飼育
「うわぁぁぁ、カッワイイ」
新興宗教団体『灯曇の会』に潜入していた《合田》は、のっけから怪しい行動をしている《小田切》の後を尾けていたが、なんと気付かれてしまった。
ところが、小田切は合田を見るやいなや自室に引き込んだという訳だ。
合田としては、殺されると思ってたので一安心だが、部屋に入って驚いた!
なんせ床にドールハウスが置いてあり、そこ居た〝住人〟は色んな模様のモルモットたちだからだ。
10匹やそこらじゃないと思うのだが。
「だろ? ちなみに、コイツがモル太でコッチがモル美だろ。それからモル五郎に‥‥‥」
どれがモル美で、どれがモル二郎(間違ってる)なのか判らないが‥‥‥
その時、イヤホンマイクから《栗栖要》の声が合田の耳に駄々漏れになった。
『ネーミング、ダッサ!!』
しっ! そんな事を言っちゃ駄目だろ?
見た目は、顔中は刺青だらけだし怖そうだけど、根は悪そうじゃないしなぁ。
それに、動物を可愛がる姿は優しそうに見える。
「でも、なんで〝飼育係〟のお前が、自室で動物を飼ってるんだよ? 意味分かんねぇよ。それとも、飼育箱で育てるだけじゃ飽きたらないとか」
それを聞いた途端、小田切の顔が急に強張った。
「そんなんじゃねぇよ! ここの教官は鬼だ! 俺はただ、コイツらを護りたかっただけだ」
へ? 合田が、小田切の言葉を不思議に思っていると、廊下でガッガッと革靴で忙しく走ってくる音が聞こえてくる。
一体、何事だ。合田が驚いていると、小田切が「しまった」と、慌てて合田をクローゼットに押し込んでしまった。
「え〜? ちょっとお」
モル太と、モル美とモル五郎を腕に抱えたまま、合田はクローゼットの隙間から小田切の様子を覗き見た。
合田が押し込まれると同時に、警棒らしき棒を片手に、制服を着た〝教官〟らしき人物が小田切の部屋に入ってきた。
「小田切、また貴様か! 我が教団は規律を乱す奴は、許さん。お前は今日から一週間の懲罰室行きだ!」
そう言って、教団関係者二人で《小田切》を押さえつけ、教官はモルモットが住んでいるドールハウスを押収して、持ち帰ってしまった。
‥‥え? 動物を隠れて飼うだけで、懲罰室って行き過ぎだろ! そう思ってたら栗栖も同感らしく、教団施設というよりも刑務所にいるみたいだな。と独自の理論を言う。
『こりゃあ、呑気にしてられないな。実は、こっちも新庄女史の動きが変なんだ。なんか、こちらの方を伺ってみたいで、何か勘付かれたかな?』
‥‥‥一方、その頃。新庄秀美は、オウガ製薬会社の敷地内にいる『小笠原研究所』のラボにいた。
彼女がこの研究所に入ったキッカケは、ここに居れば教団施設内では出来なかった実験も、難なく出来るからだ。
もちろん、ある程度の物は揃うものの規模が全然違う。彼女は、ここでは新参者ではないものの、決して長い方でもない。
だが、持ち前の頭脳と機転の良さで、このラボを切り盛りしてきた。
それも、今となれば《門田》という科学者が、見つかれば時期尚早に、切り離すつもりではある。
あまりの長居は、得にならないからだ。
そんな彼女が、門田を見初めたのは彼の尋常じゃない論文を見つけたからである。
彼の論文を呼んだ新庄は、心が震えた。
はっきり言って、奇抜すぎる発想ではあったが、理論上で言えば不可能とも言えないのだ。
最初は、パトロンの《前川》をも虜にした肉体を武器に、門田に近付いた。
彼女の最大の特徴は、胸元に彫られた大蛇だ。これは、前川の趣味であり自分の〝持ち物〟には、刺青を入れたがるクセがある(ただし、人間に限る)新庄以外にも、彼自身は〝青龍〟それから、本妻の〝虎〟に二番目の愛人には〝錦鯉〟を彫らせるつもりらしい。
‥‥最初は、上手くいっていた。幾度となく門田と肌を合わせ。そして、失敗しながらも〝長寿命〟の研究は続けていった。
だが、そんな矢先に門田は突然、姿を消した。それも、イキナリである。
新庄は、教団の幹部などを使ったが、一向に見つかる気配がない。
もし、上手く彼を見つけ出す事が出来たら? 例えば、門田の発想と新庄の頭脳で研究する事が出来たら?
‥‥‥どれも、これも仮定だけの話だが決して無理な話ではない。
その為には、早く門田を探し出さなければ‥‥‥
だが、その前に〝アイツ〟は邪魔だな。
チラリと、立石房弘(本当は栗栖)の方を見た。それに気付いた彼は、新庄に微笑み返す。
ああ‥‥‥面倒臭い。只でさえ教団のヤツらと上手くいってないのに! ヤツらはヤツらで何か研究を始めているみたいだ。
‥‥‥その頃。合田は、モルモット数匹を抱え、教団施設内をうろついていた。
一体、小田切はどこに連れて行かれたのだろう?
‥‥‥一言で言うなら、この施設は刑務所であろうか? 信者は個室だが、廊下を出れば監視カメラが作動している。
つまり、自由がないのだ。そう言えば、茶を飲んだ場所でも監視をされていた。
‥‥‥‥一体、どうゆうこと?