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昼食を摂っていた。メロンソーダとチリドック―――この街に来てから今まで変えていない習慣の一つ。仕事しながらでも食べられるもの。
若かった頃はそれでもよかったが、周りから見れば五十過ぎにもなるおやじがそんな物を食べている姿は滑稽に映っているらしい。しかし長い間続けた事をやめるのはそれなりのきっかけと勇気を必要とした。
一通り書類に目を通しおわるともう日が傾いていた。時計を見た。そろそろリアムがベックに電話をかける時間だった。ヤマオカが部屋に入ってきた。
「ビッグ。リアムさんがさっきベックさんに電話したそうです。ちゃんとレストランの件を報告したそうです」
「それで、ベックは何か言っていなかったか?」
「はい。リアムさんがいうには、ホッドロッドに六時に待ち合わせるらしいです。ベックから食事に誘われたのは、はじめてだって喜んでいました」
喜んでいるリアムの顔が容易に想像できた。
ホッドロッド―――駅前を少し離れた場所に高級店が軒を連ねる場所がある。その一画にあるロブスター専門店。ここもおれの所有する物件で、確かリアムの監督下にある店の一つだ。
「わかった。ホッドロッドに見張りを付けろ。五人もいれば十分だろう」
「わかりました」
ヤマオカは会釈して部屋を出ていった。―――しばらくしてからベックからの電話があった。今度は自分がとった。
「ビッグ。お疲れ様です。計画通りリアムが電話をかけてきました。ジムは私の傍にいました。万一に備えてジムと別れてからもう一度リアムに電話して待ち合わせ場所を変えました。これでジムがホッドロッドに現れればアウトです」
「しかしジムが現れるかどうかは分からんだろう。まあホッドロッドに見張りをつけるから何かあればわかるようになっている」
「わかりました。では失礼します」
電話がきれた。仕事に戻った―――手につかなかった。葉巻を手に取った。またヤマオカが入ってきた。ジムからの電話だった。
「ビッグ。おつかれさまです。ジェシーの件は残念です。これからはベックとリアムと三人でビッグを支えていくつもりです。今日もベックと会いました。駅前に出す大型パチンコ店の件です。実はその件でビッグに相談したい事がありまして。良かったら今晩テネシアンで夕食を御一緒したいのですが」
「そうか。テネシアンにはまだ顔を出した事がなかったな。繁盛していると聞いたぞ。おまえに任せてよかったよ」
テネシアン―――駅前通りに建てたカフェレストラン。何とかという雑誌に載せられ、今、若者に人気を集めているらしい。世間はその人気レストランのオーナーがマフィアだとは夢にも思っていないだろう。電話が切れた。ヤマオカを呼んだ。
「これからテネシアンにいく。ジムが夕食に誘ってきた。キャデラックを表に回しておいてくれ」
「ジムさんがですか? ジムさんは今日ホッドロッドに行くはずではなかったんですか?」「思い過ごしだったんだろう。ジェシーの件でみんな気が立ってたからな。そんなことより、おまえもジムを疑っていたのか。仲間を疑うのはよくない」
ヤマオカは少し焦った顔をしたが、すぐに仏頂面に戻って会釈をして出ていった。