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第二埠頭の目と鼻の先に小さな部屋が用意されていた。本来、東側に位置する第二埠頭付近に部屋が用意されているのは、ジキルの配慮らしかった。部屋にはすでにベックが待っていた。

「ビッグ。やっと動きがあったようです。この先の埠頭の第七倉庫に小さな部屋が作られているようです。そこで極秘にジムとむこうのボスが会うそうです」

ベックは少し興奮気味だったが、前のような落胆の色は消え、いつもの冷静な目を取り戻していた。

「ヤマオカはまだか。ジムはいつ現れるんだ」

部屋を見渡してから言った。部屋にはいくつものパイプ椅子が長机を囲んでいたが、その半分以上が埋まっていた―――ざっと見ても二十人はいる。

「ヤマオカさんはもう少しで来るそうです。私やリアムの部下とビッグの部下を集め歩いて六十人程度集められたようです。第三倉庫にあったベレッタを全員に持たせるといっていました。さらに手榴弾も用意するようです。ビッグに勝手に武器を持ち出す事を謝っておいてくれといわれました。ジム達がおちあう時間は日が沈んだ後の六時から七時の間になるといっていました」

ベックは腕に巻かれているいかにも高そうなローレックスを見た。

「今は五時半です。早ければもうすぐ現れるでしょう」

「武器を持ち出すのはいい。しかし六十人も人が集まるとさすがに相手に気付かれるんじゃないのか」

「それはヤマオカさんが直接きて説明するといっていました。」

ブラインドを親指と中指で広げて窓の外を見た。もう空は赤く染まっていた。まもなくドア付近にたむろしていた数人が沸いた。ヤマオカが入ってきた。ヤマオカと一緒に入ってきた者は三人しかいなかった。その手には抱えられるだけのべレッタを持っていた。

「ビッグ。勝手に武器を持ち出してすいません。しかしこの機会を逃すともう東側の組織の頭を叩く事は難しいでしょう。ここが勝負所です。許してください」

「武器の事はいい。それよりどうする気だ?やはり全面的に攻撃するしかないのか」

ヤマオカは武器を置き、部屋にいる者達に配るよう後ろにいた三人に指示した。

「べレッタを全員に持たせるのは保険のためです。実際に使うのはこの手榴弾です。ベレッタを実際に使うのは数人でしょう。ビッグの言う通り人を傷付ける事は極力避けられると思います」

ヤマオカはスーツの懐から手榴弾を三個取り出した。スーツ姿で手榴弾を平然と手にするヤマオカは滑稽に見えた。

「ジキルからの情報ではジムと東側のボスが会う事は極秘のことだそうです。相手は第七倉庫自体がこちらに知られているとは思っていないでしょう。ゆえに護衛も必然的に少なくなると予想されます」

「リアムはどうなっているんですか。まだ生きているんですよね?」

ベックは祈るようにヤマオカに問い掛けた。

「リアムさんはまだ生きています。リアムさんは相手にとっては大事な人質になりますから。リアムさんはジムさんと一緒にいるらしいです。胸を撃たれたようですが、手当てをしてもらえずに高熱を出して苦しんでいるらしいです。近いうちにそれなりの治療を行わなければ危険でしょう」

ベックはいても立ってもいられない様子だったがヤマオカは気にせず続けた。

「銃撃戦をしても十分勝機はあるんでしょうが、リアムさんの事もありますしできれば犠牲は最小限に押さえたい」

「犠牲が出ないやり方があるのか?」

ベックが聞いた。ヤマオカは懐に入っていた地図を広げてみせた。

「はい、犠牲がまったく出ないとは言い切れませんが、確実に少なくはなるでしょう。地の利を生かすんです。この地図を見ても分かるように、倉庫からの出口は一つしかありません。不意をついて倉庫に手榴弾を投げ込めば、ジムたちは混乱してほぼ確実にこの出口を通って逃ようとするでしょう。それなら銃撃でも出来ると思われるでしょうが、手榴弾をわざと相手の手前に投げる事によって視界が悪くなり、この地点にいる時にはジムたちにつくボディーガードは最小限になっているでしょう」

ヤマオカは埠頭のひょうたん状になっている出口を指差して説明した。

「そこでこちらは数に頼ってジムと東側のボスを捕まえます」

「海に逃げる可能性もあるんじゃないですか?ここは埠頭になっている事だし、ボートを用意しているかもしれない」

ベックが口を出した。

「その可能性もあります。そこで埠頭をここにいない三十人に包囲させています。海上にも人を配置しようとしましたが、なにぶん急な事だったので用意できませんでした。しかし三十人もいれば海から逃げようとしてもすぐに捕まえられるでしょう。ジムさんたちが埠頭に入ってから出口付近にはこの部屋にいる二十人を待機させます。そこにはベックさんがいてください。そして倉庫に手榴弾を投げるのは私の後ろにいるこの三人です」

三人が小さく会釈した。

「この三人は、実際に軍隊に入って訓練を受けた事があります。手榴弾の扱いも訓練したそうですから心配ないでしょう。倉庫には私も直接行きます。ビッグはこの部屋で待機していてください。必ずリアムさんを助け出し、ジムと東側のボスを捕まえてここに連れてきます。」

「おまえが直接倉庫に行く必要はないだろう。手榴弾を投げ込むのはそこの三人なんだから」

「確かにそうですが、リアムさんの命がかかっています。間違いは許されません。細かい指示を出す必要があります。わたしが行かない訳にはいきません。ビッグ、大丈夫です。手榴弾を投げ込んだらすぐにベックさんと合流しますから」

そういうとヤマオカは部屋にいる者達に向きを変え、同じ事を繰り返し説明し始めた。すでに埠頭に潜んでいる者達にも同じ説明をしたらしかった。

説明が終わるともう空は紫に変わっていた。相手に気付かれないために明かりはつけなかった。見る見るうちに部屋に暗闇が舞い下りた。二十人以上の息遣いと白い目の動きだけが不気味に蠢いていた。アンは静かに眠っていた。アンを抱き直した瞬間、ドア付近から緊張の波が押し寄せた。さっきにまして強制的に息を沈めた。まもなく一人の黒人が入ってきた。黒人の首には金の十字架が光を放っていた。埠頭の出入り口を見張っていた者らしい。今さっきジムと東側のボスらしき人物の乗ったベンツが埠頭に入っていったという事だった。沈黙を打ち破り、部屋にいる一人一人に細かく指示して廻ったヤマオカが最後に自分の所に来たのは黒人が来てから十分以上は経っていた。

「ビッグ。では行ってきます。あと三十分後にはここにジムたちが跪いているでしょう」

そういうとヤマオカは静かにその場を離れた。ヤマオカの背中を後の二十余人が追っていった。


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