神々の、黄昏(3)
久々に昼間更新。
「何で、カイトが怒って戦ってるんだろう…」
涙を流す事も忘れ、何故だか笑ってしまった。
それは少しだけ馬鹿馬鹿しくて幼い行動だ。 大人になれるんじゃないかとか言っておきながら、やっていることは子供っぽくて。
空中を疾走する二対の蒼の残像。 幾度と無く激突し、その刃を交える。
双方引き下がるつもりは無い。 負けず嫌いなのはどちらも変わらないのだ。 そして大きな信念の元で行動している。
互いを認める事は出来ずとも、相手が必死で戦っている事は見れば明らかで。 だからカイトもカロードも、刹那の中相手を認める。
最早問答など不要。 真正面から激突する決意と決意の前では、そのようなものは要らない。
「全力で―――!」
「ねじ伏せるまで―――!」
放たれるフォゾンライフルの光が海を蒸発させ、空を裂き、それでも蒼い機体は空を舞う。
それを見て思う感情は…どこか馬鹿馬鹿しく、命を賭けた戦いであることに変わりはないはずなのに、どこか優しい。
こんなところまでついてきて、自分の為に子供みたいに怒ってくれる人がいる事―――それを少女にとっての幸せと呼ばずになんと呼ぼう。
「お兄様…」
カロードの言う事に間違いは無い。
ラグナロクとは、この世界にあってはならない組織だ。 それが悪であることなど、とうに誰もが理解している。
悪を以って善を成す。 それこそがラグナロクの使命であり、彼らが自らの命を省みない根拠なのだ。
悪である以上、弾圧され拒絶され誰にも知られぬ場所で灰のように風に飛ばされ消え行くは定め。 この世界に生きる限り、味方など誰も居ないのだから。
それでも少年は。 大切な人を失い、それでも生きることを諦めない少年は。 他人の不幸に怒りの炎を燃やし、相手が誰であろうと噛み付いていく。
「馬鹿よね、それって」
苦笑する。 それから、自らもフォゾンライフルを手に取った。
「二人とももう止めて!」
「エリザベスか―――!?」
「貴様…どうやら僕たちを本気で裏切ったようだな…うわあっ!?」
そんな具合に三人が同時に停止した瞬間だった。
遥か後方、ラグナロクのホームが存在する島の上空で、銀色の光が空に放たれた。
何かと何かが凄まじい勢いで激突する衝撃。 三人同時に彼方の空を見つめ、そこに浮かぶ二つの影を凝視した。
「ガルヴァテイン―――スヴィア先輩があそこにいるのか!?」
「お前のようなものに構っている時間はない!」
「あっ!? おいこらてめえ! 逃げんじゃねえぞ!! 待てっ!!」
銀色の機体目掛けて飛んでいくウロボロスとその後を追うヘイムダル。
「ちょ、ちょっと!? 駄目よカイト…あれは、あんたじゃどうにもならないものっ!」
銀色の粉塵の中、風が闇を振り払い月下、銀の機体は瞳を輝かせる。
その瞳は隻眼。 片方の瞳は引き裂かれたような傷を残し、白い息を吐き出しながらガルヴァテインを見つめていた。
「オーディン…。 やはりお前か、ユピテル」
「やあスヴィア。 久しぶり。 やっと追いついたよ―――君がどんどん先に行っちゃうからさぁ!!!」
鍔迫り合いから距離を取る二機。 その瞬間、周囲で待機していたヨルムンガルド部隊が一斉にフォゾンライフルを放ち、最高神話級オーディンを狙い撃つ。
しかし両手を左右に伸ばし、光の結界を展開するとそれらは全て明後日の方向に捻じ曲げられてしまう。 同時に放つ光の魔法攻撃。 一回転すると、周囲のヨルムンガルドのほとんどが焼き払われてしまった。
「撤退しろ!! お前たちの実力ではこいつには敵わない!!」
両手に構えた銃剣を連射しながらオーディンに近づいて行くガルヴァテイン。
「まだ大事に持ち歩いてるんだね―――そのレーヴァテイン!」
同様に空に手を翳し、フォゾン武装…長大な槍、グングニルを手に取る。
空中で何度も重なる刃。 周囲に展開したわずかな生き残りたちは撤退を開始するが、ユピテルはそれを逃すつもりは無い。
「オーディン…一匹も逃さないよ。 皆殺しだ」
槍の先端部に収束するフォゾン。 すぐさま反応し、回避行動に移るガルヴァテイン。 しかしその狙いは、ホームそのものにあった。
「しま…っ!?」
「ハハハハハッ!!」
放たれる光は雷の速度で島を襲い―――耳を劈くような爆音と共にその島を一瞬で跡形も無く消し去った。
無論、逃げ惑うヨルムンガルド隊も、その島の地下シェルターに避難していた小さな命も、苦しむ間もなく一瞬で蒸発してしまった。
後に残ったのは巨大なクレーターだけ。 隕石か何かが墜落したような痕跡は、その凄まじい衝撃を物語っている。
雷を指先にもてあそびながらオーディンは表情を歪め、哂う。 それはまるでスヴィアを挑発しているかのようだった。
「ユピテル…貴様!」
「はは、ひゃははははっ♪ 馬鹿だなぁスヴィア! 君が人間と一緒に生きていけるとでも思っているんかなあ!?」
身を乗り出し、舌舐めずりしながら目を細める。
その瞳は純粋に輝いている。 人間を殺す事への疑問や罪悪感など最初から存在していない。
ユピテルの望みはたった一つだけ。 スヴィアの幸せを、スヴィアに近づくもの全てを、破壊し滅却することのみ。
「あぁ、面白い。 人間の命というのは本当に脆いよ。 指先でつついただけで崩れ去る…だからこそ、君は惚れこむのかもしれないけれどね」
無差別に放つ光。 世界中の様々な場所を吹き飛ばし、降り注ぐ雷鳴は海を割り、世界を終焉へと突き動かす。
「さぁ…抗って見せてよ。 君のいう、運命とやらにさアッ!!」
銀色の雷。 自らもまた光となり、光速で軌道を描くオーディンに追いつける機体など存在しない。
四方八方から繰り出される攻撃をさばくことさえ出来ないガルヴァテインは見る見る追い詰められていった。
「先輩! 聞こえますか!? 先輩っ!!」
通信機に飛び込んできたアイリスの声に顔を上げるリイド。
そこにはリイドを乗せて自動航行を行うヨルムンガルドに並行するアイリスのヘイムダルの姿があった。
通信をオープンにすると、ヨルムンガルドのモニターにアイリスの顔が表示される。
「よかった、先輩…無事だったんですね」
「アイリス…!」
「私、先輩が死んでしまったんじゃないかと思って…」
「そんなことはどうでもいいっ!!!」
「はい?」
いや、どうでもよくなんかはなかった。
つい今この瞬間まで不安でたまらなかったアイリスとしては、リイドにそのように言われるのは心外以外の何者でもない。
「…なんで先輩っていつもそう、女心がわからないんですか?」
「女心とかどうでもいいんだよっ!! とにかく、このヨルムンガルドを押さえつけてくれ! それと回線延ばして、こっちのプログラムを書き換えて! こいつ、直接操作は受け入れないんだよ!」
「え、ええと…どういう状況なんですか? あと書き換えって…」
「とりあえず有線でこっちの機体にヘイムダルをつないで! あとはボクが自分でやる!」
「わ、わかりました!」
ヨルムンガルドを押さえつけたヘイムダルの胸部から有線情報伝達ワイヤーが放たれ、ヨルムンガルドに接続される。
「ヨルムンガルド側からじゃなくて、ヘイムダル側からアクセスして…うわっ!?」
「きゃあっ!?」
既に随分と離れた場所まで移動している二機にも、オーディンの攻撃の影響は届いていた。
近くに着弾した雷撃が海を吹き飛ばし、舞い上がった膨大な量の海水に飲み込まれるように二機も海中に沈んでいく。
しかしリイドは気にも留めなかった。 一刻も早く戻らなければならない。 システムを書き換え、自動航行を解除する。
「よし…! これで…あー!! でもこいつ、武器積んでないっ!!!」
「先輩、何が起きているんですか…!?」
「わかんないけど…ごめん、そのガトリング借りていいかな!?」
「え、あ、はい、どうぞ」
浮上し、再び飛翔しながらガトリングを受け取るリイド。
「あとはオリカに刀でも借りるかな…。 どうせ来てるんでしょ、あいつ?」
「そりゃ来てますけど…。 助けに来てくれてありがと〜、とか…。 会いたかったよ、とか…なんかそういうのないんですかね…」
「何か言った?」
「いえ。 オリカさんは先行しているカイト機とテイルヴァイトを回収しに向かいました」
「二人も来てるのか…。 ボクは戻るから、アイリスは…」
「帰りませんよ? 貴方はいつまで経ってもそうですね…」
深々とため息をつく。 しかし苛立ちはもうない。 そう思われているのなら、見返してやればいいのだ。
「私もこのあたりから援護します。 どうせ戻るっていっても聞かないんでしょうから、先輩は」
「ごめんアイリス…。 でも、援護するって…?」
「いいから早く行って下さい。 私も丁度いい場所を探します」
「わ、わかったよ…? それじゃあごめん、先に行く!」
ガトリングを構えて加速していくヨルムンガルド。
アイリスはその光を見送ってから、ため息をついて笑った。
「よかった、先輩が生きてて…」
顔を上げる。 ならば、生きているのならば。
死なせない努力をしよう。 せめて争いの渦中に自ら舞い戻る彼を死なせてしまわないように。
近くにある小島に向かい、ヘイムダルもまた飛翔を開始した。
⇒神々の、黄昏(3)
「無力だね、人は…。 たった一人の神さえ倒せない」
焼け焦げた大地のにおいが充満する空を銀の機体が舞っていた。
ネクタイを緩め、深く息を吐き出したスヴィアはその言葉に応える。
「思いの他お早い到着だったな、ユピテル」
「はは、そりゃあね。 早く君に会いたくて急いできたんだよ…ふふふ、あっははははははっ!!!」
槍を構えるオーディン。 対応するように、ガルヴァテインも両手に持った銃剣を十字に構える。
向かい合う二機。 今からまさに人外の戦いが始まろうと言うその時に、オーディンを撃つ光があった。
「ちっ…! 迷惑千万!」
光を捻じ曲げ、防御するオーディン。 その後方から迫っていたのはフォゾンライフルを構えたウロボロスとそれを追うヘイムダルだった。
「ウロボロス…カロードか!」
「オーーーーディィイイイン!!」
「うざったいんだよォ! 人間風情がッ!!」
槍を構え光速で移動するオーディン。 あまりの速度に一瞬だけカイトもカロードもその身を硬直させてしまった。
空中で放たれる光の刃。 槍の切れ味を増幅して放たれる一撃必殺を前に二機は回避行動が取れないでいる。
確実に死んだと思った瞬間、スヴィアが叫び声を上げるよりも早くテイルヴァイトが二機を下方にひき下ろしていた。
「羽虫が一匹増えたか…」
「何やってるのよ! カイトもお兄様も!!」
「え、エリザベス…」
「あのなあ、それはこの馬鹿兄貴に言えよ」
「あんたも考えなしに突っ込んだんだから同類でしょ」
「ぐは!」
エリザベスの言葉に慎重さを取り戻した二人はオーディンを取り囲むように展開し、四機で編隊を組む。
「カイト、カロード、エリザベス…。 わざわざ戻ってきたのか? 逃げろと命令したはずだが」
「そんな命令は聞けませんね」
「逃げたくても、仲間を見捨てて逃げるなんてあたしは出来ません!」
「俺は…リイドを助けるためだ!」
「カイト。 リイドはもう帰ったぞ」
「マジっすか!?」
「大マジだ。 というか、もしやお前だけ取り残されたのではないか?」
「そんなことはないよ〜! ヒロインはいつも遅れて登場するものだからね!」
両手に刀を携えた黒いヘイムダルが訪れる。
これで五機。 エース級の実力を持つこの世界屈指の機体に囲まれ、しかしそれでもユピテルは余裕の笑顔を浮かべていた。
「ぞろぞろ揃って賑やかになってきたね、人間」
「何、この感じ…。 やっぱりこいつ…」
目を細め、気持ちを切り替えるオリカ。 手加減をしていて勝てるような相手でないことは明らかだった。
オリカだけではない。 全員が相手を殺す事のみに集中する。 各々の武器を手に、オーディンに戦いを挑んだ。
「やるかい、人間―――!」
斬りかかるオリカ、カイトの二機のヘイムダル。 しかし近づいた直後、二機の両腕は海に墜落していた。
その腕が墜落するよりも、カイトとオリカが驚きの声を上げるよりも早く、既にオーディンの刃が二機のコックピットを狙っている。
この間二秒足らず。 ほぼ全く知覚できない現象に、それでも二人は咄嗟に反応する。 少しだけ軌道をずらし、コックピット直撃を回避した。
その二機を貫く槍が引き抜かれるより早く、ウロボロスとガルヴァテインの射撃攻撃が開始される。
「遅い遅い」
槍だけ残し、次の刹那にはオーディンは姿を消していた。
ウロボロスの背後に現れたそれは、鋭い爪でウロボロスをずたずたに引き裂き、ばらばらになった残骸を見るよりも早く、隣に飛んでいたテイルヴァイトに襲い掛かる。
誰も何もいえない。 言葉を発する事など、何百年にも感じるほどの長い時間。 ガルヴァテインの反応も、間に合わない―――。
「何ッ!?」
それは紅い閃光。
テイルヴァイトを引き裂こうとする腕を、的確にピンポイントに狙い撃った、この周囲には存在しない第三者による攻撃。
狙撃。
「当った…!」
遥か百キロ以上離れた無人島に、紅いヘイムダルの姿があった。
長大過ぎる折りたたみ式のフォゾンスナイパーライフル。 ヘイムダルの全長を越すその巨大な銃を、ヘイムダルは山を背に座して構えていた。
専用の狙撃用インターフェースに付け替えたヘイムダルカスタム。 照準を合わせるための光学バイザーから片目を外し、圧縮フォゾン弾薬の薬莢を排泄し、新たなバレルを装填する。
再び構えるライフル。 その全長実に役七十メートル。 一発撃つ度に凄まじい熱量が周囲を焼き払い、斜線軸に存在したものは須らく無に帰す威力を持つ、超超遠距離狙撃用装備。
ヘイムダルカスタム用狙撃銃、ギャラルホルン。 アイリスが考え、自らの才能を最も有効に活用するための結論…それが、戦場外からの遠距離狙撃。
命中誤差を修正し、計算し、的確な射撃能力により対象を一撃で破壊する。 格闘戦闘を不得手とするアイリスのはじき出した自分なりの答え。
「効いてる…。 いえ、それ以前にこれが直撃して全く五体満足なんて…。 何という化物―――!」
大量の水蒸気の中、瞳を輝かせるヘイムダル。
遥か彼方の空に浮かぶ銀の機体は確実にヘイムダルを捉えている。 しかしその距離からして近づくのは容易ではなく、オーディンの攻撃射程からも離れた場所に陣取っているため、すぐさま攻撃される不安はない。
そこまで考えつくした。 自分の戦いは臨機応変に対応する反射神経ではなく、考えつくした思慮の先にある頭脳戦。 始めたからには、勝てるという根拠。
本来ならば一撃でけりはつくはずだった。 あのノアでさえ、一撃でコアを打ち抜く自信はあった。
しかし、腕を撃つことしか出来なかった。 ユピテルは咄嗟に攻撃に反応し、回避行動を取ったのである。
無論現在もアイリスを視認出来ていない。 それでも彼方から放たれる殺気に反応し、回避動作を行うという驚異的能力。
頑丈なオーディンの腕も、直撃によりひしゃげている。 しかし動かないわけではなく、十分戦闘に対応する事は可能だ。
それはわかっている。 だからもっと、脆くて確実に落とせる部分に命中させなければならない。 的確に、すばやく。
「バレルセット…! 誤差修正、対象のカーソル内補足まで残り四十秒」
長すぎる時間だった。
四十秒あれば、オーディンの性能ならば追いついてくるだろう。
近づかれてしまっては出来る事は何もない。 だがしかし、少女は迷い無くカウントを刻む。
信じているから。
「狙撃…なんて、そんな陳腐な手段が通用するとでも…!」
オーディンの下方から急激に上って来るヨルムンガルドの姿があった。
墜落したオリカ機の腕から刀を回収し、それを構えて突っ込んでくる影。
「追いついたぞ…このッ!!!」
斬りかかる刃。 グングニルで受け止めるユピテル。
二人の少年は向き合う。 直感的に感じる、お互いの存在の危険性。
「リイドッ!!」
「スヴィアッ!!」
「ちっ―――!」
ガルヴァテインとヨルムンガルド。 機体性能の違いすぎる二機。 しかし、それらは抜群のコンビネーションでオーディンを攻撃する。
大打撃は与えられない。 それでも構わないのだ。 お互いをサポートし、一機では絶対に対応できない速度のオーディンの攻撃を耐えしのぐ。
「アイリスッ!!!」
「………ッ!」
弾丸が、放たれる。
光を放つその一撃はそれこそオーディン並の速度で対象に迫り、その頭部を貫いた。
「はあっ…! はあっ…!」
息を切らすアイリス。 凄まじい集中力を要求される狙撃攻撃。 息を切らし、オーディンの様子を伺う。
そうして誰もが絶句した。
木っ端微塵に吹き飛んだはずの頭部は既に再生が開始され、数秒後には元の状態に回復していたのである。
攻撃を受けてゆがんでいたはずの腕も今は傷跡さえ残っていない。 それはその場の誰もを絶望させるには十分すぎる結果だった。
「で…、まさかとは思うけどその程度でボクを殺したつもり?」
「…お前は…」
リイドとユピテル。 二人の声が重なる。
互いに機体越しに見つめあう二人。 その場に居た誰もが疑問を抱くその結果―――。
「ああ…そう。 そういうこと。 お前も、ボクなんだね」
「…何を、言っているんだ…?」
誰も彼もが混乱する。 それはどちらの言葉なのか。 なぜなら。
リイド・レンブラムと、ユピテルの声は。
いや、声だけではない。
姿形全てが、似すぎている。
ほとんど同じだと言ってもいい。
だから存在が悲鳴を上げている。
「この世界に同じ存在は、二人も要らない、ってね―――」
「何を呆けている、リイドッ!!」
振り下ろされる槍はリイドを乗せたヨルムンガルドの胴体を両断する。
一瞬の油断や隙が命取りになる場所で止まってしまった代償は大きい。
墜落するリイドのヨルムンガルドを足に引っ掛け、オリカ機が戦場を離れる。
「リイドくん、無事!?」
「オリカ…。 あそこに…あそこに、ボクがいる…」
「そう、ボクは君だ」
「君はボク…なのか」
オーディンの行方を遮るように立ちはだかるガルヴァテイン。
「これまでだな…。 オリカ! 生き残り連中の事は任せるぞ!」
「ほえ? なんで私?」
「お前だからこそ頼めるんだよ…! とにかく任せたからなっ!!!」
突撃するスヴィア。 ユピテルは薄ら笑いを浮かべながらその攻撃を受け止めた。
最早誰にも止められないその神の姿に、リイドは頭を抱える。
「何であそこにボクがいるんだ…ボクは…スヴィアのクローンなんかじゃ…ない?」
呼吸が苦しい。 めまいがする。
気絶するのと大差ない、強制的な意識中断を要求する眠気。
「こんなときに…眠くなってる場合か…よ…」
呟きながらインターフェースに頭を突っ込み、眠るリイド。
それを確認するとオリカは逃げるように戦場からゆっくりと後退を始めた。
〜久々の用語解説〜
『レーヴァテイン=マルドゥーク(オーバードライブ)』
エアリオとシンクロし、真の力を発揮したマルドゥーク。
非常に高い開放値を引き出し、マルドゥークという機体が持つ能力を最大限まで引き出した状態。
各部スラスタの合間から光りを放出し、超スピードでの飛行のほか、凍結、落雷、暴風などを発生させ攻撃できる。
防御能力に優れたマルドゥークの覚醒状態であるオーバードライブ防御能力は非常に頑丈であり、並大抵の攻撃ではビクともしない。
自分の周囲に結界を展開する能力や、強化ユウフラテスによる攻撃は全アーティフェクタ中最強と目される。
ちなみに他の機体…イカロスやイザナギでもオーバードライブ形態は存在すると目されているが、何故かオーバードライブが発動するのは現時点でエアリオのみである。
それはリイドとエアリオが通常の適合者と干渉者の枠に留まらない何かであることを示唆しているだろう。
尚、オーバードライブ後は通常のマルドゥークに戻る。
『レーヴァテイン(暴走)』
暴走状態にあるレーヴァテイン。
干渉者の存在もなしに強い開放状態に陥ることにより、適合者ごと暴走した状態。
開放値がぎりぎりまで引き上げられるため、急速にフォゾン化が進みそれだけで内部のパイロットは蒸発したりする。
武器どころか装甲もないので、攻撃手段は爪で引っかくなどの格闘に加え開いた顎による噛み付きとなる。
暴走状態にあるアーティフェクタ全てに言えることだが、限界までスペックを引き出された状態である暴走は、しかし長続きしない。
パイロットの意識が途切れるなり死亡するなりして停止するのを待つほうが利口だと言えるだろう。
また、この状態のレーヴァテインは肉体を損傷しても即座に蘇生する。
『ヘイムダルカスタム2nd-Spec アイリス機』
アイリス専用ヘイムダルカスタムをバージョンアップした超超遠距離支援砲撃に特化した性能を付加したもの。
主武装のヘビーマシンガンの他、バックパックユニットに超大型狙撃砲、通称『ギャラルホルン』を装備。
全体的に追加装甲を装備し、多少の攻撃には耐えられるように強化されている。
そのため速度と活動限界を犠牲にしているが、ギャラルホルンの破壊能力で全てを補っている。
余計な事は考えず一点に集中したいというアイリスの願望を形にしたものであり、第一神話級さえ一撃で撃退できる能力を持つ。
またカスタムスペックに改良されたと同時に内部インターフェースも大幅に改修が加わり、狙撃に特化した機体となっている。
カスタムパーツは取り外しが可能であり、通常のヘイムダルカスタムに戻す事も出来る。
『ヘイムダルカスタム オリカ機』
オリカ・スティングレイ専用に改良された黒いヘイムダル。
デザイン参考はレーヴァテイン=イザナギ。 無論、それほどの性能も特殊な能力もない。
非常に軽量装甲であり、二対の刀に全てをかけているといっても過言ではない。
飛行性能と加速性がカイト機よりも上であり、一撃離脱戦法を得意とするチューニングであると言える。
また、他のカイト機やアイリス機と比べると丁寧な仕上がりではなく、あくまでも即興のチューニングであるため、他のカスタム機と比べると見劣りする性能であると言える。
事実上の戦闘能力はパイロットの腕の差の問題で、全ヘイムダル中最強と言えるだろう。
『ヘイムダルカスタム エアリオ機』
作品未登場。 設定のみ存在。
蒼白いカラーリングのヘイムダルカスタム。 エアリオ用にチューニングされ、ライフル射撃の他投擲剣を装備していた。
汎用性の高い仕様はエアリオ・ウィリオが非常に高い戦闘適正を持っている事を所以としている。
いざという場合はエアリオもヘイムダルに乗って出撃する〜というセリフをどこかでルドルフがいっていた気がする。
いずれは登場する予定だったが、色々な理由から未登場機となった。
『ヨルムンガルドカスタム アローヘッド』
ラグナロク用に改造を施されたヨルムンガルドカスタムタイプのうちの一機。
搭乗者のミリアルドの趣向に合わせ、肩部に巨大なカノン砲を装備している。 また、肩部の武装は付け替えが可能。
その他、専用の重火器をいくつか所有し、面制圧に特化した期待であると言える。 また、突貫能力も高く、装備によっては敵陣を突き抜ける事も可能。
エリザベスの愛機、テイルヴァイト同様リンクシステムを流用している。
ミリアルドはカロードと同じ適正能力を持つ男性クローンのため、その戦闘力はエリザベスを上回る。
独自のフォゾンスラスター技術により長距離の飛行は可能だが、テイルヴァイトに比べるとだいぶ速度は遅い。
『ウロボロス』
ラグナロク用に開発されたヨルムンガルドの後継機。
第二世代ヨルムンガルドとでも言うべきその能力は通常のヨルムンガルドを遥かに上回り、後継機というよりは全く新しい新型機であると言える。
主武装はフォゾンをふんだんに使用しており、フォゾンライフル、フォゾンサーベルなどの光り武装を所持している。
また全体的な性能が非常に安定しており、あらゆる面でヘイムダルカスタムをも凌駕する。
特殊武装としてフォゾンシールドやフォゾンバリアーなど、特殊な防御能力も備えている。
非常にハイスペックな当機だが、扱えるものは少数…それ以前に量産を前提としていない機体のため、今のところ配備されているのはラグナロクのみである。