損壊③
‥‥‥‥オジサン、俺です。連絡つかなかった《大河内》見付かったよ。だけど、水槽に沈められてるから揚げれそうもないみたい。
‥‥‥え? 《門田隼人》の捜索依頼した人物の正体が分かったって‥‥‥‥それって、どういうことだよ!
新興宗教団体『灯曇の会』の、下層部・地下一階で合田は《新庄秀美》と居た。
〝大名〟と呼ばれる幹部クラス彼女は、セキュリティよりも〝下の世界〟には立ち入ることが出来ず、つまりは合田と同じく潜り込んできたという訳である。
‥‥‥この頃、下層部の人間たちが、不信な動きをしていのは知っていた。
だが、どんなに通行許可を求めても、けんもほろろに追い返されていたのだが、そこでめげる彼女ではなく、偽造通行証と自身の色香で、いとも簡単に下層部に入り込むことに成功した。
そこで、彼女は思い知ったのだ。家畜以下の生活を強いられる信者たちに。ただし、ここでは〝監視員〟も信者ということだ。
ここで彼女は、察する。この大きな〝箱〟で人間を操るとしたら、マインドコントロールで洗脳するしかないということを。
洗脳されてしまった人間は、自分の意思とは違う行動をしてしまうというのだが‥‥‥まさか、ここで〝刑務所ゴッコ〟をしているとは思わなかった。
確か一度、所長に査察をさせてほしい。と願い出たのだが、隠したがった訳が今分かった。
‥‥‥この実験は、危険だから行使すべきではないと結論が出てたじゃないか。
‥‥‥誰が、裏で操ってるんだ?
新庄秀美は、身震いした。誰か、自分の知らないところで動いている。
自分が入信した頃は、良くも悪くも只の〝宗教法人〟だった。ここでは、自分の好きな研究が惜しみなく出来た。
もちろん。それが例え、他人様には有害だとしても、表に洩れなければいいのだ‥‥‥
だが、いつからだろうか? 新庄たちの作った薬品が、ことあるごとに失くなっていくのだ。
もちろん、劇薬物もある為に鍵を掛けているにも関わらずだ。
そうやって考えると、自ずと答えが出てくるもの‥‥‥ここの信者たちの様子がオカシイのは多分、新庄たちの精製した薬を用いてのことだろう。
それどころか、身内で泥棒をされるなんて‥‥‥
いや、そんなことよりも一番の問題は!
「ちょっと、アンタ! 何死にそうな顔してんのよ! たかだか、このくらいで心折れないでよ」
さっきから《門田隼人》として『オウガ製薬会社』に入り込んでたこの男は、足を踏み外して隠し部屋に迷い込んでから、ずっとこの調子だった。
最初は、本物だと信じてダメ元で色仕掛けで迫ってみると、悪い感じではなかった‥‥‥なかったのだが、まさか門田の〝そっくりさん〟だとは、思いもよらなかったわ!
このままでは、埒があかないのでパトロンの《前川大志》に連絡をとると、思わぬ展開が待ってた。
‥‥‥それは、前川の目を見れば分かる。
奴は、昔からカワイイものと仔犬系にめっぽう弱くって、あの子を見た途端に目の色が変わった‥‥‥そして、開口一番にこう言ったのよ。『お前に刺青いれてやろか?』てね‥‥
そしたら、あの子ったら挑発に乗っちゃって『へぇ、何入れてくれるんだい?』多分、龍とか虎とかを言われると思ったのだろうが、生憎どっちも売り切れだったからさぁ‥‥‥
『そうだなぁ、お前だったらチワワかな』
‥‥‥‥その時の、あの子の顔といったら、ショックのあまり口をポカンと開け、立ち尽くしてしまったのよね。
まぁ、気持ちが分からないでもないわよ? だって、前川が凄く可愛がっていたチワワに、小生意気なところかソックリで夢中になってたのよ。
確か《チロ》って名前で亡くなったのよ、老衰でね。
‥‥‥たから、前川が追いかけ回すのよ。チロ~チロ~ってね‥‥‥でも、あの子も悪いのよ? ビーフジャーキーを差し出したら、大喜びでパクつくから。
これじゃあ、傍から見ればタダの飼い主とペットの犬じゃない! 途中で前川が仕事があるからって抜けた時には、猜疑心の塊になっちゃってね。
‥‥‥‥で、現在に至る。
「うわ~ん、俺は犬じゃない! ムシャムシャ」
だったら、その手に持っているビーフジャーキー(チロの好物)を置けよ!
もう! 前川も、こんなお荷物を私に預けないでよね。そう思った時、前から知らない男が歩いて来た。彼は、言う‥‥‥
「合田、大変なことになったぞ」
血相を変えて話す男は、あの子の事を《合田》と言ったわ。じゃあ、あの子は《栗栖要》じゃないのね。
だったら、本物の《栗栖要》はどこに居るのよ! ヤツがココに忍び込んだって情報が入ってきてんのよ!
私がそう言うと、あの男はあろうことか、こう言ってきやがった。
「大丈夫、秀美ちゃん。君は俺が絶対、守る」
‥‥‥えっ? なんで私の名前を知ってんの? もしかしてストーカーなの?
「そうじゃないよ。あの《門田隼人》の消息が見付かったんだよ! ‥‥‥アイツは狙ってるんだよ、君の命をね。君が彼の研究を、深く調べ過ぎた為に価値が下がるのを恐れてだ」
彼は言う。門田は偽の家族を使ってまで、俺たちを利用しようとした。全ては、君一人を陥れる芝居だったんだよ。