序章 私の旅立ちと行方(2)
暗い暗い闇の中。
いったいどれだけの時をさまよったのであろう。
私を必要とする時代がくるまではどれほどの月日が流れたのだろうか。
私には目というものはない。
なので、
本来目覚めるという目を持ち合わせてないのだ。
しかしながら、
目というものがあるならば、
視界と言うのだろうか、
不意にあたりが開けるときがある。
私はそれを便宜上目覚めとよんでいる。
その私の目覚めはいつも唐突で、
勇者の前に降り立ったときにおきるのだ。
どうやら、
私は目覚めたらしい。
だが、
あまりにあたりは暗い。
ここはいったいどこなのだろうか?
仕方ないので私は自身を光らせることにした。
私自身には魔力がこめられており、
光の術をつかうことができる。
自身を光らせて周囲をてらすことなど、
造作もない。
ゆっくりと周囲を照らしていくと、
ここが非常に大きな建物であることがわかった。
しかも大層立派な・・・
ふいうちのように少々高い位置から大きな舌打ちが鳴った。
私は勇者の元に届けられる存在であるから、
そこに誰がいるのはあたりまえのことであるが、
あまりに音の位置が高く少々驚いてしまった。
今回の勇者は巨人族であろうか。
だとすれば私はおそらく短剣ほどのサイズもないだろう。
果たして、
どのように役立てばいいのだろうか。
などと、
私が思考をめぐらせていると、
その舌打ちの主の気配が次第に近づいてきた。
カツンカツンと金属の高い音が近づいてくる。
足音はさほど大きくない。
近づいてきたのはやや大柄な男だった。
「これは何の嫌がらせか。自害でもしろというのか」
男の低い声は独り言のつもりだろうが、
よくとおるため私の刀身に響いた。
だが・・・
だがそれよりもおそらく私自身が震えているのかもしれない。
予想外の出来事に、
私は考えが止まってしまっている。
これはどんな神の悪戯だろうか。
ヒューマンよりも大きく立派な体つき。
光る瞳はゴールド、
縦に切り裂くようにはいる瞳孔が特徴的なドラゴンズアイ。
天を穿つように聳え立つ一対の角は黒く雄雄しく、
魔力の強さを物語っている。
流れるような青みがかった銀糸の髪は妖しくも美しいが、
それは女神にのみ許された色であり、
それを持つものは背徳の表れであり、
この世にただ一人しか存在しない証。
それがそのものの存在を決定付けるのである。
私の目の前にいるもの、
それは明らかに魔族の王。
いわゆる魔王である。