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第3話

 双方落ち着きを取り戻して会話再開。

「さて…」

「はぁ…」

 胸を撫で平静を取り戻そうとしている佑奈に勲から切り出す。

「こんな写真見ちゃったら、もう断れないじゃん」

 負い目というかなんというか、思わぬ形でご褒美をもらってしまった勲。どんな頼みが飛んできても取り敢えず断ることができない状況には追い込まれた。

「ごめんなさい。でも、これがお願いに関係しているので」

「…僕に撮れと??」

「怒りますよ?」

「すいません」

 ここで言うジョークではなかった。

「今そこに写ってるのは3人ですけど、他にも何人かよく一緒にイベントに行く友達はいます。女の子だけですけどね」

「ふぅん」

 連れ立っていく男友達、言い換えれば彼氏っぽいものはいないらしく、勲は少しほっとしていた。何を期待しているのか知らないが、本能的にそう思ってしまった。

「こういうところって、誰か男の人が一緒だと、まずこういうことされないんです」

「警戒するってことね、なるほど。一緒に行くってこと?」

「え?」

 恐らくそれが結論だろう。先読みした勲が答えを提示する。

「あ、あながち間違いじゃないんですけど…」

「え、違うの??」

 自信を持って送り出した答えが違っていたらしい。拍子抜けする勲をよそに続ける佑奈。

「一緒にってのは間違いありません。町村さんには是非一緒にイベントに行っていただきたいんです。ただ…」

「ただ?」

「ただ…、男性としてではなく」

「は?」

 次に何が来るのか想像がつかない、想像したくない。まさかまさかのウルトラCの頼みがきそうで気が気じゃない勲。

「私の代わりに女装してほしいんです!」

「断る!!」

「えー」

 なんか変に残念そうな佑奈。それは単純に興味本位でお願いしているようにしか聞こえない。そんなこともあってか即座に断る勲。

「いいじゃないですかー」

「よくない! ってなんで僕が女装しなくちゃいけないのさ!?」

 貯と声が大きくなり、静かな店内に響き渡る二人の会話。少ない客が何事かと視線を送る。それに気づいた二人は身を縮ませ声を小さくして会話を再開する。

「いや、話が飛躍しすぎだよ。なんで僕が女装することがパンチラの盗撮につながるのさ?」

 ごもっともな質問。

「だから、私の代わりに盗撮されてください。そしてそいつを捕まえてください」

「あ」

 理由と本題を伝える順番が逆になっていた。それを聞いた勲は若干だが合点がいく。しかしまだ納得はしていない。

「でも、それならなにも女装しなくてもただ同行すればいいだけなんじゃ?」

「それはそうなんですけど。そこはちょっと深い事情がありまして…」

 口ごもる佑奈。

「ここでは言えないほどのこと?」

「あんまり」

「なるほどねぇ。まぁそれはいいや。でも、なんで僕にその白羽の矢が立ったのかな?」

 次の疑問を解決しに向かう。

「先日大学であったこと、兄から聞きました」

「あー、あれね…」

 どうやらそれでさらに半分は合点がいったらしい勲。大したことではないが、先日大学近郊でちょっとした事件が起こった。それも実のところは盗撮事件。どこぞの女子トイレにこもっていた盗撮犯が逃げた先に勲の通う大学があり、犯人が構内に逃げ込んだのだ。人ごみに紛れ逃げようとした犯人、人並みをかき分け走る先に偶然勲がいた。

「どけ!」とがなる犯人に対し、多くの人は驚いて道を譲ったが勲は違った。子供の頃から親の教育の賜物で、柔道、剣道、弓道、合気道、とりあえず武芸一般を身に着けていた。そんなこともあり自然と体が反応し、自分めがけて走ってくる盗撮犯を一閃、組み伏せて御用。

「あの件か。そりゃ確かに僕色々やってるけどさ、てかやらされてたけど。別にそれだけのことで頼むのはおかしいんじゃないかな?」

 武闘派なら世の中に山ほどいるはず。それだけでは理由として足りない気がしている勲。さらに聞いてみる。

「もう一つの理由はこれです」

「これ?」

 佑奈がまたスマホの画面をスワイプする。指を一回右にはじく。するとその画面に映し出されたものは。

「あ”」

 何かわかった勲。同時に俯き目を逸らす。

「これ見た時は本当に驚きました。まんま私ですよねこれ」

「あー…」

「さっき素の状態の町村さんでも似てると思ったのに、これ見た時は私双子いたっけ?って思ったくらいですよ」

 その画像を見ながら喜々として話す佑奈。勲は二度と見るまいと頑なに視線をむけようとはしない。そこに写っていたのは、大学の新歓の際、罰ゲームで女装をさせられている勲の姿だった。黒髪ロングのヅラに女子高のセーラー服。ノリノリで着ているわけではなく無理矢理着せられた感がハンパない。この世の終わりと言わんばかりの表情で写っている。その写真は巽が撮影したもの。何かのタイミングで佑奈の目に触れたのだろう。まさかあんなものが世に出回ろうとは、死のう。

「いやー、あれは危なかったね。ガチで惚れかけてる奴いたしね。マジ掘られてたかもしんねーぞお前」

 その会話に気付いた巽が後ろから顔を覗かせ、当時の裏話をする。

「やめてくれよもう! 東京出てきて最初に感じた身の危険があれって。トラウマもんだよ」

「町村さん、かわいいですねぇ…」

 頬に手を当て、恍惚とした表情で勲の女装姿を眺める佑奈。

「付いてなかったら俺も危なかったな」

「やめろ」

 言うだけ言って退散する巽。

「すいません、話が逸れました」

「いえ、別に…」

 うつ状態の勲。話半分で聞いている。

「というわけで、これならバレずにいけそうだなって思ったんです」

「左様でございますか…」

 空になったグラスのストローで氷をガシガシつつきながら返事をする。

「と、ここまでが今話せることです」

「あ、そっか。そういえば」

 今ここでは話せないことがある、佑奈はそういっていた。

「今ここで結論を出してとはいいません。最後に話すこと、それを聞いてから決めていただいて構いません。なのでせめてそこまでは…」

 真剣なトーンに戻り勲にお願いをする佑奈。

「わかりました。話は聞きます」

「よかった」

 嬉しそうに微笑む。似ているとはいってもやはり違うものは違う。自分に向けられた無垢な笑顔、それが一人の可愛い女性と来れば勲も悪い気はしない。

「もしよければ明日、うちまで来てもらえませんか?」

「え? 佑奈さんの家?」

「はい。さっき写ってた友達を呼んで話しますので」

「なるほど、その人達にも関係があると」

「まぁ、詳しくは言えませんが」

「わかった。とりあえず明日佑奈さんの家には行きます」

 快く承諾する勲。最終的にどう結論を出すか、なんとなく自分で察してはいるが今はあえて濁す。

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げお礼をする佑奈。出会ってもう何回頭を下げられただろう。そんな大したことはしていないはずなのにと、勲は少しばかり恐縮している。

「それにしてもマジでかわいいですねぇ町村さん。一緒にコスプレしません?」

 また画面の勲を見てキラキラしだす佑奈。

「別問題ですので…」

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