釣り
朝、目が覚めたとき、寝慣れない格好で寝ていたためか、かなり腰にきていた。
「いてて……」
とりあえず、何か食べたいと思い、あの少女が眠るベッドに近寄る。
「おーい、朝だぞー。腹減ったんだけ……ど…」
おいおい、勘弁してくれよ。
なんでこの子泣いてるのさ。
その少女は、目を閉じたまま涙を流していた。
なにか嫌な夢でも見たのかね。
まぁ、僕もたまにあるけどさ…。
そんな彼女が、少しだけ自分と似ているような気がした。
「起こすのはもう少し後でいいか…」
そう呟き、離れようとしたとき。
少女が目を覚まし、僕の腕を掴んできた。そして、なぜかベッドへ引き込まれる。
「のわっ!」
痛…くはないか、ベッドだし。
というかなんだよ急に。
「どうしたのさ急に……危ないだろ?」
「お願い……置いていかないで…。一人にしないで……あれはわざとじゃないの……お願い、お願い……」
どうやら寝ぼけているみたいだ。
……一人にしないで、か。
この子は誰かとのつながりを求めてるんだな。
「おい、起きろよ。残念だけど、僕はキミの夢に出てきた人じゃないよ?」
「あ……あ、あはは…おはよう、ございます。えっとー…」
「火音、新井火音だよ。あー、悪かったね。昨日は自己紹介もなしに…」
考えてみれば、倒れてる人間を助けてくれた人に対して自己紹介しないってのもかなり失礼だよね。
「い、いえ……あの、ヒオトさん…そのーさっきのはー…」
「あー、いいよいいよ。寝ぼけてたんでしょ?僕もよくあるから、寝ぼけはしないけど昔の夢とかを見たりはね」
寝ぼけて僕のことをベッドに引き込んだことに対してなのかは分からないが、なにやら顔を赤くしている。
「と、とりあえず……ごはん作りますね…!」
「あぁ、うん。お願い」
「……え、えっと、ちょっと通してもらいますねー…」
「いや、いいよ。僕が降りるから」
というか、同じベッドにいたんだよね?
誰かと同じベッドとか、不快感すごそうだなって思ってたけどそうでもないんだなぁ。
それはこの子とだから?
いやいや、それは絶対にないだろ。
ガキに興味はないっての。
「あの、本当にすみません……。ベッドにその…ひ、引き込んでしまって」
「いや、別にいいけどさ。寝ぼけてたんだし」
「あはは、ありがとうございます…」
するとサッサと台所へ歩いていった。
んー。なんか顔に違和感が?
あー、気のせいかな。
少し待っていると、朝食が出来たようだった。
「出来ましたよ、ヒオトさん」
「よいしょ。ん、ありがと」
おー、今日はちゃんと米だ。
リクエストに答えてくれたってことかな?
「それじゃあいただきます」
「んー、いただきまーす」
朝食は日本といえばこれ。といった風な朝食だった。
白米に味噌汁。焼き魚などだ。
無言で食べ続け、最後に残った味噌汁を飲み干して完食。
「ごちそうさまー、と」
「はい、お粗末さまでした」
僕は食べ終わったが、その少女はまだ食べている途中のようだ。
「さてと、今日はどうしようか…正直することないんだよな…」
「あ、それでしたら…少し待っていてください」
なにかあるのだろうか。
少し待っていることにした。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
どうやら食べ終わったようだ。
さて、なにをするのやら。
「待ってたけど、何するの?」
「外に行きましょう!」
「えー、家でゴロゴロしてたいなぁ」
日本でも休みの日は基本的に家でダラダラするのが主流なので、外とか言われてもピンと来ないし、家から出たくない。
「だめですよ、運動もしないと。大体、私の家に来るまで歩いてたじゃないですか」
「あれはー。まぁ色々あったから仕方がない」
「いいから、行きましょう。ほら早く」
「あー、もう分かったよ」
仕方なしに外に行くことになった。
外に出て、どこに行くのかと思うと。建物の外側に立てかけてあった自作の釣り道具のようなものを少女は手に取った。
「なにそれ?釣りでもするの?」
「はい、正解です」
釣りかー。
確か前に会社の人と嫌々行ったのが最後だっけ。
「へー、それにしてもすごいねぇ。これ、キミが作ったの?」
「はい、私が作りました。あと、ちゃんと名前で呼んでください!私はアリアですよ?ア、リ、ア!」
「あー、まぁいつかね。ほら行くよ。どうせ近くにある川だろ?」
置いてあった釣り道具一式をひったくるように手に持ち、先を行く。
「確かにあの川ですけど……いつかっていつですかー!」
「いいから、ほら早く」
もう!と悪態をついているがしっかり付いてきてはいるようだ。
その後、後ろで小さくありがとうございますという声が聞こえた。
少し歩き、目的地の川に到着。
釣り道具一式を川の近くに置いた。
「さて、それじゃあ釣りをしましょう」
草が生い茂り、柔らかいところに座り竿を投げた。
「あの、ヒオトさん。釣竿一本しかないので交代で使いましょう」
「別に僕は見てるだけでもいいんだよ?」
水は冷たいだろうしね。
「いえ、私が一緒にしたいので!」
「ふーん、まぁいいけどさ」
すると少女は表情を笑顔に変え、喜んでいた。
なにが嬉しいのか…。
「でも交代って、釣りはそんなバンバン釣れるようなもんじゃないでしょ?場所によるのかもしれないけどさ」
「まぁ、見ててください」
言われた通り静かに座り、見ていると。
「来ましたよ!!」
「えぇ!?早っ!!」
こんくらいが普通なのか?
分からないなぁ。
あっという間に魚を一匹釣り上げた少女は、持参したバケツに水を汲み、魚を入れたあと、はいどうぞと釣竿を渡してきた。
「やり方分かります?」
「甘く見ないでよ?これでも一応経験者なんだから」
釣竿をヒュッと振り。じっと待つ。
すると、すぐにビッと釣竿が張ったのを感じた。
「いや、流石に早すぎだろ!?食いつくの!!」
どうなってんだここの魚共は!
なんとか釣り上げ、バケツに釣った魚を入れる。
「なかなか上手ですね…」
「ま、まぁね…というか、ここどうなってんの?魚多過ぎない?」
「えへへ、私の自慢の釣りスポットです!」
にこーっと笑いかけられ、なんとも言えない気分になる。
そんなに楽しいかねぇ。
「それじゃあ次は私の番ですね。あ、ヒオトさん、どっちの方が大きいの釣れるか勝負しません?」
「へぇ、勝負かぁ。うん、いいよ。でもやるからには勝つからね?」
釣竿を渡し、ニヤリと笑う。
どういう訳かやる気がみなぎってるんだよなぁ。
その後、何度も何度も勝負を続け、釣った魚の量がエグくなって来たので、何匹かリリースし、そのまま帰ったのだった。
あれ?僕、なんか忘れてない?
まぁいいか。
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