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「それでは、はじめましょうか」

ヤマオカはジムの方に体の向きを変えた。

「ジムさん。いつから私たちを裏切り、東側と内通していたんですか」

ヤマオカの質問はいたって事務的で、その声はいっさいの感情を感じさせなかった。

「なんでここの事がわかった」

ジムの隣に当然のごとく座っていたジキルがふいに立ち上がった。

「ボス。すいません」

ジキルは、そばにいた者のべレッタを奪ってジムに向けた。ジキルの唇は釣り上がったままだ。ジムはべレッタの三十二口径の銃口に吸い込まれそうになりながら、ジキルに問い掛けた。

「いつからだ。いつからおれを裏切った」

ジムの声は怒りと怯えで震えていた。

「いつから?はじめからだよ」

そういうとジキルは力いっぱいという感じでジムを殴った。ジムの口から赤い血と一緒に白い物がこぼれた。歯が抜けたらしい。それでもジムの視線はベレッタの銃口に釘付けのままた。

「あなたに質問する権利はありません。さっきの質問に答えたのはあくまでもサービスです」

そういうとヤマオカは感情のない目をジムにむけた。ジムは目をそらした。

「それでは、さっきの質問です。正直に答えてください。いつから私たちを裏切り、いつから東側の人間との内通を始めたんですか」

ヤマオカは同じ質問を繰り返した。

「二年前だよ。おれが東側に拉致された時、西側の情報を流せば西側よりおいしい思いさせてやるっていわれて。断ると殺されるんだ。受けるしかなかったんだ」

ジムは自分のせいではないといいたげに首を振りながら声を振り絞った。ヤマオカはかまわず続けた。

「分かりました。しかしこの間の事件までジキルはあなたが東側と内通している事実を確認できませんでした。どうしてでしょう。なぜなら、あなたも馬鹿ではありません。突然私から紹介されたジキルを怪しみ、ジキルの他の秘書に―――おそらくここに座っているノエルさんにその件に関しては協力してもらったからでしょう。たしかあなたが拉致された時にもボディーガードとして一緒にいましたよね。その人がいつのまにかあなたの秘書になり、右腕になっていた。怪しまない方がおかしい」

ヤマオカは自分でした質問をジムの代わりに答えた。ジムはあきらめたように肩を落としている。

「では、次に、そこにいる方は東側のボス、東側の呼び方では大老というそうですね」

ジムが顔を上げた。

「いや、違う、この人は大老じゃない」

ジムがうそをついているようには見えなかった。ヤマオカがジキルを見た。ジキルは首を振った。ジキルは知らないようだ。

「じゃあこの方はどなたですか」

「この人は本当に大老じゃない。確かに今日は大老と会う予定だったが東側は大老が直接おれに会う必要はないといって、代わりにこの龍小老が来たんだ」

龍小老と呼ばれた男は、絶体絶命の状況に置かれていても蛇のようにヤマオカに視線を絡ませていた。確かにどう見てもまだ四十才前半の・大老・と呼ぶには若すぎる男だった。ヤマオカはおれを見た。その目は予想外の事が起こったといっていた。

「ビッグ。お聞きの通り、この人は大老ではないそうです。これでは当初の計画通りには行きません。考えを聞かせてください」

「たしかに、これでは東側をつぶす事は出来ないだろう。しかしこいつは幹部なんだろう?人質にはなるだろう」

笑い声が上がった。龍という男が笑っていた。

「うちを潰す?笑わせるな。おまえらは今日ここで死ぬんだよ」

男は妙な自信に溢れていたが、この状況から抜け出す事は不可能だ。ただの遠吠えだろう。

「龍小老でしたね。この状況はどう見てもおまえに不利だ。それともこの状況から抜け出せる何かがあるのかな?」

男は含みのある笑みを見せた。気にはならなかった。

「ビッグ。とりあえずこの男は人質にとって東側の出方をみましょう。小老というのはあちらでは幹部のことだそうです。龍さんも小老だそうです。あちらでも重要人物であることは間違いありません。十分人質の役割を果たすでしょう」

「仕方ないな。ここにもそう長くはいられんだろう。リアムが見つかったら事務所に戻るぞ」

「わかりました。そうしましょう」

そういうとヤマオカはジムの前に立った。

「それでは、残念ですがお別れです」

ジムの額に何度も汗が流れた。ヤマオカはジキルからべレッタを受け取りジムの口に押し込んだ。ジムが暴れ出したが三人のボディーガードに押さえれられて身動き取れなかった。また一本歯がこぼれた。

「最後に。何か一言ありますか」

ジムは天に向かって十字を切り、何かを叫んだが口からは涎が下品に流れ落ちるだけだった。彫りの深く整った顔が涙で見るも無残に崩れていた。ヤマオカは涼しい顔で言った。

「そうですか。神に懺悔しますか。しかしあなたの犯した罪は重大です。あの世で十分懺悔なさい。神はきっとお許しになる。あなたに神の御加護を」

引き金が引かれた。部屋中に乾いた銃撃音が鳴り響いた。同時にジムの頭に穴が空いて脳漿が床に飛び散った。ヤマオカはジムのために十字を切った。龍が笑った。部屋には龍の笑い声だけが響いた。アンが銃声を聞いておきた。龍の笑い声にアンの泣き声が部屋に加わった。アンの顔にはジムの脳漿が少しだけこびりついていた。






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