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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第二章
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第三十話  悪夢再び

「行ってみますか?」

 恐る恐る璃采は聞いてみる。またとてつもなく強い犯人に出くわしてしまったらまずい。ましてやフォガートを倒したのだとしたら相当な強さである。

 だがフォガートは知り合いだ。しかも璃采がマッサージをした相手だ。璃采がマッサージをすると死ぬという嫌なジンクスが璃采を襲う。


「行きましょう。もし殺されていたのだとしても、その場に放置されていたのでは余りにも残酷だわ」

「今から行けば大丈夫じゃね?着く頃には犯人はとっくに逃げた後だぜ」

「そうねえ。でもリトの傷も心配だわあ」

「僕は大丈夫です。急ぎましょう」


 一行はそれなりのスピードでリズフィが感じたという北西へ向かって飛んだ。

 途中で少し休憩を挟みながら、三日後に現場に着いた。そこは外海にほど近い、波打つような砂の海が広がる砂漠だった。


 白い砂の中に異物のように何かがあった。

 フォガートだ。他に人影は見えない。

 一行は悲痛な面持ちでフォガートの側に降り立つ。

 フォガートは上半身と下半身が真っ二つに切断され離れた所に転がっていた。目を逸らしたくなるような惨状であった。

 全員が呆然とその場に立ち尽くしていた。


――またなのか

 璃采の心臓は、鷲掴みにされたように痛む。璃采がマッサージした人が次から次へと死んで行く。

――僕の手は呪われているのだろうか

 だが璃采は誓ったのだ。死から目を逸らさないと。

 

 暫らく何も出来ずに見ていた璃采だったが、違和感に気付いた。

 他の上下に分かれた死体は見た事無いが、上下に真っ二つならばもっと何かが体から零れているのではないだろうか。この死体は奇麗な断面のままだ。どこかおかしいと目に力を込める璃采。

 オーラが視えた。死体ならばオーラは既に無くなっているか、体から離れて行く様子が視えるはずだった。だがこの死体にはしっかりとオーラが視える。離れる様子も無い。


「ティティお願い。治癒魔法をかけて」

 そう言いながら璃采はフォガートの上下の体をくっつける。

 気でもふれたのかと憐れみの目で璃采を見るリズフィ達。

 ティティは言われた通りに治癒魔法をかけて体を繋ぐ。

 そこへ璃采はヒューレから教わった方法でフォガートにオーラを分け与える。


「……うぅ」

 フォガートが声を漏らした。

 何が起こったのか、リズフィ達の理解が追い付かない。明らかに死んでいた者が生き返った。死者蘇生の魔法は存在しない。

 リズフィ達はあまりの事に硬直したまま動けなくなった。


「あれ?私は死んだのではなかったか」

 フォガートは不思議そうに、そして確かめるように自分の体を触る。

「ええ。死んでるように見えました。体が上下に分かれて転がっていましたから」

「リト、君が助けてくれたのだな。ありがとう。これで助けられるのは二度目だな」

「リトすごぉーいー」

 言われたまま治癒魔法を掛けていたティティも吃驚といった様子で、フォガートの周りを観察するように飛び回る。


「いえ。それよりフォガートさんは人間ですか?」

 半信半疑で生き返らせた璃采自身も驚いていた。

「勿論君達と同じ人間だよ。どこからどう見ても人間じゃないか。ははは」


 璃采は一緒にしないでくれと言いたい所だった。普段のフォガートの体力や魔力も驚異的だが、それ以上に胴体を真っ二つに切断されて生き返る人間がどこにいるというのだ。しかもその状態になってからかなり時間が経っていたはずだ。


「あの状態から生き返るなんてありえませんよ。フォガートさんには何かあるんですか?」

 手を顎に当てて考え込むフォガート。


「そういえば――」

 何かを思い出したようだった。

「昔ネストルテという魔女に会ったのだが、不死の薬の実験じゃと言って変な物を飲まされた記憶がある。もし生き返る事があったら報告に来いと言われていたな」


 あの魔女の仕業かと脱力する璃采。

 しかも飲ませた後に、これでは死ぬまで待たないと実験の成否が判らんのじゃと後悔していたそうだ。成功したら大量生産して販売し儲けるつもりだったらしい。そういえばラムセが、家計がどうのと言っていたなと璃采は思い出した。


「でもこれ、僕じゃなかったら死体だと思いますよ」

「だよなーオレっちも、こりゃ完璧死んでるわと思ったぜ」

「他の人に発見されていたら今頃お墓の中だったわ」

「そうねえ。下手したら火葬されてたわねえ」


 口々に呆れ半分で感想を言う璃采達だったが、それを聞いたフォガートは改めて自分の置かれていた状況が分かったようだった。


「重ね重ねありがとう。リトが見つけてくれて助かったよ」

 そう言いながらハンカチを取り出し、璃采が触ったと思われる所を拭いているフォガート。

「今度ネストルテに会ったら薬は失敗だったと伝えておこう」


「だけどフォガートさん程の人がやられるなんて、相手はどんな人だったんですか?」

 フォガートが太刀打ちできないのなら、この世界に勝てる人はいないのではないか。

「人族の壮年の剣士だったな。片目が無かった。まだ新しい傷だったようだな」

 欠損は高度な治癒魔法と回復魔法が必要になる。その為殆どの人が欠損は治せない。

「片目の無い剣士ですか……」

「無口な男だったが、その片目はどうしたと聞いたら、女剣士とだけ答えたな」

 クレアだ、と璃采は直ぐに思い当たる。クレアが目印を残してくれていた。璃采は嬉しさと悲しさが入り混じった感情で胸が締め付けられた。


「それと、ロングソードの二刀流という珍しい使い手だったよ。あの鋭い太刀筋は世界でも有数だろうな」

 ん?と何かひっかかる璃采。魔族はよく知らないが、人族で世界有数ならばフォガートの方が強いのではないだろうか。多分フォガートは人族の中では世界一強い。

「フォガートさんの方が強いのではないですか?まさかまだ魔塞病が治っていなかったんですか?」

 璃采は自分の落ち度の所為ではないかと焦る。もしそうなら謝っても謝りきれない。


「おかげさまで魔塞病は完治したよ。いや私とした事が、剣を宿屋に忘れてしまったのだよ。ははは」

 それは笑い事なのだろうか。一度死んでいるのだ。手袋やマスクの防備は完璧なのに、剣を忘れるなんてこの人はと璃采は呆れ顔になる。

 剣を忘れたので、素手と魔法で応戦したらしい。


「この後恐ろしい事が起こったのだ――」

 思い出して身震いするフォガート。

 いくらフォガートが素手だったとはいえ、ここまで追い詰めた相手だ。どんな強力な必殺技が飛び出したのかと戦慄を覚える璃采。

 璃采はゴクリと唾を飲み込む。


「私の足の裏にグニャリとした感触が走った。急いで足の裏を見ると茶色いモノが付いていたのだ。あの時は本当に恐ろしかった。こんな砂漠で一体……魔物の仕業か?と恐怖に顔を歪めたよ。この私とした事があんなモノを踏んでしまうなんて!」

 このフォガートという英雄は、ウ〇コを踏んだ事に気を取られ、胴体がお別れする事になったのだそうだ。


「まあもう一度戦う機会があったら負けることはない」

 あんな状態だったのに二度目を考える事が出来るとは幸運というよりも奇跡である。今度は是非足元に注意して欲しい。璃采は嬉しいような、頼もしいような、呆れたような複雑な気持ちになるのであった。


「ところで、私がこの場所にいるとよく分かったね」

 璃采達はフォガートに全てを話した。


「私がその封印者だったというのだね。狙われた理由が解ったよ」

 一度死んでリズフィが感知したのだから、もう狙われる事はないだろう。

「世界の終わり、か。よし私も協力しよう。封印者はあと一人だったね?ではその者が狙われないようにあの剣士は私が倒そう」

「お願いします。僕にとってもその剣士は大切な友人の仇かもしれません」


 フォガートが協力してくれるなら百人力だ。そしてその剣士はクレアの仇だ。仇打ちを他人に任せる事になってしまうが、璃采では到底太刀打ちできないだろう。フォガートにとっても自身の仇である。いやリベンジマッチだろうか。だが璃采の顔はどこか悔しげだった。

 そんな璃采を見て、リズフィは璃采の手を握った。

 

「僕達は僕達に出来る事をしましょう」

 

 璃采達はフォガートに別れを告げ、当初の目的だったティレマ大陸へ向かう事にした。



◇◇◇◇◇◇



「すごいじゃん!フォガート殺ったんでしょ。いいなぁ。ボクなんて全ッ然手ごたえ無かったよぉ。チシシ」

 ロングソードを二本背負った男に向かって、空を飛ぶラトマトゥーレは話しかける。だが、相変わらず男は無言だった。


「これで十一人。あと一人はどこだろうねぇ。この水晶にも反応無いしぃ」

 手のひらサイズの水晶の球を覘き込む。ラトマトゥーレの顔が魚眼レンズのように映り込んでいる。

「どぉしよっかぁ?」

 ラトマトゥーレの問に男は答えた。


「神の許へ」

「ああ、一回戻って指示を仰ごうってことねぇ。それもいいかもねぇ」


 男は港に向かって馬を走らせ、ラトマトゥーレはその後を付いて行った。

 

これで第二章終わりです。

第三章を始めるのはもう少しかかります。

今後ともよろしくお願いしますm(__)m

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