表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
13/33

第十二話 逃亡

 璃采が家へ帰ると、クレア達家族全員が温かく迎えてくれた。

 ルビアは璃采をギュッと抱きしめ、その横にミリアもくっついている。

「お兄ちゃーん」

「無事でよかったわ」

 泣きながら叫ぶミリアと涙ぐむルビア。

 ローノンは満面に喜色を浮かべ、レントは会心の笑顔を見せている。

 クレアは安堵の表情を浮かべながらも瞳には申し訳なさそうな感情が滲んでいた。

「何も出来ずに申し訳ない」

「いえ、いざとなればティティが助けてくれる予定でしたし、そのまま逃げるつもりでした」

 璃采はクレアが気に病まなくていいように、余裕顔で舌を出して悪戯っぽく言った。

「皆さん、御心配をおかけしました」


 翌日の午前中、前国王の国葬が行われ、大通りを遺体を乗せた馬車がゆっくりと進んでいた。

 璃采も沿道で前国王を見送った。そこかしこから啜り泣く声が聞こえる。人望のある王だったようだ。

 璃采も言葉を交わした事のある王、そして魔塞病が回復へ向かい元気になるはずだった王に、生き場のない無念さと悲しみで涙が溢れた。

 璃采はその日の午後から診療所を再開した。


 三日後にはルデール王子の戴冠式が行われ、新国王が誕生した。

 街の大通りは祝賀パレードが行われ、三日前とは違い明るく陽気な雰囲気の中、歓喜の声で包まれている。豪華な神輿のような馬車の上で民衆に向かって笑顔で手を振るルデール王。その新たな王に期待の眼差しを向ける国民。

 璃采はリズフィ王女がいるかもしれないとパレードを見に行った。しかしパレードの中にはリズフィ王女の姿を見る事は出来なかった。

 もう城へ行く用事が無くなった璃采には、リズフィ王女が今どうしているのかなど知る由も無かった。

「リズフィ王女様、大丈夫なのかな」

 ボソッと呟いてしまった璃采にティティが閃いたというように言った。

「ティティがリズに会いに行ってくるぅー。ティティ、リズに会いたいー」

「ティティが?うーん、じゃあ様子見て来て貰おうかな」

 牢での事もあるし、ティティなら大丈夫だろうと璃采はティティにリズフィ王女の事を頼んだ。

 ティティにはリズフィ王女へのお土産にとどら焼きを持たせる。

「じゃあ行ってくるー」

 そう言うとティティは元気良く飛び立って行った。


 三日後ティティが戻って来た。

「おかえりティティ。リズフィ王女様に会えた?」

「ただいまー。リズに会えたよー」

 リズフィ王女は幽閉されていた塔から出されて部屋にいたらしい。

 レギール王子の犯行にショックを受けていたが、お土産のどら焼きを食べると元気が出たとのこと。そのままティティはリズフィ王女の話し相手になっていたそうだ。

「そっか、やっぱり色々あって落ち込んでるよね。ティティありがと」

「うんーリトによろしくってー」


「僕達もそろそろ先生の所へ帰ろっか?」

 診療所の方は重症患者もいなくなり、璃采がいなくてもなんとかやって行けるようになっていた。

 冒険者ギルドでクレアが色々調べて来てくれたが、特に変わった事も無いらしい。

 思いの他王都に長く居る事になってしまったので、ロドルーブもきっと心配しているだろう。

「うんーニンゲンのおじいちゃんのとこ行こー」


 そうして璃采はロドルーブの家へ戻る事をクレア達家族に伝えた。

「待っている人がいるんじゃいつまでも引き留めるわけにはいかないな」

「またいつでも遊びに来てね。ティティも色々手伝ってくれてありがとうね」

「オレ、診療所がんばるよ!」

「お兄ちゃん、わたし、大きくなったらわたしが会いに行くね」

 璃采達が別れの挨拶を済ませるとクレアが言った。

「では行こうか」

 ロドルーブの家までクレアが護衛として送ってくれるという。

 璃采はそこまでして貰わなくともと断ったのだが、クレアは連れて来たのは自分だから送り届ける義務があると譲らなかった。


 帰りもクレアが馬に乗り、璃采はティティが運んでくれる。来る時とは違い別段急いでいるわけでもないので、来る時には叶わなかった景色を見ながらのんびりと進んでいた。

 璃采達が王都ルネムの街を出て暫らく行くとティティが言った。

「なんかねー嫌な感じが近づいてくるー」

「何?では次の町まで急ごう」


 三人は急いだのだが、馬の性能が違うのか追いつかれてしまった。ティティと璃采だけならば逃げられたかもしれない。

「すまない。アタシが足を引っ張ってしまった」

「いえ、どの道どこかで追いつかれていたかもしれないし、ロドルーブの家まで付いてきたかもしれませんよ。この人達」

 黒い衣装で身を包んだ、いかにも怪しげな集団に三人は囲まれてしまっている。


「クレアさん、僕、全く戦えないんです。どうしましょう」

「空も飛べるすごい魔法使いなのにか?まあ、人其々得手不得手があるものだしな。だがこの人数じゃアタシ一人ではきついな」

 そう言っている間に馬に乗った二十人程の集団は、剣を抜き斬りかかって来た。

 咄嗟にティティは璃采を遥か上空に飛ばし、風魔法で対抗する。しかし相手も相当な手練れのようで、しっかりと全身に魔法防御壁を張り巡らせている。

「くそ」

 集団の誰かが呟くと、上空の璃采に向かって火の魔法を放つ。剣術だけで無く、魔法の腕も確かなようだ。どうやら狙いは璃采らしい。

「リトー」

 ティティは璃采を守るので精一杯といった様子。クレアも剣と魔法で応戦しているが、なにせ人数が多すぎる。このままではジリ貧だった。


「くっ……このままでは。リト、ティティ、二人だけでも逃げろ!」

「そんなクレアさんを置いて逃げるなんて出来ません!」

 とは言え、何も出来ない璃采がいてもどうしようもなかった。

「僕が戦えれば……」

 クレアが正面の敵と斬り結んでいる時、クレア目掛けて横から剣が伸びて来た。

「クレアさん!」

 クレアも「まずい!」と思ったその時。

「助っ人参上!」

 そう言いながら割り込んできたのは、フルフェイスのようなヘルムを被った男、ビルだった。もう一人仮面舞踏会に出席するような、顔の上半分が隠れた仮面を付けた男もいる。


 それでも戦えない璃采を除いてこちらの戦力は四人だ。相手は二十人はいる。戦力差があり過ぎた。

 そんな璃采の不安を余所に助っ人達は強かった。特に仮面の男の強さは他と次元が違った。あっという間に五人を斬り伏せ、次はどいつだというように斬りかかる。

 ビルも強かったし、二人の加入によって余裕の出来たクレアも本来の力を出して戦えていた。

 残り二人という所で、その二人は逃げて行った。

 深追いはするなという事で一行は逃げた二人を見送った。


 辺りには何人もの襲撃者の死体が転がっている。

 璃采の目には、死体から生命力であるオーラがビー玉くらいの大きさになり、いくつも体から漏れるように離れて行くのが視えた。璃采は不謹慎にもそれを綺麗だと思ってしまった。


「ビル、ありがとう。助かった。まさかこんな所で助けられるとは偶然に感謝だな」

 クレアが剣を背中の鞘に収めながら礼を言う。

「いやぁ。それが偶然じゃないんだよな」

「どういうことだ?」

「狙われてるのはそこのオーラの魔法使い様だ。俺達は何か起こるんじゃないかと後を付けてたのさ。まあ、詳しい話は後だ。先ずはここを離れるぞ。出来れば俺たちに付いて来て欲しい」

「どうする?リト」

「助けて頂きありがとうございました。このまま先生の所へ戻っても追手が来るようでは困りますし、狙われる理由も知りたいですし、付いて行きます」


 そうしてヘルム男と仮面男の後を、クレアは馬を走らせ璃采とティティは飛んで付いて行った。

 走りながら話を聞く。

「俺は一度会ったことあるな。ビルだ。こっちの仮面がダル」

「よろしくお願い致します」

 仮面の男ダルが、その引き締まったごつい筋肉からは想像できない優雅な所作で丁寧な挨拶をした。

 紺色の髪と仮面越しに見える濃いグレーの瞳から柔和な印象を受ける。


「ダルだったのか、久しぶりだな」

 クレアが懐かしそうに言う。

「僕はリトです。この妖精がティティ。危ない所をありがとうございました。お強いんですね」

「いえいえ、上には上がおります。私などはまだまだ精進が足りません」

 ダルが謙遜するが、璃采のような素人でもその強さは判った。


「これからどこへ向かうのですか?」

「チェルド共和国だ。そこまで行けば追っても諦めるだろうな」

「成程。まあそこなら身を隠すにはいいな」

 クレアも納得しているようだった。

 ロドルーブの家は王都ルネムから見て西、チェルド共和国は東になる。大きく迂回する事になった。


「ところで、なぜ僕は狙われているのでしょうか?何か恨みを買ってしまったのですか?」

 ビルが軽い調子で答える。

「たぶん知り過ぎたんだろうなぁ」

「知り過ぎたって何をですか?」

 ビルの雰囲気が変わる。改まった様子で璃采に聞く。


「リト、処刑場での事どう思った?」

「うーん、まるで映画のようだなと思いました」

「映画?」

 この世界に映画は無い。璃采は失敗したと思いながら言い直す。

「あ、いえ、その、うまく作られた物語というか、きちんと盛り上がりがあって、その後はすべてうまく行くみたいな感じです。上手く出来すぎというか、そんな感じを受けました」

「例えばどんなところだ?」

「そうですね。ルデール王子…じゃなくて王が、僕が処刑されるギリギリのタイミングで現れた事とかですね。あまりにも絶妙なタイミングでした。早ければ盛り上がりに欠けるし、遅ければ僕は死んでいます。狙ってやったとしか思えませんでした」

「まあ狙ったんだろうな。おかげで国民の支持は最高になった。他に違和感とか無かったか?」

 璃采は前日ルデール王が牢に来た事を話した。


「揃って無いって言うのは舞台と観客の事だったんだろうな」

「ティティ聞いたよー。明日は次期国王としてー、なんだっけー」

「えっ?ティティが聞いたのってレギール王子じゃなくてルデール王だったの?」

「うんー」

 前日から既にルデール王は次期国王になれると判っていたという事である。その時にはレギール王子を追い詰めるだけの証拠が揃っていたのだろう。自分が国王になる為に最高の演出をするというのは解らなくもない。


「でも、それだけでは何故僕が狙われるのかわかりません」

「他に知ってる事は無いか?」

「他に知ってる事と行ったら、王族しか知らない秘密の通路くらいですかね」

 璃采は言った後にはっとした。口外してはならないことだった。助けて貰ったという安心感からつい口を滑らせてしまった。


 動揺する璃采を見て何かを察したようにティティが言った。

「リトー。この人達はだいじょーぶー」

「えっ?」

「んとねーティティはぁ嫌なニンゲンの前にはぁぜったいぜったーい出てかないんだよー。ティティがこうしているってことはぁだいじょーぶなのー」

「ははは、嬉しい事言ってくれるねぇ。妖精の嬢ちゃん」


「えっと、僕が王族専用通路を知ってるから狙われてるのでしょうか?」

「んーまあそれも関係してるな」

 確かに王族専用通路の存在が外部に漏れたらまずい。それが他国のスパイだったり王族を排除したい者だったら大変な事になる。璃采を口封じの為に殺すというのも解らなくは無い。だが、璃采は何か釈然としなかった。


「ビルさんは、何か知っているのですか?」

 ビルは更に真剣な顔になった。

「この先は知らない方がいい。巻き込む事になってしまうかしれない。いや巻き込ませてもらう。だから知るには覚悟が必要だ。リトにはその覚悟があるか?」


「巻き込むも何も、僕は既に狙われています。訳が解らないまま命を狙われるのは嫌です。ちゃんと理由を知りたいです」

 璃采は覚悟を決めた。

「アタシはリトの力になるって決めたんだ。狙われる理由を知ることで、逆にリトを助ける方法があるかもしれない」

 クレアも覚悟を決めたようだ。


 そしてビルが静かに言った。

「そうか。なら単刀直入に言う。俺は前国王を暗殺したのはルデールだと思っている」

「なっ!何を突拍子もない事を言い出すんだ!」

 クレアは目を見開き驚いている。ルデール王は穏やかで優しい人物だとこの国の国民の誰もが思っていた。国民はパレードや式典を遠目で見ることしか無かったが、いつも王や王子の傍らに控えめに立って頬笑みを絶やさない柔和な人物に見えた。


「それにレギールがやったという証拠があんなにもあったじゃないか」

 クレアが混乱した様子で尋ねる。

「そうだ。だが絶対何か裏がある。まあ一つは王の寝室にレギールしか入っていないってやつだけどな」

「あっ」

 璃采は思わず声を漏らした。

「だから僕は命を狙われているんですね」

 クレアは訳が解らないという顔をしている。


「クレアさん、処刑場でルデール王が、王の寝室へ行く為には、絶対に衛兵の間を通らなければならないと言っていたのを覚えてますか?」

「ああ、それでレギール犯行説が強まったな」

「そうです。誰もがそう思ったでしょう。そう思わせる為に殊更強く説明したんです。だけど、もし衛兵の間を通らずに行く方法があったら?」

「王族専用通路、か?」

 クレアも理解したようだった。


 螺旋階段はいくつかあった。ルデールの部屋に続く物もあったに違いない。

 そして、その存在を知る璃采が狙われているのである。ルデール犯人説がより濃厚になった。

 時間は食前だったり食後だったりするようだが、毎朝レギール王子が王の所へ行くと知っていたルデール王は、レギール王子が王の部屋へ行くのを確認してから王族専用通路へ行き待機していた。レギール王子が王に会い部屋を出た後、控えの間から寝室へ行く。そしてレギール王子が置いて行った薬に毒を入れ、まだ動けなかった王に無理やり飲ませた。もし王が薬を飲んだ後だったとしても、薬瓶に毒を入れて痕跡を残し、王には直接飲ませればよい。


 璃采はふと思った。

「王族専用通路を知っているから狙われるとしたら、リズフィ王女様も危険なのでは?」

「うーん、まあ危険ちゃ危険だが。ルデールにとってリズフィ王女は政略結婚に使う駒だから生かしておきたい所だろうな。それに今の所、リズフィ王女はルデールの事を信じ切ってるからな。まあ何かの拍子に不信を抱いたりしたら危険だろうが」

 とりあえずは大丈夫だと思っていいのだろうか。


「あとは毒商人と近衛騎士が見たというレギールだな」

「それもおかしな話ですよね。普通暗殺を考えているなら正体がばれないようにコッソリ買うはずなのに、わざわざ顔と金髪まで見せるなんて」

「だな。レギールだってわざと印象付けてるようにしか思えねえ」

「カツラという事はないですか?」

「ないだろうな。あの色の金髪でレギールの長さの物がまず無いだろうし、普段レギールを見慣れない毒商人ならともかく、近衛騎士は違和感に気付くだろうな」

 璃采にはどんなトリックか解らなかった。


「でも、レギール王子もちゃんと説明すればよかったのではないですか?」

「まあレギールは昔っから頭に血が上りやすいからな。その性格を利用したんだろ。殺しちまえば死人に口なしさ」

「レギール王子が犯人で無いなら、何故調べもせずに僕を処刑しようとしたんでしょうか?」

「大方、リトの事を味方の有力貴族かなんかが差し向けた刺客だと思ってたんじゃねえか。下手に取り調べて貴族の名前を出されたらその貴族に迷惑が掛かる上、後ろ盾も失っちまって不利になる。レギールが貴族に頼んだとか疑われるかもしれないしな。だったら、リトを単独犯としてさっさと処刑しちまった方がいい。トカゲの尻尾切りみたいなもんだろ」


「それにしてもビル、よく知ってるな」

 クレアが口を挟んだ。

「まあ内通者もいるからな」

 内通者と聞いてクレアも璃采も驚きを隠せない。

「そこまでしてどうして王宮内を探っているんですか?」

「ある人の為かな」

 そういうビルを見るダルの口元がやんわりと緩んでいるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ