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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第二章
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第二十八話 五人目の魔女

 璃采達はゼリメラ大陸南西の荒野上空を飛んでいた。

 シュナッガ大陸へ帰るのであれば、港町レヌカへ行き船に乗らなければならないのだが、丁度シュナッガ行きの船が出航した後だと計算してみて判ったのだ。次の船は一ヶ月後になる。

 その為、その間にロントの自分探しの手伝いをしようという事になったのである。


 赤茶けた乾いた大地が広がる。所々に同じ色の岩が垂直にそびえ立つ。地面には背の低い草がまばらに生えている。

 璃采はこの世界に来てから、様々な大自然の壮観を目の当たりにし、体の中から清水が湧き出しキラキラと体中を通り過ぎて行くような感動を覚えた。


「この辺りですか?」

「そうだな。オレっちこの辺で気が付いたんだ。どうしてここにいるのか、それまで何していたのか全く思い出せなかった」

「記憶喪失よね。何かで頭を強く打ったのかしら」

「ふふふ」

「それって回復魔法じゃ治らないんですか?」

「実際怪我もしてたから、オレっちも回復魔法掛けてみたんだけど記憶まではなあ」

「あらあ」


 この辺には特に村や町があるわけでは無い。村や町へ行く為の街道も無いし近道でも無い。ロントは何故ここに来たのか。

「ロントはここが目的地だったのでしょうか。それとも何処かへ向かっていたのでしょうか?」

 北には町がある。南には獣人族の住む森がある。東にはイスティオ山脈がある。西へずっと行けば外海に出るはずだ。

「オレっちが普通に生活していたとしたら、ここより北に住んでたはずだよな。んで、ここを通るとすれば南に向かってたんじゃね?あれ、南からの帰りって事もあるのか」

「じゃあとりあえず、森へ行ってみますか」

 普通に南の獣人族の村へ行くにはちゃんと街道がある。ここを通る意味は解らないままだった。あるいは、ただこの景色が見たかっただけなのかもしれない。


 一行は赤茶けた大地を空から眺めながら南へ進む。まばらだった草がだんだんと増え、背の高い草に変わる。目線の先に森が見えて来た。空からでも森の終わりは見通せない。そのまま海まで続いているのではないか。


「ひゃっ」

 リズフィの例の悲鳴だ。

「近いわ」

 リズフィは真っ直ぐ森を指差す。

「行ってみましょう」

 璃采達は出せる最高のスピードで、リズフィの言う場所へ向かった。


「この下よ」

 生い茂る木々が邪魔で下が見えない。

「降りてみましょう」

 ガサガサと蔦の絡まる木々の隙間を抜けて降りる。シェナフィは魔法で木々を退けていた。そんな方法があるのかと璃采はティティにお願いした。


 降りた場所は、上こそ枝が伸び蔦が絡まって鬱蒼としているが、少し開けた広場のような場所だった。

そこで璃采達が見たものは、土の上に転がる獣人族の男だった。


 その正面にいるのは空中に浮く少女だ。背中に魔族のような羽は無い。それだけで相当の魔力と魔法制御が窺える。少女はピンク色の長い髪をツインテールにし、瞳と同じ緋色の大きいリボンで結んでいる。十二、三歳位に見える。

 倒れた獣人族の男を見下ろしていた少女が、顔にうすら笑いを浮かべながら璃采達に視線を移す。


「ありゃりゃ。見られちゃったぁ」

 笑顔だが目が笑っていない少女の刺すような冷たい顔に、璃采達は背筋がゾクリとした。

「あなたは誰ですか?」

 勇気を振り絞って璃采が尋ねた。

「ボクぅ?どうせ皆死んじゃうのに聞きたいのぉ?あ、余計な殺しはしちゃいけないって言われてるんだったぁ。でもぉ目撃者を殺るのは余計な殺しじゃないよねぇ」

 自問自答する少女。


「ていうか、これはお前が殺ったのか?」

 ロントが少女を睨みつけながら訊く。

「そうだよぉ。獣人族は強いって聞いてたけどぉ、そぉでもなかったねぇ」

「他の冒険者達もお前が?」

「えーっ聞きたいのぉ?どぉしよっかなぁ。んー。やっぱりやぁめたぁ。チシシシシ」

「ふざけんな!」

「ん、よぉく見るとキミってさぁ、ミゼンじゃなぁい?」

「は?」

「うん。そぉだよぉ。その間抜け面やっぱりミゼンだよぉ。よく生きてたねぇ。とっくに死んだかと思ってたぁ」

 意地悪そうな顔で笑う少女。

 ロントが怪訝な顔をする。

「お前、オレっちの事知ってんのか?」

「えーっ何それ。ボクのこと忘れちゃったのぉ。ラトマだよぉ。ラトマトゥーレだよぉ」

 ロントは解らないと言った顔だ。

「チシシシ。自分を殺そうとした相手を忘れちゃうなんて幸せな脳ミソだねぇ」

 ラトマトゥーレと名乗った少女は邪悪な笑みを浮かべる。


「ロント……いえ、彼を殺そうとしたって、彼に何か恨みでもあったんですか?」

「恨みぃ?チシシ。そんなのあるわけないじゃぁん。ランヴァサと一緒にいたからついでにぃってやつぅ」

 ランヴァサという名前を聞いて驚く璃采。

「ランヴァサって西の魔女を知ってるんですか?」

「知ってるも何もぉ、ボクが殺したんだからねぇ。二十年位前だったかなぁ。チシ」

 ネストルテは二十年前から音沙汰無しだと言っていた。まさか殺されていたなんて。

「はぁ?魔女だぞ。魔女を殺せるわけねーじゃん」

 魔女は人間では無い。元は人間だが魔女になると人間を遥かに凌駕する。ある意味化物である。いくら大賢者ロドルーブでも、大魔法使いスラーキュでも魔女には敵わない。次元が違う存在なのだ。


「チシシシ。出来るよぉ。だってぇボクも魔女だしぃ」

 それを聞いた璃采達は驚きを隠せない。五人目の魔女など誰も聞いた事が無かった。ロドルーブでさえ魔女は四人だと言っていた。

「どうして――」

 璃采が口を開きかけるが、それを待たずにラトマトゥーレが言い放つ。

「どうでもいいけどぉ、もぉみぃんな死んでねぇ。チシシシシ」

 その言葉と共に、凄まじい威力の炎が璃采達を襲う。

 ロント、シェナフィ、リズフィは魔法で防ぐ。璃采はローブの中にいるティティが魔法で守ってくれた。


「あれぇ。キミ達なかなかやるねぇ。チシシシ」

「ウオルァアアア」

 シェナフィが突っ込んだ。ラトマトゥーレはパルチザンをひょいと躱す。振り下ろされたパルチザンは直ぐに突きに転じた。ラトマトゥーレはそれも紙一重で躱す。

「もぉ危ないなぁ」

 ラトマトゥーレの水魔法がシェナフィの魔法防御を破り、ウォータージェットのような水が肩を斬り裂く。

「シェナさん!」

 シェナフィは直ぐに治癒魔法を使う。璃采は飛び出し、シェナフィを庇うように前に立ってラトマトゥーレに剣を向けた。


「お前は何が目的なんだよ!」

 ロントが風魔法を放つ。ラトマトゥーレを覆うように竜巻が発生し、無数の風の刃が彼女を襲う。だが、彼女は平気な顔をしている。

 リズフィが竜巻に炎の魔法を混ぜる。ラトマトゥーレは炎の竜巻に包まれた。

「ああぁ。もおぉ。うざったいなぁ」

 ラトマトゥーレの周りの空気が膨らんだ様に見えた。バシンと音を立て炎の竜巻は弾けて消えた。

 治癒魔法で応急処置をしたシェナフィが、再びパルチザンを下から上へ薙ぎ払う。だがラトマトゥーレはそれも躱す。躱した場所に璃采のオーラの攻撃が飛ぶ。属性を持たせた魔法と違い視認できないオーラはラトマトゥーレに当たった。

「ん?今のはなんだろぉ」

 魔法防御も無視するオーラだが、ダメージはそれ程入っていなかった。ラトマトゥーレはざっと見渡し璃采が攻撃を放ったのだと気付く。

「キミがやったのぉ?」

 思わず一歩後ずさる璃采。

「キミは死んだ方がいいねぇ」

 璃采に向かって炎の球が飛ぶ。


「だめー」

 璃采の前で、魔法で防御したのはローブから飛び出したティティだ。

「妖精じゃんかぁ。妖精を連れてる人間なんて、キミ面白いねぇ。でも殺すけどぉ」

 ラトマトゥーレはティティごと璃采を焼き払おうと威力を上げる。

 そうはさせないとシェナフィがパルチザンに雷を纏わせ無数の突きを繰り出す。

 ロントもリズフィも魔法で援護する。

 璃采もオーラを放つがあまり効いていない。

 ティティはラトマトゥーレの魔法を押さえて璃采を守る。


「邪魔しないでよぉ」

 右手で璃采達に、左手でシェナフィに高威力の炎の塊をいくつも放つ。避けきれなかったシェナフィ。だが再び立ち上がる。鎧で分かり辛いが満身創痍といった様子だ。

「しつこいなぁ」

 更に止めとばかりの巨大な炎の塊がシェナフィに迫る。

 ロントがシェナフィの前に出て魔法で防御する。しかしラトマトゥーレの魔力には敵わずロントを巨大な炎の塊が襲った。

「ロント!」

「女の……子を……守る……の……は……男の……やく……め……さ……」

 ロントはバタリと倒れ動かなくなった。

「キサマアアア」

 よろけながらもパルチザンを振り下ろすシェナフィ。それを躱したラトマトゥーレはシェナフィに炎の弾丸を浴びせた。

 炎の弾丸はシェナフィの魔法防御を討ち破り、とうとうシェナフィも倒れ、動かなくなった。

 ラトマトゥーレはティティを見る。


「妖精かぁ。ボクまだ妖精は殺した事無いんだぁ。初妖精殺しぃ。チシシシシ」

「悪い魔女はきらいー」

 ティティが魔力全開でラトマトゥーレに立ち向かう。璃采は本気で戦うティティを初めて見た。力は拮抗しているように見えた。だが――

「やっぱ妖精は魔力あるねぇ。神と人間の間の存在って言うけどぉ。しょうがないからこれ使うねぇ。チシ」

 そう言うと何やら懐から小瓶を取り出した。


「これってぇ魔力を封じる薬なんだけどぉ。魔力だけで出来てる魔法生物に使うとどぉなるんだろうねぇ。チシシシシ」

 瓶の蓋を開け、中の液体を空中に取りだすラトマトゥーレ。そしてその液体を自在に操る。獲物に襲いかかる蛇のように、その液体はティティを捕えた。

 ティティの光り輝く体は黒く染まり、ティティはポトリと地面に落ちた。


「塩をかけられたナメクジみたいだねぇ。そのまま消えて無くなるといいよぉ。チシシ」

 魔力を封じると言えば、周りをコーティングして魔力を出せないようにしたり、体内に何らかのジャミングをかけ魔法を使えないようにするというイメージである。

 だが、その薬はそんな生易しい物では無かった。魔力を吸い取っているように見える。最早呪いだった。

 ティティの代わりとでもいうように、リズフィは璃采を守ろうと水魔法で炎を討ち消す。


「水魔法っていうのはぁ。こうやって使うんだよぉ」

 リズフィに向かってウォータージェットのようなブレードが振り下ろされる。

「リズフィ!」

 咄嗟にリズフィを庇った璃采は、ブレードに肩から脇腹にかけて斬り裂かれた。

 その場に倒れ込む璃采。

「リト!」

 璃采の意識はそこで途切れた。


「ん?リズフィだってぇ?」

 一瞬で距離を詰めリズフィの目の前に迫るラトマトゥーレ。

 リズフィは護身用に買ったダガーを腰から抜いて構える。

「あれぇ、よく見ると王女じゃん。なぁんでこんなとこに王女がいるのぉ?王女は王宮の中じゃなかったのぉ?でもぉ王女は殺しちゃ駄目なんだよねぇ。チシシ。残念だけどぉ今回は見逃してあげるぅ。まったねぇ」

 そう言うとラトマトゥーレは空に消えた。

 

 その場に一人残されたリズフィ。

 倒れた皆は既に死んでいるように見えた。


「こんなの。嘘よ……」

 一番近くにいる璃采に治癒魔法を掛ける。死んだように見えた璃采だが、まだ辛うじて生きているようだ。しかし傷は塞がらない。このままでは確実に死ぬ。

 リズフィに恐怖と絶望が湧きあがる。

「いやよ、こんなのいや……」

 直ぐに全員に治癒魔法を掛ければもしかしてと思うが、リズフィだけではどうしようも出来なかった。



 璃采は暗闇にいた。

 前後左右上下何も見えない。目を開けているのかさえ疑わしくなる。


――ああ、僕は死んだのか


 どうなったのだろうか、ロントとシェナフィも死んでしまったのだろうか、ティティも真っ黒になって、あのまま死んでしまうのだろうか、リズフィは一人残されてどうしただろうか、生き残れたのか、それとも……と、璃采は意識が無くなった後の事を思った。

 誰にも死んで欲しく無かったのに、と後悔の念が浮かんでくる。


――やはり僕は死神だから……


 それはもう言わないと誓ったはずだった。弱い自分に負けないと。

 でも結局何も出来なかった。


――僕がもっと強ければ

 

 強くなりたい、強ければ皆を守れたかもしれない、と思う。

 だがそんなのは今更考えても遅い。


――もう僕は死んでしまったのだから


 璃采の意識はそのままもう二度と戻れない、暗く深い闇の中へ溶けて行った。

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