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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
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第十八話 再会

 ビルは近衛騎士達に部屋の外へ出るように言い、部屋には璃采達だけが残った。


「お前らだけには言っておこうと思う」

 その場の全員がビルに注目する。


「俺はイルを王にしたいと思っている」

 ダルを除いた全員が驚いたが、一番驚いているのはイルだった。

「アニキ頭大丈夫か?」

「ビルさん、いえヴィドル王子様詳しく話していただけませんか?」

 璃采がビルの目をみると冗談で言っているのでは無いと判る。

 イルの事は十年前に拾ったと言っていた。十年前と言えばあの事件があった時だ。


「今まで通りビルでいいさ。イルはアルディだ。王にはアルディが相応しい」

 イルを王にと言いだした時点で全員が薄々勘付いていた。


「でもアルディは十年前亡くなったわ。国葬も行われて」

 リズフィは小さな棺に納められたアルディの遺体を見たらしい。

「ああ確かに葬式をしたらしいな」



 ビルの話によると、ビルはレギールの犯行を目撃して駆け付け、直ぐに毒を吐かせたそうだ。

「くそっ既に全身に毒が回っている……」

 ビルの治癒魔法ではどうしようもなかった。それはリュレ王妃でも同じだった。

「私の治癒魔法でも解毒はできません。ああ私のかわいいアルディ」

 アルディを腕の中に抱きしめるリュレ王妃。

 辛うじてまだ息はあったが、今にも息を引き取りそうだ。

「ああ……アルディが……どうすればよいの……どうすれば……」

 ビルもリュレ王妃も打つ手が無く途方に暮れていた。


 するとそこへ何処からともなく、白い髪で銀色の目をした一人の女性が現れた。そして直ぐにリュレ王妃に抱かれたアルディに高度な治癒魔法を施す。解毒作用も含まれていたのだろう。アルディの血色が戻りスースーと健やかな寝息を立て始めた。

「ああ、何という事でしょう。本当に……本当にありがとうございます」

 涙を流し女性に感謝するリュレ王妃。

 だがこのままでは再び狙われる可能性があった。ビルはリュレ王妃と相談し、アルディを連れて逃げる事にした。

 するとその女性は言った。

「この子は光が強すぎます。逃げて身を隠すのならば封印を致しましょう」

 大預言者ヌレドマのようにアルディに何かを感じた者にはばれてしまう恐れがあった為、女性の言う通りにした。


 リュレ王妃は直ぐに側近に命じ小さな棺を用意させた。女性はその中に魔法で、魔力を固めたアルディの幻影を作る。

「直接触れなければ偽物だとは判らないでしょう」

 それだけ言うと女性はいつの間にかいなくなっていた。

 

 リュレ王妃は取り乱した振りをして、誰にも、王にさえもアルディに触れさせなかった。そして空の棺のまま国葬が行われた。その頃ビルは既にアルディを連れてダルを護衛に逃亡していた。

 そうしてアルディの死を偽装したのだった。



「だが、直ぐに王にするという訳じゃない。アルディが成長するまでは俺が王代理として体制を整えるつもりだ。ルデールの失脚で混乱した内政を立て直し、不穏分子を排除しないとな。だからまだアルディの事は公に出来ない」

 それがいいかもしれない。またルデールのような者が現れないとも限らない。それにアルディは王の仕事など何も知らない子供だ。。権力争いにいいように利用されたり、お飾りとして扱われるのが落ちだろう。

 アルディを王に就けビルがサポートという形にしても同じだ。実質実験を握るビルを疎ましく思う輩が現れ、アルディを持ち上げビルを排除しようとするかもしれない。

 今はビルを王代理として国のトップに据え、安定を計る方が賢明だと思われる。 

 この事はこの場だけの秘密となった。


「アルディ、お前に会わせたい人がいる」

「そんな、いきなりアルディとか言われても、オレはイルだぞ」

「まあ徐々に慣れて行けばいいさ」

 ビルはそう言って笑うと、全員を離宮へ案内した。


 離宮は王宮から少し歩いた所にぽつんと建っていた。といっても日本人の璃采から見たらかなりの豪邸だ。真っ白な正方形の三階建位の高さの建物で、正面には大きな白い枠の格子状の窓が五つ並んでいる。

 離宮の中は王宮程華美な装飾は無く、シンプルだがセンスの良い調度品が並んでいた。


「ヴィドル様?何という事でしょう。王妃様ヴィドル様がお戻りになられました」

 突然のビルの来訪に驚いた側仕えのメイドがリュレ王妃を呼びに走って行った。


 暫らくするとメイドが女性を連れて戻って来た。

 女性はイルと同じプラチナブロンドの髪とヴァイオレットの瞳だった。その微笑みを湛えた顔は聖母のような印象を受ける。

「ヴィドル、久しぶりですね。いつも貴方の身を案じておりました」

「お久しぶりです。義母上。アルディを連れてきました」

 ビルがここに現れた事からおおよその事情は察していた様子のリュレ王妃は、ビルの陰に隠れていたイルに目を向ける。


「ああ、アルディ。本当にアルディなのね。こうして会える日が来るとは夢のようです」

 目に涙を貯めながら慈しみに満ちた顔でイルを見つめるリュレ王妃。

「イル、リュレ王妃がお前の母親だ」

 ビルにそう言われても、イルの方は戸惑っているようだった。

「貴方を守る事も出来ずに手放すしかなかった不甲斐無い母ですものね。母と名乗るのも烏滸がましいですね。ですが貴方の成長を嬉しく思う事は許して下さいね」

 イルはリュレ王妃の様子をじっと窺っていた。


 アルディが死んだとされた後、リュレ王妃は離宮に籠り誰とも会わずに、毎日祈りを奉げて過ごしているのだと以前リズフィが話してくれた。横暴だと言われる程強引に近衛騎士団長であったダルヴェを解雇し、ヒステリックに喚きながらアルディの遺体に誰も触れさせないといった行動から、リュレ王妃は子を亡くしたショックで乱心したという噂もあったという。


「オレを逃がす事で守ってくれたんだろ?」

 イルは頬をかきながらやがてポツリと言った。

「アルディ。貴方に触れる事を許してくれますか?」

 躊躇いがちに言うリュレ王妃の手は震えている。


「別にいいぜ」

 その瞬間リュレ王妃は触れるにしては大胆にイルを抱きしめた。

 驚いて目を丸くするイルだったが、初めて感じた母の温もりに悪い気はしないといったように見える。


 その様子を見ていた璃采の胸にも温かい物が広がる。璃采は幼い頃の記憶の中の母を思い出していた。

 物ごころついた時から母を知らなかったアルディ。兄であるビルが代わりに愛情を持って育てたというのは解る。だがアルディ自身も気付かぬままどこかで母を求めていたのだろう。母への憧れがあったに違いない。

 二人の距離はまだ離れているが、縮まるのも時間の問題だと思えた。


「改めてこうしていられるのも皆のおかげだ。本当にありがとう」

 ビルは頭を深々と下げる。

 璃采にはそのビルの横顔が一段と恰好良く見えた。

 

「リトはこれからどうするんだ?そういえば何か調べていなかったか?」

 クレアが思い出したという様子で尋ねる。

「僕は世界の終りに関する事を調べていました。何か兆候は無いものかと。だけど何も見つからなくて一旦先生の所へ戻ろうと思います」

 思えばロドルーブの家を出てから四ヵ月以上が経過していた。ロドルーブの方で何か掴んだかもしれない。


「世界の終わり?」

 リズフィが首を傾げる。その場の全員がその意味を知りたそうだった。

「大預言者ヌレドマさんが残した預言で、先生の所へその手紙が来たそうです」

 璃采は、自分が召喚されたという事は隠して、世界の終わりが近い事、何が起こるか解らない為調査してる事等を話す。


「わかった。こちらでも調べてみよう」

 ビルが国王代理として、国を挙げて調べてくれるそうだ。

 ビルはこれから国王代理として忙しくなる。

 ダルは近衛騎士に復帰できるそうだ。

 イル改めアルディは離宮でリュレ王妃と共に暮らす事になった。そして王になる為に色々な勉強をするそうだ。


「せっかく王都へ戻って来たんでクレアさんの家族に挨拶してから先生の所へ戻ります」

「それはみんな喜ぶと思う」

 璃采とクレアが歩き出そうとするとリズフィに呼びとめられた。


「あの、リト。私も一緒に行ってもいいかな?」

 リズフィの言葉使いはすっかり変わっていた。流石お姫様だ。学習能力が高い。

「クレアの家ですか?」

「それも行きたいけど、そうではなくて、世界の終わりを調べる為にリトと共に行きたいの」

「リズフィは王女様なのに?」

「私はこの二ヵ月の間皆さんと行動を共にして、自分がいかに世間知らずか解ったわ。もっと世界を見て知りたいと思っているわ。それに世界の危機に、こんな私でも何か出来る事があればしたいと思うの」


 リズフィにとって町での生活は初めての事だらけだった。王宮に居れば全て誰かがやってくれる。それが当たり前だった。庶民の生活は知らなかったし、知ろうともして来なかった。町での経験を経てもっと世界を知るべきだと思った。更に世界が終わるという。リズフィに何が出来るのか解らない。それでも何かしたいという気持ちが湧き出て来て、居ても立ってもいられなかった。

 真剣な顔つきで言うリズフィの淡いグリーンの瞳の中には、固い決意の色があった。


「わかりました。一緒に行きましょう」


「ちょおっと待てえい。何勝手に決めてんだよ。リトも断われよ」

 ビルが慌ててリズフィを止める。

「そういう訳ですので、お兄様行ってまいります。止めても無駄よ」

「はあ。駄目だと言っても聞かないんだよな。昔からリズは」

 にこにこしながら「はい」と答えるリズフィ。


「しょうがねえ。だがこれだけは約束してくれ。危険な事だけはするなよ。いいな」

 ビルは深い溜息をつき、心配そうな目でリズフィを見ていた。


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