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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
6/33

第五話  ティティ

 昼食後ロドルーブにトレガ村まで送ってもらい、夕方また迎えに来てもらうということになった。

 一人につき三十分から一時間のマッサージをするので一日多くても十人がやっとだった。一回のマッサージで治るわけではないので、全員治すとなると一カ月位はかかると思われる。

 

 そんな生活を始めて八日目の夕飯の時だった。

「今日各地に送った手紙の返事が届いたのじゃが。明日はそのことで旧知の友の所へ行かねばならんのじゃ。じゃからすまんが、明日は送迎が出来んのじゃ。留守番していてくれぬか?」

「いえ、村のみんなも早く治したいでしょうし、僕一人で行ってきます。大丈夫ですよ」

「そうか、じゃがくれぐれも森には気を付けるのじゃぞ」


 近隣の村といっても徒歩で片道四時間かかる。途中に森が付き出していて大きく迂回しなければならない為である。森の中を突っ切れば二時間で行けるが、森には魔獣がいる為、戦う術を持たない璃采には通れない道だった。


 この世界では動物と魔獣の区別は曖昧である。全てに魔力が宿っているので動物の体内にも魔力があり、魔獣と言えない事もない。この世界の人々は、人間に害を為す動物を魔獣と呼んでいる。更に魔獣が魔力を溜め凶暴化したものを魔物と呼ぶ。


 因みに空を飛んで行った場合、森も何も関係ないので璃采を乗せていても十分弱で行ける。ロドルーブ一人でスピードを出せばもっと早く着くらしい。この世界の通常の移動手段である馬だと迂回路で四十分位だとか。しかし、璃采は馬に乗れない。ゆくゆくは練習しなければとは思っているが。

 

 次の日の朝、ロドルーブは熊手のようなものに乗りこみ空に向かって出掛けて行った。

 璃采もトレガ村へ向かって出発した。トレガ村へは丁度お昼頃到着した。

村の門をくぐった辺りで初老の男性に声をかけられた。

「おや、オーラの魔法使い様。今日は早いですね」

 璃采はいつの間にかオーラの魔法使いと呼ばれるようになっていた。魔法は全く使えないのだが、奇跡を起こした事で魔法使いという事になってしまったらしい。一般人も生活する上で魔法は使うが、魔力が沢山あったり、魔法の扱いに長けていると魔法使いという職業に就くらしい。

「こんにちは、ラテスさん。今日は先生がいらっしゃらないので歩いて来たんですよ。」

「それはお疲れでしょう。昼食がまだでしたら是非うちで食べて行ってください。私も今戻る所なんですよ」

 昼食は宿屋か屋台で済ませようと思っていた璃采だが、ラテスが「さあさあ」と少々強引に家へ連れて行った。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。では、今日の四番目にまた来ますので」

 璃采はお礼を言うと本日一番目の家に向かった。

 

 各家でマッサージを行っていたのだが、気が付くといつもと同じように夕方になっていた。夕日がかなり傾いて遠くの山にかかっていて、オレンジ色と紫の空のグラデーションが美しい。午後六時過ぎ位だろうか。

 歩きなので本当は今日のマッサージは早く切り上げて帰途につかねばならなかったのだが、役に立てているという嬉しさから夢中になってしまっていた。

「うわー。今から帰ると、家に着くのかなり遅くなっちゃうな。先生心配するだろうな……」

 とにかく急いで帰ることにしたが、徒歩で森を迂回していったのでは十時を過ぎてしまうだろう。ロドルーブが何時に帰ってくるかはわからないが、出来れば先に着いていたかった。

「先生には止められたけど、森の道を走って帰れば一時間位で着くかな」

 璃采は華奢ではあるが、体力はそれなりにある方だった。そして森に向かって走り出す。


 森の中頃まで来た頃、完全に太陽は沈み暗闇が支配していた。夜になってしまうのはわかっていたので、村で買ったランプに火を灯し、先を急いだ。

 二メートル位の道の両側は木が生い茂り、不気味な雰囲気を醸し出している。それでも僅かながらも月の光が差し込んでくる。璃采は走りながら空を見上げた。夜空には月が二つ浮かんでいる。一つは地球で見るような月。もう一つはその倍位の大きさの青い月。初めて見た時にとても驚いた事を思い出してふふっと笑った。

 その時だった。後方の茂みからガサッと音を立てて何かが飛び出してきた。咄嗟に振り向いた璃采が見たのは大きな魔獣だった。狼のような外見だが、大きさは虎位ある。

「グゥルルル」

 唸り声が聞こえる。

「……僕は、晩御飯ですか?」

 パニックになっていた璃采は聞いても意味の無い事を口走っていた。

 璃采の額から冷や汗が流れる。膝が震えているが両足に力を込めて辛うじて立っている。

 様子を見るように鋭い眼光で睨んでいた魔獣だったが、ついに璃采に向かって飛びかかって来た。

「うわあああああああああっ」

 叫びながら璃采は咄嗟にランプを持っていた手で振り払う。ランプは魔獣の鼻先に当たって割れた。中の火に触れたのか獣はまた距離をとって璃采を睨みつける。

 璃采もまた魔獣を見つめた。というより目を離せなかった。背を向けて逃げ出しても魔獣の足に敵うはずは無く、すぐに追いつかれてしまう。

 ものすごく集中していたのだろう。魔獣の体にはっきりとオーラが視えた。

――魔塞病?いや疾患か?

「ガアアアアアアアア」

 今度こそ噛み殺してやるとばかりに恐ろしい声を上げて、璃采の首筋めがけて突っ込んでくる。顔面に迫る二本の鋭い牙。璃采は左手でガードする。前腕に鋭い痛みが走る。腕ごと噛み千切られるかという時、璃采の右手の拳が魔獣の脇の下辺りを殴りつけた。

「ッキャインッ!」

 魔獣は噛みついていた腕を離し後方へ飛んだ。

「何かの病気だったか……でも退いてはくれないと」

 もし魔塞病だったら璃采の拳など効かなかっただろう。

 魔獣は逃げる様子は無く、更に牙を剥き出しにして璃采に敵意を向けてくる。

 璃采の左腕からは血がぼたぼたと垂れ続けている。力が入らない。格闘技などやった事もない璃采には、次に攻撃されたらもう為す術が無い。反撃できたのはまぐれと言ってもよかった。それにオーラの色だけでは見分けがつかない魔塞病と疾患だが、疾患だったことも運がよかった。しかし、その運もこれまでかと思える。

「僕、死ぬのかな……先生の言いつけを守らなかったから……先生ごめんなさい」

 そんな璃采など徒の餌だと魔獣は三度飛びかかって来た。

 今度こそ終わりだと璃采は右手でガードしながらも、反射的に固く目を瞑った。


「むぅー!ニンゲンをフコーにするのはわたしなんだからねーっ!」


 雲雀のようなかわいらしい声で不吉な事を言う声に、反射的に再び目を開けた。

 目の前には魔獣に向かっていくつも野球ボール位の火の球を飛ばしている小さな生き物がいた。

「どっかいっちゃえーっ!」

 魔獣は夕飯に未練がある様子ではあったが、叶わない事を察して尻尾を巻いて逃げて行った。


 璃采はまじまじと小さな生き物を見つめた。

 その生き物は十五センチ位しかないが人間の少女の姿をしていた。だが背中から左右に二枚ずつ半透明の小さな羽が生えている。オーラとは別の金色に輝く光が全身を包み、羽を動かすと時々光の粉のようなものが弾けていた。リ〇ちゃん人形のようなかわいらしい顔立ちに、アクアマリンを嵌め込んだようなキラキラした水色の瞳の美少女だった。きれいに切り揃えられた白に近い金髪が肩の辺りでくるんと内側にカールしている。人間で例えると十五歳位だろうか。

「助けてくれてありがとう。僕はリト。えっと……君は?」

「えっへん。わたしはラエティティアなのー」

 膝丈のシンプルなワンピースを着た小さな少女は、腰に手を当てて胸を張って答える。

「あー怪我してるぅー。もーっ!ニンゲンをフコーにするのはわたしなのにぃー」

 ラエティティアはそう言うと璃采の左腕に治癒魔法らしきものを施した。

「なんでぇー全然治らないよー。なんでぇー」

 何度も治癒魔法を掛けているが一向に傷は塞がらない。

 このままでは破傷風やら狂犬病やらが怖い。その前に出血もかなりあってまずい。止血用に縛る紐も無ければ、服を破って紐代わりにする為のナイフも持っていない。

「とにかく帰って先生に相談してみるよ」

 璃采は歩き出した。するとラエティティアが「なんでぇーなんで治らないのぉー」と言いながらパタパタと小さな羽を動かして着いてきた。


 暫らく歩くが貧血気味なのか足元がふらつく。倒れそうになった時、フッと足が地面から離れた。何事かと思ったら璃采の身体がフカフカと空中に浮いていた。

「えっ?どういうこと?」

 動揺する璃采を無視して「お家はこっちねー」と家の方向に向かって飛び出した。璃采は地面から五十センチ位の空中を浮いたまま運ばれていた。

「僕、空、飛んでるのかな……」


 結構なスピードが出ていてあっという間に家に着いてしまった。

 家には既にロドルーブが帰宅していた。

「ただいま戻りました」

「帰りが遅いから心配していた所じゃ」

 そう言って出てきたロドルーブだったが璃采の傷を見て血相を変えた。

「どうしたのじゃ!すぐに治癒魔法を掛けるでな!」

 璃采はすぐにベッドに寝かされ、ロドルーブは治癒魔法を掛けようとする。

「駄目なのーっ!治癒魔法じゃ治らないのーっ!なんでぇーっ!」

 ラエティティアが半分涙目になりながら割り込んできた。

「なんと!治癒魔法が効かぬのか……魔力が無いからじゃろうか……」

 ロドルーブは、少し考えてから璃采の左腕に魔法を掛けた。

 すると傷が塞がった。だが治ったわけでは無い。

「これは?」

「痛みはまだあるじゃろうのう。治癒魔法が効かぬのでな。空気中の魔力を使ってくっつけているだけじゃ。まあ絶対安静じゃな」

 外科手術で縫ったようなものらしい。


 治癒魔法は体内の魔力に干渉して傷を塞いだり、病気の原因を治したりする魔法である。回復魔法は体内の魔力に干渉して細胞分裂を促したり血液の増加を促進する魔法である。二つを掛ける事で無かった事のように治るし、もちろん痛みも無くなる。

 そのため魔力を持たない璃采には効かない。外的に施すしかなかった。

璃采が気になっていた狂犬病や破傷風については、そういったウイルスや細菌などにも魔力があるそうで、魔力があるなら干渉できるので魔法で滅したらしい。


「ごめんなさい。僕が先生の言いつけを守らなかったから」

「よいのじゃ。無事…ではないが戻って来てくれただけで……本当によかった」

「傷がくっついたねー。ニンゲンのおじいさんすごぉーい。どぉやったのー?おしえてー!」

 魔法を使っている間は大人しくじーっと見ていたラエティティアが騒ぎ出した。

「妖精とは珍しいのう。リトよ、こちらは?」

 妖精は本来、人間の前には決して姿を現さないという。言い伝えでは、人間に見えない所で悪戯をするらしい。かわいい悪戯から取り返しのつかない事まで。

「ラエティティアさん。僕を助けてくれたんです」

「そうじゃったのか。わしからも礼を言う。リトを助けてくれてありがとう」

「うんー。でもどぉして治癒魔法が効かなかったのー?」

「それはじゃな。リトには魔力が無いからじゃと思う」

 ラエティティアが璃采の近くに寄って来る。

「魔力を全然感じない変なニンゲンと思ってたけどぉ――」

 この世界で魔力が全く無い人間はいない。その為信じられないといった様子でラエティティアは首を傾げてる。

「僕は全然魔力が無いんだ。魔力を溜めるというか循環する機関が無いんだよ。」

 ラエティティアはアクアマリンの瞳で璃采を見つめてから言った。

「むむむー魔力が無いなんてフコー。ニンゲンをフコーにするのはわたしじゃなきゃ駄目なのぉー。だからわたしはここに居るぅー」

 そしてラエティティアはこの家に住み着いた。


 その日の夜、璃采はズキズキとした痛みでなかなか寝付けなかった。むしろ落ち着いたら余計に痛みが酷くなった気がする。

 この世界のほとんどの人は治癒魔法も回復魔法も使えるらしい。親から言葉を覚えるように魔法も覚える。治癒魔法を掛けてもらって感覚で覚えて行くようだ。

 それでも治癒魔法が苦手だったり、魔力が少ない人の為に痛み止めなどの薬草も存在するらしいが、魔法にも魔力にも秀でているロドルーブには必要のないものだったので、この家には無かった。買いに行こうにも璃采が帰って来た時間では店が閉まってしまっていた。痛みを我慢するしかなかった。


 そこへラエティティアが何やらお茶のようなものを持ってきた。

「ラエ……っつ……ティティ……さん?」

 痛くてうまくしゃべれない。

「これ飲んで―」

 見た所ハーブティーのようだった。璃采は言われるまま飲んでみた。しばらくするとスウーッと痛みが和らいだ。

「ありがとう。これは?」

「うんとーリト痛いのフコーでしょー?フコーにするのはわたしなのー。だからぁ森の精霊に聞いてきたぁー」

 ラエティティアが満悦らしい声で説明してくれた。


 精霊と聞いて、ロドルーブの授業で習った事を思い出した。精霊は花や草木や風土火水などの自然物に宿る。魔力のみで構成される魔法生物と呼べるが、精神体のようなものなので触れることはできない。花や草木に宿る精霊は主体となる植物の生命力に魔力が結合して生まれると言われている。その為主の植物から離れることは出来ない。もともとに生命力が無い風などの精霊は濃密な魔力によって意思が形成されるらしい。妖精ほどでは無いがこちらも人間の前にはあまり姿を現さない。

 対して妖精も同じ魔法生物であるが、触れる事が出来る。どこから生まれるか、人間の前には姿を現さないので未だに不明だが、光や闇の精霊が膨大な魔力を宿し実体化したものではないかとの推測が成されている。


「お茶にして飲むと痛いの治るからってー、少し分けてくれたのー」

 精霊の目撃談は結構あるらしいが妖精の目撃談は皆無だそうだ。五百年以上生きているロドルーブでさえ見た事は無かったらしい。それなのにいるという事は信じられていたのだから不思議だ。

 そう考えると目の前にいるラエティティアが貴重な存在だと思えた。

「ラエ…ティティアさんは、どうやって生まれたの?」

 璃采は噛んでしまった。ちょっと言い辛い名前だ。

 ラエティティアはコテンと小首を傾げて、んーと唸った後ニパッと笑った。

「さっきのーさっきのがいいー」

「え?」

「ティティー。ティティがいいー!リトはわたしをティティって呼べばいいと思うー!だから、わたしもわたしをティティって呼ぶー」

「あ、そっち?」

 質問では無く噛んだ方に対する答えだった。

「んー?ティティはどうやって生まれたのか、どこから来たのかわかんないー」

 その夜は痛みも気にならなくなり、よく眠れた。


 三日も経つと璃采は起き出していつもの生活に戻っていた。といっても村にはまだ行けないので午前中は講義を受け、午後はロドルーブの書斎を片付ける手伝いを片手でやった。


 ラエティティアが来てから五日目の朝だった。

「なんじゃー!これは!」

 書斎の方から響いたロドルーブの叫び声を聞いて、璃采は急いで駆け付けた。

 書斎の扉を開けた入口に放心状態のようなロドルーブが立っていた。

「どうしたのですか?」

「……わからん」

 璃采は疑問に思いながらもロドルーブの脇から書斎の中を覗いてみた。

 すると中は奇麗に片付いていた。大量に散らばっていた史料も、積み重なって置かれていた本も全て本棚の中におさまっている。部屋の中に入るときれいになった机の上にノートのようにきちんと綴じられた分厚い紙の束があった。璃采は字をまだ勉強中ですぐには読めなかったので、ロドルーブに紙の束を渡した。

「これが机の上にありましたけど、何でしょうか?」

 その紙の束に目を通したロドルーブは更に驚愕の表情を浮かべ目を丸くした。

「これは……索引じゃろうか……どんな資料や本がどの棚にあるか全て記されておる。しかも種類別に分かれている……一つ一つに番号までついておる……」

 それを聞いた璃采は本棚の方を見た。すると本の背表紙に図書館にあるようなラベルが貼られ、番号がついていた。本棚自体にも番号が付いていてより分かりやすくなっていた。

「たった一晩でこんな……」

 ロドルーブは言葉に詰まっている。一生かかっても片付かないのではないかと思われた図書館位の広さのある書斎。夢でも見ているのではないかと狐につままれたような顔だ。

 璃采は本棚の上に光るものを見つけた。

「ティティ?」

 名前を呼ばれてティティは目をこすりながら璃采達の方へ降りてきた。

「おふぁーほぉー」

 ティティの挨拶が欠伸に変わった。

「これティティがやったの?」

 そう尋ねると、眠そうだったティティの目がキラッと光り、腰に手を当てて胸を張って答えた。

「えっへん。ニンゲンをフコーにするのがティティなのー。ニンゲンのおじいさんは毎日ここでぇリトと楽しそうにお片付けをしてるでしょー?その楽しみを奪ってやったのー!」

 得意げな顔をしながらティティはロドルーブに詰め寄った。

「ねーねーフコーになったー?フコーだよねー?フコーでしょー?」

「う…む…不幸になったのじゃ……」

 しょうがなくといった感じでロドルーブは答えた。

 それを聞いたティティは「やったーやったー」と言いながら光の粉を撒き散らして飛びまわっていた。

 暫らく何とも言えないような、しかし微笑ましいものを見るような表情でティティを見つめていたロドルーブはボソッと呟いた。

「変わった妖精じゃのう……」

 人間の前に姿を現す自体変わっていた。

「だけど、この量をたった一夜って。どうやったの?」

 璃采が聞いてみる。

「んー。魔法でぇピーってやってチョーってやってポンてやったのー」

 興奮状態だからなのか元からなのか知らないが、全然解らない説明だった。

「まあ妖精じゃからのう。魔力の量は計り知れないのう」

「そんなにあるんですか?あんな小さいのに、先生よりも?」

「そうじゃ。あの子はずっと飛んでおるじゃろう。前にも言ったが人間自体が飛ぶには膨大な魔力と制御が必要じゃ。わしの魔力ではせいぜい百メートルが限界じゃ。」

「羽があるからでは?」

「あんな小さな羽では意味がないのじゃ。あれは舵取りのような役目じゃの」

 確かにティティと羽の比率を人間の大きさに当て嵌めてみても飛べる気がしない。


 翌日、ニークが食料と雑貨を持ってやって来た。

「やあリト。全然村に来ないからみんな心配してるぜ。」

「実は魔獣に襲われて、腕を怪我してしまったんです。だから申し訳ないんですが、暫らく村には行けません」

「だいじょぶか?って大賢者様がいるんだから治癒魔法でちょちょいって感じだろ?」

「ええと、僕は治癒魔法が効き辛い体質のようで――」

 この世界の人間にはあり得ない事なので、魔力が無いとは言えない。

「そっか、オーラの魔法使い様なんて呼ばれて他人の病は治せるのに、難儀な体質だな」

 ニークは璃采に憐憫のまなざしを送った。

「まあ村の連中には伝えとくから。元気そうでよかった」


 それから更に五日が経ち璃采はマッサージに復帰した。

 村へ行くと子供たちが集まって来た。

「おーらのまほうつかいさま、けがしたんでしょ?だいじょうぶ?」

「いたい?」

「はやく元気になってね」

 村の子供達は心配そうに璃采を見上げる。

「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 璃采はお土産に持ってきたジャガイモを薄く切って揚げたポテチを子供たちに渡した。子供たちは喜んでキャッキャッとはしゃぎながら食べていた。たまに璃采はお菓子を作って持ってきていたので子供達には懐かれていた。

 左手はまだ使えなかったが、魔塞病に悩む人の為にもと、右手だけでもマッサージを施していった。


 ティティはなぜかいつも璃采についてきた。村まではティティが運んでくれる。空を飛んでいるというよりも荷物のように運ばれている感じだ。


 普通は、人間や動物など意思のあるものは魔法で運べない。相手の体内の魔力が反発するからだ。魔法で浮かべる為には風魔法などの攻撃に分類される魔法を駆使しなくてはならない。しかし魔力を持たない璃采はロドルーブの熊手と同じ扱いで運ぶ事が出来る。ロドルーブも璃采に試してみたら出来たので驚いていた。


 ティティの自称「ニンゲンをフコーにするー」と言いながらの様々な善行は家でも村でも続いていた。初めて見る妖精に初めは驚きと好奇の目を向けていた村人達であったが、愛くるしい姿とは裏腹の奇妙な言動を微笑ましく思うと共に畏敬の念を抱くようになっていた。

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