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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
18/33

第十七話 ルデール王

 約一ヶ月後、ビル、クレア、ダル、イル、リズフィは王都ルネムの街にいた。

 街は収穫祭で賑わい、市場通りだけでなく大通りも広場もどこも人で溢れている。商人の出入りも多く城壁の検問も面倒くさいのかおざなりだった。璃采とリズフィは身分証代わりになると、ヨンバイで冒険者の手続きを済ませており、リズフィは変装して入り込む事が出来た。

璃采とティティは手配されているかもしれなかったので念の為城壁の外で待機していた。


「ティティ準備はどう?」

「できたよー。ティティ頑張ってるー」

「そろそろ時間だね。じゃあ行こうか」

 二人は城へ向かって一直線に飛び立った。


 ルデール王は城の執務室にいた。丁度昼を過ぎた頃で、街は一層賑わいを見せている。

「祭りだ何だと民草は気楽でいいものだ。ふっ。だがもう少しで戦争が始まる。凱旋パレードでもっと浮かれる事になるだろう。これから私は全世界を支配するのだからな」

 ルデール王は一人ごちたつもりだった。


「それは壮大な野望ですね」


 訝しげな顔をするルデール王。

「誰だ?」

「お久しぶりです」

 部屋の中にはいつの間にか璃采が立っていた。

「貴様はリトか。どうやってこの部屋に入った?」

「僕はオーラの魔法使いですよ。どこにだって現れます」


「リズフィが消えたのも貴様の仕業か?」

「何の事でしょう」

 璃采は全く知らないといった顔を作る。

 ルデール王は眉間に皺を寄せて璃采を睨んでいたが、やがて近衛騎士を呼ぼうとした。

 それを璃采が止める。

「いいんですか?僕を捕まえたら貴方の罪がばれてしまいますよ。僕が捕まったら、貴方の罪を立証する証拠が全土に配布されるよう冒険者ギルドで手続きしてきましたから」

「罪だと?私が何をしたというのかな?」

「そう睨まないでください。僕は貴方とお話をしに来ただけですから」

 暫らく沈黙が続いた。


「それで何か用かな?」

 証拠などありはしないと思いながらも万が一を考えたのか、しぶしぶと言った様子で応じるルデール王。

「僕、解りました。僕が何故襲われたのか。前王様を暗殺し、レギール王子に罪をなすりつけたのはルデール王、貴方ですよね?」

「何を言っているのだ。貴様もあの処刑場にいただろう?あれだけ証拠があって何を今更」

「ええ。あの証拠は全て捏造でした。前王様の寝室に入ったのはレギール王子唯一人と言われましたが、王宮にある王族専用通路を使えば入る事が出来ます。そしてその通路を知っているのは王族です。つまり貴方も前王の寝室に入る事が可能だったということです」


「それがどうしたというのだ。だからと言って私が入ったという証拠でもあるのかな?」

 ルデール王は全く意に介さない様子で答える。

「ありません。ですが僕が王族専用通路の存在を知っていたから、僕達を襲ったのではありませんか?」

「何の事かさっぱりわからんな。それにレギールが毒を買いに来たと毒商人も証言しているではないか。近衛騎士達もレギールに命じられて護衛に付かなかったと」


「それも解りました。回復魔法を使って髪を伸ばし貴方がレギール王子に成り済ましたのです。レギール王子には眠り薬でも飲ませて寝室で寝ていて貰い、貴方は王族専用通路を使ってレギール王子の部屋へ行き、部屋から出て来たと近衛騎士達に思わせた。そうしてわざとレギール王子だと判るように行動し毒を手に入れた後、同じようにレギール王子の部屋から通路で自室に戻り髪を切ったのではありませんか?」


「それこそ何の証拠があるというのだ。そんな奇抜な話を証拠も無しに誰が信じるというのかな」

 ルデール王は相変わらず涼しい顔をしている。

「貴方付きの近衛騎士が証言してくれました。きれいに切り揃えられているはずの髪が、前王様が亡くなった日は不揃いだったと」

「見間違いではないのかな」


「そして、貴方が犯人だと証言してくれた人もいます」

「何?」

 ルデール王の眉毛がピクリと動いた。

「王宮に住んでいるネモという妖精です。彼は貴方が前王を殺す所を見ていたそうです」

「ふっ。妖精などいるわけがない」

「いますよ。ネモはいざとなったら公の場で証言してくれると言いました」

 これは璃采のハッタリだった。ネモが大勢の人間の前に姿を現す事は絶対に無い。

「妖精の証言など誰が信じるというのかな?」

「妖精だからこそではありませんか?」

 暫らく見つめ合う二人。


「それから、これは前王様の亡骸を最初に見つけた給仕係に聞いた事なのですが、前王様の両手の指先の爪がうっすら赤く染まっていたそうです。これについてどう思われますか?」

「大方、毒を飲まされた時暴れて犯人の顔でも引っ掻いたのではないかな。だが引っ掻き傷などレギールにも、もちろん私にも無かった。治癒魔法で治せてしまうからね。証拠にはならないよ」

 璃采はニコッと微笑む。

「秘密の暴露ですね」


 璃采達はこの一ヶ月の間何もしなかったわけでは無かった。内通者と密に連絡を取り合い、証言を集めていた。

「どういう意味かな?」

 璃采の言った意味が解らないといった様子のルデール王。


「前王様は魔塞病を患っていて動く事が出来ませんでした。これも前日の夜給仕をした者に確かめました。前王様の魔塞病を知らない者ならばともかく知っていた貴方が、前王様が引っ掻いた等と言うのはおかしくありませんか?誰も前王様が動けるという事を知りませんでした。前王様を発見した給仕も引っ掻いた等とは微塵も思わなかったそうですよ。つまり前王様が動けるようになった事を貴方は知っていたという事です。これは少なくとも貴方があの朝、前王様に会ったという事です。」

 ルデール王は黙り込んでいた。


「前王様に会ったはずなのに隠している、いえ隠れて会いに行った貴方が一番怪しいですよね。隠れて会いに行かなければならない理由は何ですか?」

 暫らく沈黙していたルデール王だったが不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ。まあよい。私が犯人だとして貴様に何が出来るというのだ?貴様一人の言う事を誰が信じる」

「どうして前王様を手にかけたのですか?」


「ならば教えてやろう。本来なら父上は魔塞病で死ぬ予定だった。その後レギールが王になるが、レギールには不慮の事故で死んでもらう。そして私が王になるという計画だったのだよ。身内を立て続けに亡くした悲劇の王として国民からは同情を集めるだろう」

 璃采は頷き先を促す。


「だが貴様が現れた。父上の魔塞病が治ってしまっては計画が崩れてしまうからね。そこで新たな計画を立てたのだよ。父上をレギールが殺害し、私がそれを暴くという計画をね。それには貴様はとても役に立ってくれたよ。あの処刑場でのパフォーマンスのおかげで私は英雄視されるようになったのだからね」

 結果的に最初の計画よりも、国民に鮮烈な印象を与える事が出来たのだ。


「そんなに王になりたかったのですか?」

「私は幼い頃より思っていたよ。何故レギールなのかと。同じ日に生まれたのにほんの僅かに早いというだけで、レギールが兄で王位継承権一位とは理不尽だとは思わないか。私は学問にしろ剣術にしろ、魔法にしろ全てに於いてレギールよりも優秀なのにだ」

 既にレギールを蹴落とし王位に就いたからなのか、ルデールはさほど悔しそうでは無い。

「周りの対応もそうだったよ。そりゃあ王子だからね。丁寧には扱ってくれたさ。だが、レギールと私は明らかに違った。皆レギールには媚を売るのだよ」

 ルデールは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「だがどうだ。王になったのは私だ。全てレギールより勝っていた私なのだ」


「もう一つ聞いてもいいですか。十年前アルディ王子を手にかけたのも貴方ですね?」

「今更そんな事を聞いてどうするのだ?」

「ただの好奇心です。ここまで聞いたのだから全て知りたいだけです。僕は大賢者の弟子ですから」

 ルデール王は璃采の真意を探るように目を細めたが、ここまで話したのなら同じ事だと思ったのかすんなり認めた。


「私がアルディに毒を飲ませた。ヌレドマの態度を見た時、アルディはレギールなどよりも遥かに邪魔な存在になると予感したのだよ。だがうまくいっただろう?」


「貴方は自分の欲望で父を殺し、慢心で兄を殺し、嫉妬で弟を殺した。貴方の心は醜悪です」

「もういいかな?そろそろ会話も飽きて来てね。この通りまだ仕事も残っているのだよ。話をしていて解った。証拠など初めから無かったのだな?」

「はい、冒険者ギルドに証拠を置いて来たというのは嘘です」

 璃采はあっさりと認めた。

「では近衛騎士を呼ばせて貰うよ。私がこの場で始末してもいいのだが、公の場で処刑した方が面白いからね。そうだな、貴様の罪は王暗殺未遂にしようか」

 ルデール王は一方の口の端を上げてそう言うと「誰かおらぬか!侵入者だ!」と叫んだ。


「はーい、お呼びでしょうか」

 そう言って現れたのはビルとダルだった。

「誰だ!」

「お忘れですか兄上。兄上がアルディを殺す所を目撃した所為で逃げなければならなくなった弟ですよ」

「お前、ヴィドルか!そっちは元近衛騎士団団長ダルヴェか」

「はーい正解」

 ビルは内通者より渡された近衛騎士の鎧を着て、ダルは自前の近衛騎士の鎧を着て、堂々と正面から城へ入っていたのだった。近衛騎士の鎧は一般に流通している物ではない為、着ているだけで簡単な身分証代わりになる。内通者の手引もあり、誰に止められる事も無く城へと入る事が出来た。


「で、三人揃って私を殺すつもりか?王殺しは大罪だ。そんな事をすれば貴様ら全員終わりだ」

 三対一という状況に流石のルデール王も焦りを隠せていなかった。

「解ってるって。そんな事しません。兄上を前王及びレギール王子及びアルディ王子殺害の罪で捕まえるだけだから」

「何?そんな証拠どこにあるというのだ」

「証拠ならさっき自分で全部ゲロッただろ?」

「そんなもの貴様らが言った所で、私が否定すればいいだけの事。貴様らの妄想扱いになるだけだ」


「はい、これなーんだ」

 ビルはクリスタルのような鉱石をルデール王に見せる。ルデール王は眉間に皺を寄せ判然としない様子だ。

「これはこうやって使うんだ」

 璃采に目配せをするビル。それを受けて璃采が鉱石に向かって話しかけると、同じ言葉がビルの持つ鉱石から聞こえて来た。

「これを王都中にバラまいてある。城の中にもだ。兄上が言った事は全て王都の人々に聞こえてたって事だ」


 ティティ、クレア、リズフィ、イルが手分けして王都の人々の頭上位の高さに飛ばしている。魔力量や魔法制御からいって、ティティが殆どを行っているが。鉱石をそのまま使ったのでは相互に音を拾ってしまう為、魔法に詳しいネストルテに頼んで、鉱石の魔力を一方通行にする為の魔法陣を全ての鉱石に書いて貰ってある。


「もう観念するんだな」

 それを合図にしたかのように部屋の前で待機していた近衛騎士達が部屋に入って来て、ルデール王を拘束した。そして呆然自失したままのルデール王を連れて行った。

 鉱石はビルとダルで城の中にも飛ばしている為、近衛騎士達も聞いていた。

 ルデール王は近々処刑されるだろう。そうでなければ示しがつかない。


「とりあえず一段落ついたな」

「お疲れさまでした」

「リトが一番頑張ったな」

「いえ何とか自白を引き出せてよかったです。綱渡りでしたけどね」

 この一ヶ月間手を尽くしたのだが、結局決定的な証拠は見つからなかった。だから直接ルデール王から聞き出すしかなかったのだ。


「ヴィドル王子、団長、本当に良かったです。この時をどれだけ待っていた事か」

 感極まった様子で近衛騎士の一人が言った。この男が内通者だったらしい。

 この男に璃采は見覚えがあった。前王の部屋へ行く時付いて来た近衛騎士だった。彼は元ダルヴェの部下でリズフィの事を任されていたらしい。

「セルドゥもお疲れ。よく今までリズフィの事を守ってくれた。感謝する」

「いえ自分は最後までお守りする事が出来ず――」

「無事だったんだからいいだろ。それもお前が知らせてくれたからだ」


 そうしているとティティが飛んできて璃采の肩に座った。

「リトーティティ疲れたぁー」

「お疲れ様。ありがとう。今度ティティの好きなおやつ作るよ」

「やったー何がいいかなぁー」

 その内にクレア、リズフィ、イルもやって来た。上手く事が運んだら城に集合ということになっていた。


「終わったな」

「アニキやったな」

「ルデールお兄様が先に生まれていればこんな事にはならなかったのかな……」

 達成感と安堵感で溢れる中、リズフィだけはそれとは別に複雑な思いがあるようだった。

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