貨物列車
駅についての怖い話が思いつかず、なんとかならないかと思って姉に聞いた。
「駅にまつわる怖い話知らない?」
って。
「それ何?」
姉は怪訝な顔をした。まあそうだろうなと思う。
「いや、なろうっていうのがあってね」
小説家になろうっていうのがあるんですよ。で、そのー、毎年夏に怖い話フェアみたいなのをやってて、で、今年のテーマは駅で。だからみんな切磋琢磨した駅にまつわる怖い話を投下しているんです。んで、私もしたいんですよ。お化けとかでるやつ。んで、読んだ人がおしっことかうんことか出るようなのを投下したいんです。
「へー」
そこまで説明してやっと姉は納得したという感じになった。
「で、なんか無いです?」
私は普段埼京線ラインを使っているが、姉は武蔵野線ラインを利用している。路線が変わればまた何か違うかもしれない。
「んー、怖い話ねえ」
そうして少し思案したのち、姉は、
「ああ、貨物列車がずっと走ってることはあったな」
といった。
何だそれ?
「武蔵野線は貨物列車が走ってるんだけど、すげー走ってるんだけど、二本に一本位貨物列車が走ってるんだけど」
はあ。
「それがずっと走ってるの」
へ?何?ずっとって。
「ずっと」
姉はそれだけを繰り返した。
「ずっと?」
「ずっと」
彼女の話によると、その日もいつものように仕事帰りに駅に行ったらしい。そしたらずっと貨物列車が走ってたんだと。ずっと。途切れることなくずっと。
「終電までずっと貨物列車が走ってたなあ」
彼女は思い出すみたいに上を見ながらそういった。
「いや、貨物列車が来て、終わったらまた違う貨物列車が来たとかそういう事でしょ?」
「違うって言ってるだろ!」
違うらしい。ずっと一本の貨物列車だったらしい。
延々と。
「延々とコンテナ」
延々とコンテナが右から左に流れる風景。
「それでその日は家に帰れなくて、駅の近くのプラザホテル泊ったもん」
「いや周りに他の人いなかったの?」
だって、そんなのおかしいじゃん。延々と貨物列車って。途切れることも無く貨物列車っておかしいじゃん。
「ああ、そういえば周りの人も、またか。みたいな感じの顔してたな」
ああ、それに、
「次の日、やんわり会社にそのことを言ったら、会社もホテル代出してくれたなあ」
何だったんだろうなあれ?
姉はそう言ってどう?って言ってきた。
「怖くないな」
お化けとか出ないし。
「いひひひひ」
姉はそんな風に笑った。
姉の家からの帰り、武蔵野線のホームに立つと、
「貨物列車が通過します」
とアナウンスが流れた。
「白線の後ろにお下がりください」
それから少ししてアナウンス通り貨物列車が来た。
それからずっと貨物列車が走ってる。
姉の言う通り。
一度も途切れることなく。
ずっと。