一
1
空は雲ひとつない快晴。太陽が真上にあるという事は、時刻は正午過ぎくらいだろうか。というのも手元に時計は無いし、周りにもそれらしきものは見当たらない。
改めて周りを見渡せば、そこは草一つ無い土の上。まるで大きな隕石が衝突したかのように地面は抉られ、その中心点に私は仰向けになるようにして存在していた。
「眩しい……」
太陽の光を遮るようにして小さな右手を掲げる。ギラギラと圧倒的な存在感を放つそれは、私は嫌いだ。眩しいし、暑いし。明るい場所よりも暗い場所を好む私にはそれは天敵でさえあった。けれど、今の私には救いの手のようにも思えたのだ。
見覚えのないこんな場所に、一人でぽつんと置かれれば誰しも心細くなるはずだ。そんな状況で更に辺り一面が真っ暗となれば、それは加速する。だから今だけは、この明るさの原因である太陽を好きになってあげよう。
そんな事を考えながら、私は寝転がる体勢から座る体勢に変える。
「眩しい……」
やはり太陽は嫌いだ。一時的に安らぎを得られたけれどもそれはその時だけで十分であって、こうも相変わらず照らし続けられると安らぎは煩わしさに変化する。
そんな私の意図などいざ知らず、やはり太陽の光は絶えることなく私を照らし続けるのだ。
そんな状況に慣れてきた私に一つ変化があった。それはいつ、どのタイミングで起きたのか気づかなかったけれど、今私は気づいてしまった。
確かにヒントはあった。最初に太陽の光から遠ざかる為にこの右手を掲げた時、男の時であった自分の手とは思えない程小さかった。声だってこんなに透き通るような美しい音は出なかった。
要するに、自分の性別が女性に変わっていた。
ありきたりな話である。そう思うと同時に一つの疑問が解消された。
今私が座っているこの場所は恐らく私が知ってる世界とは違う別の世界なのだろう。でなければ性別が変わった事といいこの抉れた大地といい説明がつかない。
『異世界』
「馬鹿馬鹿しい、ありえない」
つい先程認めたとはいえ、口から出たのは存在を否定する言葉だった。否定というよりも、ただ認めたくなかっただけなのかもしれない。もし仮にここが私の想像する異世界だとすれば、命の保証はないからだ。
私は考えるのを止める為に立ち上がり、ぐるりと周りを見渡す。相変わらず周りには土しかない。私はこの時初めて歩いた。一歩一歩土の感触を確かめながら歩いた。
目的の場所に辿り着いたが結構な時間を歩いた気がする。それはきっと自分の体が少女くらいにまで小さくなってしまったからだろう。
「これは……」
そこには巨大な壁があった。遠くから見るよりも遥かに大きな壁は、何か巨大な物が落ちて地面が抉れ、その抉れた部分と無事だった大地との差が、この目の前にある巨大な壁を作り上げたのだろう。高さ数十メートルのそれを登るには丸腰の私ではとても出来なかった。
どうしたものかと思考を巡らせてる最中に、突然それは降ってきた。