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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
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第七話  王都ルネム

 シュオリブ王国首都ルネムは、途中で通って来た村や町と比べるべくも無く大きな城郭都市だった。

 高い城壁で囲まれた街の入口の門には、憲兵が二人立っており街に入る人を検問している。

 城壁は数十メートルおきに壁から半円状に突き出した塔のようなものがあり、その上にも憲兵らしき人影が数人見えた。


 検問の列が進んで璃采達の番になったが、意外にあっさりと通る事が出来た。

クレアはルネム出身の冒険者であるし、璃采はロドルーブが保証人になってくれて持たされた手紙を見せたら「大賢者様なら安心だ」と言って通してくれた。

ティティは特に何も言われなかった。誰も見た事の無い妖精だとは思わなかったらしく、召喚した何かだと思ったのではないかとクレアが教えてくれた。

 

 門をくぐると有事の際に集まる為の広場になっていた。その先には広い大通りが真っ直ぐ伸びている。その先に第二の城壁が見える。それより先には上流階級の人達が住んでいるらしい。さらにその先には王城があり、高い塔がいくつか見える。大通りの両脇にはレンガ造りで三階建ての三角屋根の街並みが続いており、ほとんどが商店らしい。ただ大通りに面した店は一般階級の中でも高めの店が多いらしい。


 大通りから脇道に入り、クレアの後をついて歩いて行くとまた広めの通りに出た。その通りには両脇にずらーっと露店が並んでおり市場のようで賑わいを見せていた。大勢の人が行き交い、呼び込みや宣伝が行われている。そのままだが市場通りというらしい。露店には見た事の無い野菜や果物も並んでいる。興味津々といった様子の璃采にクレアは後日来ることを約束した。

 

 クレアの家は市場通りから路地を入ってすぐの所だった。

「親父!魔塞病を治せる者を連れてきた!」

 その場にいたクレアの母、弟、妹は揃って目を丸くして唖然とした表情をした。

「クレアったら帰って来て早々に何を言い出すの?」

 母親は変な事言わないでとばかりにクレアを睨む。魔塞病は治らない。どんなに大金持ちの貴族が大金を積んで高価な治療を受けた所で治らないのだ。王様だってどうにも出来ないだろう。

 小さな弟や妹もいるのに変な期待を持たせて欲しくない。女だてらに冒険者になるなどと家を出て言った挙句、どこかに頭のネジを落としてきてしまったのではないかと母は頭を抱えた。


「いいから!リト、とにかく急いで診てくれ!」

 クレアは母を押しのけて璃采を父親が寝ている寝室のベッドへ案内した。

「親父ちょっと触るけど大丈夫だから、このリトに任せてくれ。リト頼む」

 璃采は集中してクレアの父親のオーラを視ると、トレガ村のトルタと同じかそれ以上に変色していた。早くしないと危険な状態だった。

 璃采は急いでマッサージを始める。少しずつオーラの色が変わってきた。完治にはまだ程遠いが、璃采自身も腕を上げたとわかる程だった。

 だがマッサージをやり過ぎると筋組織に良くないので、何日もかけてやるしかない。


「直ぐには完治しません。まだかかるでしょう」

「わかった。この家に泊まってくれ」

 そう言ってからクレアは、頭を抱え込む母親に真剣な眼差しを向けた。

「母さん、信じられないかもしれないけど、アタシを信じてくれ。絶対に助ける!」

 母親はクレアの目を見て本気で言っているのだと分かった。そしてベッドの父親の方を見る。顔色が幾分良くなっているように見える。もしかすると新手の詐欺で、娘も騙されているのではないかと訝しむ気持ちもあったが、娘を信じることにした。

「わかったわ、クレア。リトさんでしたか?どうぞ主人を宜しくお願いします」

 クレアの母親は深々と頭を下げた。そして、父親の名前がローノン、母親がルビア、弟がレント、妹がミリアだと紹介した。

「改めまして、僕はリトです。こっちは妖精のティティです」

 妖精と聞いた時の反応はトレガ村の人々と変わらなかった。


 翌日は午前中にマッサージを施し、午後はクレアと市場へ行った。

出掛ける時は、あまり目立たないようにティティは璃采の胸ポケットに入っている。その上からローブを羽織っているので殆ど見えない。

 市場にはこの町の商人だけで無く、世界を旅する行商人もいる。


「こんにちは。この果物めずらしいですね。何て言うんですか?」

 璃采は行商人の店で話しかけた。

「らっしゃい!これはラウニーってんだ。南の地域で栽培が盛んだな」

 初めて聞く名前だった。日本の物と見た目がほぼ同じ物は、キャベツやジャガイモといったように日本名で翻訳される。

「どんな味なんですか?」

「んーなんて説明したら……なんなら一個食ってみな」

「いいんですか!ありがとうございます!」

 璃采は一つ手にとって、細長い楕円形の黄色い皮を向くと白い実が出てくる。そして一口食べる。味は甘いが何かに似ている。触感はプルプルとして瑞々しい。

「バナナ味のマンゴーかな」

「おっ兄ちゃん上手い事言うねぇ」

「じゃあこれを十個ください」

「まいどー」

「ところで、おじさんはいろんな所へ行くんですよね?」

「そうだな、この大陸中の国へ行くな」

 店主はラウニーを袋に詰めながら答える。

「へーいいですねぇ。最近何か変わった事とか話とかありました?」

「変わったことねぇ……」

 しばらく考えてから言った。

「他の国では特に無かったが、この王都へ来て聞いたのが、第四王子が王位継承権を放棄して出家しちまったらしいな。王族といっても何かと大変だよな。十年前の事とかあるしよ」

 璃采が知っている事は、この国には王子が四人、王女が一人いるという事だけだった。詳しく聞こうとしたらクレアに止められた。

「おじさんありがとう」

 他人と話すのが苦手だった璃采だが、トレガ村でのことがあってかだいぶ話せるようになっていた。


 お金を払いラウニーを受け取って、璃采とクレアは家に戻って来た。クレアの部屋に行き扉を閉めるとクレアが言った。

「十年前の事は、あんな場所で話せないんだ」

 王族に関する事なので、口止めはされていないがタブーというのが暗黙のルールらしい。

「十年前に何があったんですか?」


「十一年前第五王子アルディ様がお生まれになった。その一年後アルディ様が一歳の誕生日にお披露目のパーティが城で開かれたそうだ。とても利発でかわいらしい顔に、出席した王族貴族などの有力者達はこぞって褒め称えた。だが大預言者のヌレドマ様は、なぜかアルディ様の顔を見たとたん涙を流し額突いたそうだ。そして『このお方は神に愛されたお子じゃ』と言ったとか言わないとか」

 璃采は第五王子がいたという事は初耳だった。

 クレアは少し間を置いてまた話し出す。

「その何日か後にアルディ様がお亡くなりになった。アルディ様がお亡くなりになった直後に第三王子のヴィドル様も行方不明になった。アルディ様の死は公には病気とされているが、暗殺ではないかと噂されていた。そのせいで、ヴィドル様がアルディ様を殺して逃げたんじゃないかとか、ヴィドル様はアルディ様を殺した犯人に誘拐さたんじゃないかとか、ヴィドル様も身の危険を感じて身を隠したんじゃないかとか様々な憶測がささやかれていたな」

 それが十年前の事らしい。今でもヴィドル王子は行方不明のままだそうだ。


「それ以前にも側室だったユフィル様が毒殺されるという事件もあったんだ。その時の犯人である侍女は捕まって処刑されたが、背後関係は謎のままだった。フェルシュ様はユフィル様のお子なんだ」

「それで今回第四王子のフェルシュ様が出家されたという訳ですね」

 王位継承権の順位があると言っても命を狙われたりするかもしれない。貴族が後ろ盾について王位争いなどよくある話だ。

「以前から考えていたのか何かあったのかは解らんが、さっさと表舞台から退場したのは賢明な判断だと思うな」

「そうかもしれませんね」

 もともと第四王子で王位継承権四位なのに命を狙われたりしたら、たまったもんじゃないだろう。

 貴族同士の派閥争いなどもあるかもしれない。

「ま、アタシら一般市民には与り知らぬことだけどな」


 話を終えてから、璃采はおやつに買ってきたジャガイモでポテチを作ってレントとミリアに振舞った。ついでにラウニーも剥いて出した。

「これウメー」

「パリッとしてておいしいー」

「こりゃイケる」

 クレアも一緒に食べている。

「あら、いいわね。作り方教えてくれないかしら?」

 ルビアにも好評だった。

 ティティはトレガ村の頃から璃采のおやつのファンだ。頬に頬張って夢中で食べている。

 オヤツ作戦が効いたのか、レントとミリアはこれで璃采と打ち解けた。

 

 次の日もマッサージを終え市場へ行ったが、特に収穫は無かった。

 その日は市場で小豆のような豆を見つけたので、璃采はあんこを作ってみた。思いのほか上手く出来たので、粉と卵と砂糖でホットケーキの様な生地を焼き、あんこを挟んだ。どら焼きもどきが出来た。これも好評だった。因みに火を使う時は、さすがに火打ち石ではまずいのでティティに手伝って貰っている。

 

 三日目に行商人から聞いた話は、冒険者のラザンが死んだという話だった。

 ラザンはクレアと同じく十指に入るどころか、一二位を争う位の有名なやり手のベテランの冒険者らしい。慎重だが腕は確かで死ぬようなヘマをするとは信じられないという。詳しい事はわからないらしく、強力な魔物に殺されただとか、何かの陰謀に巻き込まれただとか勝手な噂が飛び交っていた。

「まさかあのラザンが死ぬなんてな」

「知ってる人なんですか?」

「ああ。度量もでかくてな。アタシら新人の面倒も良く見てくれた。アタシが冒険者としてやってられるのもあの人のおかげさ」

 クレアは新人冒険者だった頃、ラザンには世話になったらしい。

「あまり気を落とされないように……」

「ありがとう。大丈夫だ。冒険者やってりゃこんなこともあるさ。アタシだって死ぬ覚悟は出来てる」

『死ぬ覚悟』という世知辛い言葉に璃采は何も言えないでいた。


 五日目位からローノンの顔色もだいぶ良くなり治って来ているとはっきりとわかったので、みんなホッとしているようだった。

 その頃からティティの「ニンゲンをフコーにするー」が炸裂しだした。

 朝起きると作りかけだったミリアのワンピースが、既製品よりもかわいらしくフリルが沢山ついた手の込んだものに出来あがっていたり、建て付けが悪くて開かなかった窓が開くようになったり、床がピカピカに磨かれていたりと不思議な事が次々起こった。

 その都度「フコーになった?なったよね?なったでしょ?」と雲雀のような声で言いながら、キャッキャッと飛び廻るティティ。家の中がだいぶ騒がしくなっていた。

 

 その頃だった。突然璃采はレントに質問された。

「どうして兄ちゃんからは魔力が全然感じられないんだろ?」

 璃采は焦った。外出時はローブを着ているが、家の中では着ていなかった。

「レントは魔力を感じる事が出来るの?」

「うん。この家では俺だけらしいけど」

 魔力を感じる事が出来る者は少ない。修行すればある程度は出来るようになるらしいが。

「レントはすごい才能をもっているんだね。僕は普段魔力を遮断しているんだ」

 苦しい言い訳であったがレントは信じたようだった。

「すげーな、兄ちゃん。そっか、隠してないと魔力がデカすぎて大変なんだな。さすがだぜ」

 変に解釈されてしまい璃采は違う意味で焦ったが。

 

 そうこうしている内に十日が過ぎローノンもすっかり元気になった。

「もうオーラに変色は視られませんし大丈夫ですよ」

 璃采は入念にオーラのチェックをしてから言った。

「いや、本当に、まさか治るとは。何とお礼を言っていいやら。ありがとう。これでまた明日から働ける……」

「本当に何から何までありがとう」

 ローノンとルビアが涙を浮かべて万謝した。

「父さんがまた元気になってよかった。兄ちゃんのおかげだね!」

「お兄ちゃんありがとう。おやつも美味しかったよ」

 レントとミリアは礼を言いながらも少し寂しそうな顔をしている。

「ほんとにありがとう。何かあったら言ってくれ。何でも力になるから。こう見えても冒険者には顔が利くしな。ところでこれからどうするんだ?」

「せっかく王都まで来たので、もう二、三日滞在して色々見て回りたいと思ってます」

「そうか、なら家にいればいい!」

「そんな、お世話になるわけには――」

「そうだよ!うちに居ればいいよ!」

「いてよ!いてよ!」

「ええ、ええ、いつまでも居てくださって構いませんよ。ねえあなた」

「もちろんだとも。是非家にいてください」

 家族全員に引き留められて、璃采は胸に温かい物を感じ、知らずに涙が零れて頬を伝った。

 クレアの家族がぎょっとした顔をしていたが、璃采自身も驚いていた。

 結局クレアの家で世話になることになったのだった。

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