序章 私の旅立ちと行方(3)
本来倒すべきの仇敵を目の前にして私は動くことすら出来ない。
私にはそもそも自力で動くための足はないのである。
せいぜいあたりを照らす程度も魔力はあるが、
攻撃的な魔法は勇者が私を手にしてこそ発動できる。
つまり、
ただ光って、
「私は聖剣である」というアピールをするしかできないのである。
敵地のど真ん中で、
私は敵です!どうにでもしてください!といっているようなもので、
本当にただの馬鹿としかいえない状態だ。
これが生物であれば滝のような汗が流れているだろうが、
私にはあいにく、
そのような機能はついていない。
なんとなく悔しいので光ったままにしているが、
大して意味もない。
忌々しそうに私を見つめる魔王のまえで黙ってみながら、
床に突き刺さっているしかないのだ。
先に動いたのは魔王である。
当然か、
私には何も出来ないのだから。
魔王は私に触れずに玉座に戻った。
いらぬ負傷をおわずにすむ賢明の判断といえる。
私自身には何も出来ないが、
私の体には魔を払う能力がある。
触れれば魔王ほどのものであれば軽い火傷ですむであろうが、
低俗な魔ならば消滅するだろう。
「聖剣よ。お前は勇者とともに俺を倒すためにくるのではなかったのか。単身で俺の目の前にきてどうする」
魔王が話しかけてきた。
私に話しかけてくるなんて、
長いこと私とともに過ごしてきた勇者だけだと思っていたので正直驚いた。
私には私が意思を持つということはわかっているが、
ほかのものからみれば私はただの無機物である。
話しかけても答えるわけでもない。
突然話しかけるなんぞ、
よほどの乙女チックか、
妄想癖の持ち主か・・・まともなもののやることではない。
しつこいようだが、
私には魔王の問いに答える口もないわけで、
しばしの沈黙が続く。
魔王は眉間にしわを寄せて、
肘掛に肘をつきその眉間のしわを伸ばすように拳を額につけてぐいぐいと首を回した。
しわとともに自分のした行為を恥じてでもいるのだろうか。
ため息は長い。
ため息をつきたいのはこっちのほうだ。
私は聖剣。
勇者とともに使命を果たすか、
もしくは命が尽きるまで運命を共にするものである。
なにが悲しくて床に馬鹿みたいに刺さった状態で黄昏ていなければならない。
誰が配達ミスのようなことをやらかしたのか問いたい。
是非に問いたい。
私に口があればもっと大きなため息をついただろう。
実に口惜しい、
実に口惜しい。