開いた心
僕は初めてこの家に来てから、少女の家にかなり長い間居座ったまんまだった。
その少女との共同生活にも慣れてきた頃、僕は昔の夢を見た。
僕の両親は僕に対して、全くの無関心だった。
しかも、僕が両親だと思っていたその人達は実の親ではなかった。
本当の両親には捨てられたそうだ。
高校に入学してすぐ、僕はまた両親から見放された。
つまるところ、別の人の養子になったのだ。
理由は、正直のところよく知らないが、僕を育てるのがめんどくさくなったそうだ。
何故僕のことを受け取ったのかというと、その人等にとっての利益を交渉に出されたから僕のことを受け取ったのだ。
その両親も相変わらず僕には無関心だった。
生活するのに最低限必要なものを買い揃え、あとは放置といった感じだ。
僕が養子になり、二年ほど経過したある日、僕が住んでいた家にある男が強盗に入ってきた。
(あ、昔の映像が見えてきた……。客観視点なんだな…)
強盗に入ってきた男は凶器を持っていたこともあり、家の中では好き勝手に暴れられた。
『おい、ヒオト。これ使ってアイツを殺ってこい…ッ!』
そこで僕の両親はどこから取り出したのか、斧を手渡し殺せと言ってきた。
ただでさえ動揺していた僕は、なにがなんだか分からないままその男の元へ。
『な、なんだ…オマエェ……!おお、俺を殺ろうってのかァッ!!??』
身の危険を感じたのか、その男は僕の腹部に凶器であるナイフを突き刺してきた。
『う…グゥ……ッ!!』
あれはかなり痛かったんだよな。
『ク…ソ……ッ!!』
やり返さなければと思い、痛みに耐えながら、斧を振りかぶり頭を叩き割った。
案の定、その男は即死。
『あ、あぁ……』
荒い息を吐いている僕の後ろで、その光景を見ていた両親は僕のことを恐れたのか、背後から台所にあった包丁で背中を一刺し。
僕は周りの人達が当たり前のように誰かからもらっていた愛情が欲しかったのだ。
でも、僕の周りの人間は僕にはそれをくれなかった。
『うあああああぁぁぁぁッッ!!!』
その両親からの一突きに、今まで溜まっていた何かが溢れ出すかのように持っていた斧を両親に振り落とした。
もちろん、頭に斧が刺さった両親は即死だった。
その後なにを思ったか、腹に刺さったままのナイフを引き抜き、僕は自分の首を掻っ切った。
気が付くと、そこは病院だった。
僕は手術により、一命を取り留めたのだ。首の傷が浅かったのだろう。
ちなみに病室で目が覚めたその日は三年の三学期初めだった。
最初のうちは警察の人に色々聞かれていたが、正直覚えていない。
だが、しばらくすると警察はめっきり来なくなった。
退院した僕は事件があったその家ではなく、僕が入った大学の寮で生活を送った。
そして、僕は大学を卒業し、僕が働いていたあの会社へと入社したのだ。
はい、回想おしまい。
もういいだろ、いい思い出じゃないし早く起きたいんだけど……。
そう思い、一度静かに目を閉じ、もう一度目を開けてみる。
するとどうやら、僕は炎に囲まれているようだった。
なにこれ?前いた街での出来事が夢になって出てきたのかな。
……んーって、違う!!リアルすぎるわ!!!
そう思いベッドから飛びおり目の前を見ると、そこには僕のことを庇うように手を広げるあの少女の姿があった。
その少女の前には狼型のモンスターが二体、威嚇するように構えていた。
「あ、ヒオト…さん……目が覚めましたか…?」
緊張の糸が切れたかのようにその場に倒れ込みそうになった少女を抱える。
「おい!どうして僕を起こさなかった!?それに、その怪我は……!」
少女の腹部には服ごと爪で切り裂かれた跡があり、血が出ている。
弱々しく僕に笑いかける少女に問いかける。
「あはは……すみません、一発もらってしまいました」
「もらってしまいました、じゃねえよ!僕のことなんか放って逃げればよかったのに…!」
いつもは絶対に言わないであろう言葉に少女は驚いた表情をしている。
実際、僕も驚いている。まさか僕の口からこんな言葉が出てくるとは。
「そんなこと……できませんよ……。ヒオトさんは大切な人、ですから…」
「それはどう……」
途中まで言いかけたその時、無視をするなとばかりに吠えてきた狼モンスターにイラッときた僕は、リボルバーをすぐさま取り出しスキルを発動させた。
「『インサイドショット』」
拳銃の先端から淡く銀色に光っている光が発射され、それを避けようもなくモロにもらったモンスター二体は軽く吹き飛び、吐血をしながら息絶えた。
インサイドショットは、基本的に体の内側を攻撃するスキルなのだ。
「おい!大丈夫!?」
「あはは……やっぱり強いですねー…ヒオトさん…」
そんなこと言っている場合ではない。
とりあえず火が燃え移ると危ないので外へ避難する。
どうやら家事の原因はモンスターの爪が運悪く火のついていた暖炉を破壊したことにあるようだ。
少女を抱き抱え、駆け足で外へと出る。
家から少し距離をとり、草むらにそっと寝かせる。
「どうすれば……」
「もう、いいんです……私はヒオトさんと短い間でしたが過ごせて楽しかったです……それに、ヒオトさんを守れましたしね?」
「いいから、少し黙ってろ…ッ!」
さっきから血が止まる気配が感じられない。
クソ……!回復系のスキルとかこの世界にはないのかよ…!!
そのとき、スキルと言う単語から関連性を見出し、新しく回復系のスキルを獲得しようとステータスプレートを取り出す。
でも、僕の性格からして、誰かを癒すだなんてスキルは絶対にないだろう。
誰からも愛されず、誰かを愛したことなんて一度もないのだから。
四の五の言ってる場合じゃねえぞ…!
賭けに出る覚悟でスキルの欄を見やる。
すると、最近獲得できるようになったであろうスキルを見つけた。
そのスキルの名は『心開の癒し』
僕は効果なんて確認せず、さっさとそのスキルを獲得した。
そしてスキルを発動させるため、頭に浮かんだ様に動く。
寝たまんまの少女の上半身を、傷口を痛めないようゆっくりと起こし、抱きしめた。
最初のうちは血を失い、ボーッとしていたこともあるだろうが後から何をされているのか理解したようで少女は顔を真っ赤に染め上げた。
「へっ…!?あ、あの…ヒオトさん!?」
有無を言わさず抱きしめ続ける。
しばらく落ち着かない様子でモジモジとしていたが、ふと痛みを感じなくなったのか傷口を見やっていた。
「あ、あれ?傷が治ってる……」
「ほ、本当っ!?」
体を離し傷口を確認すると、そこには綺麗な肌があるだけだった。
どういうわけかどういう訳か服を汚していた血も綺麗サッパリ消えていた。
「はー……よかったぁ……」
少女の方を見ると顔を赤くしたまま軽く俯いたままだ。
どうしたのかと聞こうとしたとき、自分がどういった行動を取ったのかを思い出し、顔が赤くなるのを感じた。
「え、えっと……ヒオト、さん…」
「う、うん……」
「あ、ありがとう…ございましたっ!」
「あはは…いいよいいよ。僕が勝手にしたことだしね」
若干やけくそ気味に会話を続ける。
すると少女は自分の格好に気がついた様で、肌が見えている部分を一生懸命手で隠そうとしていた。
「あー、ほらこれ羽織ってなよ」
僕は着ていたスーツのジャケットを少女に羽織らせた。
「というか、さっき言ってた大切な人ってのは……?」
「あ、えっと…それはー…ですね。とりあえず今はこんな状況ですし、一度どこか落ち着ける場所に移動したら私の昔の話を混ぜて説明しますね」
「昔の話、ね。じゃあそのときになったら僕のことも話そうかな」
すると少女はあからさまに興味があるといった反応を見せてきた。
「まぁ、元気になって良かったよ。とりあえずどこか近くの街に下りようか、そこで服も新調したいだろうしね?」
「…えっと……はい…」
またも顔を赤くした、座ったままの少女に手を差し伸べ、起き上がらせる。
「ほら、早く行こうよ。アリア」
「…ッ!はいっ!!!」
まぁ…少しだけ、信じてみてもいいかな?
そう思い、歩き出したあと、話し合いでせめて火は消していこうということになり、一度家に戻ってからまた歩き出したのだった。
「あ、そういえば僕、ポーション持ってたわ」
「え!?そうだったんですか……で、でもまぁ…私に使っちゃうのは勿体ないですし?あのスキル使って正解だったと思います!」
まだ予想にしかならないけど、アリアとの旅はまぁ、暇はしなさそうだな。
この時の僕はまだ、あの時使ったスキル『心開の癒し』の説明を読んでいなかった。
このスキルで癒すことができるのは、使用者が心を開いている人物だけだと。
是非評価ブクマよろしくお願いします。