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エンチャント

少し歩いたところに、キレアさんの店はあった。

見たところ、あまり他の武具店とは見た目は変わらないがなんというか、こう…少しだけ高級そうな雰囲気を醸し出している。



「ここです。どうぞ入ってください」


「あぁ、こりゃどうも」


中はそれなりに綺麗だった。

一度だけ入ったあの武器屋とは全然違うな。だってあそこむせそうになったもん。



中の作りも想像通り木製だったが、中々に片付いている。



僕が店内を見渡していると、キレアさんから声がかかった。



「新井さん、どうぞこの席におかけ下さい」



促されるまま席につき、この世界の基本常識なんかを聞こうとすると、聞かれる前に別の話題が振られてしまった。



「ところで新井さん、不思議な格好していますよね…新しい防具とかですか?」


「えぇ?あー、いやこれはー……あ、あははは…そうなんですよ!いやー高かったなぁー」



いい感じの言い訳を思いつかず、防具ということにしておいた。



「でしたら一度その防具貸してもらってもいいですか?」


この人は急に何を言い出すんだ、この服貸したら僕が着る服無くなっちゃうよ。

そのことを伝えると、キレアさんは興味深いといったような表情をした。



「なるほど、服と防具が合体したものなんですね…」


「そ、そうなんですよぉ……ところで、なんで急に貸してくれ、なんて言ってきたんですか?」


「えっとですね…先程も少しだけ聞こえたと思いますが、防具の質なんかによってエンチャントできる期間や内容が変わるんですよ」



ん?待てよ…。て事は、この人お礼に僕の服にエンチャントしてくれるってこと?それはそれで嬉しいけど、ホントはこの防具防具言ってるやつ、ただの服なんだよなぁ。

と、悩んでいるとこっちの考えてることを読んだように口を開いた。



「強制はしませんよ、とりあえずは新井さんの防具の質を見るだけですから、それでエンチャントの期間やレア度なんかも分かりますので、新井さんが決めてください」


「でも、この服貸してる間、僕は何着てればいいんです?」


「それなら、まだ買ったばかりの服があったんですよ、それを貸しますので着ててください、持ってきますので少々お待ちを」



そう言うと、キレアさんは奥の扉へ消えていった。


と、思ったら案外すぐ戻ってきた。


渡された服は日本の服とは違い、少し縫い目の荒い、上下灰色の服だ。まるで寝巻きだな。



「奥の部屋使っていいのでどうぞ着替えてきてください」


「どうもー」



奥の部屋は普通の生活スペースのようだ、そこまで広くはないが裕福な生活ができてそうだな。

全く羨ましい限りで。


服を着替え終わり、片手にさっきまで着ていたスーツを持ちながら部屋を出る。



「あ、着替えましたか」


「はい、これどうぞ」


「それじゃあ、見てみますね」



そう言うとキレアさんは作業台らしきものに僕のスーツを広げて置いた。


作業台といっても、大してものは置かれていない。

あるものといえば、もう空になったマグカップだ。コーヒーが入っていたのか、ほんのりとコーヒーのいい匂いがする。


さて、どういう風に見てくれるのかね…


様子を観察していると、キレアさんの片目が薄らと光っていることに気がついた。

その事に驚きを隠せず小さく声を上げてしまう。



「あぁ、俺のスキルはかなり珍しいと言われているので…初めて見ましたか?」


「い、いえ……というか、スキル?」


「はい、スキルです。もしかしてスキル知らないんですか?」



僕は愛想笑いで誤魔化しつつ「はい」

と肯定した。

まさかホントにスキルとかあるんだなぁ。


「スキルを知らない人もいるんですね…」



そう言うとキレアさんは手を動かしたままスキルについて説明してくれた。


どうやらスキルというのは、一度ギルドという場所へ行き、そこでステータスプレートというものを貰うらしい。


各行動にレベルがあり、冒険者ならば、魔物を倒すと経験値が入りレベルアップすると魔法やスキルを覚えるそうだ。


防具や武器なんかを作ったりすると、鍛冶レベルが上がり、作る武器の性能が上がったりする。今店を開いているのはそういう人達だと、キレアさんは教えてくれた。


というか、ギルドなんてあるのか…ここはホントに異世界なんだなぁ。

ステータスプレートとやらをまだ貰ってないし、あとで行ってみるか。


このことさえ知っていればあんな恥ずかしい思いしなくて済んだのになぁ。

と、この街目指して歩いている時のことをふと思い出す。あー恥ずかしかった。



「おっ、そろそろ結果が出ますよ!」



と、知らせを聞き、内心何にもないと思うけどなぁと思いながら結果を待つ。



「こっ!これはぁ!!?」



なに?その大袈裟な反応、ただの服だって…



「あ、あ、新井さん……この防具凄いですよ!!?」



何がすごいのか分からず僕は一人キョトンとしている。



「この防具に付けられるエンチャントの期間は永遠、そしてレア度はマックス!!」


「な、なんだってー」



わざとらしく言ってみた。だって正直よくすごいとか分からないんだもん。それにただの服なんだよ?ホントに。



「ところでエンチャントって何が付けれるんですか?」


「エンチャントというのは何が付くのか分からないんです。ですがこのレア度ならかなりすごい効能が着くはずですよ!!」



いまだ驚きにワナワナと震えているのがよく分かる。

というか、なんでただの服にそんなすごい反応するのだろうか…

気になって、どうしてそういう結果が出たのか聞いてみると。



「まず、この防具の質が違います!縫い目が全く荒くなく、美しい!!恐らくですが、他の防具とは本当に質が違うのでしょう……!」



キレアさんのこの反応からすると、本当にすごいことのようだ。



「それで、新井さん……エンチャントしますか?」



なんか凄そうだし、とりあえず付けてもらうか。



「はーい、お願いしまーす」


「凄くノリが軽いのは気になりますが、任せてください…!」



キレアさんはスーツに手をかざし、目を瞑った。

次の瞬間キレアさんの掌が光出した。

すごいなぁ。停電とかしても安心出来そう。


なんて思っていると、光は徐々に小さく、弱くなっていき、最後には光は消えた。

果てさて、どうなったかな?



「ふー……終わりましたよ!」



労いの言葉をかけたあと、結果を聞いてみる。



「今から確認しますね」



するとまたキレアさんの片目が光出した。



「レア度マックスなだけありますね、すごい効能が付きましたよ!」


「どんなのでした?」



聞いてみると自分で確認してみてくださいと服を返された。

でも僕ステータスプレートとか持ってないから分からないんだけどなぁ。

それを察したように、キレアさんは一度ギルドに行くといいと教えてくれた。

まぁ、元々行くつもりだったんだけどね。



「先程の部屋で着替えてきてもらって大丈夫ですよ」


「こりゃまたどうもどうもー」



その部屋へ入り、もう一度着替える。

ズボンを履き、ベルトをゆるーく締め、白のカッターシャツを着る。最後にジャケットを羽織る、前は閉めない主義だ。

あー、そうだ。最後にネクタイ締めて…僕これ苦手なんだよな……。まぁいいやー適当に締めてーと。


…………着た感じ、普通だな。やっぱりこう、力がぶわーっと溢れる感じはないのか。少し残念。


残念がりつつも、部屋を出る。

あれ?これってエンチャントもうしたんだよね。僕お金ないんだけど、変に請求来たりとか……

考え出したら変な汗出てきた。

まいったなぁ。



「あー、えっとお金ってぇー……」



恐る恐る聞いてみる僕。やだよ?あとから追われる身になるとか、どこのドラマだよ…。



「勿論タダで結構ですよ」


「えぇ!?ホントにタダで!?エンチャントってかなり高いんじゃ……」



思わぬ回答につい驚いてしまう。大丈夫かな……タダより怖いものって無いし…。



「何言ってるんですか!新井さんは俺の命の恩人なんですから、助けてもらった上にお金を頂くなんて恩知らずなこと出来ないですよ」



確かにそうだけどさぁ……僕が助けてのはただの気まぐれなんだけど……



「もし払うって言っても受け取りませんよ、俺は」


「まぁ、それならありがたくもらっておきますよ…」



内心ホントにタダだと分かりものすごく浮かれていた。

危険な世界って聞いてるし、あるならあった方が断然いいからな。



「それじゃあ俺も、そろそろ営業再開するので」


「あぁ、ありがとうございました」


「こちらこそ、なにかまたあったら来てくださいね」



最後に軽くお辞儀して店を出た。

いやーラッキーだったなぁ。ホントに何となくで助けただけなのにね。

エンチャントとか高そうだもんなぁ。


次はとりあえず…ギルドに向かうかぁ。


尻ポケットに手を突っ込みながら僕はまた歩き出した。


是非評価ブクマよろしくお願いします。

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