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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
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第六話  旅路

 マッサージに復帰してから一ヶ月程経った頃だった。もう全ての人が魔塞病を完治していて特に行かなくても良いのだが、マッサージを気に行って魔塞病で無くても受けたいという村人が出てきたので行っていた。

 生きて行くのだから仕事はしなくてはならない。今までも無償で行っていたわけではない。璃采は無償でも良いと言ったのだが、そういうわけにはいかないと村人達が言うのでお金を貰っていた。ただ相場が不明だったので食事一回分位の料金で行っていた。

 不治の病が治るというのだから、どんなに値を吊り上げても来る者はいるだろうが、最低限のお金があればいいと良心的な価格設定にした。璃采は誰かの役に立ちたいのであってお金を儲けたいわけではなかった。


 いつものようにティティに運ばれて村へ行くと、璃采を待っている人がいるというので宿屋へ向かった。宿屋の扉を開けて中に入ると一階の奥には受付があり、その前にはテーブルと椅子が五組並んだロビーがあった。その椅子の一つに座っていた女性が璃采に気付いて話しかけてきた。この村では見た事が無い女性だった。

「君が妖精を連れたオーラの魔法使いか?」

ティティが一緒だったのですぐにわかったらしい。

「えっと…はい…そう呼ばれている者です」

 魔法も使えないのに魔法使いとはこれ如何に。璃采は肯定していいものか迷いながらも答える。

 ティティは早速宿屋で不幸という名の善行、要は手伝いを始めていた。ティティ曰く「ニンゲンのお仕事を取っちゃったら、取られたニンゲンはフコーでしょー」ということらしい。確かに金銭が係わればそうかもしれないが、無償で働くティティはその限りでは無い。

「失礼した。アタシはクレア。冒険者だ。」

 クレアと名乗った女性はショートカットの栗色の髪と栗色の瞳だった。日本にも染髪とカラコンでよくいる感じの色合いに親近感が湧いた。とはいえ顔立ちはやはり西洋風で少し切れ長のくっきりとした二重に、スッと鼻筋の通った高い鼻とシャープな頬。美人といえる。年は璃采よりも少し上に見える。身長も璃采より僅かに高く、ぴったりとしたパンツに包まれた長い足がモデルのようだった。ただし、背中にロングソードを背負っていた。

「僕に何か御用ですか?」

「この村には魔塞病を治すオーラの魔法使いがいると、王都でこの村に出入りしている商人が噂していたのを聞いたんだ。実はアタシの親父が魔塞病になってしまってな。だから一緒に来て欲しい。もちろん金は払う」

「あ、あの、いきなり言われても……」

「どうしても助けたいんだ。アタシは十五の時、両親の反対を押し切って冒険者になったんだ。今じゃそれなりに稼ぎもあって仕送りも出来ているが、冒険者なんていつ死んでもおかしくない仕事だからな。両親には心配ばかりかけて親孝行なんてしてこなかった。それにまだ幼い弟や妹もいるんだ。まだ小さいのに親父がいなくなるなんて酷な話だ。だから助けたい」

 クレアは真っ直ぐに璃采の目を見ている。璃采はクレアの目の中に切実な思いを感じた。

「先生に聞いてみてからでもいいですか?」

「構わない。出来れば直ぐにと言いたいところだが。親父の奴、家族に隠してたからな」

 クレアはギリッと奥歯を噛んで言った。この村でもそうだったが不治の病である魔塞病は、症状が酷くなって家族が気付くまでは隠される事が多い。どうせ治らないのに言っても心配させるだけ無駄という事である。

 

 クレアの家は王都にある。トレガ村からだと馬車で十五日、馬で八日かかるという。急がなければ間に合わないかもしれない。かといってロドルーブに相談無しで行くわけにもいかない。もう璃采にとってロドルーブは家族だった。

「では明日お返事します。行く事に決まったら明日そのまま出発しますので」

「わかった。どうかよろしく頼む」

 そう言ってクレアは頭を下げた。


 その日の夜、璃采はロドルーブにクレアの事を話した。

「ほう、冒険者のクレアか」

「御存じなのですか?」

「うむ。冒険者として名を上げている者の中でも十指に入るつわものじゃな」

「そんなに有名な方だったんですか」

 なんでもパーティではあるがドラゴンを倒したらしい。この世界にはドラゴンが実在する。ドラゴンは小さい固体でも全長三十メートル程もあり、固い鱗と馬の胴体程もある太くて鋭い爪を持つ。そして強力なブレスを放ってくる。もし国で討伐に出るとすると最低でも二百人位の一個中隊は必要だそうだ。因みにロドルーブに聞いたこの国のフォガートという英雄は単独で倒したらしい。そして驚く事にロドルーブも昔倒した事があるという。そうは言っても、クレア自身も英雄とまではいかないが十分に強い。

「僕は彼女の父親を助けたいと思っています」

「そうか。ならば行ってくるが良い」

 ロドルーブはにっこりと微笑んだ。

「わしの方はこの二ヶ月間世界の異変について調査をしておったのじゃが、さっぱりじゃった。特に異変は起こっておらんのじゃ」

「世界の終わりというのは徐々にでは無く、いきなり来るのでしょうか?」

「わからん。兎に角もう少し調べてみるかのぅ。出来れば係わりたく無かったのじゃが、魔女達にも何か知らぬか聞いてみる事にするわい」

 ロドルーブは嫌そうな顔をして言った。ただロドルーブも二人の魔女の所在しかわかっていないという。

 

 魔女はこの世界に四人いるそうだ。各大陸に一人ずつ住んでいて北の魔女、東の魔女、南の魔女、西の魔女と呼ばれている。全員が高齢で五百歳を超えるロドルーブでさえ赤子同然の扱いだ。中には四千年とも五千年とも言われる長い年月を生きている魔女もいるらしい。

ロドルーブが五百歳を超えると聞いた時、この世界の人は長生きなのだなと、少し前までは思っていたが、よくよく聞くと違ったらしい。この世界も日本と同じく人間の平均寿命は八十歳位だそうだ。ロドルーブは体内の魔力によって細胞に働き掛け寿命を延ばしている。老いまでは防げないらしい。これが出来るのは、亡くなった大預言者ヌレドマや賢者と呼ばれる者だけだそうだ。

 それとは別で魔女達は、元は人間だったが禁忌の術によって魔女になり永遠とも言える命を手に入れたそうだ。


「僕も王都へ行ったら、出来たら人々に話を聞いてみます。王都には地方の事情を知っている商人も沢山集まっているでしょうし」


 翌朝ロドルーブは璃采に一枚のローブを渡した。

「そなたは魔力が無いのでな。普通の者にはわからぬが、わしのように魔力を感じる事が出来る者もたまにおる。じゃからこのローブを着て行くとよい」

 そのローブはロドルーブが魔力を込めたもので、着ていれば璃采の魔力が感じられなくても怪しまれないというものだった。

「ありがとうございます。行ってきます」

「ニンゲンのおじいちゃん、ティティがフコーにするんだから、元気にしててねー」

 そうしてティティと村へ行った。

 トレガ村へ着くと、村の入り口でクレアが今か今かとそわそわした様子で待っていた。璃采の顔を見るなり駆け寄って来て、不安げな顔で尋ねた。

「返事を聞かせてくれないか?」

「はい、一緒に行きます」

「ありがとう!感謝する…本当にありが…とう……」

 クレアは感極まって泣きそうだった。

「まだ治したわけじゃないですよ。ですから急ぎましょう」


 クレアは乗って来た馬で、璃采は相変わらずティティが魔法で運んでくれた。

「驚いた。さすがはオーラの魔法使いだな。空を飛べるとは」

 クレアは馬を走らせながら、驚きながらも感心した様子で言った。璃采にしてみれば物のように運ばれているだけなのだが、他人から見ると飛んでいるように見えるらしい。

「いえ…これは…その……」

 馬と並走して飛びながら、何と言って説明してよいかわからずどもる。ティティには以前に、異世界人であること、他の人間に知られてはならない事を説明してあったので、特に何も言わず楽しそうに蛇行しながら頭の上を飛んでいる。

 

 いくつか村を素通りし夕方位にルエノドという町に着いた。

「今日はこの宿に泊まろう」

 クレアは宿の受付に行き交渉を始めた。

 ティティがキョロキョロとし始める。それを見た璃采は慌てて、ここでは大人しくしていて欲しいと頼んだ。

 戻って来たクレアは申し訳なさそうに言った。

「丁度この町に大商団が滞在しているらしく一部屋しか取れなかった。申し訳ない」

「いえ、僕は大丈夫ですけど、クレアさんが嫌じゃないですか?」

「アタシは平気さ。冒険者なんてやってれば仲間とテントで雑魚寝することも野宿することもあるしな」

 夕飯は宿の一階にある食堂で食べた。

「リト、そんな華奢な体で普段ちゃんと食べてるのか?」

 そう言ってクレアはこれも食えあれも食えと沢山璃采に食べさせた。璃采は母親とはこんな感じだろうかと思ったが、年齢的に失礼だと思い直した。

 部屋に戻るとクレアがとんでもない事を言い出した。

「マッサージとやらは魔塞病じゃなくてもいいんだろ?ちょっとアタシにもしてみてくれないか?」

 父親に変な事をされないかと自分で試しておきたかったのかもしれない。

 璃采は焦った。村でも女性にマッサージをしたことはあったが、病気を治したい一心であったし、若い女性でもなかった。どうしたものかと悩んだが、やましい事をする訳でもないし、一日中馬に乗っていたら疲れるだろうとマッサージする事にした。

「ではそこのベッドにうつ伏せに寝てください」

「こうか?」

 さすが名の知れた冒険者だけあって、クレアは引き締まった筋肉に包まれた均整のとれた体つきだった。璃采は足の先から初めて全身をマッサージしていった。最初は触れられてビクッと警戒していたクレアも終わる頃には気持ちよさそうな顔をしていた。

「成程。これは疲れが取れるな。回復魔法でも疲れは取れるが、直に触れて揉み解されると気持ちいい」

 璃采の頬が火照った。

「それよりリトの方が魔法を使い続けて飛んでいたんだから相当疲れているんじゃないか?」

「いえ、僕は大丈夫です」

 ティティは疲れていたようで既にすーぴーと寝息を立てて寝ている。

「明日も早い。休むか」

 ベッドが一つしかないので、璃采は床に寝ようとする。

「床で寝なくても一緒に寝ればいいだろう?」

「え!でも、そんな、僕も一応男ですし……」

「子供が何を言っているんだ?」

「え?僕十七歳です……」

「え?」

 この世界では十五歳が成人なので、十七歳は立派な大人だ。璃采の女の子にも見えるかわいらしい外見と、華奢な身体つきの所為でもっと若いと思っていたらしい。因みにクレアは二十歳だそうだ。

「まあいいさ。ベッドは一つしかないんだ。弟と寝るのと変わらない。一緒に寝よう」

 そうして璃采はクレアの横で眠りについた。近くに人肌を感じ、幼かった頃の母と一緒だった時を思い出したのか璃采の寝顔は幸せそうだった。

 

 そうして、途中の村や町で馬を何度も乗り換え、ティティは自身が飛ぶのに疲れたら、熊手と同じである璃采の肩に乗って休みながら、三人は先を急いだ。

 その甲斐あって六日程で王都に到着した。

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