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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
16/33

第十五話 魔女の招待

 ビル達の家へ着くと、全員が驚いて口をあんぐりと開けたまま石のように固まっていた。

 

 対して三人はへとへとに疲れていた。

 ティティは丸一日魔法で璃采を飛ばし続け、王都の城壁前で数時間の仮眠はとったものの、また丸一日飛ばし続けたのである。

 璃采は飛ばされている間寝る事は可能であったが、ティティが頑張っているのに自分だけ寝るわけにはいかないと、ずっと起きていた。

 リズフィ王女は、初めての飛行に最初は興奮していたが、途中からウトウトとし始めた。だがリズフィ王女も助けて貰っておいて自分だけ眠りこけるわけにはいかないと、やはり起きていた。

 丁度夜という事もあり、とにかく寝かせて欲しいと言って、三人とも眠りに就いた。

 

 翌日の昼頃に三人が起き出して来ると、ビル、ダル、イル、クレアが勢ぞろいして待ち構えていた。

 一通り自己紹介を終えてからビルが言う。

「まずは話を聞かせて貰おうか」

 リズフィ王女はルデール王の部屋で聞いた事を話した。


「やっぱりあいつが犯人だったか」

 ビルが言うと、リズフィ王女は何の事だろうという顔をしていたので、璃采は王暗殺の事、レギールが嵌められた事、璃采達が襲撃された事などを説明する。


「そんな……ルデールお兄様がお父様を手にかけたなんて……」

 リズフィ王女は信じられないという顔をしていたが、やがて納得した顔になった。ルデール王の言っていた全て仕組んだという言葉に合点がいったようだった。


「ではこれからの予定は以前の通り北の魔女に会いに行くという事でしょうか?」

 璃采が尋ねる。

「それなんだが……」

 ビルが言い辛いというよりも言いたくないといった様子で口籠ったので、クレアが続ける。

「実はな、リトが王都へ飛び立ってから手紙が届いたんだ」

 そう言って渡された手紙は、東の魔女からの招待状だった。

「どこで聞いたんだか、オーラの魔法使いがここにいると知って送って来たようだ」

 璃采は逃げるようにこの町に来たし、ここではダル以外の治療は行っていない。どうやって知る事が出来たのか皆目見当もつかない。流石魔女と言えば良いのだろうか。


「せっかく招待状も頂いた事ですし、東の魔女の所へ行ってみますか?」

「ばかっよせっ食われるぞ!」

「じゃあビルは留守番だな」

「御自分の悲願の為なのに人任せとは情けないですな」

「だ、誰が行かないなんて言ったよ。行くに決まってんだろ」

「おもしろそー。ティティ行ってみたいー」

「私も御一緒いたしますわ。魔女さんとお会い出来るなんて機会ありませんもの」

「イルはどうします?」

「オ、オレだってこ、怖くなんかないんだかんな。つ、ついてくぞ」

 こうして全員で魔女の招待を受けることにした。


 ビルの馬にイルが一緒に乗り、ダルとクレアはそれぞれの馬に乗って走る。

 リズフィ王女は馬が無かったので璃采に乗って飛んでいた。

「リトがウマー」

 なぜかティティがはしゃいでいる。

「リトごめんなさい。重くありませんか?」

「大丈夫ですよ」


「ところで王女様、俺達と行動を共にするのに王女様じゃまずいんでリズフィでかまわねーか?あと言葉使いももう少し楽にしてくれると助かるんだが」

「ええ。構いませんですわ。ではなくて構わない事よ。も変ですわね」

「ええと、語尾の『わ』とか『ですわ』を取ってみるといいんじゃないですか?」

「まあ徐々に慣れればいいと思うぞ」

 璃采が提案し、クレアが和める。リズフィはぶつぶつと呟いている。


「あの、ずっと聞きそびれていたんですが、ビルさんとダルさんとイルさんてどういう関係なんですか?」

 何故三人で同じ家に住んでいるのか。家族には見えないというより、三人の会話は家族の会話には聞こえない。

「ん、俺達か?まあ、俺とダルは腐れ縁てとこだな。んでイルは赤ん坊の頃に拾った」

「オレの名前アニキが付けたんだぜ」

 イルが嬉しそうに言う。

 旅は順調に進んでいた。


「ひゃっ」

 急にリズフィが小さな悲鳴を上げた。

「どうしましたか?」

「いえ、何か体の中に入って来たような感じがしましたの……」

「んーティティにはリズフィの中何も感じないよー」

「はい、数ヶ月前からこういうことがたまにありましたの。でもその後は何とも無いので大丈夫ですわ」

「おいおい、治癒魔法でも治らない病気ならリトに診て貰え」

「んー僕もリズフィのオーラは健康そうに視えます」


 その後は楽しく会話をしながら進み、チェルド共和国の東側に広がる森の近くの村に着いたのは、ヨンバイを出発して十四日目だった。

 その日はその村で一泊する事にした。

 ビルは宿屋で主人に尋ねてみる。

「なあ。あの森に魔女がいるって聞いたんだが、どこに住んでるか知ってるか?」

「お客さんあの森へ行くのか?やめといた方がいい。あの森の魔女はおっかねえ」

「ど、どんな風にだ?」

「若い娘をさらって生き血をすすると言われてる。あの森へ行って帰って来なかった娘が何人もいるって話だ」

 ヒィーとビルとイルは震え上がった。

「お前達は若い娘じゃないだろうが」

 クレアが突っ込む。

「この村でも帰って来なかった人がいるんですか?」

「ん、ああ大昔の話だけどな。なんせ今は誰も近づかねえ。だが森の入口辺りに薬草摘みに入る奴はいてな。たまに恐怖に慄く若い娘の悲鳴が風に乗って聞こえて来るそうだ。今でもどこかからさらって来ては殺して食っているんだろうな」

 そう聞くと流石に璃采も恐ろしくなる。

「お客さんも若い娘がいるようだが、若い娘を連れて入るなんて自殺行為だ。この辺であの森に入ろうなんて奴はいないな」


 翌日一行は森へ向かった。

「な、なあやっぱり止めといた方がいいんじゃないか?」

 怖気付いたのか弱腰のビル。

「ま、まあ危なくなったら逃げればいい」

 クレアも少し動揺を見せる。

「そんな簡単に逃げられるのかよ。相手は魔女だぞ。宿屋の親父の話し聞いただろ」

「ですが、ここまで来たらもう行くしかありませんな」


 そうこうしている間に森の入口に着いた。

 その森はロドルーブの家の近くの森よりも暗い雰囲気がある。不気味といっても過言ではない。

 鬱蒼としているわけでは無いが、植物の種類が違う所為だろうと璃采は思った。

 森の中には道があるが、一人が通れる位の幅の為、ダル、璃采、ティティ、ビル、イル、リズフィ、クレアの順に並んで縦一列になって進む。


「こういうのって、一番後ろの人がいつの間にかいなくなってたりするんですよね」

 冗談のつもりで言ってみる璃采。

 焦ったビルが勢いよく振り返ると――クレアがいなかった。

 ビルの絶叫が森中に響き渡った。

 しかし、直ぐにすくっとクレアが現れる。璃采の冗談に合わせてしゃがんで身を隠したらしい。

「お前ら、笑えねえ冗談はやめろ」

 ビルのこめかみがヒクヒクしている。

 璃采はそれから暫らくの間、歩きながら後ろにいるビルに頭をぐりぐりされる事になったのだった。

 

 一時間位歩いただろうか。木々の隙間を抜けると目の前に屋敷が現れた。幽霊屋敷のような様相は全く無く、古ぼけてはいるが手入れが隅々まで行き届いている。

 璃采は恐る恐る玄関ドアのノッカーを叩く。

 少し待つと中からドアが開いた。そこには艶のある黒い髪に金色の目の美形の青年が立っていた。


「あ、あの、招待状をいただいたので参りました。リトと申します」

「これはようこそいらっしゃいました。どうぞお入りください」

「あなたが東の魔女ですか?」

「いいえ、私はこの家に仕えるラムセと申します」


 璃采達は屋敷の中へ招かれ、応接間に案内された。

 魔女を待つ間全員の心臓は早鐘を打ち、何かあっても直ぐに行動を起こせるようにと張り詰めた空気が漂っている。

 待っている時間がとても長く感じる。すると応接間のドアが開いた。実際は五分位しか経っていない。全員の緊張が一気に高まる。

 

 入って来たのは美少女だった。

 子供の年齢はよくわからない璃采であったが小学校低学年位であろうことはわかった。

 幼い顔立ちが愛くるしい。

 光沢のある黒いストレートの長い髪。

 瞳も髪と同じく黒だが黒水晶のような神秘的な輝きを放つ。

 璃采も黒髪黒目ではあるが、日本人なのでブラウンが混ざったような色だ。だが少女の髪と瞳は日本人とは明らかに異なり真っ黒であった。


「よく来てくれたのじゃ。妾が東の魔女、ネストルテなのじゃ」

 璃采達一同は想像していた魔女とのギャップにぽかんとしてしまった。

「して、リトとは?」

「あ、すみません。お招き頂きありがとうございます。僕がリトです」

「おお。そちがリトか。ロドルーブからマッサージとやらを聞いての。是非妾も試したいと思っていたのじゃ」

「先生から?」

「そうじゃ――ぬおおお」

 言いかけてネストルテは凄い速さで一瞬にしてソファに座るリズフィに詰め寄る。顔を五センチ位まで近づけている。

「なんと美しい。そちはどんな美容法を使っておるのじゃ?」

「え?あの私は特に何も……」

「嘘じゃー。何もせずにそんな陶器みたいな肌になるかー」

 リズフィは当惑しているようだった。


「お客様に失礼です」

 興奮するネストルテの首根っこを掴み引き離すラムセ。主人に対するにしては少し乱雑な感じだ。

「ぬう。まあよい。後でじっくりと聞き出してやるのじゃ」


「あの、ネストルテさんは長く生きていらっしゃるのですよね?」

「うむ。じゃが妾は魔女の中では若輩じゃ。まだ千五百年程じゃな。南のメリーディエなんぞ、四千年とも五千年とも言われとる」

「そんな子供みたいなナリでか?」

 ビルが思わずといった様子で言った。

「ふふふ。よくぞ聞いてくれたのじゃ。聡い妾は物心付いた頃に悟ったのじゃ。どんなに美人であろうとも万人に受ける事は難しい。じゃが子供ならば万人に愛でられると!」

 これこそこの世の真理とでも言わんばかりのドヤ顔でネストルテは言った。

「皆様、申し訳ありません。我が主は少々痛い子なのです」

 痛々しいものを見るような目でネストルテを見るラムセ。


「それでですね、長く生きていらっしゃるネストルテさんから知恵をお借り出来きないかと思いまして」

「なんじゃ?言うてみい」

 璃采はシュオルブ王国での事を話した。途中クレアやビルが補足を入れてくれた。

「成程のう。証拠を掴みたいと申すのじゃな」

「何か良い方法があれば教えて貰えませんか?」

 ネストルテは少し考えてから言った。

「知らん。妾は美に関する事以外興味無いのでな」

 璃采達一同はガックリと落胆したのだった。


「では他の魔女の居場所は解りますか?」

「北のスティーリアは解るぞ。じゃが西のランヴァサは二十年程音沙汰無しじゃな。彼女は定住せずに転々としておったからのう。今は解らん。南のメリーディエは昔からティレマ大陸に引き籠っておるぞ」

 他の魔女の居場所の収穫も無しだった。 


 それより早くマッサージをと言うネストルテにマッサージを施した。

「あ、美容に興味があるんでしたら、老廃物を押し流すリンパマッサージというのもあるんですよ」

「なぬ。是非それもやって欲しいのじゃ」

 まだ専門学校へ行っていなかった璃采は、一応マッサージと名の付く物はネットで調べて自分で試していた。

 ネストルテの顔にリンパマッサージをしてみる。

「あいたたた。むむむ。こ、これは、痛いのじゃあ」

 マッサージを終え鏡を見たネストルテ。

「なんと。一回り小顔になったのじゃ!すごいのじゃ!」

 喜んでいるネストルテを見て、璃采も嬉しくなった。


 夜は晩餐会が行われ、リズフィが根掘り葉掘り執拗に質問攻めに合っていた。

 その後、璃采とダル、ビルとイル、クレアとリズフィと二人ずつ当てがわれた部屋で休む。

「クレアさん、皆と一緒の時は感じなかったのですが、こうして二人になったら、あなたから不思議な感じがしますわ」

 自分でもよく解っていない様子のリズフィ。

「不思議な感じ?」

「ええ。懐かしいようなそんな感じですわ」

「アタシの方はそんな感じしないが。まあいい。寝るとしよう」

 そうして二人は眠りについた。


「ぎぃあああああああ」


 悲痛な叫び声が響き、全員が起きて部屋から飛び出し声のする方へ走る。

 するとそこには――


「また余計なものを買い込んで、そんな物役に立ちません。うちの家計状況を知っているでしょう」

「じゃ、じゃがこれはお肌がつるつるになる薬で、こっちは髪が――ぎゃあああ」

「悪い子供には尻叩きです」

 ラムセにお尻ペンペンされているネストルテの姿があった。

 村人が聞くという悲鳴の正体が判明した。


 翌朝、尻を摩りながらせっかくだからもう一度普通の方のマッサージをして欲しいと言うネストルテにマッサージをする。

「ところで、昔この森に入って行方不明になった娘がいたと聞いたのですが」

「おお。そういえば昔娘が何人か来たぞ」

「その人達はどうなったかわかりますか?」

「妾の術を駆使して美しくしてやったのじゃ。そしたらの『もう田舎の村になんか帰らない。町へ行って玉の輿に乗るって』意気揚々と出て行ったぞ」

 璃采は「何だそれ」と脱力したが、マッサージに集中する。

「おお。やはり気持ちが良いのう。若返る気分じゃ」

 うっとりとしていたネストルテだったが何かを思い出したように言った。


「そうじゃ、何か礼をせねばじゃな。あの薬はまだ実験中じゃし。家には何もないし――」

 怪しい薬を貰っても困ると内心思う璃采。

「おお、そうじゃ。リトあそこへ行ってみるがよいぞ」

「あそこ?」

「この森を少し進んだ所に洞窟があるのじゃがな。そこの鉱石が美しいのじゃ。それを採って持って帰るとよいのじゃ」

「僕は美しい物とか別に欲しくないですし」

「まあまあ。その鉱石は美しいだけじゃ無く、魔力が普通とは違った面白い事になってるのじゃ。何かの役に立つかもしれんぞ」


 そうして一行は魔女の家を後にし、その洞窟へ行ってみることにした。

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