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オーラの魔法使い  作者: 白木渥真
第一章
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第十一話 新王誕生

 翌日、日がもう少しで天辺に届くという頃、璃采は処刑場の真ん中にいた。

 処刑は正午に行われるという。

 処刑場の周りには民衆が集まっている。公開処刑であった。

 民衆の声が聞こえる。


「何かの間違いじゃないのか!」

「オーラの魔法使い様が大罪を犯すはずがねぇ!」

「オーラの魔法使い様は貧しいアタシらにも治療をしてくれたんだ!そんな人を処刑だなんて!」

「もっと審議してくれ!」

「オーラの魔法使い様がいなくなったら魔塞病はどうなるんだ!」

「せめてうちの父ちゃんが治るまで待ってくれ!」

「ちゃんと調べたのか!」

 騒いでいる人々は憲兵に殴られたり突き飛ばされたりしている。

 それを見た璃采は申し訳ない気持ちになった。

「黙れ!次期国王であらせられるレギール殿下のご判断だ!逆らうやつはひっ捕えるぞ!」


 静かになった民衆を見渡して見ると、最前列にロングソードを背負ったクレアがいるのが見えた。

 クレアはロングソードに手を掛けて今にも処刑場へ飛び込もうとしている。

「来ちゃ駄目だー!絶対に来るなー!」

 璃采は思わず大声で叫んでいた。

 憲兵達が何事かと璃采を見る。

 璃采は誰に言っているかわからないように思い切り目を瞑っていた。

 憲兵は注意して民衆を見渡す。

 璃采も気付かれないようにそれとなしにクレアを見る。クレアは遺憾に堪えないといった表情でロングソードから手を話していた。

 クレアとしては憲兵に気付かれる前に不意を突いて助けようとしていた。だが、助けに出る前に憲兵に気付かれたのでは助けられないと判断しての事だった。

 そんなクレアを見て璃采は胸を撫で下ろした。クレアまで巻き込むわけにはいかない。


「そろそろ時間だな」

 そう言って後方で豪華な椅子に座っていたレギール王子が立ち上がり前へ出る。

 レギール王子の衣装は目を見張るものだった。

 大きな白い襟が付いた、金刺が散りばめられた真っ青なケープを羽織り、豪華絢爛といった様子だ。レギール王子の瞳の色と良く合っている。その下には鎧を着ておらず、代わりにこれまた金刺が施されたクリーム色のゆったりとした衣装を着ている。そして腰には金や宝石で豪華な装飾が施された宝剣のような物を差している。

 既に自分が王であると誇示しているような印象を受ける。


「皆の者よく聞くがよい!この者は国王暗殺を企て実行した大罪人である。よって斬首刑に処す!」

 

 両手を後ろ手に縛られた璃采は、大きな斧を持った大男の前に跪かされた。

 璃采は目を瞑り思う。

 ルデール王子が助けると言ったのは嘘だったのか?

 そもそもあれはルデール王子だったのか?

 レギール王子だったのではないか?

 どちらの王子だったにしろ、自分は騙されたのではないのだろうか?


 大男が斧を振り上げる。

 民衆から悲鳴が上がった。

 その斧が今まさに振り下ろされようとしたその時――


「その処刑待たれよ!」


 その声と同時に大男は近衛騎士に取り押さえられた。

 璃采は斧が振り下ろされたであろう場所から少し離れた所に、斬首の直前と同じ格好で跪いていた。ティティが魔法で移動したのだ。

 元々ギリギリまで待っても助けが来なければ、ティティが助ける予定だった。

 どうやらルデール王子はギリギリ間に会ったらしい。


「ルデールなぜ邪魔をする?次期国王である私に逆らうと言うのか?」

「僭越ながら申し上げます。兄上、この処刑は正当なものではありません。その者は殺人の罪を犯していない故」

「どうしてそう言い切れる?証拠でもあるのか?」

「証拠ならここに」

 ルデール王子は薬瓶を高く掲げた。

 見覚えのあるその薬瓶を見てレギール王子は怪訝な顔をする。

「それがどうしたというのだ?」

「兄上、この薬瓶が何かお判りですよね?この薬瓶は一昨日の朝、兄上が自ら父上の部屋に届けられた物です。そしてこの薬瓶から検出された毒と父上から検出された毒が一致しました。この事が何を意味するのか――」

「何を馬鹿なことを。父上はもう薬は要らないと飲んでくださらなかったわ」

 レギール王子はルデール王子の言を一笑に付した。

「兄上が父上の部屋へ行かれた時、父上が御存命であったというならば、リトは犯人では無いのではありませんか?」


「ふん。それこそ、その怪しげな魔法使いならばどうとでも出来よう。呪いのような時間差で発動するものやも知れぬし、または遅行性の毒やも知れぬ」

「ではこの薬瓶の毒は何とされます?」

「そんな物は知らぬ」

「食事を運んだ給仕の者が暗殺されている父上を発見するまで、父上の寝室に出入りした者は兄上、貴方しかおられないのですよ。それは衛兵の間で待機していた近衛騎士が証言しております。父上の寝室へ行く為には、絶対に衛兵の間を通らねばなりません」

 ルデール王子はその場にいる民衆にも解るように説明した。


「ルデール、貴様。この私が犯人だとでも言うのか?」

 ルデールは次々と証拠を突き付ける。

「この毒を売ったと思われる商人も見つけました。」

 近衛騎士達に囲まれて一人の中年の男が連れて来られた。


「こちらは様々な毒を扱う商人です。兄上が、父上が殺される前の晩に毒を買いに来たと申しております」

「そんなわけがあるか!誰かと見間違えたのではないか?」

 レギール王子に訊かれ、商人は答える。

「いいえ、確かにレギール殿下でございました。そのお顔、そしてその長い金髪を見間違えるはずがございません」

「嘘を吐くな!私はその晩は自室におったわ。それは私の近衛騎士が部屋の前に居たのだから証明できる。おい!そうであろう?」

「その日の夜は……」

 近衛騎士は言い淀んだ。

「近衛騎士よ。騎士の称号に恥じぬ証言をするべきです。」

 すかさずルデール王子が促したので、騎士は話し出した。

「はい。騎士の誇りに誓って証言いたします。その夜はレギール殿下が自室から出ていらっしゃると、出掛けるが護衛は不要だと仰って、我々に衛兵の間で待機するようにと命じられました。そして一時間程で戻られました」

「なん…だと……私を裏切るのか!私を誰だと思っている!」

 レギール王子は近衛騎士に怒声を浴びせ、憤激の形相でルデール王子を睨みつける。


「兄上、これだけの証拠が揃っております。もう言い逃れできません」

「おのれ、ルデール!」

 激昂したレギール王子は殺気を込めて剣を抜き放ち、ルデール王子に斬りかかった。

 キィーンと甲高い音が辺りに響く。

 ルデール王子は剣を受け流し、二人はすれ違う。

 体制を崩しながらもレギール王子が振り返る。刹那の一瞬。レギール王子の目には光り輝く銀色の光が斜めに走り抜けたように見えた。

 レギール王子はうつ伏せに倒れそれきり動かなくなった。

 

 辺りは静寂に包まれた。しかしそれも僅かの間だった。すぐに「ワーッ」と歓声が上がった。

「ルデール様万歳!」

「新国王様万歳!」

「ルデール様は英雄だ!」

 人々は口々にルデール王子を讃え熱狂している。

 璃采はそれを少し離れた所から見ていた。

「まるで映画みたいだ」

 そんな言葉が口を衝いて出た。 


 暫らくして璃采は解放された。

「助けて頂きありがとうございました」

 璃采がロープを解かれた時の跪いた態勢のままルデール王子に礼を言う。

「やはり君は自力で逃げ出せたじゃないか」

 とルデールは明るい声で言った。

「リズフィ王女様はどうなりましたか?」

「安心したまえ。リズフィは大切な妹だからね」

 太陽を背に立つルデール王子の顔は影になって、璃采には見えなかった。


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