バッドエンディング‥‥‥そして。 前編
‥‥‥その時、新興宗教団体『灯曇の会』の地下一階《生物実験室》に、三人の人間が閉じ込められていた。
一人は、この寺社の幹部《新庄秀美》、それから、人捜しの為に潜入した《栗栖要》と《合田》という若い男。
だが‥‥‥行方不明者を捜す筈が、実は一人の人間を陥れる為の巧妙な罠であり、しかも知らずに加担をしてしまっていた二人の男は、新庄秀美と一緒に始末をされようとしていた。
‥‥‥‥そう言えば、小田切のヤツは無事に逃げれたのかな?
ふと、合田は同室だった《小田切》という男の事を思い出していた。
コワモテの顔ながら動物好きの男は、実験用として飼育されていた〝モルモット〟を、隠れて大切に飼っていたのだが、それを看守に見つかってしまい没収の上に、懲罰室に送られてしまった。
ただの宗教法人の筈だが、信者たちをふるいに掛けて分別し、催眠療法で操って非人道的な生活を強いていたのだ。
栗栖が来た今、奴らの化けの皮を剥がす絶好のチャンスだと思ったのだが、まさか敵に囲まれていたとは‥‥‥‥
「でも、ここに栗栖さんが来るなんて、何かあったの?」
すると栗栖は、気まずそうに新庄の方を見た。
「俺は、お前の試験官だから今回の動向を探ってたんだよ。でも、今は、それどころじゃないんだ。どうやらウチの本部が、何者かに強襲を受けたんらしい。俺は、ずっとココに居たから免れたけど‥‥‥」
司令塔の奴らは安全な場所で見ているが、俺たちの仲間の殆どは殺られちまったらしい。
雇い主としては、飼い犬を助けなくとも代わりの〝犬〟は幾らでも居ると踏んでいるのだろう‥‥‥冗談じゃないぜ。
「情報屋の話しでは、その〝何者〟かが、ココの誰かで〝生体実験〟の事実を隠蔽しようとしてるからじゃないかって」
部下を平気で見殺しに出来る奴ら。
信者たちから金を絞るだけ絞りとって要らなくなったら、ポイ捨てにする奴ら。
‥‥‥一体、何を信じれば良いんだろうか?
「そういうのに、答えなんかある筈ないよ」
すると、黙って聞いていた新庄が、話しに割って入ってきた。
「もし〝それ〟に答えがあるとしたら、握っているのは《前川》だと思うわ」
私、思い出したのよ。と、話しを続ける。
「アイツの舎弟で《古賀》という、代議士と懇意にしている奴が居るって聞いたのよ。上の奴らは、私の話しを聞きゃしないけど、代議士さまの〝お話し〟なら聞くと思うわよ」
おぉ〜、スゲ〜! 男たちは手放しで喜んでいるが、それはすぐに絶望に代わることになる。
それは、新庄がパトロンの《前川》に、連絡を入れた時である。
『お掛けになった電話は現在、使われておりません‥‥‥』
‥‥‥‥‥一瞬、沈黙になり。多種多様の行動をとる。
「ちょっとお、何よコレ! ふざけんじゃない」
「さっきまで、あのオッサン。変わったところなんてなかった! 俺にオヤツ(?)くれたのに」
「大丈夫! 俺が秀美ちゃんを守る!」
だからアンタは、なんなのさ!
ですから、彼が噂の栗栖要ですよ。
‥‥‥興奮気味に話しているせいか、自然と息が上がっていく。
「ちょっと、落ち着いた方がいいよ。これから脱出するんだから、体力を温存しなきゃ」
‥‥‥分かってるわよ。
新庄が、小さい声で喋った。まさか、長年パトロンだった男に、いきなり捨てられるとは思ってもみなかったのだろう。
今度は、背中を丸めて座り込んでしまった。
「あんまり、騒いだから疲れたろ? 少し寝ときなよ。今度、目を覚ます時には外に出られる筈だから」
新庄が不安がらないように、懸命に宥める栗栖。だが不協和音は、どこからともなく響いてきた。
「この次なんか、ある訳ないだろ?」
聞き覚えのある声‥‥‥合田は、声の主を慌てて見た。
「え‥‥‥小田切くん?」
それは、本当ならいる筈のない男だった。この『灯曇の会』の信者・小田切は、実験動物を隠れて育ててた為に懲罰室に連れていかれ、廃人同様になって帰ってきた筈なのだが‥‥‥
だが、なんだか様子がおかしい。アレッ? アイツなんかサッパリしてるな、顔の刺青がなくなっている。
それに、なんだか雰囲気も変わった気がする。アイツって、あんなに威圧的だったかな? 不思議がる合田だが、なぜだか新庄の様子がおかしい。
彼女を心配したフェミニストの栗栖が、大丈夫? と、声を掛ける。すると新庄は、唇をワナワナと震わせ、声を張り上げる。
「あ‥‥‥アイツが《門田隼人》よ! どうりで見つからない筈ね。まさか、こんなトコにいるなんて知らなかったわ!」
ふんっ。と鼻で笑うと、門田は薄ら笑いを浮かべながら話してくれた‥‥‥
「誰かさんが、俺の周りを探ったりするから、こんな目に遭うんだよ。今や、アンタの逃げ場所なんかないよ。オバサン」
俺の研究を、勝手に作成しやがって! お陰で俺の計画はパーだ!
‥‥‥だからアンタには、命で償って貰うよ。
衝撃的な言葉に、合田は言葉を失う。