赤い髪の少女
今、あの街からどれくらい離れたところにいるのか、僕には分からない。
「キシャァァァ……ッ!」
うるさいなぁ。頭に響くから叫ぶなよ…。
内心悪態をつき、睨みつけながらリボルバーを発砲。
カマキリのような姿をしたモンスターは黒煙と化した。
ここがどこかはわからない、でもただ一つだけ分かることがあるとしたら…。
と、ここまで考えたとき僕の腹からギュルルルルル……!と胃がもう耐えられないとばかりにすごい音を上げた。
確かこの音って胃が萎縮してなるんだっけ……。
あぁ、空腹だけじゃなくて、かなり歩いたから疲労もすごいことになってるなぁ。
時々意識飛んできそうになるし。
「もうダメかなぁー……、あぁ焼肉食いに行きたいなぁ…」
丼物も捨てがたいし……カツカレーとかもいいよなぁー……。
残念ながら僕が今歩いているのは、ザ・山道なので人がいることもないだろう。
あぁ……肉のこと考えてたらもう、本当にダメっぽいな…。そういえば、街襲われる前から…なんにも、口にしてねぇや……。
ついに僕の体は限界を迎え、山道に倒れ伏せると共に意識も消失した。
僕は目が覚めた、覚めた場所は冷たいあの山道……ではなく、暖かい布団の中だった。
意識がなかった間になにがあったのか分からず、布団から身を起こすと暖炉の前の椅子に座っていた少女がこちらに気がついた。
「あ、目が覚めたんですね」
そういいながら歩み寄ってくる少女。
容姿はかなり整っていた。
童顔のように見えたり見えなかったりと、可愛い系と綺麗系が混ざった感じだ。
髪の毛は赤く、肩あたりまで伸びている。前髪はきっちり綺麗に切りそろえられてはいないが、それに近い。
目は髪の毛と同じで綺麗な赤色だ。
下半身はデニムを彷彿とさせるショートパンツ。
上半身は黒のタンクトップのような服の上に赤色のダボダボっぽいセーターを着ている。
足にはいわゆるニーハイと言うのだろうか、それを履き、靴はブーツのようなものを履いている。
って、なに冷静に解析してんだ、気持ち悪いぞ、僕。
「キミは……?」
「はい。私はアリア・ヴェイスといいまして、ここは私の家です」
「ベイス?」
「ヴェ!です」
何となくいじる感覚で聞き返してしまったが、どういった経緯で僕はここに来たのだろうか。
「キミが僕のこと、ここまで連れてきてくれたの?」
「はい、山道に倒れていたので。こう見えてかなり力持ちなんですよ?」
「ふーん……助けてくれたのは感謝するけど、そういう誰かを思って行動!とかは偽善っぽく見えるからやめた方がいいよ」
初対面で失礼だとは思うが、つい言ってしまった。
情が移るのを防ぎたかったから……とか?
いや、ないない。
「ご忠告感謝します。ふふっ、あなたって捻くれてるんですね」
「僕も失礼だと思うけどキミも大概だよね」
「それに……私は自分の為にしたことですから…」
「ふーん……僕に貸しを作って利用する…とか?」
「利用するのとは少し違うかもしれませんね」
そう笑いながら言ってきた。
どういう目的で僕のこと助けたのかは知らないけど、会ったばかりの他人に良くしてもらうのってなんか抵抗あるんだよな。
「助けてくれてどーも。でもこれ以上迷惑かけるわけにはいかないから僕はもう行くよ」
と、そう言ったとき。
ギュルルルルルルッ……!と。
「お腹の方は迷惑かける気満々のようですよ?もちろん、私は迷惑だなんて思いませんけど」
ふふっ、と笑いながら言ってくる少女。
なんか調子狂うな……。
「それじゃ、ご飯だけ……」
「ふふふー、はい。それじゃあすぐ用意しますね」
すると近くにある台所へと移動していった。
へー、以外と器用なんだな。
というか、待ってる間物凄く気まずいんだけど。
いや、そう思ってるの僕だけかもだけど。
あ、いい匂いしてきた。
「はい、出来ましたよ。どうぞ座ってください」
「ホントにすぐだったね……」
出されたのは焼かれたパンと、パンを付ける用のビーフシチューらしき料理だ。
「これ、作り置きしてあったの?」
「作り置き、というよりかは下準備ですね。夕飯にしようと思ってまして」
「どうせなら米が良かったな…」
「お米ですかー。それじゃあ次はお米にしてみますね」
とりあえず食べるかと思い、軽くいただきますと口にしたあと、パンにビーフシチューを付け食べる。
「あー、染み渡るなぁ……美味いぃー…」
「ふふっ、喜んでもらえて良かったです。お腹空いていたんですもんね」
ビーフシチューってこんなに美味しかったっけー……。
ん?あれ?
「キミ、さっきなんて言った?」
「へ?えーっと、お腹空いていたんですもんね…?」
「違うって、その前その前!」
「前と言うと……次はお米にしてみますね、でしたっけ?」
「それだよ!それ!なんで僕がしばらくここにいることになってるのさぁ」
まるで当然の如く発せられたその言葉に気が付かなかった。
第一初対面の男と共同生活って……。
「ダメ、でしたか?」
「ダメ、ダメじゃない以前の問題だろ?初対面の男と共同生活って……キミもしかしてビッチ?」
「ビ、ビッ…!!ち、違いますよ!私だって誰彼構わずこんなこと提案しません!」
「それじゃあどうして?」
「そ、それはー…また近いうちに言います」
何か事情があるのは分かったが……。
でもまぁ、僕には関係ないか。
「まぁ、じゃあ少しだけ世話になるよ」
そう返事するとパァーっ、とあからさまに喜んでいた。
何がそんなに嬉しいのかね。
夕飯を食べ終わり、片付けた後風呂に入ることになった。
「それじゃあお先に失礼しますね」
「あー、はいはい」
待ってる間暇だな…。
とりあえずすることも無いので、家の中をじっくり見てみることにした。
一度外から見てみたが、外見はボロい小屋のような感じだ。
中はどういう訳か、外見とは裏腹にファンタジー系の漫画なんかで良く見る民家という感じだった。
しばらく待っていると、少女が出てきた。
「上がりましたよー」
「はいはい、じゃあ入ってくるよ」
というわけで風呂場に来たわけだが。
あー、思ってたより小さいなぁ。
まぁ、外から見た時のサイズ感を考えるとこんなものか。
今日は色々あって疲れたし、早いところ出てゆっくりしようかな。
「おあとー」
「あ、はーい」
「今日はもう疲れたから休ませてもらいたいんだけど……」
「それじゃあもう寝ましょうか……あ、ベッド一つしかないですね…」
「考えてなかったのかよ……」
「あはは……じゃあ一緒に寝ますか?」
どうしてそういうことを平然と言えるのか…。
「バカなのか?僕は適当に椅子で寝るよ」
「照れなくてもいいですのに……」
「僕はガキには興味ないんだよ」
「ガキってー…私19歳ですよ?」
「僕から見たらまだまだケツの青いガキだよ、ほらさっさと寝るぞ」
「あ、それじゃあ。毛布どうぞ」
毛布を受け取り、自分にかけてから目を閉じる。
「電気消しますね。おやすみなさい」
久しぶりに言われたような気がしたその言葉になんとも言えない気持ちになり、軽く流しつつ意識を落としていった。
はぁ…ホント、調子狂うよ……。
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