序章 私の旅立ちと行方(4)
それからしばしのときが流れたが、
特に変わりはない。
私は床に刺さったままであるし、
魔王は玉座に座ったまま。
そして誰も訪れない。
魔王の配下のものの一人でも現れても良いような気もするが、
それすらもないのだ。
かつてこれほどまでに何もない継承の儀があっただろうか。
いままで私は光り輝くその姿を勇者の前に示し、
それを手にした勇者は誰もが使命に燃え、
私を携えて輝かしい旅路を始めたというのに。
私はここから動くことすら間々ならず、
それどころか仇敵を前にして何も出来ずにいる。
私が非常に口惜しい思いをして足があれば地団駄をふんでいただろう。
おそらくそんな私の思いをまったく理解していないだろう魔王はつまらなさそうに目を閉じて玉座で頬杖をついている。
私の存在はもはや、
まな板の鯉もいいところで。
もはや魔王にとっては人畜無害・・・否、
魔畜無害といったところであろうか。
眼中にすらないという非常に悲しい状況である。
これほどまでの侮辱があっただろうか、
いやない!
「むっ!」
それまで目を閉じ、
玉座からピクリとも動かなかった魔王が突然立ち上がった。
視線は私───・・・いや、
私の真下である。
私が突き刺さった床が少しずつ地割れし始めたのである。
私の怒りがようやく伝わった・・・わけではなく、
単純に私の刀身に宿された魔を払う力が魔力を宿す魔王城に少しずつ影響を与えて、
崩壊させているのであろう。
私の力を見たか!魔王めっ!
さぞかしかなりあわてているだろうと思い、
その慌てふためく姿を存分に見てやろうと、
魔王へ視点を移す。
だが、
魔王は微塵もあわてていない様子で、
風の魔法で私を吹き飛ばし、
部屋の隅に当然のように置かれた宝箱の中に一切触れずに放り込んだ。
まずい、
宝箱は特殊な魔法が施されていて、
これは悪意の感じられない魔法であるからして・・・
つまり、
私に宿る力では振り払えない。
でられないのである。
私の視界は再び闇に包まれた。
何も見えない。
ただ音だけが聞こえる。