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嘘と、真実と(2)


卒業式は順調に行われた。

カイトを含める三年生たちはそのまま共同学園の高等部に進学する事になるため、卒業という感慨はそれほど多くなかったのだが。

目を覚まさぬエアリオや不在のリイド。 不安要素や晴れない心はたくさんあったものの、時は止まらず、当たり前のようにその日はやってくる。

内部抗争の余波も引き、ようやくヴァルハラに戻りつつある平穏の中、久々に通した制服の袖の感触に違和感を覚えたのはアイリスだけではなかった。

カイトもまた同様に自らの制服姿に違和感を覚える。 今まではそれでもよかった。 学生でもよかった。 だが、今はもう違う。

仲間を失い、世界の現実を知り、過去を知り、自分たちの戦いが最初から仕組まれていたものだと知り―――心に曇りが生まれていた。


「カイト先輩は、受験したんですか?」


卒業式後、カフェテリアに足を運んだ二人は席について昼食をとっていた。

珍しくまじめにきちんと制服を着こなしているカイトだったが、式の終了に伴い真面目な時間も終了したのか、ネクタイを緩めながら答える。


「カグラが後で俺だけ受けさせてくれるってさ。 ほら、内部抗争のいざこざで外出るの禁じられてたしな。 まあ勉強する猶予が出来たと思って喜ぶさ」


「勉強、するんですか?」


「…それは、言うなよ」


苦笑しながら答えるカイト。 二人は互いに紙コップを手にしたまま、静かに空を見上げる。

プレートで覆われた塔の町。 静かに眺める世界。 穏やかに流れ、あの争いさえもう過去のことのようだった。

それはきっとジェネシスの情報操作のおかげなのだろう。 良くも悪くも、この世界は―――ヴァルハラは、ジェネシスに管理されているからこそ平穏を保つ事が出来ている。

あれだけ派手に行われていた抗議運動がどのようにして息を潜めたのかはわからない。 わかるはずもない。 事実まだデモは続き、世界は今この瞬間も少しずつゆっくりとだが変化している。

しかし、ジェネシスという巨大な企業はその変化さえ眼に見えぬものにしてしまう。 そうして情報を操作されてきたのは、自分たちとて例外ではない。


「寂しくなっちまったなあ」


カイトの呟き。 アイリスは手にした紙コップにこめた力を少しだけ強める。

四人で囲んだはずのテーブルに、今は人影が二つだけ。 そのうち一つはもうあの頃とは違うし、空席は埋まらない。


「やっぱり駄目だな。 普通の学生に戻る事なんか、いまさら出来ねぇ」


席をたつカイト。 ポケットに片手を突っ込んだままアイリスに苦笑してみせる。


「まだどうすればいいのかはわかんねえし、何が出来るのかもわかんねえけど…でも俺はやるさ。 このまま引き下がってたまるかよ」


「…私は…」


「…今日から家に帰っていいそうだし、一度戻ったらどうだ? 母親と仲悪くても、もうあれから一週間以上だ。 そろそろ顔出さなきゃ心配してるだろ」


「あの人は私の心配なんてしませんよ…」


うつむいてオレンジジュースをストローで吸う。 甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、少しだけ喉がしびれるようだった。


「でも今の私にいける場所なんてほかにありませんから…帰りますけど」


「そっか…。 結局なんか、俺たちばらばらだな」


ルクレツィアとシドは一度ヨーロッパに戻る事になった。 元よりカグラの呼び出しに応じていただけであり、期限を過ぎれば戻るのはおかしなことではない。

無論彼女たちも納得したわけではなかったが、故郷を長く空けることが出来ないというのが本心だったのだろう。 なんにせよしばらくの間はエクスカリバーは戻らない。

カグラは仕事が忙しいのか卒業式にも出席せず、オリカに至っては既に数日姿を見ていなかった。

誰もの心がばらばらになってしまうようで、二人とも寂しさは拭えなかった。


「もう、行くわ。 ここにいても…いい思い出が浮かんできてむなしくなるだけだ」


「はい」


去っていくカイトの後姿を見送る。 それからアイリスも仕方なく歩き始めた。

ロボットに乗って戦っていようがなんだろうが所詮彼女も十四歳の子供に過ぎない。

帰るべき場所はある。 家族もいる。 もう二人きりになってしまったとしても、血縁だけは切ることもできない。

憂鬱な気分を押して歩く帰路。 二週間近く戻っていなかった実家へ向かい、アイリスは歩みを進めた。




⇒嘘と、真実と(2)




「目が覚めたらしいと聞いてな。 顔を出しに来てやったぞ」


幽閉されたままのリイドが顔を上げる。 相変わらず漆黒のスーツに身を包んだスヴィアはリイドの傍らに立ち、無味無臭の瞳でリイドを見下ろす。


「…理由を聞かせてくれ。 でないと今すぐあんたを殺してしまいそうだ」


勤めて冷静に―――いや、最早怒る気力も残っていなかったのかもしれない。 呟くような言葉を受け、スヴィアは壁にもたれ腕を組む。


「何が知りたい」


「ここはどこだ」


「場所はいえないが、ラグナロクの基地だ」


「あんたはラグナロクなのか」


「そうだ。 ラグナロクという組織の設立者がこの私だ」


「…何のために、ラグナロクを作った」


「運命に抗う為に」


顔を上げた。 その答えはそれまでの質問に対する答えとは異なり、圧倒的に不明瞭だった。

端的に、しかし確実に返答を重ねていたスヴィアの突然の意味不明の答えに思わず眉を潜める。


「…運命…? なんだそれ」


「抗う事の出来ない絶対的なロウ…それが運命だ」


人知を超越するこの世の法則。 超常の類。 オカルト的な意味さえ含むその言葉は、大それた計画の理由としてはあまりにも稚拙。

説得力に欠けると言わざるを得ない謎かけのような返答にリイドは不信感を隠しもせずスヴィアをにらみつけた。


「何が運命だ…! そんなものがあるわけが、」


「ある」


強い言葉だった。

リイドの言葉をとぎらせたその言葉。 圧倒的肯定。 既に確信があると、そう思わせるような。


「この世には、抗えぬ絶対的な法が確かにある。 それはとてもシンプルでいい。 複雑に考える必要はない。 人間は食わねば生きていけない。 それは動物もそうだ。 それを運命と言わずなんと呼ぶ」


「…生命活動の維持に必要な行動だろ?」


「かもしれんな。 では食物連鎖はどうだ? 人が水中で生きられないのは? 空を飛べないのは?」


それは、『そういうものだから』としか言えない。

当たり前のように世界に散らばる決まりごと。 それらの理由を探求し、追い求め、それを解明する日が来たとしても、それは一つの法以外の何者でもない。

そうしたルールを運命と呼ばずなんと呼ぶのか。 スヴィアはそう常に自らに言い聞かせてきた。 運命は超常現象の類でもオカルトでもなく、確実に世界にあるどうしようもないことなのだと。


「故に、運命に抗うという事は並大抵ではない。 抗えぬから運命というのだから」


「待てよ。 そんな謎かけがしたいわけじゃない。 あんたは何をしたいのかって話だ」


「言っただろう。 運命に抗う事だと」


「そうじゃない! もっと具体的なことを語れよ!!!」


「語ったところで理解できるのか?」


息を呑む。

真実とは常に万人に理解できるものとは限らない。 それを理解し受け入れるだけの知識が必要になる。

無知な人間は突然に真理を突きつけられたとてその意味が理解できない。 理解の出来ない情報は真実になりえるのか? 答えはNOだ。

小学生に因数分解を説いたところで意味などない。 より高度な情報を与えるという事は、相手が自分と同程度の情報を有している事がまず前提となる。

リイドはそこに達していないと、スヴィアはそう判断している。 語ったところで理解できぬのなら、語るだけ無駄だと。


「私がお前に望むのは真実の探求などではない。 ただこれ以上戦ってほしくないだけだ」


「何だと…」


「お前は特別だ。 だが、それ故に脅威でもある。 人とは違うという事は排除される理由としては十分すぎる。 もう、これ以上力を行使するな」


「何言ってんだよ…。 わけわかんないよ…。 それにもう、レーヴァテインは…」


破壊されていくレーヴァテインの記憶。 鬼神のごとき強さを発揮したガルヴァテインの姿も、身体が根本的に恐怖を記憶している。


「全てが終わったのなら、お前を自由にしてもいい。 だがお前は、どんな手を使ってでも戦うだろう」


スヴィアにしてみればリイドの行動などお見通しだった。 レーヴァテインがなかったとしても、リイドは戦い続ける…それは判りきっていることだ。

故に力の最たるレーヴァテインの破壊は必要だったし、こうして隔離しておくことも必要なことだった。


「エアリオが自らを代償に救った命だ。 無駄にはしたくない」


「…」


シーツを強く握り締める。

エアリオに銃を向けたとき、一瞬だけスヴィアは戸惑いを隠せなかった。

それだけエアリオに対する思い入れが強く、スヴィアほど私情を隠せる人間でさえ殺しきれなかったということ。

そうまでエアリオを思っていたというのに―――何故撃ったのか理解出来なかった。

さっていく背中を見つめる。 視線を落とし、静かに目を閉じる。


「こんなところでじっとしているんじゃ…それこそ無駄じゃないか…」


スヴィアは何も答えず、足を止める事もなく、そのまま去っていった。




「何してるんだろう、私…。 これじゃまるで、全部無駄じゃない…」


家に帰る事も無く、街中を一人彷徨い歩いていた。

流れていく人の波はいつもとめどなく、ちっぽけな自分の存在なんて眼中にないかのよう。

そうして限りなく自分の鼓動を雑音でかき消してくれれば、少しは嫌な事を忘れられるのだろうか…そんな馬鹿なことを考える。

戦ってきた。 その時間は限りなく短く、たった一月程度。 その間も戦っていた時間よりも、戦っていなかった時間のほうが多い。

いつも自分の弱さに後悔し、気づくときには大事なものは手元を離れていく。

コンクリートの壁に背を預け、吐き出す息は白く空に昇っていく。


「寒い…」


今までそんな気分になる事なんてなかった。

いつでも自分は一人なんかじゃなかったから。

誰かが隣にいてくれて、目指す場所に誰かの背中があって、それを追いかけている間は何もかも忘れていられた。

振り返ればそこにあるのは急ぎ足で必死に駆けていた子供のままの自分の姿。 あがいていたのは、きっとその幼い笑顔から逃れたかったから。


「子供だ、私―――」


自らの身体を抱きしめる。 静かに伏せた視線に誰かの靴が入り込み、顔を上げるとそこにはライダースーツに身を包んだベルグの姿があった。


「久しぶりだな」


「…ベルグ」


「どうした? 一応今日はおめでたい日のわけなんだがな。 随分浮かないツラだ」


「いえ…。 ただ、自分の無力さに心のそこから嫌気が差していただけです」


眼鏡を外し、クリアな視界で世界を眺める。

木製の眼鏡ケースを指先でなぞり、静かに眼鏡を納めた。


「ベリルはどうしたんですか?」


「ああ、これ」


黒いシャープなデザインの携帯電話をアイリスに突きつける。

そこにはカイトからベルグに宛てられた一通のメールが。


「内容まで説明したほうがいいか?」


「いえ、結構です…。 先輩ったら、もう…」


気を使われてしまった。 当事者である自分ではどんな言葉も迷いに満ちているからこそ、部外者の力を借りる。

親友であり、幼馴染であるベルグ―――彼もまた、アイリスの身を案じる一人だった。

バイクをコンビニエンスストアの駐車場に停車したまま二人は町を歩いた。


「小僧が、卒業式にも居なかったな」


「…小僧?」


「レンブラムだよ。 あのくそガキ…何があったんだ?」


「…先輩は…その…」


「いや、別に言えないなら構わないぜ。 というか、別にあんなやつ興味の対象外だしな」


肩をすくめて笑ってみせるベルグ。 けれどそれは強がりで、本当は心配しているということをアイリスは知っている。

苦笑する。 素直になれない人ばかりで、世の中はずれたまま不思議とかみ合っている。

その理解しあう事の出来る人と出会えた時の心地よさは、どうしてこう、どうしようもなく―――。


「もっと分かり合えたらいいのに」


「…何はともあれ、俺らはもう中等部は卒業だ。 お前に会う機会、また減っちまうな」


イリアとカイトがレーヴァテインの為に時間を奪われ、秘匿義務のせいで会話が減っていた時、アイリスを支えてくれたのはベルグだった。

ただでさえ会う機会が少なかったというのに、これ以上減ってしまうとなると寂しさも一入。 相談役がいなくなってしまうのは、やはり色々感慨深かった。


「でもいつまでもベルグに頼っているわけにもいきませんから」


「そいつはご立派だな。 で、イリアの卒業証書は受け取ったのか?」


「はい。 かばんにいれっぱなしですが」


「墓参り、行かなくて良いのか?」


ベルグの問いかけに静かに首を横に振るアイリス。

かばんに手を触れ、思いを馳せる。


「姉さんの身体は、どこにもありません。 お墓も、形だけのものです。 だったら忘れないように、私が持って…姉さんを近くで感じていたいから」


「…そうかい」


「ベルグこそ、カイト先輩と会わなくていいんですか?」


「あぁ? 知るかよあんなやつ…」


「そんな事言っていつもすねてると大事な事言いそびれちゃいますよ」


「余計なお世話だ。 それにもう、あいつと語り合う事なんか何もねぇよ…。 もう、あいつはちゃんとやるべきことをわかってるんだからな」


アイリスの少し先を行き、振り返るベルグ。 その視線は優しく穏やかで、それはまるでアイリスにとって兄のような人で。


「お前こそ、大事な事を伝え損ねないように気をつけろよ」


「え?」


「もう行くわ。 思ったよりお前、落ち込んでも居ないみたいだしな」


「あ、ひどいです。 これでも結構傷ついてますよ?」


「そうか? 俺にはもう、お前はやるべきことを判ってるように見えるけどな」


軽く手を振り人ごみの中に消えていくベルグの背中。

それを見送り、アイリスはまだもやのかかっている自分の胸に手を当てた。




「やっ」


「…は?」


顔を上げるリイドの視線の先、リイドより一回り年上の少年が立っていた。

ラフな服装に身を包んだ少年はリイドの目の前に立つと顔を覗き込み、優しく微笑む。


「はじめまして。 俺はミリアルド。 ラグナロク、蒼の旋風隊の一人だ。 お前は?」


「えっ…? おっ…? え、っと、ボクは…リイド・レンブラム」


「リイドか。 リイド・レンブラム。 なるほどね、ファミリーネームがあるんだ。 よろしく、リイド」


笑顔で握手を求めるミリアルド。 自分が監禁されている、しかも敵陣のど真ん中にいるという事も忘れてしまいそうな雰囲気に、思わず握手に応えてしまう。

蒼い髪の少年はそのままリイドを引き起こすと、出口に向かって歩いていく。


「ちょ、ちょっと!? どこに連れて行くんだよ!?」


「外だよ。 こんなところにずっといたら窮屈だろうと思ってね」


「そうしろってスヴィアがいったの!?」


「いや? お兄さんたちには内緒さ。 でもま、いいじゃないかそういうのも」


「何が!?」


さっぱりと理解出来なかったが、強引に手を引くミリアルドに続き結局廊下に出てしまった。

やはり窓は無く、ここがどこなのかもわからない。 もしかしたらどこか地下のような場所なのかもしれない。 長々と続く白い廊下はSIC本社を彷彿とさせる。


「ミリアルド、だっけ…? なんでボクを外に出すんだ…?」


「ん〜。 いや、だって俺たちは兄弟みたいなもんだろ」


「…ボク、君みたいに髪色まで違う兄弟がいるなんて知らなかったんですけど」


「ははっ! まぁそうだろうねえ。 でもま、ラグナロクがどんな場所なのか、知っておいても損はないんじゃないか?」


「どんな場所って…テロリストだろ?」


「かもな。 でも、それだけじゃない」


とある一室の前で立ち止まり、ロックを解除する認証システムに手を翳す。

開いた扉の向こうは広く、噴水を中央に周囲はちょっとした庭園のようになっていた。

その庭の中を幼い子供たちが駆け回って遊んでいた。


「なんだこれは…」


「ラグナロクは家族なんだよ、全員な。 あの子供たちは右からユノ、シキ、クロエ…俺の名前も含め、俺たちは互いに自分たちに名前を付け合うんだ。 いい名前だろ? これでも結構気に入ってる」


「付け合うって…」


「俺たちには最初から名前なんてない。 俺たちは…ジェネシスの研究で作られた、クローンだからな」


「はっ?」


「まぁ、座ろうぜ。 立ったまま話すようなことでもねぇや」


戸惑いを隠しきれないまま、ベンチに腰掛ける。

二人の姿に気づいた子供たちはミリアルドの名前を呼び、ミリアルドはその呼びかけに手を上げて応えた。


「ミリアルド。 クローンって…何、どういうこと? ジェネシスがそんなのやってたなんて、聞いた覚え無いんだけど…」


「ああ。 アーティフェクタに乗ってると、すぐ中身は死んじまうだろ? だから、アーティフェクタに長時間乗れるように…あるいはパイロットの代用品として量産できるようにと研究、開発されたのが俺たちなんだよ。 レーヴァテインプロジェクトの一環で生み出された、カスタムクローン…それが俺たちの正体さ」


「…なんだ、それは…」


「エリザベスのやつの身体を調べなかったのか? あいつにも俺にも、お兄さんにもあいつらにも、ユグドラ因子が組み込まれてる…それも、一つや二つじゃない。 そのせいでどっちにしろ長くは生きられないし、突発的に死んじまう可能性もある。 ま、おかげで操縦技術や戦闘技術は人間離れしてるけどな」


「待て…。 待ってよ。 何、レーヴァテインプロジェクトって…。 じゃあ、君たちラグナロクの生みの親は、ジェネシスって事…?」


「そう言ってるだろ。 俺たちは不完全だけど、一応は強力な化け物さ。 で、俺が見たところ―――リイドも同じ、カスタムクローンなんだろう?」


「…ボクが…クローン?」


強い衝撃が走った。 喉が渇き、指が震え、前後不覚に陥りそうになる。

背もたれに体重を預け、静かにため息をつく。 胸に手を当て考えれば、納得できない事もない。


「特にお前はスヴィアさんに似すぎてるくらいだからな。 最も完成形に近いクローンなんだろ? 俺たちの元は、スヴィアさんなわけだしな」


「スヴィアが元って…じゃあ、オリジナルがスヴィアってこと…?」


「まぁそうなる。 あの人は唯一無二の、アーティフェクタに完全適合出来る人だからな。 そのデータを元にクローンを生み出しても変なことじゃないだろ」


「―――なんだそれ。 ボクはじゃあ…なんだよ、記憶喪失なんかじゃないんじゃないか…」


ただ、自分が生み出された日より前の世界を知らないだけの話…そう考えればおかしな事にも説明がつく。

目にした最初の記憶は、何故かスヴィアだった。 他の事は何も覚えていなくて、ただ目の前にスヴィアが立っていたことだけを鮮明に覚えている。


「これは、そうか…。 クローンだから…」


「やっぱり知らなかったんだな。 じゃあ、スヴィアさんがお前に願ってた事も知らないんだろう?」


「何…?」


「それはいえないな。 でもま、そういうわけで俺たちは家族みたいなもんだ。 そんなお前を独房に入れっぱなしってのも、少々良心が痛むしな」


「………納得はいかないけど、感謝はしてるよ。 なんだか少しだけ疑問が晴れた気がする」


「ショックか?」


「それなりにはね。 でも元からおかしかったんだよ、ボクの存在は…。 そっか…、全部仕組まれてたんだな…」


噴水に視線を向け、深く息を吐き出す。

全ては仕組まれていた事だった。 自分の人生も、意思も、何もかも。 戦いも、悲しみも、人と心を通じ合わせる幸せも。

ならば自分に何が残るというのか。 何も残らない。 まっさらになってしまった。 もう、悲しむ理由さえよくわからない。


「ミリアルド」


二人同時に振り返ると、そこにはエンリルが立っていた。 

無表情な彼女なりに血相抱えた様子だったので、いなくなったリイドを探し回っていた事は一目瞭然だった。


「どうして勝手に連れ出したの…?」


「こいつもクローンなんだろ? よくわかんねぇけど、リイドはスヴィアさんと同じ感じがする」


「…話したの?」


「ああ。 まあ、全部じゃないけど。 概要くらいは」


「…そう」


奇妙な沈黙。 エンリルはそれを知られたくなかったのかもしれない…そんな事をリイドは思った。


「あのさ」


気づけば開いていた口。 エンリルの戸惑う視線をまっすぐに見つめ、眉を潜める。


「君も、なのか…? 君も…エアリオの…」


「………」


小さく頷くエンリル。 その答えに、リイドは目を閉じて静かに首を横に振った。


「なんだよ、それ…」


わかっていた。

それくらいのことでなければ、これは似すぎているのだと。 二人の関係が皆無なわけがないのだと。

だが、それだけなのだろうか。 本当にそれだけなのか。 まだ何かがひっかかっている。 何か、まだ何か。

けれどそれはわからないままで、だからきっと今は目の前の事実を処理するだけで手一杯で、そこまで考え至らないのは仕方のない事だったのだろう。

子供たちの無邪気なはしゃぎ声をBGMに、それを眺めてリイドは微笑む。


「スヴィアは許せないけど…でも…あの子たちに罪はあるのかな」


「ないわけじゃないさ。 あいつらだって成長したら戦う事になる。 ラグナロクのパイロットは、全員子供なんだからな」


「…ボクは、今までその命を奪ってきたんだね」


「言うなよ。 それを言えば、俺たちだって同じ事だ」


立ち上がり、手を組んで銃を撃つような形を組み、口で『ばーん』と言って見せる。


「殺す決意がなきゃ生きて戻ってこられないのが戦場だろ? こうして話し合えるチャンスなんてめったにあるもんじゃない。 俺だって戦場で会えばおまえに容赦はしないさ」


「わかってる。 わかってるけど、ボクは…」


強く握り締める拳。 何の為に戦うのだろう。 何を求めて戦うのだろう。 誰を憎んで。 誰に憎まれて。


「スヴィアは子供を戦わせてまで何を成し遂げようとしているんだ…」


「優しいんだな、お前は」


リイドの肩を叩き、苦笑してみせるミリアルド。


「そういうとこは、確かにスヴィアさんに似ているかもな」


「…君は、スヴィアの事が憎くないの?」


「何で?」


「だって、君は…スヴィアのコピーなんだよ? ボクもそう、あそこの子供たちもそうだ。 誰かの代用品になるために生み出されたなんて、ボクは…」


「それでも生きてるだろ」


当たり前のように答えるミリアルド。 リイドは目を見開き、静かに閉じる。


「…ボクは…ボクだってそうだ。 スヴィアを心のそこからうらむことなんて、出来ない…」


自分の支えは。 記憶の無い自分のそばにいてくれたのは。 スヴィアだったから。


「ボクにとってスヴィアは…何があっても兄なんだ…。 本当に、嫌になるけどね」


「そういうもんだろ、血のつながりってのは。 切って切れるようなもんじゃねえさ」


「―――そう、なのかもしれないね。 いや…きっと、そうだ…」


肩を並べ、水の音に耳を傾ける二人の背中を、エンリルは静かに見守っていた。



ミリアルド「よっ! 今日からこのおまけコーナーはラグナロクがジャックするぜ。 みんなおなじみ、登場回数少なすぎなのにもう完結に向かい始めててちょっと悲しいミリアルドだ」


カロード「僕はロリコンではない、ただ幼女が好きなだけだ…が、キャッチフレーズのカロードだ。 具体的には何だか寡黙な女の子が好きだ」


ミリアルド「さて、それじゃあこのおまけコーナーの主が死んでる間に色々やろうじゃねぇかい、お兄さん」


カロード「ああ。 だが、何をやればいいのか全くわからん」


ミリアルド「そうだねぇ。 ここはやっぱりファンサービスということで、女の子をいっぱいだしておくべきだったんじゃないかねぇ」


カロード「そうだな。 だがそれは根本よりこの企画を否定する事でもある。 ちなみにそもそもファンがいるのかどうか疑問だが」


ミリアルド「あーそうねえ。 というか、女性読者の場合は女の子出すより俺たちのほうがいいんじゃない? 何せ美形だし」


カロード「最近常々思うのだが、何でも美形にすればいいというものでもないだろう」


ミリアルド「特に最近のロボット物はそういう傾向にあるから仕方ねぇよ」


カロード「どうすれば読者が喜ぶような作品に出来るのだろうか」


ミリアルド「リアルに謎だからそういうことは別のところで考えような、お兄さん」


カロード「そうだな…。 このまま出番があまりないまま終わってしまったらどうしようとか、そういうところを考えるとしよう」


ミリアルド「アハハハハ!」




カイト「(早くエアリオ帰ってきてくれ…! 俺の居場所がねぇよう!)」

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