異世界へ
「ここは…」
一言で言えば森の中。とても大きな樹が見える。その回りを木々が生い茂る。ここはその中の一部のようだ。
「異世界に来たって事か」
体を確認する。問題は無い。強いて言うなら服装が学生服のままのところだ。このままでいいのだろうか。
「まあ、服よりも先にこの世界の知識と場所だな」
『へぇ、君やっぱり変わってるね。普通なんの説明もなしにこの状況なら、それなりに慌てるかと思うんだけど』
この声…
「自称神様か?」
『そう。神様さ。最初に転生者にはどういう世界か説明する決まりがあってね』
「それは最初に会ったときにすべきじゃないか」
『それが出来ないんだよね。説明したらルール違反になる。元々君達転生者は、とんでもなく何かに執着している人間が選ばれる。そして僕達は君達の意思に関係無く転生させる』
「何故だ?」
『それも秘密。君がそこまで来たら説明するよ』
やはりこの自称神様は何か隠している。ただ単にもう一度人生を与えるほど優しい奴じゃない。自分の利益が何かしらかある。だが今の俺には関係ない話だ。
『それじゃあ基本的な知識から。この世界を一言で表すなら君の世界のゲームみたいなものだ。ところで君ってゲームするの?』
「いや、ほとんどやったことがない。筋トレと本を読むくらいが趣味だ」
『うわー寂しいねえ』
「いいから説明の続きをしろ」
『わかったわかった。まず、ステータスオープンと言ってみて』
「ステータスオープン」
言われた通りにすると、目の前に妙な画面が写し出され、そこに文字が書かれている。
NAME:???
AGE:18
SEX:MAN
LV:1
HP:D
MP:X
ATK:D
DEF:D
MAT:X
MDF:X
AGI:D
LUCK:D
SKILL
NONE
SPECIAL SKILL
???&???
SKILL POINT:1
BONUS POINT:0
「これは?」
『簡単に言えば、君のこの世界における力強さになる。上から順に名前、年齢、性別、レベル、体力、魔力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、敏捷、運、技能、特殊技能、スキルポイント、ボーナスポイントとなる。恐らくアルファベットしか見えてないだろうから、詳細って言ってみて』
「詳細」
NAME:???
AGE:18
SEX:MAN
LV:1
HP:D【1000】
MP:X【0】
ATK:D【100】
DEF:D【100】
MAT:X【0】
MDF:X【0】
AGI:D【100】
LUCK:D【100】
SKILL
NONE
SPECIAL SKILL
???&???
SKILL POINT:1
BONUS POINT:0
「数字が見えた」
『そう。その数字がそのままランクに直結している。ランク1個上げるのにそのランクの最低値×10の数値になる。最低ランクはFで数値は1。そこからE、D、C、B、A、Sの順にランクが上がる』
つまり、1~9がF、10~99がE、100~999がD、1000~9999がC、10000~99999がB、100000~999999がA、1000000~99999999がSとなる。
『あとXは君達転生者にしか現れないランクだ。この世界の住人ではないため魔力は存在しないことになる』
「名前と特殊技能が見えないのは何故だ?」
『それもルールの1つ。前世の事を忘れさせるため名前を自由に変えられる権利を与えている。特殊技能については強すぎるため自分で気付かないといけない。自分の本心で願っていることが、特殊技能に変わっているはず。それに気付かないまま死ぬ人もいるらしいから気を付けるように』
「この強さは強いのか?」
『いや、むしろ弱いくらいだ。普通の人でDランクはざらにいる。だから油断しないように。ただレベル1でなら高い』
「名前はどうする?」
『君の自由に変えていいよ。何がいい?』
「特にない。そっちで決めてくれ」
『僕が決めるのかい?』
「縁起が良さそうだ」
本当は少しも思っていないが、正直名前なんてどうでもいい。
『むむむ、そうだな…グレンというのはどうだろう?短くて分かりやすいし』
「それでいい」
『何かもう少し反応ないの?薄すぎてつまらないんだけど』
「早くしてくれ」
『ハイハイ。分かりましたよ』
少しして名前が打ち込まれたのを確認する。
NAME:グレン
AGE:18
SEX:MAN
LV:1
HP:D【1000】
MP:X【0】
ATK:D【100】
DEF:D【100】
MAT:X【0】
MDF:X【0】
AGI:D【100】
LUCK:D【100】
SKILL
NONE
SPECIAL SKILL
???&???
SKILL POINT:1
BONUS POINT:0
『次にスキルポイントの説明をするよ。スキルポイントはレベルが上がると手に入る。これを使ってスキルを覚える。試しに標準異世界言語を覚えてくれ。スキルポイントの欄に触れると覚えられるスキルが出てくる』
スキルポイントに触れると様々なスキルが出てくる。剣術、槍術、体術、話術等々。下の方を見ると標準異世界言語があった。触れると必要ポイント:1の文字。触れてOKボタンを押す。するとステータスにそのスキルが追加されている。
NAME:グレン
AGE:18
SEX:MAN
LV:1
HP:D【1000】
MP:X【0】
ATK:D【100】
DEF:D【100】
MAT:X【0】
MDF:X【0】
AGI:D【100】
LUCK:D【100】
SKILL
標準異世界言語
SPECIAL SKILL
???&???
SKILL POINT:0
BONUS POINT:0
『これで完了。君はこの世界の言語を話せるようになった。スキルポイントはLVと同じ数字がレベルアップの時に貰えるから大切に使うように。最後にボーナスポイントだけどそれは取った後のお楽しみ。ちなみにルール上教えられない。取得条件はレベルアップの時にランダムで1~3ポイント貰える。最後に質問はあるかい?』
「…俺はこの世界で何をすればいい?」
ずっと思っていた疑問をぶつける。こいつになにか思惑があるはずだが、それを話すことはしない。なら俺は何を思って行動すればいいのかわからない。前世で生きたいと思ったことすらないのに。
『それは自分で考えることだ。どんな生き方でもいい。犯罪者になろうが僕に止める権利はない』
「神様だろう。自分の転生させた奴が犯罪を犯しても止めないのか?」
『その権利が僕らにはない。そういうルールでね。でもこれだけは言える。君はそんな事をする奴じゃない。子供庇って亡くなった人がするわけがない。君に望むのは思うままに生きて欲しいということだ。それがきっと誰かの為になる』
不覚にも良い奴だと思ってしまった。今までこんな言葉をかけられたことがなかった。だが、それでも油断するべきでないと心に言い聞かせる。
「わかった。取り敢えずどうするか考えるよ」
『ああ、そうすると良い』
「最後に交渉だ。何かくれ」
『…ウン?今なんて?』
「何かくれ。はっきり言うが、無理がありすぎる。知識も無いなら金もなく、頼りに出来る奴もいない。ましてやステータスとやらも低い。もう少し何かあっても良いくらいだ」
神はしばらく唸り、やがて口を開いた。
『まさか要求されるとは思わなかった。でもルールとしてスキルを与えることも、金を与えることも、レベルを上げることも出来ない』
渋る神に畳み掛ける。
「ならステータスを上げることは?」
『いや、それは…』
「出来るんだな?」
『…かなりギリギリだけどね』
神はでかい溜め息をつく。
『しょうがない。どれか1つランクを1個上げて「全てのランクを上げてくれ」上げるよって…え?』
交渉する時の鉄則だ。妥協はするな。これはかなり重要。
『無理だよそんなの!わがままが過ぎる!君は生きることに興味がないんじゃないの?』
「それとこれとは話が別だ。生きることへの興味は確かにない。だからといって苦労したいとも思わない」
『でも無理。どれか1つにして』
「俺はお前に無理矢理転生させられたんだ。これくらいの特典はあっても良いんじゃないか?」
『むむむ』
ひとしきり無言の戦いをして、俺は勝った。
STATUS
NAME:グレン
AGE:18
SEX:MAN
LV:1
HP:C【10000】
MP:X【0】
ATK:C【1000】
DEF:C【1000】
MAT:X【0】
MDF:X【0】
AGI:C【1000】
LUCK:C【1000】
SKILL
標準異世界言語
SPECIAL SKILL
???&???
SKILL POINT:0
BONUS POINT:0
『これで良いね?』
「ああ。助かった」
『全く。神様相手に交渉何てするかい、普通はしない。まあとにかく頑張りなよ。すぐに死なないようにね』
「ああ。わかった」
『それじゃあ、また会う日まで』
神の気配がなくなる。
「さて、行くか」
取り敢えずこの森を抜けて街道に出よう。運が良ければ人に出会えるはずだ。