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パスワード忘れるって大変ですね。


※訳

エラー起こして強制ログアウトされた挙げ句パスワード忘れて二重に閉め出されて投稿できないかと思いました。とっても怖かったです(震え)



魔女様にラプンツェル様の居場所を教えていただき、彼女にお会いするため旅にでることになったのが…もう、半年も前でしょうか。


デランタにある塔からシフナース砂漠までは馬を走らせても一年はかかる道のりです。ましてや、私が王籍を抜ける際に得た身分証明書はただの平民のもの。国の関所を通るには行商許可証付きの商隊に同行させていただくしかありません。


行商に同行すれば、どれほど上手く渡ったとしてもシフナース砂漠に辿り着けるのは二年後でしょう。しかも、それはシフナース砂漠に辿り着くまで、であり…砂漠の何処かにいらっしゃるラプンツェル様にお会いするにはまた別の手段を取らねばならないのです。


前途多難、という言葉がこれほど身に染みたことはございません。


現在は旅路を半分どころか、五分の一しか進んでいない有り様です。それと言うのも、魔女様が私にかけて下さった魔法が原因なのですが…。


魔女様は私がラプンツェル様の居場所を知ることが出来る魔法をかけてくださったのですが、それは結構な代償を必要とするものだったのです。


その魔法はラプンツェル様がいらっしゃる方向が常に光の道標として瞼の裏に映るという大変便利なものなのですが、代わりに一切の視力がなくなってしまうのです。ラプンツェル様と再会できればこの魔法は解けるらしいのですが、現実問題として今は盲目なのです…恋は盲目と言いますが、まさか自分がそうなるとは思ってもおりませんでした。


ええ、それでも必死に努力して魔力を辿ることや音に神経を尖らせることで日常生活は通常にできるようになったのですよ?本当に大変でしたが。


けれど…その、もっと大変なことに巻き込まれていると言いましょうか…。はい、とても面倒なことになっています。


「おい、ジュリー飯はー?!」

「ねえジュリー!これ縫ってくれない?」

「うあぁあん、じゅりしゃんどごー?!」

「書類、書類どこだっけ、ねえジュリー!!!」

「5006+958って幾つ?」


はい、この煩い声を聞けばお分かりになるでしょうか。


私、移動のために同行させていただいてる商隊で働いてるのですが、完全に主戦力にされてしまっているのです。


今は宿場町で商売兼休養を取っているのですが、目が回るほどの忙しさになっています。特に私は契約内容の職務を超過して働いてることは確実ですね。その分割り増し賃金はいただいていますが、好ましい状態とは言えません。


どうしてこのような事態に陥ってしまったのかと言えば、ラプンツェル様と出会ってからの三年間の努力のせいと言いましょうか。


塔でパンや出来合いのものをそのまま召し上がるラプンツェル様を思って料理に励み、彼女に似合う服を縫う為にさらに裁縫の腕を磨き、掃除洗濯が不得手でいらっしゃるのを支える為に技術を身に付けた三年間…そして、王族としての教養は市井の民にとっては非常に貴重だったらしいのです。


最初は盲目故に重要書類を管理する使用人として雇われたはずなのですが、皆様私が盲目であることも忘れてこの状況になってしまいました…。


働くこと自体は構いません。私もお世話になっているので、持ちつ持たれつと言えますから。


けれど、ただの雇用人ではなく、主要な人材になってしまうのは予想外だった上に、困ります。


シフナース砂漠に早く行きたいのですが、抜けられないのです。


私が立てた商隊を渡り鳥の如く移り、ラプンツェル様の元まで最短最速で向かう計画が水の泡ではないですか!


ああ!ラプンツェル様がどこぞの悪い殿方…いいえ、害虫につかれてしまったらどうするのです!


ふ、不安でたまりません…。


ラプンツェル様の可愛らしい性格を知ってしまえばその魅力に抗えないことは必至です。魔女様は別れ際に「…そんなこたぁ有り得んだろうさね。あんたは魔法を使うまでもなかったんじゃないかと思うよ」と励ましてくださいましたが、油断などできはしません。


ああ、歯痒い…早くお会いしとうございます…ラプンツェル様。


「ジュリー、こっちに来て!馬車の幌が破けちゃって!」


と声が聞こえれば、


「はい、かしこまりました!今すぐ参ります!」


と自然に返事をしてしまいます。


一刻も早くシフナース砂漠に向かいたい、そう思っていても幽霊王子とまで呼ばれた者の性でしょうか…必要だと呼ばれれば断れないのです。無視されてしまう辛さを知っているからでしょう…確実に悪循環ですね。


しかし、こうなった以上は仕方ありません。


この逆境に耐え抜き、ラプンツェル様と必ずや再会してみせます!


実はこの状況、結婚式の段取りの為に人脈を得れて好都合なのでは…と思ったりしているのは秘密です。








×


薄暗い部屋の中には乱雑に置かれた書類と怪しげな液体の入ったガラス瓶がところ狭しと置かれています。


その真ん中の唯一物がなく人が一人座れるだけの隙間にはふかふかのクッションが鎮座していまして、その上にはどっかりと魔女が座っておりました。


魔女の頭上には魔法の光球がゆるりと浮かび、彼女を囲むように色とりどりの小鳥が止まり木で囀ずっています。魔女の使い魔たる小鳥は全部で五羽、世界にある主だった国の数と同じでした。


耳を澄ませば、その小鳥の囀ずりは大陸の共通語であるワーヤマ語です。


ここは魔女の根城であり、各国の首脳が使い魔を介して彼女の予言について会談する為の部屋なのでした。


「ゴテルの魔女殿、新たな予言は降りてこないのですか」


ラピスラズリの小鳥が口を開きました。


「何度も申しておりますが、あの日以降は予知をしておりません。くだらぬ問答をするのでしたら、お帰りくださいませ」


ラプンツェルやジュリアンが聞けば誰の言葉かわからず混乱すること間違いなしの丁寧な口調で魔女は淡々と話します。その真紅の瞳は酷く冷めており、整った美貌と相まっていたたまれない程の侮蔑がありありと見えるものでした。


それもそのはず。この会話は人と場所こそ違えど、何度も何度も繰り返されたものだからです。


二十五年前に魔女は「世界を滅ぼす者が生まれ、間もなく現存する国は全て瓦解することでしょう」と予言して以来、新しい予知を見ないと言って一度も予言をしていないのでした。魔女の予言を恐れて逆鱗に触れた今はないテヴァ皇国以外の国は、この予言に限って全く魔女を信じてはいないのです。


国を支える屋台骨たる臣下が腐敗し、基礎組として縁の下を支える民草がどれ程傷付いても、屋根の上でひたすら空ばかり見る彼らはなぁんにも気付かないのです。


魔女にはそれが痛いほどわかっているのですが、それでも見捨てることはできません。なぜなら、国がなくなって真っ先に困ってしまうのは貧しい人々だからです。


財のない流民であることほど辛いことはありません。彼らを待っているのは疫病や餓えがもたらす冷たい死の口付けか、地獄のような労働、苛烈な拒絶から来る正視に堪えぬ差別ばかりだからです。魔物が蔓延り魔素災害に満ちたこの世界では人々は己が身を守るのに精一杯で職も持たない余所者に手をさしのべる余裕などありはしなのでした。


誰もが皆正しいことすら見えない、そんな時代なのです。


「そうは言っても…ちっとも変わったことなんてありはしないじゃないの、ねえ皆様方」


使い魔を通して魔女の不機嫌そうな様子は見てとれるはずでしたが、ピンクサファイアの小鳥は意にも介さぬように自分の不満を露にしました。


「ふははは、違いないな」


「ほほほ、右に同じく」


「ええ」


トパーズ、ガーネット、エメラルドの小鳥が釣られて笑い声を上げます。


「その時が来てから後悔なさいませぬよう、もう一度お考えくださいませ」


魔女が今までになく冷たく言い放つと、小鳥の体がふるりと揺れて、寒気に耐えるように羽に空気を抱き込みました。


「あ、ああ…そう言えば、魔女殿の予言とは関わりは無かろうが、近頃シフナース砂漠で妙な動きがあるらしいが、魔女殿は知っておられるのかね?」


沈黙に耐えかねたラピスラズリの小鳥が半ば呻くように言うと、他の小鳥も次々に口を開きました。


「それは聞き捨てならんな!あの砂漠は各国不可侵と定めておるではないか!あの貴重な魔物の宝庫の独占など許せるものではないぞ!」


「ええっと、エドワの民がやたらと動いているらしいことだったかしらぁ?」


「エドワの民ってあの、ルルグムだかなんだかって砂漠蛭の成り損ないを飼ってるやたら彫りの深い民族?あれらに知能なんてあったの…驚きですわね」


「…エドワの民を狩る奴隷商人が、かなり、被害にあってるようです」


トパーズ、ピンクサファイア、ガーネット、エメラルドの順に思い思いのことを言います。魔女はシフナース砂漠と聞いて一度だけ柳眉を寄せましたが、この会合を開くときはお馴染みの仏頂面にすぐに戻りました。


彼女はこの世界の維持を望んでいましたが、この小鳥越しに会談をしていると自分に自信がなくなってしまうのです。


――あの若造(ジュリアン)に乗せられてラプンツェルに賭けてみたあたしが此処で口を開くのはお門違いだろうさ。


じっくりと予言通りに進んでいる世界を眺める魔女は審判を待つ罪人のごとく押し黙るばかりでした。


――全く、あたしゃ変わらず他人任せで祈ってばかりかい。変えられないのか、変わらないのか…どっちなんだろうねぇ。


凍えて動かなくなった心には、醜い言葉も綺麗な言葉ももうずっと響かなくなっていました。


迷ってばかりの魔女は今宵も静かに傍観するばかり。


だいぶ前に出ている答えに気付くには積み上げたものが重すぎるのでした。


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