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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
21/33

 閑話

 それは、璃采達がネストルテの所から帰って来て会議をした翌日の事だった。

 

 全員でテーブルを囲み昼食を摂っていた。

 食卓に並ぶのはビルがぱぱっと作った、野菜が少し入った塩味のみのスープ。薄い干し肉が一切れ。固いパンが二つであった。

 璃采にとっては、塩味のみというのは少し物足りなさを感じるが、干し肉をスープに付けて柔らかくしながら食べると不味くは無かった。

 その食事中リズフィが突然言い出した。


「私こちらでお世話になるのですもの、何かしたいと思いますわ。そうですわね、食事の支度は私がいたしますわ」

「リズ、料理出来たのか?」

「お任せ下さいませ」


 リズフィが張り切って言うので、ビルは任せる事にした。そして食費を渡す。



「私お買い物は初めてですわ」


 リズフィはヨンバイの街の商店街へやって来ていた。両脇には様々な店が並ぶ。


「欲しい物を言ってお金を渡せばよいのですわよね」


 買い物の手順を確認する。

 初めての一人で行う買い物に期待と不安が入り混じる。


 緊張した様子のリズフィだったが、一度買い物をしてしまえば後はスムーズだ。キョロキョロと物珍しそうにしながら買い物を続けて行く。


 家に帰って来ると庭先で隣の家のマーレンに会った。


「ごきげんよう」


 リズフィが挨拶をする。

 マーレンはビルやダルがいない時、イルの面倒を見てくれている気のいいおばちゃんだ。


「おや。最近ビルんちに来た娘だね。そんなに大量に買い込んでどうしたんだい?」

「はい。今日から私が料理を担当する事になりましたの」


 リズフィがそう言うとマーレンは微笑ましいといった笑みを浮かべてアドバイスをした。


「そうかい。なら一ついい事を教えてあげるよ」



 家に帰ったリズフィはさっそく夕飯の支度に取り掛かる。


「私魔法は得意なのですわ」


 ふふん♪と鼻歌を歌いながら火の魔法を使い調理を進める。


「初めてのお料理ですけど、意外と楽しいですわね。芸術にも通ずるものがありますわ」



 夕方になりそれぞれの仕事を終えて皆が食卓に集まって来た。


「出来ましたわ」


 リズフィが作った料理が食卓に並んでいる。

 彩り豊かなサラダ。白くクリームシチューのように見えるスープ。フィレ肉のステーキの上には赤色のソースが掛かり、緑色や黄色の野菜が少し添えられ、まるでフレンチのようだ。そして白く柔らかそうなパン。


 流石は王女。伊達に今まで王宮暮らしでは無いという事か。芸術的センスがあるのか見た目は完璧だ。

 王宮の料理に比べれば見劣りするのかもしれないが、それでもこの場の全員が「おお」と感動する出来栄えだった。イルなんかは早く食べたくてうずうずしていた。


「さあ召し上がれ」

「「「「「いただきます」」」」」


 璃采はスープをスプーンで掬って一口飲んだ。そしてスプーンを置いた。肉にナイフを入れ一口食べる。そしてナイフを置いた。サラダには手をつけない。パンが柔らかくてとても美味しい。妙にパンだけが進む。

 ダルとイルも同じようにパンが進んでいる。クレアは肉も食べている。

 しかし、全員の顔は困ったような苦痛に喘ぐような顔をしていた。

 ビルは料理を見つめ、やがて顔を上げてリズフィの方を見つめ、また料理を見つめるを繰り返している。見えない何かと戦っているようにも見える。

 ティティはどこ吹く風といった様子で既にソファで眠っている。


「皆さんパンがお好きなのですね。でもパンだけではいけませんわ。他の物もちゃんと食べないと栄養が偏ってしまいますわ」


 皆の食べる姿をニコニコしながら眺めるリズフィ。

 困ったような顔をしたビルがついに何か言おうとする素振りを見せた。勇者を見る様な視線がビルに集まる。


「リズ、味見はしたのか?」

「味見とは何ですの?」


 キョトンとするリズフィ。やはり味見はしていないらしい。


「料理の途中で味をみてみる事だ」

「そんなつまみ食いのようなはしたない真似、私は致しませんわ」


 失礼しちゃうわとでも言うような顔をしているリズフィ。

 良かれと思って作ったリズフィに何と言えば良いのか。善意のテロリストに誰も言葉が出なかった。


「と、とにかくリズも食った方がいい。早く食え」


 ビルが最善策である本人に食べさせるという行動に出た。これでリズフィの味覚がアレであったら完全に詰んだ。


「わかりましたわ。私の料理を食べてくださる皆さんの顔を見ていたかったのですが。私も御一緒にいただきますわ」


 リズフィがスープを一口飲んだ。その瞬間むせた。


「な、なんですの。甘くて気持ち悪いですわ」


 璃采は思わず目を背けてしまった。

 リズフィはめげずに肉を食べる。美しい顔が歪んだ。


「味がしませんわ。いえ肉の臭みだけが残ったような」


「アタシは肉は食えるぞ。野営の時に比べれば柔らかいだけましだ。ソースは邪魔だが」


 クレアはフォローのつもりだったのだろうが、リズフィは涙目だった。そしてサラダを食べようとした。それはさすがに璃采が止めに入る。


「サラダは止めといた方がいいですよ」


 生のジャガイモと生のキノコが大量に乗っている。特にキノコの生は危険だ。


 王宮の料理を食べていたリズフィの舌は確かだったようで皆は一先ず安心した。

 シュンと気落ちした様子のリズフィ。


「何故美味しくありませんの?私料理は見た目が良ければ味も良いものだと思っていましたわ」


 よく漫画などでは真っ黒に焦げた料理を自信満々に出す女性が出てきたりするが、リズフィは見た目で駄目なものは理解しているようだ。


「スープは何が入っているんですか?」

「ラウニーという果物です。中身が白かったのでスープにしたらきれいだろうと思いまして」


 ああ、あれか。と璃采は納得した。以前食べたバナナ味のマンゴーのような果物だ。


「肉に下味は付けなかったのですね」

「下味とは何ですの?」


 解っていた事だが確認せずにはいられなかった。下味どころか調味料は一切使っていませんと言う事だった。


「ですが、お隣のマーレンさんが教えてくれました。料理は愛情だと。愛情がどんな調味料よりも美味しく作るコツだと。ですから私たっぷりと愛情を込めたつもりでしたのに、まだ足りなかったのですわ」


 おのれ、おばちゃん余計な事を。と誰もが思う。


「明日こそはもっと愛情を込めて作りますわ。ですからお兄様、明日の分のお金をください」


 ビルの目が点になった。


「渡した金はどうした?」

「今日の分は使ってしまいましたわ」


 少しだけビルのこめかみに青筋が浮かんでいるように見える。


「あれは十日分の食費だ」


 リズフィの顔に衝撃が走る。金を初めて使ったリズフィは金の価値は勿論、物価も解っていなかった。

 行く店全てで「一番良い物をください」と買い物をしたそうだ。日本の価値で言うなら一切れ一万円もするような高価なフィレ肉を買い込んだらしい。


「このソースをどかせて塩をふれば食べられそうですね」

「そうですな。肉自体は柔らかくて美味しいですからな」

「やったぜ。こんな高級な肉食った事ねえもんな」


 そんな高いものだったと聞いた全員は、ソースを退けて塩をふればなんとか食べられると肉を食べ始める。


 ビルの説教が始まる。


「あの、明日は僕も手伝います」


 ビルの説教の合間を見計らって璃采が提案した。璃采が買い物から料理まで全て監修するという事である。


 

 翌日の朝食、昼食は璃采が作った。リズフィには見ていて貰う。

 昼食は昨晩のリズフィが買った野菜の余りを使った野菜炒めだった。煮るか焼くかしかないこの世界で炒める事は珍しかった。

 皆美味しいと言い、リズフィも初めて食べた野菜炒めに感動していた。


「切って鉄板の上で混ぜていただけの様に見えましたのに。これはオーラの魔法使いの魔法ですか?」

「違いますよ。本当にただ炒めただけです。美味しいと感じるのはきちんと調味料が使われているからでしょう」

「調味料ですか」

「そうです。愛情も勿論大事ですけど、他の調味料も使わないと駄目です。調味料によって食材の旨味を引き立たせる事が出来ます」



 午後は買い物に出掛けた。安くて良い物を選ぶ。リズフィは熱心に観察していた。


 せっかく自分で作るのだからと揚げ物が食べたくなった璃采は、今夜はから揚げにすることにした。醤油が無いので塩から揚げにする。


 リズフィに教えながら調理をする。火は練習の為と言ってリズフィに点けて貰う事にした。

 まず肉を一口大に切って、塩、胡椒、おろし大蒜、おろし生姜、酒を混ぜた物を揉み込み暫らく置いておく。

 その間に昨晩の残りのジャガイモを茹でる。

 さらにジャガイモを茹でている隣でスープを作る。昨晩の余り物の野菜とキノコを入れ、大蒜、干し肉を小さく切ったものを入れ煮込む。更にトマトも入れて潰しながら煮込んで塩で味付けをする。そして味見だ。


「飲んでみてください」


 璃采が小さな皿に少しスープを入れリズフィに渡す。言われるままにリズフィは飲んでみる。


「美味しいですわ。干し肉がいい味を出している気がします」

「これが味見です。ここで塩味が薄ければ足してください」


 茹であがったジャガイモはリズフィに潰して貰う。そこへミルク、バター、塩を入れ更に混ぜる。マッシュポテトの完成である。


「野菜は火を通した方が美味しい物もありますからね。これも味見してみてください。はしたなくなんてありませんよ。寧ろ味の判らない物を出す方が失礼だと思いませんか?」


 璃采は優しく諭す。


 そしてから揚げに取り掛かった。といっても下味を付けた肉に片栗粉をまぶして揚げるだけだ。初めての揚げるという行為を目にしたリズフィは興味津々だった。


「そして一番最後に大切なものがあります」


 璃采は大真面目な顔で言う。


「何ですの?」

「それは魔法を掛ける事です」


 リズフィは、はっとした顔をする。やはり美味しくする為の魔法は存在したのだ。昼食の時否定したのは皆に知られてはいけない魔法だったに違いない。そんな大切な魔法を教えてくれるというのだ。リズフィは緊張で手に汗を感じた。


「ど、どうやるんですの?」 

「いいですか。この魔法は下処理から味見をする事まで全てを終えてからでなければ発動しません」


 念を押す璃采。

 リズフィはしっかりと頷いた。


 リズフィは璃采に教えられた通りにする。 

 

 先ず両腕を勢いよくサイドから上にあげて力瘤を作るように下ろす。その時脚はガニ股に曲げる。日本の国民的体操第二の最初の方に出てくる運動のような動きだ。 

 次に両手を腰に当て尻を左右に振る。尻振りを維持したまま両手の人差し指を立て、胸の前で右手は時計回り、左手は反時計回りにくるくる回す。最後にその場でくるっとターンしたら、親指と人差し指を立てて料理を指差す――


「おいしくなぁーれ」


 そう言ってウインクするリズフィ。


「あの、これでよろしいんですの?」


 何の疑問も持たずに言われた通りの動きをしたリズフィ。

 その時璃采は、ダメージを負っていた。

 おかしい。攻撃したのは璃采のはずなのに。

 

 リズフィをからかってやろうと変な動きを教えた。それなのに――

 かわいいと思ってしまった璃采。

 超絶美少女のリズフィは何をしてもかわいかった。

 璃采は敗北感でいっぱいだった。 



 夕飯では、全員初めて食べるであろうから揚げは好評だった。


「なんだこれ。すげー旨い」


 特にお子様のイルは大興奮だった。


「外はカリッとしていて中はジューシー。これはいい」

「ティティもこれすきー」


 ビルもクレアもダルも喜んで食べていた。

 今日はティティも食事に参加している。

 リズフィはじっとその様子を見ていた。


「王宮の料理と違って芸術的ではありませんけど、とても美味しいですわ。私解ったような気がします。あとは練習あるのみですわ」

 

 そして次の日から毎日食卓にから揚げが並んだ。日に日に上達し、火の入れ方など璃采より上手くなった。例の最後の仕上げにもキレが出ている。


 だが皆の顔はげんなりとしていた。これでは好きな物も嫌いになってしまいそうだ。

 さすがに毎日揚げ物では胃がもたれると璃采が止めに入り新しいレシピを教えることにした。


 こうしてリズフィはめきめきと料理の腕を磨いて行く事になるのだった。


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