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第1章:僕に女装をしろと言うのか!?(第1話)

「こ、こんにちわ…」

 とりあえず勲からあいさつをする。

「初めまして、沖波佑奈といいます」

 深々と頭を下げる佑奈と名乗る女性

「ど、どうも」

 勲もつられて頭を下げる。

「兄がいつもお世話になっています」

 また頭を下げる佑奈。

「兄? ってことは巽の妹さんってこと?」

 急に顔を上げ斜め向かいの男性に目をやる勲。それに驚いたのか、ビクッとする佑奈。小鳥か。

「そうなるな。一つ下だからお前と一緒ってことになる」

 その関係をまとめる男性は『沖波巽』。勲と同じ大学のこちらも1年生。しかし彼は一浪しているため勲より一つ年上。たまたま大学で講義が一緒の勲が目に留まり、田舎から出てきたばかりで右往左往している勲に対し、何かと世話を焼いてくれるため、いつの間にか仲が良くなった。まだひと月程度しか経過していない大学生活だが、随分東京にはなじむことができた勲。それも巽の気さくな性格の賜物のお陰。同じ大学に同郷の友人もおらず、独り東京暮らししている勲にとっては非常にありがたい存在になっている。

「どうも、町村勲っていいます。たつ…、じゃなくてお兄さんにはお世話になっています」

 名乗っていなかったことに気付き改めて挨拶する勲。お互い挨拶を交わしたところで真正面の佑奈の顔をじっくりと見る。そして先ほど感じた親近感の一端がそこでわかる。つい「あ」と声が漏れる。そこに向かいあう二人は背格好から顔立ちまで、何となくではあるが似ている。他人が見れば兄妹と思っても不思議ではない。少なくとも隣に座る巽と比べるとよっぽど兄妹している。

「似てるだろ?」

 口を開いたのは巽。

「え?」

「いや、初めてお前見た時はちょっとビックリしたんだぜ。なんで佑奈が俺の大学にー、って」

「いや、そんなことは…」

 視線を右に左に、誰を見て話せばいいか落ち着かない勲。そんなことを言われてしまっては冷静に佑奈の顔を見ることができないでいる。

「僕に似てるだなんて。佑奈さんに失礼でしょう。こんなに綺麗なんだから…」

 最後の方が少し小声になる。

「それ自分もイケメンって言ってるのと同じだぜ」

「いや、そういうつもりじゃ…」

 墓穴を掘ったのは勲。

「でも、本当に似てますね。兄よりはよっぽど」

 佑奈が口を開く。その声には挨拶の時の緊張の色はなく、温かみのある声になっていた。二人のやり取りで緊張がほぐれたのだろう。あながち無駄な会話ではなかったと少しほっとしているのは勲。軽く微笑んでいる佑奈を見て口元がにへらとしている。

「さて、本題に入ろうか」

 巽が手に持っていたコーヒーカップをソーサーに置き話し出す。

「あぁ、そうだった」

「何でも、妹からお前に頼みがあるらしい」

「頼み?」

 勲も手に持っていたアイスコーヒーのグラスをコースターに戻す。

「あぁ。ま、詳しくは妹から聞いてくれ」

「うん」

 当然であるが勲と佑奈は今日が初対面。互いの顔も見たことがなければどんな人物であるかもわからない。佑奈に関しては巽から何か聞いていればその限りではないが。

「すいません、初対面なのに」

 また頭を下げる佑奈。

「いえいえ、僕でできることなら…、宗教?」

 冗談ぽく呟いてみる。

「違います」

 頬を膨らませて即座に冷徹に否定する佑奈。

「ご、ごめんなさい」

 勲も即座に詫びる。

「そうも考えたくなるよな」

 合いの手を撃つ巽。

「兄さんは黙ってて」

「へい」

 佑奈に一蹴される。気を取り直した佑奈が続ける。

「えっと…。あ、その前に。兄さん後ろいってて」

「何だよ、いちゃダメなのか」

「ダメ」

「へいへい」

 人払い、というか兄払いをする佑奈。「悪い」と言わんばかりに片手でお詫びのポーズをして席を立つ巽。

「あ、ちょ…」

 勲の静止も叶わず、席には勲と佑奈の二人だけになる。

(気まずー)

 声には出さないものの顔には出ている。友人の妹とはいえ初対面の女性と二人きりで同じテーブルに向かい合っている。耐性がないわけではないが慣れないことのため、勲の心拍数は上がる。

「ごめんなさい。兄には聞かれたくないので」

「さようで…」

 落ち着くために再度グラスを手に取りストローでコーヒーをズビーとすする。ほぼ空になっている。

「じゃあ、まずこれを見てもらえますか」

 そういうと佑奈がスマホを取り出して何か操作をしている。画面をスワイプしているところを見ると、恐らく何か画像を探しているのだろう。

「これです」

 目的の画像が見つかったのか、手を止めてスマホを勲の目の前に差し出す。

「写真…だよね」

 スマホを覗き込む勲。

「ん?」

 目を細める。というのも、そこに写っているものが自分が即座に認識できるものではないため、ずずいと画面に近づいて目を凝らす。人間ではある。しかし何か様相が異なっている。そして数秒の思考の後それがなんであるかを理解する。

「コスプレ?」

「はい、そうです」

 画面には数名の女性(だと思う)が、見慣れぬ衣装を着て今は見えないレンズに向けてポーズをとっている。

「初めて見たな。ってこれが?」

 顔を画面から上げ、改めて佑奈に視線を送る。指で画面を刺しながら。

「そこの中の一人、私なんです」

「へー…、え??」

 驚いてもう一度画面を見る勲。驚くのも無理はない。3人が写っているその写真。パッと見でどれが佑奈か判断できないのだ。恐らくガチコスプレイヤーを初めて見た時の一般人の反応ってこんなもんだろう。

「わ、わからん…」

 それが正しい反応、安心するのだ。

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