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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第一章 ベームスター干拓地
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ベームスター干拓地近郊の海岸

 その夜、一隻の潜航した潜水艦がオランダ領海深くに侵犯していた。他国領海内に潜水艦が潜航したまま航行することは無害通航に該当しない。すなわち軍事作戦行動の遂行中を意味する。

 潜水艦の機械類は、近海に哨戒挺や商船がいないことや、軌道上を周回する軍事衛星の探査外の時間であることを示していた。障害になりえるものが存在しないことがわかると、人目を偲ぶように闇に紛れながらゆっくりと浮上した。

 この潜水艦の動きは、出港直後からアメリカ合衆国軍によって探知されており、北海に入ると北海音響監視システム(ノース・シー・ガード)により監視されていたが、末端である水域監視探知機は潜水艦を完全に追跡するまでには至っていなかった。

 潜水艦は国籍のマークを塗りつぶしていたが、それは単なる気休めであり、海軍の関係者にとって電子の目から逃れるには意味が無いことは承知のことであった。固有のスクリュー音などから艦名や所属する国籍が発覚しているはずであり、目標を見失ったアメリカ合衆国軍やオランダ王国軍は、すぐにでも周辺の捜索を強化してくるに違いない。

 潜水艦の黒い胴体の一部が開き、完全に武装した幾人の兵士が現れた。機械的な正確さで小型ゴムボートを浮かべると、次の瞬間には全員の兵士が中に乗り込んでいた。道標の無い海の上ではあったが、星空を遮る陸地の影は進むべき方向を示しており、コンパスで正確な方位を確認すると前進を始めた。時間を置くことなく潜水艦は静かに潜航し、海底深くに潜むと、仲間が戻ってくるまで待つための無音行動に入った。

 彼ら工作員の目的はひとつ、IMF条約違反となる核ミサイルとその運営部隊の発見である。経済の行き詰まり、世界的な対立、軍事力の均衡は一時的であっても崩れるわけにはいかなかった。一方的な軍拡は、緊張の拡大を生む。それを防ぐために、手遅れになる前に動かぬ証拠を入手する必要があった。第三次世界大戦は防がれなければならない。この作戦は、そのひとつに過ぎなかった。

 作戦開始前に実施された偵察衛星の写真分析から、アムステルダムの防御線の要塞内部に核ミサイルが新たに配備されている可能性が導き出されていた。アムステルダムの防塞線は、オランダの首都であるアムステルダムを囲む全長135キロにおよぶ堤防と配置された42の要塞である。運河や水門によって水を満たすことのできる広大な干拓地は、有事には歩兵が歩くには深すぎ、船が通るには浅すぎるという絶妙な水深で満たすことができる。この世界で唯一の水を防衛の砦とする軍事防衛線は、オランダ国土ならではの軍事施設なのである。

 偵察目標地点のベームスター干拓地には、アムステルダムの防御線の3つの要塞が存在し、そのいずれかに核ミサイルが運び込まれている可能性が高かった。

 闇の中で小型ゴムボートが海岸に到着すると、数人の兵士が扇を描くように飛び出し周囲に人のいないことを確認した。すると急に行動が大胆になり、しかし決して用心を怠らない慎重さで小型ゴムボートを手慣れた動作で隠した。その動きには全く無駄が無く、訓練を重ねた兵士であることが容易に見て取れた。

 工作員たちは陸の奥深くまで進んだが誰に会うことも無く、発見した村が予想以上に小さく他との連絡がほとんど無いだろうということがわかった。これは都合がよかった。これであれば、アムステルダムの防御線を監視するのに、村の存在は障害にはなりえないからである。ことは慎重を要するのである。


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