損壊①
「‥‥‥なんか、色々とあったけど小田切は二日で帰って来たよ。でも、様子が変なんだ。何を言ってもボーッとしてる というか」
時刻は、深夜の二時頃。信者の誰もが寝きっているところへトイレに篭もって、ボタンに付けている隠しマイクで会話している。
合田が、この『灯曇の会』に入信して二日が経った。先に入った仲間の消息は、依然として不明だが、合田はこの教団自体が胡散臭いことに気が付いていた。
『‥‥‥合田。お前が今、抱えてるモルモットな、多分それ実験用に飼われている動物だ。
俺が思うに、その男はフツーに動物を護りたかったと思うんだけど‥‥‥問題は、その動物の使い道だな』
お前、この施設で何か実験室みたいなのを見つけたか?
「そんなん動けるかよ! どこ行っても見張りばかりで、自由に俺が動ける場所なんてトイレくらいなもんだぜ」
合田が教団内してる仕事は、干し草作り。主にモルモットの寝床などに使う。
合田も栗栖も勘違いしてたのだが、教団に入れば誰もがすぐ中枢に行けると思っていたが実際には、教団には階級があるらしい。
一番上の階級は、教祖で〝将軍〟と呼ばれ、その下に将軍の側用人〝坊主〟が控え、小笠原研究所で会った《新庄秀美》は幹部クラスの〝大名〟と呼ばれる存在。
これらは、写真で確認した連中で黄金色の仏間に入れるのは、ここまでの階級だけであり、その下の連中は仏間の存在を知らない者が殆どである。
だから、大半の信者は自分らの吸い取られた金が、どこに消えてるのかを知る由もないのだ。
その信者たちのいる場所は、コンクリートの建物であり、何故か囚人のような生活を強いられるのだ。
ただ不思議なのは、どこもかしこも何故か不平不満を洩らさないのだ。
この部落には、また別の〝教祖〟と呼ばれる存在がおり、こちらは上層部は認めてないものの、本物を知らない彼らは〝こちら〟が本物だと信じて疑わない。
ここでは〝上級武士〟と〝下級武士〟があり、先程の看守みたいな存在が〝下級〟なのだろう。
監視される側は〝商人〟と〝平民〟〝農民〟に分かれる。
ちなみに合田は、下の階級の〝農民〟である。
『はっきり言って、そんな低い身分じゃあ奴らの鼻を明かすどころか、金ピカ御殿まで辿り着かねぇよ』
全くご最もで‥‥‥はっきり言って、今の身分だったらヒエやアワ(今のご時世で)しか食べられないので腹が減って仕方がない。
「栗栖さん、腹減ったから何か差し入れしてよ。俺は〝塩むすび〟でいいからさ」
‥‥‥栗栖は思った。誰が、それ作るの。俺?
一方、その頃。ここでの身分は《大名》にあたる幹部クラスの新庄秀美は、普段なら用がないであろう〝下層部〟の地下1階の《生物実験室》なるものに足を伸ばしていた。
ちなみに下層部の身分は、200坪ある建物で5階のうち、割合的に1階と地下1階が彼ら下層部の立ち入れる場所。2階が、セキュリティ・チェックを行う場所。
3階に入れる上層部が、金も権力も好きにできる〝極楽浄土〟である。
それならば、合田の居る〝ここ〟は何もかも搾取され続ける〝地獄の底〟という訳だが、これにはカラクリがある。
ここの謳い文句は『長寿長命これ不死鳥なり』これは教団のスローガンであり、長命を願う人々がこぞって入信するのだが、その時に行うセミナーでマインドコントロールを掛けるのだ。
それを掛けられた彼らは、何も疑う事なく教団の〝金銭源〟となり、働き詰めて死んで行くのだ。何も疑う事なく‥‥‥
上から高見の現物をしている彼女だが、中には余り余る資源や研究書目当てで『灯曇の会』に入る輩が、後を絶たない。
危険人物だっているし、それを阻止出来なければ死者も出るだろう。
‥‥‥とりあえず、時間がないのだ。この前の幹部会議では、一度組織を解体してしまおうという案が出たばかりである。
特に一番懸念しているのが《上級武士》で、奴らときたら大量のモルモットを犠牲にして実験を進めている。
‥‥‥その研究内容が問題なのだ。
上層部の研究は、御前様の延命の為の研究だが、奴らは強化人間の研究を進めている。
だが、それは全て予測であり実際に目にしたこそない。まぁ、だから皆が寝静まるのを見計らって行動するのだが‥‥‥
その時、合田は与えられた自室に戻る為、廊下を歩いていた。もうすぐ点呼の時間だからだ。
彼は、小田切の事が気に掛かり《小田切》と、同室にしてもらったのだ。
ここで、もし1分でも3時の点呼に間に合わなければ、小田切までもが懲罰の対象になったてしまう。
だが、ここで思わぬ展開が‥‥‥なんと、合田の歩いている場所に落とし穴が!!
「ほへっ?」
情けない声を出しながら、地下1階に真っ逆さま!‥‥‥しかも、運が悪い事に。
「いったい! 何すんのよ」
はっきり言って、今一番会いたくない相手の上に、乗ってしまった‥‥‥しかも。
「ちょっと、アンタ! ハッキリ顔を見せなさいよ!」
着けていたカツラやメイクを取られてしまい、新庄はアレッ? と顔をする。
「ちょっと、もしかしてアンタは《門田さん》じゃない? 記憶がないんじゃないの。どういうこと?」
落とし穴に落ちた上に、マイクもカメラも壊れてしまい、栗栖との連絡手段がなくなってしまった。
少しパニクった合田は、ゆっくりと口を開いた。