損壊②
合田は、今までの経緯を《新庄秀美》に話した。
《門田隼人》の母親と恋人が、門田を捜してほしいと依頼してきたこと。
内情を知るためにも、門田本人に成り済まして『小笠原研究所』に入り込むつもりだったこと。
それから《新庄秀美》の、繫がりのありそうな宗教団体『灯曇の会』の潜入なども‥‥‥
ざっくり話すと、新庄が訝しげな目をした。あまりにも、はしょり過ぎたか? と思ったが‥‥‥
「ちょっと! アンタ、もしかして《前川》が言ってた〝壊し屋〟の《栗栖要》じゃない? 私たちの研究をメチャクチャにするの?」
彼女のいう話しとは〝延命長寿の開発〟のことで、合田《栗栖要》が研究の邪魔をしに来たと勘違いしたのだろう。
あまりに眉唾な話しに、合田は憤慨した。
まず、合田を栗栖本人だと思い込んでいる時点で、勘違いしてるのだが‥‥‥まぁ、確かに〝戸籍〟ないから掴み所がないっちゃあないよね。
でも、栗栖さんが〝壊し屋〟て言われてたなんて、心外だなぁ。
俺は、アイツが女にフラレて泣いてるトコしか見てないし、あんな女ったらしと一緒にしないでくれよ。
アンタの性格じゃ何を言っても無駄だけど!
まったく検討違いのことを、怒っている合田を横目に新庄は気になる事を言った。
「ねぇ。それに、その話し変なんだけど? アイツを捜す母親なんて居ないわよ。数年前に若い男と一緒に家を出たもの。独自のルートで調べたから確かよ」
それと恋人の話しも、多分嘘だと思うわ。
だって、もしそうなら私の体でとっくに虜にさせて、必要な機密を引き出させてるわよ!
「アイツ二次元の女にしか興味ないのよ。私の胸を見せた時に、少し気になったみたいだけど。研究所に、美少女アニメのフィギュアを持って来て俺の〝嫁〟って仲間に紹介すんのよ! バッカじゃない!」
もったいない‥‥‥だったら、あの時もっと見とけばよかったな。そう残念ぶる合田のおでこに、新庄はデコピンした。
「アンタなんか、私の胸ばっか見てさ何か見せ損なんだけど?」
いや、まぁ男ですからねぇ。と、合田は照れ笑う。
「ねぇ、その相談をしてきた〝母親〟と〝恋人〟って人の何か分かるものはあるの? まさか、相手の情報は〝何も聞いてません〟て言わないでしょうね?」
そのまさか、だったりして‥‥‥実際に合田は、母親と恋人の顔なんて知らないし。
すると、新庄は言った。
「‥‥‥‥アンタ、本当に何しに研究所とかに潜り込んで、私の監視をしてたのよ?」
一方、その頃。案外近くのところで、試験管はいたりして‥‥‥そう《栗栖要》は、合田のいる場所から、そんなに離れてない所で双眼鏡片手に、合田を監視していた。
もちろん、合田の入社試験の為だ。どんなに危なかろうが、死にそうだろうか手出しは一切無用! 手を差し伸べただけで、失格であり試験管にも、何らかのペナルティが課される。
「‥‥‥アイツ、まったく駄目だな。マイナス20点と‥‥‥あっ! 秀美ちゃんの手に触れたから(?)マイナス10点」
‥‥‥それにしても、こんなにドジだとは知らなかった。
すってんころりと転がって、マイクも小型カメラも壊しましたって‥‥‥ガキの使いじゃねぇぞ!
まさか、この状態で組織に入れるつもりかよ? 実地研修で戦地に行ったら瞬殺だぜ! この先、思いやられるな‥‥‥
栗栖は、内部を詳しく調べる為に移動することにした。もちろん、彼の耳には集音器を装着しているので半径10メートルならバッチリ聞こえる。
栗栖は、事前に中二階(一階と二階の間)に通じる隠し通路を探し出していた。
その〝秘密の部屋〟に続くだろう道を、ハッチを開け、入り込んだ。
‥‥‥合田が、ここを見つけるのはいつのことやら。過度な期待は、持たずに進む。
「それにしても、なんて造りの建物なんだよ? どうっせ信者たちから、騙し取った金で建てたヤツなんだろうけど」
‥‥‥に、しても狭いなぁ。俺の長い足が邪魔になるぜ!(嘘)
あの状態じゃあ、新庄秀美も〝隠し通路〟を見付けれてないみたいだな。でも、本当に狭い!
栗栖は、狭い通路をギュウギュウになりながらも通ると、その先には一面にガラス張り水槽の部屋へと出た。
「‥‥っ、まさか大河内?」
‥‥‥その部屋に入った途端、栗栖は絶句した。それは、先に潜入していた筈の〝男〟が意外な場所に、居たからだ。
‥‥‥ただし、クロロホルム漬けになった変わり果てた姿でね。