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神様のコラージュ  作者: 飛来颯
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精舎の鐘

 栗栖要と合田は、本物の《門田隼人》を捜すべく情報屋の元に来ていた。


 「さあな、街中に監視カメラが設置されてる訳じゃあないからな。それよりも蛇女の正体が分かったぜ」


 相変わらず仕事が早いねぇ。と、感心する栗栖を横目に話しを続ける‥‥‥情報屋のいう話しでは、合田の言っていた〝蛇女〟はヤクザの情婦であり、門田の研究を横取りしようと虎視眈々としていたらしい。


 「でも、あの女。一体、何に利用しようとしたんだ?」


 情報屋はテーブルの上に、隠し撮りされたと思われる写真を一枚の写真を置いた。

 そこには『小笠原研究所』で会った《新庄》という女と、もう一人はガタイの良い中年男が写っていた。

 2人とも礼服を身に包み、黙祷している。

 

 「それは男の方の話しだ、コイツはヤクザの若頭の《前川》でな。ヤツは昔からココと繋がりがあるんだが‥‥‥」

 

 すると、情報屋は少し小声で話し始めた。

 その時に、出会ったのが薬剤師の《新庄秀美》だったんだ。

 新庄って女には、気を付けろよ。なんせ前川の愛人になってからは、ヤツの為なら人殺しも厭わない女だからな。

 裏で新しい覚醒剤の研究もしてるようだし、下手したら実験台にされるぜ。過去に何人かそういうの居たらしい。


 栗栖と合田は、情報屋の話に耳を傾けながらも写真に見入っていた。

 その写真に写っていたのは仏像が祀られ、卓上に乗せられた小さな鐘のようなものまでもある。

 両手を合わせ像を拝む、鼠色の法衣を纏い曼荼羅模様の布地を左肩から右脇に袈裟がけした僧たち。

 その後ろには、信者らしき人物が膝まづいて拝んでいる。

 そして一番、驚くべきは彼らが居た場所は、まるで豪奢な寺院のような場所という事だった。


 「これは、新興宗教団体『灯曇の会』が主宰する寺院だな。いかにも怪しげな場所でな。なんでも〝信ずれば、神は永遠を与える〟とか言ってたな、ところが問題が起きた」


 まぁ、これは先に潜入している若造からの定期連絡なんだが。その教祖ってのが、最近になって倒れちまったらしいんだよ。

 百歳近い老体だから、仕方がないだろうが幹部側からしてみれば心中穏やかじゃなかったと思われる。

 なんせ幹部からしてみれば教祖を神格化し、教団を更に進化させる筈だったんだ。

 それが証拠に、信者は立ち上げ当初に比べれば入信者の数は、20倍にも膨れ上がったらしい。

 新庄は、教祖の看護もしていたからな。

 なんとしても、長生きしてもらわなくては《灯曇の会》の存続に関わる。

 ‥‥‥その時、彼女は門田の〝未発表の論文〟を噂で聞いた。

 彼女は、そこに研究員として潜り込み、門田に自分の身体を武器に彼を籠絡しようとした。


 「じゃあ新庄は、その内容を利用する為だけに『小笠原研究所』に入り込んだっていうのか?」


 合田の問いに情報屋は、そうだ。と頷いた。

 だが、聞く限りでは門田失踪に関しては〝シロ〟のようだ。




 ‥‥‥所変わり。『灯曇の会』本部、廊下にて。

 ガタイのよい男が、携帯電話片手に何かを言い合いしている。


 「だからね、その話しは今度ゆっくり話そう」


 言い訳がましく話す男の背中を、女は冷やかな目で見つめていた。


 「‥‥‥また、奥様からの小言? 若い子に手を出すから、こんな事になるのよ」


 女の苦言に男はポリポリと頭を掻き、仕方がないだろ?と一蹴する。

 傍から見れば、女房の尻に轢かれ図だが。男の正体は、ヤクザの《前川大志》で女は愛人の《新庄秀美》である。

 だけど、一番愛しているのは秀美だけだよ。

 平然と嘘吹く男に、新庄はウンザリだった。付き合い始め当初は、相性もよく幸せな時期もあった。

 だが‥‥‥天才と呼ばれた知識は、こんな所でしか生かされず。こんなヤクザと居るから、婚期も見逃した。

 しかも、男にしてみれば彼女の身分は〝愛人〟である。

 休日となれば、本妻の御機嫌伺いをし、たまには旦那の愚痴を聞かされる。

 もちろん、最初の頃は新庄も本妻からボロクソに言われたものである。だが、今は利用価値がある人間として重宝されている。

 そして本妻の、もっぱらの話題は新しい愛人の存在であった。


 「仕方がないだろ? 相手が生活が出来ないっていうから援助してるまでだ。ところで‥‥‥」


 ゴホン。と一つ咳払いして話題を変えた。


 「御前の様子は、どうなんだ? なんとか持ちそうか?」


 分からないわ。延命治療の準備をしてるところだけど、体力がどこまで持つか‥‥‥それよりも、幹部たちが御前を神として崇めようと躍起になってるところなのよ。

 でも今は、御前の介抱するのが先決よ。そう言えば、アナタの言ってた事は本当なの?


 「あぁ、舎弟の鷹村の話か。本当だ、アイツの一族は古賀の一族とは、昔から繋がりがあるらしい。本人は人間のクズだが、シノギの為に始めた水商売が肌に合ったらしい。ショーパブから始めて、今はホストクラブもやってるらしいぜ」


 「ねぇ、もし古賀議員が『灯曇の会』の後ろ盾になってくれれば、御前亡き後もウチは安泰だわ」


 「それにしても‥‥‥ノートは見つかったんだろ? 門田の失踪といい、研究所に現れた奴や何か変な空気になってきたな。本物かも確認できてない? それに本人じゃなきゃ、実験は成功しようもないなんて本末転倒だな」


 成功マウスはゲージで、元気に走り回ってますよ〜、か。

 でも、お前の身体に靡かないなんてなぁ‥‥そう言って新庄の尻を触り、思いっ切り手を抓られた。


 「ちょっと、こんな場所で触らないでよ。信者にでも見られたら、どうするの?」


 それよりも、気になる事があるわ。門田を連れてきた男よ。何か変だわ‥‥‥アイツ。

 ただでさえ、私の正体がバレたら危ういのに。 

 それに、やっぱり門田の様子ね。なぜ彼は記憶喪失になったねかしら? 説明が不十分すぎるわ。

 ねぇ、コチラも調べてみる必要があるわ。

 



 ‥‥‥一方、その頃。情報屋と別れた栗栖と合田は、昼食を取る為に歩道橋を渡り食堂に向かっていた。


 「なあ、栗栖さん。これから、どうするんだよ。このまんま本物の振りをして、周りを騙し続けるのかよ」


 仕方がないだろう? 本人が見つかるまで我慢しろよ。とにかく手掛かりを探さなきゃ‥‥‥そんな言い合いを、合田としていると、歩いていた栗栖の足が急にピタッと止まってしまった。


 「え、どうしたの?」

 

 いきなりの事に驚いた合田が見やると、彼の視線が一点に集中しているのに気が付いた。 

 その視線の先には、ナース服に身を包んだ女性だった。紺色のカーディガンを上に羽織り、同僚らしき女性と歩いていた。休憩中だろうか?

 ‥‥‥あれって、もしかして。


 「栗栖さん。あれって、もしかして栗栖さんが話してた人?」


 栗栖は、驚い顔をして合田を見たが、やがて重たい口を動かし始めた。


 「合田よ。俺たちは、家族を持っちゃいけないんだ。どんなに愛していても、いつかソレが弱味になる日が来るからな」



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