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ショッピングに行こう!

 正月も終わり、年始のドタバタから一段落ついた今日この頃。

 俺は今、地元のショッピンングモールに赴いている。妹と一緒に。


「おい、妹よ。何故にショッピングなんだ。お兄ちゃん、家でゆっくりゲームしたいんだけど」


「何言ってんの? いつも部屋に閉じこもってたらキノコ生えて来るよ」


 それは冬虫夏草的なアレか? 

 まあ新しいズボンとか欲しかったから別にいいんだけども……。


 本日朝七時、突然の電話で叩き起こされた俺。

 電話の相手は勿論妹。買い物に行きたいから車を出せとのご命令が下った。

 妹は大学生ゆえ、実家で暮らしているが俺はマンションで一人暮らし。年末の大掃除を妹にやっていただいた為、俺は断りづらく……現在に至る。


「ところで真由ちゃんよ。お兄ちゃん朝飯まだだから腹へったんだけども」


「じゃあカフェでも入る?」


 カフェ? カフェって……ちゃんと柴犬が放し飼いにされてる?


「されてるわけないでしょ。ここはモコモコじゃないんだから」


 モコモコ……俺の彼女が勤務する喫茶店。

 中には柴犬のモコちゃんが放し飼いにされており、癒しを求める俺の心に突き刺さった。

 

「まあどこでもいいけど……飯食えるなら」


「じゃあとりあえず行こ。お兄ちゃんの奢りね」


「へいへい」




 ※




 カフェでサンドイッチとコーヒーを食した俺。ちなみに妹は既に朝食は済ませてきたようで、ホットココアだけ。俺のサンドイッチを一つ摘まみ食いしたが。


「さーって、気合入れて買い物しますかーっ」


「おー、じゃあ俺ちょっとズボンとか見てくるから」


 妹から離れ、気になるショップへと向かおうとする俺。そんな俺の手を掴んでくる可愛い妹。

 むむ、この歳になって妹と手をつないで歩くのは……いささか勇気が……


「違う! 私一人で回れっていうの? そんなの……さみしいじゃん!」


「お前、そんな可愛い性格してたっけ? ほら、あそこのポニーテールの女性を見よ。一人で堂々と買い物していらっしゃる」


「ああいうクール系のカッコイイ系の人はいいの! 私はまだか弱い子猫なんだから……お供が居ないと!」


 兄をお供言うたな。まあ別にいいけども。

 

「分かった分かった。じゃあまず最初に何見ますか、真由たん」


「え、別に決めてないけど」


「……じゃあ俺ズボン見て来るわ」


「ちょっ! わかった! 一緒に行くから! 置いてくな!」


 そんな可愛い妹と気になるショップへ。表に看板を持ったパンダの着ぐるみが居たから気になっていたんだ。あぁ、あの着ぐるみに抱き着いてモフモフしたい……。


「兄ちゃんって可愛いの好きだよね。あの中に入ってる人もきっと可愛い人だよ」


「何故分かる、妹よ」


「オーラよ、見て分かんないの?」


 オ、オーラだと? 何を当たり前のように……というか、いつのまにそんな特殊能力を身に着けたんだ、我が妹は。


「ぁ、このTシャツいいじゃん、ほらほら」


 妹が選んだTシャツには、デカデカとパンダの顔がプリントされていた。まあ確かに可愛いが……それを着て人々の往来する道を歩く勇気は無いな……。


「別に気にする必要ないっしょ。着たいの着ればいいんだよ。誰も兄ちゃんなんて見てないし」


「まあ、それはそうだけども……俺はもっと地味なのでいいっすよ。っていうかズボン買いに来たんだ」


 最近は黒スキニーしか履いてないからな……たまには違うのを……


「いらっしゃいませー、ご試着されますか?」


 その時、いきなり店員さんが現れた!

 ま、まずい、どうする?!


 たたかう

 あたまをなでる

 けいさつをよぶ

→膝枕で耳かきしてくださいとおねだりする


「あの……膝枕で耳かきしてください……」


「……はい?」


 はっ! しまった! というかなんて選択肢だ!


「すみません、僕は一応男なので……」


「な、なんだと! 髪長いじゃん! なんかサラサラだし!」


「最近の男はこうなんすよ。男イコール髪短いなんて既成概念は邪魔なだけですたい」


 なんてこった……そうだったのか。

 俺は高校の頃、レスリング部で当然のように丸坊主だったからな……っく、時代の流れに乗っていないという事か……っ!


「ところで、試着されますか?」


「あ、あぁ、じゃあこれ……」


 俺は適当にストレートのパンツをチョイス。

 すると店員さんはあからさまに不満げな顔を……。


「お兄さん……服は素人ですか?」


 なんだ、服は素人って。俺の着てる“服さん”は確かに新品で、服としては素人かもしれんが。


「そういう意味じゃないです。分かりました、ファッションのフの字も知らないお兄さんに、今の流行りというものをレクチャーしてあげましょう」


 どうでもいいけど……暇なの? 君。


「まず、お兄さんのパーソナルカラーを診断しましょう」


「パーソナルカラー? なんそれ」


「いうと思いました。人にはそれぞれ合った色っていうのがあるんです。ちなみに僕は黄色でした」


 いや、お前全身真っ黒じゃん。黄色ないじゃん。


「時と場合に寄るんですよ。というわけで、お兄さんのスマホ貸してください」


 仕方ないな……とロックを解除してスマホを手渡す俺。

 店員は手際よくパーソナル診断のサイトへとアクセス。


「これ、やってみてください。何色か分かったら教えてくださいね」


「へいへい……第一問目……貴方は広大な草原でパンダに追いかけられ、崖から落ちたところをゴリラに救われました。さあ、どうする?」


 どうするって……え、どうすんの?

 っていうか、今俺、自分に合う色を調べてるんだよね? なんなのこの問題。


 まあいい、適当に選択肢から選んで……


1、感謝の気持ちを込めてゴリラのお嫁になる。

2、ゴリラの赤ちゃんのシャメを撮らせてもらう。

3、佐藤さんと食事に行く。


 いや、もう3しかないだろ。1と2は意味が分からんし。いや、3も分からんが。


 そんな問題をいくつかやり終え、ついに俺にあった色が決まった。

 俺に会う色は……オフオワイト……?


「オフホワイトって出たんだけど……オフホワイトって何色?」


「オフホワイトはオフホワイトです。オフなホワイトです」


 いや、お前も知らねえじゃん。もういい、普通に黒のジーンズ買う。


「まあ、好きなの着るのが一番っすよ」


「お前、これまでの下りなんだったんだ、はっ倒すぞ」




 ※




 無事に? ズボンを購入し、今度は妹の服を見に。

 妹は棒大手婦人服ショップを通り過ぎ、なんかよく分からん店に。むむ、妹ちゃんよ、その心は?


「え? だって、なんか嫌じゃない? 皆が着てない服着たいじゃん」


「あぁ、まあ気持ちは分からんでも無いが……」


「でしょ。私は尖った人生歩みたいので」


「社会に出たらたぶん180度変わるぞ、その考え。というか、今着てる服はそんな尖った印象は無いんだが……」


 ちなみに妹の服装は白のセーターに藍色のスカート。それに真っ黒なタイツにパンプス。


「そうなのよ。もっと“私らしさ”というか、溢れんばかりの個性が欲しいのよね」


「溢れんばかりと来たか。それならこれとかいいんじゃないか?」


 俺がチョイスしたのは、フリルが散りばめられた……ゴスロリっぽい服。

 ちなみに完全にボケだ。さて、ここから妹の鋭いツッコミが……


「あ、それ可愛いーっ! これにするー!」


「あ? ちょ、待たれよ! お前、大学生にもなってこんな服着るつもりか?! 下手したら秋葉のメイドさんが着るレベルだぞ!」


「いいじゃん、メイドさん。兄ちゃん、今メイドさんを侮辱したね? 今すぐ土下座してきなさいよ」


「それは魅力的な提案だが、俺は純粋にお前のセンスを心配してんだ。お前、これ着て大学に通えるのか」


「んー、まあアリ寄りのアリかな」


 無し寄りの無しだろ! ええい、我が妹がこんなにファッションを拗らせているとは……もっと真面目に服を選んでやらねば!


「妹よ、こっち来い。お前はまず大手の服から学ぶべきだ」


「何をっすか。師匠」


 俺達は大手某ショップへ。その店頭に並べてあるマフラーの前で俺は持論を展開する。


「いいか、妹よ。イイ女は大抵……マフラーを巻いてる」


「……一理ある」


 一理あるか、良かった。

 まあ、マフラーなんて俺は絶対巻かないが……


「ちなみに兄上、それはマフラーじゃなくてストールですぞ」


「ストール? こん棒もった巨人か?」


「それはトロール。兄上も一個買ったら? 結構便利だよ」


 いやぁ、俺は別に……首元くすぐったそうだし。


「兄ちゃんも頭でかいし……あぁ、私も大きいから……遺伝って怖い……」


「別に悪い事じゃないだろ。頭でかいとヘッドバッド強烈だぞ」


「頭を凶器にする気はないよ。ほら、これとか……」


 そのまま妹は俺の首にストールなるものを巻き付けてくる。

 むむ、こんな適当でいいん?


「いいのいいの。ストール巻くと……不思議な力で顔が小さく見えるんだよ」


「なん……だと……? いやいや、そんな都合のいい話が……」


「農林水産省の調査によると、ストールを巻いた人の九十パーセントの人が効果を実感してるんだよ」


 農林水産省が何故にそんな調査を……


「んー……兄ちゃんって意外と白とか似合うかも」


 白……白?!

 そういえばさっき、パーソナルカラー診断で……オフホワイトがいいとの診断が出たが……あんなフザけた質問で出た答えと妹の意見が合うだと……!


「……妹よ、オフホワイトって何色だ?」


「ん? オフホワイトって、抑え気味の白って感じ。ほら、黄色が若干入った白とか、灰色っぽい白とか」


 成程……服屋の店員より妹の方が詳しいじゃないか。

 妹のセンスはちょっとアレだが……。


「兄ちゃん、オフホワイトがいいの? まあ地味目な兄ちゃんにはちょうどいいかも」


「誉め言葉をありがとう。ちなみに妹ちゃんは何色がいいんだい?」


「んー……あ、これ可愛い」


 妹が選んだのは……茶色のストール。

 ふむ、あったかそうで可愛いぞ!


「その茶色のがいいのか、じゃあ兄ちゃんが買ってやろう」


「あざっす。ちなみに茶色じゃなくてモカだけどね」


 モカ……? なんだ、そのカフェモカみたいな色。


「まさにそれなんだけどね。っていうかこれ……うわ、五千円もするじゃん、別のに……」


「いいからいいから、独身貴族舐めんな、妹のためなら五千円なんて安いもんだぜ」


「いや、ちょっ! また年末に大掃除させる気でしょ!」


 そのままレジへと向かう俺。

 ふふふ、妹よ。今は存分に俺に甘えるがいい。その代わり……年末は俺が甘える!


「うわぁー……ダメ兄貴……ダメ人間丸出しじゃ……」





 ※





 それからブラブラとショッピングを楽しみつつ、時刻はお昼時。

 むむ、兄ちゃんお腹空いてきたぞ。


「サンドイッチ食べたじゃん。まあ私も減ったけど……」


「じゃあ何か身になる物食おうぜ。肉だな、ここは肉だよな!」


「別にいいけど……」


 よし、ならどっかステーキハウス的な店は……と、その時何故か歩みを止める妹。

 むむ、どうした、我が妹よ。


「兄ちゃんっ! ちょっと、あれ……あれ!」


「あん? どれ……って、あれは……」


 あの二人連れ……俺の彼女と、その同僚の爽やかボーイ!

 何故に二人が一緒にショッピングモールに!


「まさか……浮気? ねえ、兄ちゃん浮気?!」


「あぁ、なんかワクワクしてきたな」


「なんでよ。もしかして私の知らない間に凍ったカジキマグロで頭殴られた?」


「そんなイベントには残念ながら遭遇してない。よし、つけるぞ真由」


「え、えぇ……」


 ちなみにあの爽やかボーイが、俺の彼女である岬の事が気になっている事は知っていた。何せ俺はあの喫茶店の常連なのだ。実際、爽やかボーイに相談を受けた事もある。


「なんでそんな仲になってんの? 兄ちゃん、自分から三角関係作ってる?」


「だって俺……あの爽やかボーイが可愛くて仕方無いんだ。岬の事を一図に想うその気持ち……応援したくもなるだろ」


「一応、岬ちゃん……兄ちゃんの彼女なんですけど……」


 御尤もな意見ありがとう、そして二人は……お、なんか良さげな肉の店に!

 よし、俺達も行くぞ!


「えぇ、マジで? 兄ちゃん、肉食べたいだけなんじゃ……」


「それもあるが、今は岬と爽やかボーイの恋の行方を見守るのが先だ」


「なんで兄ちゃんが見守るの。ああ、もう……私が爽やかボーイ奪おうかな……」


「貴様! 俺の邪魔をする気か!」


「むしろ援護してるよ!」


 まあ、何はともあれ……今はお昼時。

 二人は行列に並びだしたな。俺達も並ぶか。


「普通にバレそうだけど……ぁ、名前書かないとダメな奴じゃない?」


「あぁ、じゃあ俺書いてくる」


 そのまま店先に行き、順番表に名前を書く俺。

 どうでもいいけど、字汚い奴多いな。もっと丁寧に書けよ、店員さん困るだろうが。


「よし……。じゃあ並ぶか……って、ぁ」


「ぁ」


 その時、岬と目が合ってしまった!

 ど、どうしよう! 俺は見守るつもりだったのに!


「……」


 しかし岬はコクン、と頷き、俺もコクン、と頷き返す。

 意思疎通を繰り出すと、そのまま普通に妹と共に並ぶ俺。


「兄ちゃん、今岬ちゃんに見つかったよね?」


「あぁ、だが何かワケアリのようだ。面白くなってきたな」


「何が?」


 すると先に岬と爽やかボーイは店に……数組遅れて俺達も入ると、なんと席は岬達が座っている真後ろ。ベストボジションだぜ!


 そのまま席に座り、メニューから肉を選ぶ俺。

 むむ、なんか美味しそうな物がたくさん……


「それで……相談って何?」


 すると岬の声が聞こえてきた。自然と俺と妹は聞き耳を立ててしまう。


「……その、岬先輩気づいてますよね、俺の……気持ち……」


 来た! いきなり来た! ここで告るつもりか?! 爽やかボーイ!

 妹と無言でハイテンションになる俺達。そんな俺達の元に、冷たい目線の店員さんが。


「ご注文はお決まりですか? ハイテンションな小山の猿達」


「猿達と来たか。是非温泉でぬくぬくしたいな、妹よ」


「イイね、温泉。美容と健康のために今度連れてってよ」


「あぁ、でも温泉って一杯あるじゃん。どこがいいと思います? 店員さん」


「どうでもいいからさっさと注文しろや」


 ぁ、ハイ……と店員さんにとりあえず一番ボリューミーなステーキセットを頼む俺。妹はハンバーグセットを。ぁ、あとドリンクバーもつけておくれ。


「セットについてますので。サラダバーとスープバーもどうぞ」


 そのまま冷たい目線の店員さんは去っていく。

 っていうか爽やかボーイと岬はどうなった? どこまで話進んだんだ?


「……だから、僕……今度自分の気持ちをぶつけようと思います」


 ……あ? 今度? 今度っていつだ! いつ告白するの? 今でしょ!


「まあ、頑張りなよ。なんだったら今度、ご飯にでも誘ってみる? 私から連絡しとくし」


 ん? 岬がワケの分からん事を……。

 一体何の話だ。


「はい……お願いします。でも、その……本当にすいません……俺、尻軽ですかね……」


「そんな事ないよ。うん、これで私の肩の荷も降りそうだし……あの子なら絶対いい子だから。私が保障する」


 一体何の話だ! さっぱり分からん!

 

「おい、妹ちゃんよ、どんな会話の流れだ、あれ」


「さあ……よくわかんないけど……爽やかボーイが、別の女の子に告るってことじゃない?」


 なんだと……! う、浮気者ー!


「兄ちゃん何言ってんの?」


「いや、俺も分からなくなってきた。それより腹減ったな……肉……肉はまだか」


「ぁ、じゃあ私サラダバー取ってこよ。兄ちゃんスープ取ってきてよ。私鶏ガラ系のがあったらそれがいい」


「へいへい」


 それぞれ役割分担しつつ、獲物を徴収する。

 鶏ガラ系……お、あるな。俺はカレースープにしよう。

 この店結構いいな。スープ飲み放題って所が……


「ぁ」


「ぁ」


 その時、同じくスープを取りに来た岬と目が合ってしまった!

 俺は再びコクンと頷き、岬も同じように頷いてくる。


 よし、とりあえずここはスープを妹に届けなければ……


「ぁ、圭吾、あの女の子ってもしかして真由ちゃん?」


 その時、何故か話しかけてくる岬。

 貴様……! 今はお互い、爽やかボーイの恋の行方を見守ると意思の疎通を!


「なんて顔してんのよ。真由ちゃんだよね? あの子」


「そうだが何だ。まさか妹とショッピングに来ているのが滑稽だとか言うつもりか? 残念だが俺は筋金入りのシスコンだ、正直お前よりも妹の方が百倍可愛いわっ」


「は? 何言ってんの? 私とあんたが結婚すれば真由ちゃんは私の妹にもなるのよ。もうあんただけの妹じゃないのよ。シスコン度合いなら私も負けてないから」


 いい度胸だ、なら妹を奪いあってみるか? 俺は負けぬ。


「その前に……ちょっと席変わりなさいよ、あんた、私の席に来なさい」


「あ? なんで。爽やかボーイが居るだろ」


「何よ、その呼び方……守君と真由ちゃんを一緒の席に座らせるってことよ」


 なんでそんな事……って、まさか……


「やっぱり聞き耳立ててたわね。そのまさかよ。守君、真由ちゃんの事が……」




 ※




 急遽として席替えが発生。

 突然の出来事に真由も守君もキョドっている。


 しかし爽やかボーイめ……てっきり岬の事を一図に想っていると思ったのに。


「そう言わさんな。若い子にはいろいろあるのよ」


「流石、三十台前半の言う事は違うな。ちなみに俺は後半に差し掛かった所だ」


「もうアラフォーか……というか、式の日取りとかどうするのよ。まだ何も決めてないじゃない」


「仕方ないだろ、守君がお前にホの字だったんだぞ。そんな時にお前が結婚するなんて言ったら……」


「一体何目線なのよ。まあ、もう大丈夫よ……」


 すると俺の背中の方から守君の声が聞こえてくる。

 二人とも状況を理解したのか、ちょっと落ち着いてきたようだ。


「あ、あの、真由さん……でよろしいでしょうか……」


「は、はい、よろしいですわよ……」


 いかん、妹はまだ大混乱している。

 しかしこれが人生の醍醐味だ、妹よ。


「じ、実はその……」


「お待たせしましたー」


 その時、空気を読まない冷たい目線の店員が!

 っていうかそのステーキセットは俺のだ! こっちこっち!


「あ? なんで席替え……ッチ……」


「すまんな、店員さん。追加で……このチョリソー頼むから勘弁してくれ」


「このクソ忙しいのに……」


 ブツブツ言いながらステーキセットを置いて去っていく店員さん。

 今更だが、あの店員も中々のイケメンだな。


「えっと……真由さん……」


 その時、再び守君が切り出した!

 おお、なんかドキドキする! えっと、ナイフとフォークはどこじゃ。


「実は……前々から、真由さんの事が……気になってて……」


「……お、押忍……」


 ステーキを食しながら耳を傾ける俺に、岬は凄い眼光で睨みつけてくる。

 な、なんだ、聞き耳立てるなってか?! でも気になるだろ! 我が妹だぞ!


「心配しなくても……守君はしっかりした子よ。それよりステーキ一切れちょうだい」


「仕方ないな……あーんするか?」


「する」


 そのまま大き目に切ったアツアツステーキを岬の口へと放り込む俺。

 岬は容赦なく肉を一口で平らげる。


「ところで岬、守君の相談受ける為にここに来たのか? なんでショッピングモールなんだよ」


「わふぁひをふぃふぁふぃふぉふぉふぁあっふぁからよ」


 すまん、大半聞き取れなんだ。


「私も見たい物があったからよ。あんたは買い物に付き合ってくれないし……かと思ったら真由ちゃんと買い物してるし」


「仕方ないだろ、可愛い妹の頼みを断れというのか」


「それは分かるけど……たまには私にも付き合ってよ」


「じゃあ今から回るか? 真由は守君に任せときゃいいだろ」


「あんた、容赦ないわね……。それは止めとくわ。というか、こんな所で守君が告るわけないじゃない」


 あぁ、まあそうだな。

 こんな大衆の面前でそんな事言われても……真由だって困るだけ……


「す、好きです! 真由さん!」


 その時、店中に響き渡らん程の声で告る守君。

 マジか、やりおった。


「…………」


 そして真由は一向に答えない。というかフリーズしてる。まあ、仕方ないが。

 しかしこれは俺達にも責任があるのでは……なんか今更罪悪感沸いてきた……。


 さっきも言ったが、こんなレストランで告られても、おいそれと答えなど出せるわけが無い。

 というか守君がこんな直球で来るとは俺も岬も思ってなかったが……。


 仕方ない、ここは俺がひと肌脱ぐか。


「岬、結婚してくれ」


「……はい?」


「だから、結婚してくれ」


「ちょ、なんで今、あんたここで……」


「いいから結婚してくれ! 俺にはお前が居ないとダメなんだ! お前が居ない未来なんて俺には考えられない!」


 シーン……と更に静まり返る店内。

 すると空気を読まない冷たい目線の店員がチョリソーを持ってきた。


「お待たせしました」


「おう、ありがとう。ところでレストランでいきなりプロポーズする男ってどう思う?」


「時と場所を考えろ」


「ありがとう」


 そのまま去っていく店員。

 そして再びレストランに人々の喧騒が戻ってくると、守君が真由に謝るのが聞こえてきた。


「ご、ごめんなさい……いきなり……」


「う、ううん……いいよ、私も……その……嬉しいから……」


 むむ! これはカップル誕生……!

 よかったよかった、一時はどうなる事かと……


「って、岬……お前なんちゅう顔して……」


「……この後すぐにいくわよ……式場……」


「あ? だから俺は妹と一緒に……」


「守君に任せとけば大丈夫よ! ほら、いくわよ!」


「お前、さっきと言っとる事違うぞ!」



 それから数か月後……俺達は結婚する事になる。


 その時の様子はまた別の機会に……




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