夢の、始まり(4)
60部って…何…。
「本当にそれでいいの? アンタは」
ジェネシスの遥か地下、そこには全ての始まりの場所があった。
世界樹ユグドラシル。 世界の中心、ボクの始まった場所。 全ての夢の終わりであり、始まりでもある。
そこは以前訪れた時とは随分と違った様相を見せていた。 白い砂の砂漠―――まるで今のオレの心を映し出しているかのようだ。
レーヴァテインの残骸は砂に埋もれるように静かに眠っていた。 ぼろぼろになり、ほとんど跡形もなくて、再生もできないそれは夢でみたレーヴァテインよりも余程無残な姿で、全てが思い描いた未来のとおりには行かないものだなと何故か失笑してしまう。
ポケットに突っ込んだ手をユグドラシルに伸ばすと、世界樹は呼びかけに応えるように無数の瞳と手をオレに向かって伸ばす。
まるでおかえりと、自分の家族が帰ってきたのを歓迎しているかのように。
スーツ姿のカグラはシャツの胸元をはだけ、露骨に豊満な胸を露出しながらオレの隣に立つ。
「ユグドラシルと話でもするつもり?」
「オレにそんな力はないよ…。 ただ、見ておきたかったんだ。 ここが、オレの始まった場所なんだろ」
砂の上に胡坐をかいた。 カグラも続いて隣に屈む。
砂の大地で埋め尽くされた異常な空間は何故か美しく、懐かしい。 以前訪れた時は混乱しきっていた頭も、今は不思議とすっきりしている。
この樹から全てが始まった。 オレも、スヴィアも、エアリオも―――。
「…世界樹ユグドラシル。 これはね、末端可能性存在、とでも呼ぶべきかしらねぇ」
「あらゆる次元と可能性を結ぶ全存在、か。 この樹一本であらゆる世界の可能性が繋がっていて、スヴィアはここを通じて未来から…いや、そういう可能性を秘めた別世界からこの世界にやってきた」
この樹だけがあらゆる世界との接点。
生きてうごめくこの樹は事実生命を宿している。 この世界の生命という定義に当てはまるかどうかは微妙だけれども。
そしてこの樹は、きっとスヴィアの居た世界にも通じている。 この無数に別れ数を数えることすらできない枝木の一つ一つが、ありとあらゆる可能性。
例えば。
イリアが死ななかった未来や…。
オレがみんなと出会わなかった未来や…。
スヴィアと、仲良く暮らしていられた未来…。
そんなものも、この樹の向こうにはきっとあるのだろう。
様々な可能性を凝縮したこの樹は、触れるもの全ての存在を不安定にさせる。
きっとこの樹の周りだけは異世界で、記憶や想いが理屈ぬきでやり取りされる…そんな不可思議現象が当たり前のように起こるのだろう。
それは彼女たちと心を通わせるシンクロとよくにている。 いや、きっとそれは同じものだ。 だからレーヴァテインに乗っている間だけ、オレは異世界の住人のように充実したドラマチックを求めていられた。
心が触れ合う事の喜びや幸せを教えてくれたのはお前だったんだな、ユグドラシル。
ついでに言えば、あの厄介なユピテルを異世界から呼び出したのもお前って事か。
「アンタはこれからどうするつもりなの?」
「オレ?」
「そう、アンタ。 それに、かっこつけて『オレ』なんて言っても似合ってないって」
「そう言われると返す言葉もないけど…オレはこれでいいよ。 もう決めた事だし、いまさら撤回するのはもっとかっこ悪いだろ」
「まぁねえ。 でもまぁ、アンタが率先してそんな事を言い出すなんてねぇ………ま、いずれはそういわれる日が来るとは思ってたけどさ」
諦めたようなカグラの苦笑。 彼女は忙しい時間を割いてわざわざボクの為にこんなところまで来てくれた。
それは、本当にありがたい事だと思う。 オレの友達であり、先輩であり…いつもスヴィアの代わりに見守ってくれていた人。
立ち上がり、彼女を見つめると少しだけ照れくさそうに笑い、それから眉を潜めた。
「本当に、やめちゃうのかい? 少年」
「ああ。 オレはもう、ジェネシスを抜けるよ」
迷いはない。 自分に何ができるのか、考えれば当たり前の結論だ。
オレは目を閉じ、しばしの間過去に思いを馳せた。
⇒夢の、始まり(4)
「もう、先輩ったら…またどこかに消えちゃいました…」
トレーニングルームの中、ため息をつくアイリスの姿があった。
リイドがエアリオの部屋を飛び出していったのを見送ってから数時間。 あれからリイドの様子が気にかかり、部屋を訪れたところそこにリイドの姿はなかった。
のだが、やはり、またか…という気持ちが強く、少女は特にあわてなかった。 リイドはであった時から、時々ふらりと居なくなる癖があった。
そんな時リイドがどうしているのかアイリスは知らない。 だが知らなくても推測くらいはできる。
少年は時々、一人になろうとする。 孤独と輪との対比を自分に言い聞かせるように。 そんな寂しさを自ら求めるような背中を見ていると、気持ちがざわざわと不安定になる。
だから追いかけずにはいられない。 先ほどもそうだった。 リイドが目に浮かべていたのは、紛れもなく涙だったのだから。
壁に背を預け、静かに目を閉じる。 リイドが生きて帰ってきてくれたのは嬉しいが、こう何も変わらないというのも妙な感覚だった。
何か、何か。 大事なものを失ってしまうような、そんな強烈な予感―――確かにそんな想いが、胸を支配していたはずなのに。
不安が払拭された理由を考える事にしよう。 理由としてはやはり二つ、自分の想いがはっきりしたという事と、狙撃砲の完成により自らの戦闘スタイルが確立したことだろうか。
これならばもう、リイドの足を引っ張ることはないし、苛立ちをぶつける事もない。 次に会うときは笑ってすっきり、彼の心の闇を晴らしてあげられるように振舞える。
自分自身が全て原因だったのだ。 リイドはいつでも手を差し伸べて笑ってくれていたのに、それを突っぱねていたのは自分自身。
だからもう、そんな風にはしない。 リイドが安心できるよう、誰かの代わりなんかではなく、アイリス・アークライトとして…その思いを受け止めたい。
傷ついて涙を流している時は抱きしめてあげたい。 喜びを共に分かち合いたい。 そう思える人間がいることの何と素晴らしき奇跡か。
「…だっていうのに、先輩は…本当に、面倒くさい人です」
拗ねた様に呟くその表情はやはり嬉しそうで、意味もないのにニヤついている自分自身が少し気持ち悪かった。
しかしまあ、仕方のないことだろうと諦める。 それほどに幸せな日々が待っているはずなのだ。 これからようやく全てを始められる。
ちゃんと丁寧に、何一つ見落とす事もなく、慈しんで、彼を愛することができる。 その果てに愛情を返されなかったとしても、それで構わない。
自分自身の後悔しない場所を、手段を、方法を。 それらを踏まえたのであれば、そこには充実した結果しか残らないはずだから。
「もしもーし、アイリス?」
「わきゃあっ!? 最悪ですっ!! 変態ですっ!!!」
「ぶべらあ!? いきなりビンタ!? しかも往復!」
耳元から聞こえた声に反射的にビンタを繰り出すアイリス。 その手は吸い込まれるように侵入者…カイトの頬をしたたかに打ちつけた。
「あ、カイト先輩…と、その他諸々。 どうしたんですか? おそろいで」
「念のため聞くけど、その他諸々っていうのはあたしたちのこと…?」
「他にいるんですか? 諸々さん」
にらみ合う少女二人。 エリザベスとアイリスの間に割って入ったカイトが二人を引き離すと、カイトは真面目な表情でため息をついた。
「お前らほんっとに仲悪いな…。 何はともあれ召集だ。 ユピテルがこっちに向かってきてるらしい」
「ゆぴてる?」
「この間戦った化物のことだよ。 最上神話級だとよ」
その言葉に気を引き締める。
生半可な覚悟や力で太刀打ちできる相手ではないことはすでに理解している。
先輩、どこで何をしているんですか…?
そんな事を思いながらカイトの後に続く。
何故姿を現さないのだろう? 司令部に行けば会えるだろうか?
そんな事ばかり、脳裏を過ぎっていた。
ユグドラシルのその向こう側、世界はいくつも無数に広がっているだろう。
そしてこの樹の先にあるものを知れば、おのずと何をすべきかは見えてくる。
例えば今この世界でオレがユピテルを倒し、神々を殲滅し、人類の未来を手に入れたとしても、また別の末端可能性から今この世界にいるものとは別のユピテルがやってくる可能性もある。
逆に言えば、ユピテルだけではなく、スヴィアのように世界を平和に導く存在が訪れる可能性もあるし…オレがそうなれる可能性も抱いている。
だからこの樹はやはり全ての始まりと終わりであり、これから自分がどうなるのかわからないオレたちにとっては重要なセーブポイントであり、リセットボタンでもある。
終わりが訪れるのだとしたら、きっとここから。 そう、カグラも判っていたのだろう。
「ユグドラシルは、この世界に一本だけじゃない」
世界樹を見上げるカグラ。 思い出すように、静かに語り始める。
「これと同じものが月にもあるのよ。 でもま、二つは同じもの…。 地球と月っていう場所の差はあんまり関係ないからね。 とにかく同じものが月にもあって、それは神を生み出していた。 それを地上で見つけた人間たちは、神を生み出すものを手に入れられたと思って大喜びしたわけ。 でも、実際この樹が人間の手に余るものだった」
ユグドラシルの始まりがいつでどこだったのかは、もう誰にもわからないことだ。
この樹は気づいた時にはここにあり、遥か古の時代から海底で息づいていた。 それを見つけて運用しようと考えたのが近年であっただけで、下手をすればこの星が生み出されるよりも過去からそこにあったのかもしれない。
「親父が願ったレーヴァテインプロジェクトは、神の運用と人間の量産を主眼としたいわば世界制服プランだった。 ユグドラシルから神を取り出し、封印を施したそれを人間が扱う。 神なら神を倒せると、そう考えたわけね。 でも実際、アーティフェクタと呼ばれるものを人間が操る事はできなかった」
アーティフェクタと呼ばれるものは、イコールで神という言葉と結びつけることができる。
レーヴァテインもトライデントもエクスカリバーも、ただの神に過ぎなかった。
その二つの存在に差異があるとすれば、それは現段階でも起動し活動しているかどうかということ、そしてユグドラシルを守る為に存在するものかどうかということだ。
地球のユグドラシルは長い間眠りについていた。 同時にそれを守護する三機のアーティフェクタもまた、静かに眠り続けていたのだ。
その眠る姿はすでに傷だらけであり、一体どのような経緯でそれらが地球に眠る事になったのかは判らない。 けれども、ユグドラシルが眠り続けている限りアーティフェクタが動く事もなかった。
それをいいことにジェネシスはアーティフェクタの解析と調査を進め、それらが神であること、そしてコアと呼ばれる心臓部が全ての中心であり、その部分がアーティフェクタの脳とも言える部分である事を突き止めたわけである。
「ただし、アーティフェクタは眠っているんだから動かす事もできなかったわけ。 それにコアに変わる人工頭脳の開発なんて、人類の技術では実現不可能だった。 そもそも、既存の常識的概念で起動しているわけじゃない生命体を操るすべを人類が模索するということは、口で言うほど容易なことじゃなかったのね」
「機械的手段で操作する事のできない神か…。 まぁ不可侵なものであることは違いなかったんだね」
「そゆこと。 んでも、ある時突然ユグドラシルが目覚めた。 原因は、月内部での何らかのアクション。 元々月側のユグドラシルが目覚めていたのは天使とかが動き出していたことからも明らかなんだけど、そこにさらになんらか…地球のユグドラシルに影響を及ぼすほどの何か大事件が発生したわけね。 そうして地球のユグドラシルの緩やかな目覚めに気取られている間に、月からそれがやってきた」
「…スヴィア・レンブラムと、ガルヴァテイン」
「その存在が月で何らかの大事件を引き起こした事は明らかだった。 だからこそ地球のユグドラシルが反応したわけね。 何が起きたのかはよくわからないけれど、その時スヴィアがつれてきた少年…それが、アンタだったわけ」
スヴィアがガルヴァテイン単騎で月面から奪還してきたもの、それこそがオレだった。
たった一人で月に乗り込んでまでスヴィアが奪還したかったものは、過去の自分だったのだろうか。
そしてそれは、スヴィアもまた人間ではなく、月で生み出された生命である事を示唆している。
「アタシは未来の事はよくわかんないけど…でも、ユピテルは確かに人間の姿をしていたそうじゃない。 もしもアンタがそうやってスヴィアに助け出されなかったら、今あのオーディンに乗っているのはアンタだったかもしれないわね」
それは十分に考えうる事だ。 神に適合できる人間であるオレは、人間というよりは最早神そのものだと表現したほうがいいだろう。
戦うために、神を操るためだけに生み出された神。 人の形をしてはいるものの、オレは人間とは違いすぎる。
「まぁなにはともあれ、スヴィアとガルヴァテインを手に入れた親父は大喜び。 これでレーヴァテインを動かす事ができるってね…。 プロジェクトは順調に動き出し、スヴィアがもたらす知識で人類は大いに成長した。 全ての計画が上手くいく…そう思った矢先、事件が起きた」
二年前のある日。 レーヴァテインの起動実験が行われた日の事だ。
スヴィアに無断で実験を強行したゴウゾウ含め、当時数名の関係者がその事件に巻き込まれ、死亡した。
その死亡者の中にはオリカの両親も含まれていたことだろう。 スヴィアはそうなる事を恐れ、事を慎重に運んでいたというのに。
「全アーティフェクタの、暴走」
アーティフェクタに適合出来る人間を生み出す計画…それによって生み出された第一世代のカスタムクローンによる起動実験は失敗した。
失敗の原因は不明だったが、適合者のみで起動させようとしたことが一つの原因でないかとも言われている。
動き出した三機は地下を飛び出し、世界中で暴れまわった。 結果、パイロットは一人残らず跡形もなく消滅し、大打撃を受けたジェネシスは散逸したアーティフェクタを追うこともままならず、ジェネシスは希望の光りを失った。
「親父含め計画のトップが一気に全滅したからね。 ジェネシスはそれをヴァルハラ市民に公表するわけにもいかないし、結局体勢を立て直すだけで手一杯だった。 けど、スヴィアの対応のおかげで一機…レーヴァテインだけは取り押さえる事が出来たわけね」
回収したレーヴァテインはジェネシスに残された最後の希望となった。 残りの二機、トライデントとエクスカリバーがどこへ行ってしまったのかはわからなかったが、散逸していたそれらを独自に回収したのがSICやルクレツィアのような存在なのだろう。
何はともあれ、愚か者は全滅しやジェネシスでスヴィアはレーヴァテインを安全かつ確実に運用する為に第二のレーヴァテインプロジェクトを実行に移す。
この時、実験暴走により全滅していたと思われるカスタムクローンたちもおそらく逃亡…あるいはそれを予見していたスヴィアにより避難させられていたのだろう。
ラグナロクという組織は二年前あの事件で発足し、しかしスヴィアはジェネシスに残り知識を与え続けた。
その計画の中、人間にユグドラ因子を埋め込むという発想が生まれ、アーティフェクタを安定させる存在として干渉者の必要性が強く提示されることとなる。
そんな中選び出されたのがカイトやイリアを含むファーストコネクター。
レーヴァテインを運用することは人間には厳しく、ユグドラ因子を埋め込むことでしか耐えることが出来なかった。 さらにレーヴァテインを初めとするアーティフェクタは干渉者によって外装を変化させるという性質柄、パイロットは一組というわけにもいかなかった。
スヴィアはガルヴァテインをユグドラシルの間に封印し、レーヴァテインのパイロットとしてジェネシスを導く事になる。
「この頃から、エアリオという少女の名前が登場する事になるんだよ。 彼女は多分、リイドと一緒に月から回収された子だったんじゃないかと言われているけど、オリカ・スティングレイ…今のリフィル・レンブラムがかくまっていたという説が有力ね。 尤も、その当時は目覚めていなかったみたいだけど」
「オレと同じく、眠った状態にあったってことか」
「そういうこと。 そしてアンタは何も知らないまま日常に進む事になり、エアリオはスヴィアの駒として行動することになる。 とまあ、大雑把に言えばそういうことなんじゃないかな」
「そっか…」
「感謝してよ? 子供扱いして何も教えてもらえないから、アタシ自力で調べたんだからね」
彼女の立場は確かに社長だが、所詮は子供。 人類の命運を握る計画を全てまかされる事はなかったのだろう。
どちらにせよリフィル・レンブラムやスヴィア・レンブラムが計画の主軸にあった以上、彼女がかかわれる事はそう多くなかったことだ。
故にスパイまがいの行為をしてまでも会社の実情を理解する必要があった。 そうせざるを得なかったのだろう。
そのスヴィアやリフィルの計画が会社や人類に不易なものだった場合、それを止めるのは社長である彼女の役割なのだから。
「それで調べた結果、カグラはどういう判断を下したわけ?」
「んー…。 判断も何も、もう誰か一人で解決できる問題でもないでしょ?」
「そうだね。 全く以ってその通りだよ」
思わず苦笑する。 そう、もう誰か一人の物語じゃない。 いや、これはずっと昔から続いてきた、バトンリレーのような物語だ。
ボクがアンカーであるとは限らない。 だから次の誰かへそれを手渡せるように、自分に出来る事はやっておかなければ。
「あるんでしょ? オーディン」
立ち上がり、ため息をつくカグラ。
そう、スヴィアが月から持ち帰ったのはボクやエアリオだけではなかった。
彼はまだ、目覚めることもなかったオーディンを討ち取り、それをこの地球に持ち帰っていたのだ。
調査班がガルヴァテイン墜落地点のクレーターの中で見つけた破壊された神の姿。
そのコックピットの中で、確かにユピテルは死んでいた。 ガルヴァテインの銃剣に貫かれ、息絶えていたのだ。
そう、笑いながら。
「今この世界を襲っているユピテルは、『この世界のユピテル』じゃない」
「スヴィアが元々居た世界の…って事になるだろうねぇ。 厄介な」
考えてもみよう。 何故未来は滅んでしまったのか。
今この世界なら、ヨルムンガルドやヘイムダルのように人類の神に対抗しうる力を徐々にとは言え手に入れている。
あっさりと地球が滅亡してしまうようなことはないだろうし、逆もそうだ。 決定的な何かがおこらなければ、この戦争は終わらない。
オーディンはその決定力になりうるだけの能力を持つ最強の神だ。 それが存在しているのに、まだこの世界が無事でいられる理由。
それは、ユピテルやオーディンが何らかの理由により動けない状態…ボクやエアリオのように眠りについていたからだと推測できる。 そうして無防備な状態のユピテルを殺しにかかる…それが全ての滅びを未然に防ぐ為にスヴィアが行った策だったのだろう。
では何故、他の世界との扉でもあるユグドラシルを破壊しなかったのか?
破壊しなかったのではない。 おそらく、出来なかったのだ。
ユグドラシルを破壊するという事はその世界が持つ様々な分岐可能性をも閉じることを意味する…ぶっちゃけて言えば世界の終わりだ。
それに仮に地球のユグドラシルを破壊できても、月のそれは破壊できないだろう。 神や天使に守られた樹を破壊するのは容易ではないはずだ。
そもそも、ユグドラシルに破壊という概念が通用するのか怪しいところだ。
レーヴァテインの破損したパーツを取り寄せる…つまり、他の分岐可能性の中から新品のパーツを引き寄せることが可能なユグドラシル。 それがなくなればこちらとしても打撃だし、そんなどこと通じているのかわからないものに攻撃しても、どこに命中するのかわかったものではない。
そんな当てにならないものを当てにしている人類もこの状況も、本当にどうしようもないのだが。
封じることが出来ない以上、この世界にまでスヴィアを追ってくる向こうの世界のユピテルを倒す手はずが必要だったのだろう。
人類を勝利させ、かつユピテルを何とか葬り去るという手段。 それを画策するのがスヴィアの目的であり、この世界を守る為に必要なプロセスだった。
そうだ。 人類はガルヴァテインとスヴィアがいなくなっても負けないくらいの強さはもう手に入れた。 勝利はまだ遠く、手の届かない場所にあったとしても、滅んでしまわないのならば…終わらないのならば、人類は粘りに粘り、生き汚く耐え切ることだろう。
今ならそんなことを信じられる。 人間はすごいものだ。 くだらなくて汚くて醜くても、生きることに関しては最強だ。
だから、障害を排除しなければならない。 スヴィアはどうやってそれを成すのだろう?
最強を誇るスヴィア・レンブラムという人外の力を以ってして葬り去ることの出来なかった絶対不死の最強神。
倒す事が出来ないのであれば…その手段はなんとなく、想像がつく。
でも、そんな手段は認められない。 認めたくない…そう思うオレがいた。
「これはオレの我侭だ。 このまま行けば世界を守りきれるかもしれないのに、彼を犠牲に出来ないでいるオレの、子供っぽい夢だ」
スヴィアはオレであり、ボクであり、私である。
自分自身を犠牲にして、生きていていいのだろうか。
いや、違う。 オレと彼は同じものなんかじゃない。 彼は彼で、オレはオレだ。
リイド・レンブラムは、スヴィア・レンブラムという人間を、見捨てる事が出来ない。
「協力してくれ、カグラ。 オレはもう一度、彼と話をしなくちゃならないんだ」
スーツ姿の少女はため息をつき、静かに世界樹を見上げていた。
世界の終わりが近づいている。 もうじき、ここにもそれはやってくるだろう。
終焉を迎えないために今出来る全てを、オレは成さねばならないと思う。
それが、彼にこの世界を託された…オレが成すべきことなのだから。
もう60部ですねー………。
思えば色々ありました………。
で、突然ですが発表です。
なんか、次で最終回かもしれません。
殴らないでください! 物を投げないでください!!
とりあえず理由を説明しましょう。
この霹靂のレーヴァテインという話は実はこんなに長くなる予定はありませんでした。
というか、結局世界は滅んでバッドエンド〜というのを考えていたのですが、それではちょっとあまりにも読者様に対して申し訳が立たないというか。どうだろうと思いまして。
そんなわけで、今頭の中に三つの方法が浮かんでおります。
1、打ち切り
だから物をなげないでください!!!!
いや、長く続きすぎたしちょっと疲れてきたしキリのいいところでそろそろ完結としようかなと…具体的には次のお話で終了。
これはさすがにちょっとマズいかなあと思ってますが…。
2、このまま連載続行
実は、アニメでいうところの二期みたいなのは考えてあります。
つまり今の続きですね。
とりあえず一期は次で完結になるのはもう間違いないんですが、そのまま二期も続けて執筆しようと、そういうことです。
3、一旦終了
とりあえず霹靂のレーヴァテインは完結とし、一旦休載して、しばらくネタや設定を練り直してから霹靂のレーヴァテイン2とかそんなタイトルで別に新しく連載を再開する方法です。
この場合も内容は二番と同じですね。
とまあ、そんな選択肢が脳内でぐるぐるしているのですが、どうしましょうか。
打ち切りは酷いのでないとして…いや、書くのやめろっていうならやめますけど…。
2か3か、どっちが読者に喜ばれるんでしょうか?どっちも一長一短です。
このまま書き続ければ確かにこのペースでの連載は続くのですが、最近個人的に連載の質が落ちてきているような気もするのです。
そろそろ一度筆を置いて区切りのいいところで練り直すのも悪い手段ではないのではないかと…。
うーん、でも連載再開しても読んでくれる人なんているんだろうか。読者様がまだ読んでくれているうちに続きを書いたほうがいい気も…。
というわけで、出来れば感想やらメッセージやらでアドバイス願います。何もなければてきとーに決めちゃうので別に構わないのですが。
それでは、ここまで読んでくれてありがとうございました〜。
感謝オーラを送り忘れるところでした。 恒例行事なのにね。
はい!
伝わりましたか。 伝わりましたね。
それではさようなら。