第4話 私の幼なじみ
「あたしは、大丈夫だからさ…我慢しなくていいよ」
少し俯き、伏し目がちに話す幸。こんなに元気の無い幸を、私は初めて見ました。
幼稚園の時からずっと一緒に育ってきた私たち。いつだって幸は笑顔で私のことを引っ張って、楽しいことを教えてくれていたんです。
幸は明るいというか、喜怒哀楽をはっきり表に出す人だから、悔しかったら思いっきり泣くし、怒るときも思いっきり怒るし、笑うときは周りまで笑顔になるほどの笑顔で笑います。
そんな幸をずっと隣で見てきた私にはわかる。今の幸は本心を押し殺している。私に我慢しないでなんて言ってるくせに、自分自身は我慢してるんです。でも、きっとその我慢も無意識のもので、私を困らせまいと我慢してるんですね。
「ねぇ、幸。聞いて。私は、アイドルをやりたい…！嘘なんかじゃない、心からそう思ってるの！幸と二人でならどこまでも、それこそ決勝戦の舞台へだって行ける気がする！」
私の言葉に顔を上げた幸の目には、涙が溜まっていて。幸が瞬きをした瞬間、ポトリと零れ落ちました。
「う、嘘…そんなこと言ったらあたし馬鹿だから信じちゃうよ…」
そのまま静かに涙をこぼす幸を抱きしめ、私は言います。
少しでも笑顔になって欲しいから。
「幸。幸は昔からずっと、私のことを引っ張ってくれていたよね。親とか周りの大人の目を気にしてやりたいことをやりたいって言えない私は、いつも退屈だった。皆が敷いた道以外を進むと、皆から嫌われると思って何も言えなかった。何も言わない私を見て、周りは満足しているもんだと思い込んでいたよね。でも、幸だけは気付いてくれた。私に楽しいことをいっぱい教えてくれた。つまらない灰色な私の毎日に、色を与えてくれた！」
さらに幸をぎゅっと抱きしめ、続けます。
「幸が言わなかったら、きっとアイドルになるなんて…ハイドラに出るなんて考えもしなかった。でも、幸が誘ってくれて、すごく嬉しかった！幸に引っ張ってもらうだけじゃなく、二人三脚で楽しさを共有出来るかなって思った！きっかけは幸の言葉だよ、だけど私も、心からアイドルをやりたいと思えたの！だから、一緒にやりたい！幸と二人でハイドラに出たい！」
言い切った途端、私の頭は真っ白になり、どうすればいいかわからなくなった。
すると、幸の手が…幸を抱きしめる私の足あたりで力なくだれていた幸の手が、私の背中にまわり、私をぎゅっと抱きしめました。
「幸……？」
私の声に幸は顔を上げました。
泣き笑いの表情。そんな顔で幸は言います。
「ねぇ、笑夏。あたしも本当は、笑夏とハイドラに出たいよ…！笑夏でいいじゃない、笑夏がいいの！笑夏だから一緒にやりたいって思ったの！」
ああ、なんて嬉しい言葉なんだろう。私の幼なじみで親友のこの子は、いつだって私に嬉しい言葉をかけてくれる。
「幸、お母さんを説得しよう。それで、二人でハイドラに出よう！」
私の言葉に、涙を拭いながらうん、と頷く幸。
しかし、直ぐに困った顔になり、呟きます。
「でも、どうしたらいいかわかんないよ…あたし、何を言ってもダメな気がする…」
弱気になってしまう幸を励ますように私はもう一度強く抱き締め、言いました。
「ライブをしよう！私たち二人で曲を作って衣装も作って、ライブをするの！私たちがどれだけ真剣にやりたいと思っているか、お母さんに伝えるために！」
