笑いながら促した。


「...ぐ、動けない。くそぉ、参りました!!」

先輩は、めちゃくちゃ悔しそうに敗北宣言をしてくれたので、ちょっと溜飲が下がった。


よっこいせっと体をずらしてどいてあげると、先輩は起き上がって双剣を抜いた。


「今のって、なんだ?どうして俺は動けなかった?」

「秘密で〜す。」ずーっと考えていればいいよ。


周りを見渡すと、ポカーンとしている人が大多数。

アイザックとキャスは、うっとりとしている。

あー、これはめんどくさいやつだね。


「「女神....。」」


「まるで手が何本もあるかのような動きっ。まさに阿修羅っ!!

それを防ぐメルゲルク先輩も鉄の如し!

2撃を大剣で防ぐ姿...金城鉄壁。・・・・・・(以下省略)」


その後アイザックがずっとうるさかった。

途中、ちょっと不穏なセリフが聞こえたけど。

『結婚してくれ、抱いてくれ、下僕にしてくれ』などの言葉が耳に入ってきたけど、無視だ無視。

とりあえず、お腹減ったから寮に帰ろっと。


おつかれ〜。



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