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第三倉庫は波止場の向かいに小さく見える灯台の光に定期的に照らされているだけだった。

事務所は薄汚れていた。何年も前から溜まったソファの上の埃を払ってから腰掛ける。どこかに消えていたヤマオカが遅れて入ってきた。

「ビッグ。やはりベックさん達も襲われたようです。ベックさんは無事で、今、こっちに向かっています」

「―――リアムは?リアムはどうした」

ヤマオカは一瞬間を置いたあと、首を横に振った。

「残念ですが銃弾を浴びて拉致されてしまったようです。ベックさんはリアムさんを助けようとしたようですがホッドロッドに火炎瓶らしき物が投げ込まれたようで、その爆発の混乱に乗じてリアムさんは連れ去られてしまったそうです」

「そうか、リアムが…」

沈黙を破り、赤ん坊の泣き声が部屋に響いた。

「ビッグ。それは?」

ヤマオカが怪訝な顔でそれを指差した。が、すぐには答えられなかった。

車のエンジン音が近づいてきて、倉庫の前で止まり、まもなく事務所のドアが開いた。

「ビッグ、無事でしたか。リアムがさらわれました。―――すいません」

ベックは言いながら事務所に入ってきた。彼の高級感が溢れていたスーツが、今は煤けていた。

「どうして襲われた。おまえ達は会う場所を変えたはずじゃなかったのか」

疲れ果てたという顔をしているベックをソファに座らせた。

「はい、確かに場所は変えたんです。しかし時間になってもリアムが来なかったので電話をかけたんです」

ベックは首を振って、ため息を吐いた。そんなベックの肩に手をおいて先を促した。赤ん坊の泣き声が大きくなった。

「あいつ、ホッドロッドにいたんです。あそこはリアムが手がけたレストランですから、週に何回か顔を出していたらしく、それがちょうど今日だったみたいなんです。やはりリアムにも知らせた方がよかった」

裸電球の小さな明かりだけに照らされた薄暗い部屋に灯台の光が射し込めた。

「ホッドロッドに着いた時はまだ何も起こっていませんでした。店内に入るとリアムがまだ店長と話していたので、その時はジムが裏切っていないと思って安心していたんですが、突然ヤマオカさんの部下が現れてジムが裏切ったと。次の瞬間、厨房に銃声が響いてリアムが撃たれました。混乱していて何処を撃たれたのかは分かりませんがリアムはその場に倒れて大量に血を流していました。私は助けようとしたんですがまもなく火炎瓶が投げ込まれたようで厨房は火の海になり、リアムが倒れている所にはもう近づけませんでした。仕方なくすぐに来たボディーガードに連れられてその場を離されました。―――どうすることも出来なかったんです」携帯電話が鳴った。ヤマオカが部屋を出ていった。

「ビッグ。テネシアンでジムと御会いしていたらしいですね。さっきまで会っていたビッグの命まで狙うなんて」

ベックは大きく目をむいて、怒りを抑え切れないという感じだった。

「まったくだ。まさか直接呼び出して襲われるとは思わなかったから油断してしまった。ヤマオカがいなかったらおれもここにはいなかったろう。あいつには頭が下がるいっぽうだ。しかし今になって考えてみればジムがおれを呼び出した理由も分かる。ベック、おまえがリアムと会い、ジムがおれと会えば一気におれたちを殺れる。奴等には都合がいい。四人で会えばジム一人でおれたちと別れるのは不可能に近いだろうが、おれだけと会えばすぐに席を立っても怪しまれないからな。」

ヤマオカが部屋に戻ってきた。

「ジムさんがやはり東側のボスに会いました。部下が捕まえようとしましたがすぐに東側の人間に匿われて、捕まえる事はできませんでした。ジムさんは予想以上に前から東側と繋がっていたらしいです。私の考えではおそらく二年前に東側に拉致された時から癒着が始まっていたんだとおもわれます。東側がジムさんを開放した時、無条件に等しい開放の仕方で何か裏があるとは思って気にはしていたんですが、時間が経っても接触がなかったようなので油断していました。申し訳ありません。ジェシーさんの一件もありましたし、もう少し注意していればこのような事態は避けられたでしょう」

ヤマオカは表情を変えずに頭を下げた。

「いいや、おまえのおかげで助かった。感謝しているよ。しかしジェシーが死に、ジムがわれわれを裏切り、リアムも連れ去られた。今、幹部はおれとベックの実質二人になってしまっている。間違いなく緊急事態だ。二人だけではおれたちファミリーの大人数を動かす事は困難だろう。今回の件もある、ヤマオカ、これからはおまえの力がますます必要になってくる。おまえは下への人望も厚い。これを期に幹部になってみんなをリードしてくれないか」

「いえ、わたしはそのような器の人間ではございません。わたしはこれからもビッグの秘書であり続けます。ーーーしかし緊急事態です。わがままも言っていられません。事態が改善するまで微力ですがお力になりましょう」

ヤマオカはそんな事はどうでもいいという顔をしてから続けた。

「それはそれとして、今後の事です。ビッグ、今回の件で完全に東側は調子づいているでしょう。このままではこの街の勢力図が一変してしまう可能性もあります。もはや全面的に戦うしかないでしょう。これからは今以上の犠牲を覚悟しなくてはなりません」

「しかしここは日本だ。表立って派手な事はできない。今回の件でメディアも動いて警察も黙っていられないだろう。今まで以上に警備が厳しくなる」

部屋に沈黙が降りた。ベックは自分の体を抱き、膝を震わせていた。ソファに放られたままでいる赤ん坊の泣き声がやむ事はなかった。


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