序章 私の旅立ちと行方(1)
その日の空は青かった。
どこかの世界ではそれは当たり前のことなのだが、
この世界の空は基本的に曇天なのである。
鉛を流し込んだような空は鬱蒼とした森にも似た、
そんな重みのある息苦しさをまざまざと見せ付けるのである。
だがその日晴れ渡った理由はひとつの憂いが終わりを遂げたからである。
光の閃光は空からではなく、
大地より発せられて、
空をも切り裂いたのである。
だが、
その光も今は薄ぼんやりと頼りなく揺らぐ程度になっていき、
もはや閃光の面影はない。
やがてゆっくりと消えていき、
大地に一人の男が横たわっていた。
男の瞳にももう光がうせようとしていた。
そう、
命が尽きるのだ。
この戦いは壮絶なもので、
この男の命によって相打ちという勝利を遂げたのだ。
「長かった。この世界はこれで守れた。君のおかげだ」
男はゆっくりと話しかけてきた。
そこに人影もないため、
独り言のように見えるだろうが私は確かに彼の傍らにいたのだ。
「次に行くのだろう?願わくばこの世界すべてに平和を」
そう、
私は次を探さねばならない。
男の命が尽きるのを見届けて、
私は女神に祈りささげた。
次の勇者の下に届けていただけるように。
私は女神がこの大地に平和を望み、
勇者へ仕えるようにと天から使わされた聖剣である。
一人の勇者が使命を果たし、
平和をもたらすとともに私は次の勇者の元へと送り届けられるのだ。
勇者は平和を願い、
聖剣を必要とするものであり、
種族は問わない。
歴代の勇者の中にはエルフやドワーフというように、
ヒューマン以外の亜人と呼ばれるものもいた。
次はどのような勇者に必要とされるのだろうか。
私は無機物であり、
会話することは出来ない。
ただ仕事を全うするだけの存在である。
だが、
女神の計らいか、
心だけは存在し、
声は聞こえる。
多くの勇者の夢を見届けてきた。
どの勇者も崇高な、
そして壮大な夢と、
平和を愛する心をもち、
私を振るってきたのだ。
私はそれを誇りに思う。
ああ、
女神よ。
次もよき夢をともに追える相方を、
出会いを私にください。