第9話 やっぱり、あたしは
「んー………疲れた」
駅にあるベンチに座っているあたしは、人目も気にせず大あくびをしていた。
だって!朝からいつも通り牛舎の掃除をして、それだけならいいんだけど、倉庫から袋取ってきてーって言われたから倉庫に向かったら袋は荷物に挟まって取れないし、無理やり引っ張り出したら荷物崩れてきてお父さんに怒られるし、罰として倉庫の片付けプラス配達業務手伝わされて……
もう汗まみれ。シャワーを浴びて急いで着替えて、やっとのことであたしはここまで来たのでした。
まあ、笑夏がまだ来てなくてよかったね!待たせたら悪いし。
そう思いながらなんとなく空を見上げていると。
「ごめん幸、待った?」
そう言いながら笑夏が小走りでこっちへ来た。
「おはよ、笑夏……今日めっちゃ可愛い!」
あたしは挨拶しながら本音を漏らしていた。
だって可愛いんだもん!笑夏の私服は何度も見たことあるけど、それにしたって可愛い!
花柄のワンピースにチョコレート色のコート。履いてる靴も可愛い!
「ふふ、ありがとう。幸も可愛いわよ」
笑夏はそう言ってくれるけど……
あたしはお母さんが買ってきてくれた服をそのまま着てるからなぁ…暖かい上着に暖かい服(これなんていうの?)、長いズボン。あたし、最近の女子高生のファッションは全くわかんない……
「笑夏はそう言ってくれるけどさ…あたし、全くファッションはわかんないよ?正直、一緒に来ても衣装のうんぬんかんぬんは頼りにならないと思うけど」
あたしがそう言うと、「大丈夫よ」と笑夏は言った。
「私が幸と一緒に来ようと思ったのは、幸に似合うものを探したかったからだもの」
あれ…それは戦力外通告……?
ま、いっか。適材適所、あたしはあたしの出来ることをすればいいよね。
「そろそろ行きましょうか。とりあえず電車で向かうわよ」
そう言って歩き出す笑夏について行きながら。
あたしは、昨日書いた歌詞の話を笑夏にすることにした。
「あのね笑夏、あたしね、ちょっと気が早いけどソロ曲用の歌詞考えたんだ。ハイドラに出ることが決まってからだと大変かなって」
あたしが言うと、
「ありがとう、幸!私の方も後でピアノ伴奏付きで歌ったものを見せるわね」
と言ってくれた。
やった!楽しみ!
そんなこんなで駅のホームについたあたし達は、電車を待っていた。
「曲のイメージは、あたしが元気な感じの歌で、笑夏はバラードって感じ。笑夏の歌は笑夏の演技力を存分に引き出したいな〜と思って!」
あたしが言うと、「あ、ありがとう…面と向かって言われると照れるわね」
なんて顔を赤らめて言っていた。
そこからしばらく今後の方針を話していたら電車がやってきたので、あたしたちは電車に乗った。
そして、昨日書いた歌詞を笑夏に見せる(ケータイで写真を撮ったのだ)。
「こんな感じ〜」
「へぇ………ふんふん………」
そうやっていると、もうすぐ降りる駅。
「笑夏、そろそろ降りるよ…」
あたしが言うと、
「あっ、ごめんね、幸。つい見入っちゃってたの。これ、凄くいい!早く曲をつけて歌いたい!」
と笑夏が言った。
その言葉がなんだか嬉しくて、あたしはにやけながら電車を降りた。
「さて、と……とりあえず、このお店に行ってみようと思うの」
笑夏がケータイを操作し、ある店の写真を見せる。
「ここは古着屋なんだけど、かわいい服がいっぱいあるんだって。だから、まず、ここから行こう!」
そう言って、ケータイを鞄の中に入れた笑夏が、笑顔であたしの手を引っ張ってくれる。
その笑顔を見てあたしは、やっぱり笑夏と一緒にアイドルをしたいな、と思ったのでした。