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涙、枯れ果てるまで(2)


「感じるか、シド…この不穏な気配」


「ああ。 なんだかよくわからんけど、重苦しくて…息が出来なくなるような、纏わり着くような…そんな空気だ」


天を駆けるエクスカリバー。 大空を覆うのは灰色の雲。 大地に降り注ぐ雨は強くしたたかに打ちつけ、世界の音を掻き消しているかのよう。

目的地はまだ遠く、目視する事は出来ない。 しかし確かにそこに何かが起きようとしているのを感じている。


「エクスカリバーが…怯えている?」


今まで感じたことの無い気配と反応。 見据える視線の果て、眩い閃光と共に雷鳴が鳴り響いた。


「急ぐぞシド…。 何か…胸騒ぎがする」




純白の大地。 白い砂を巻き上げ、レーヴァテインは嵐の中心に立っていた。

干渉者の存在しないアーティフェクタ。 武器はなく、防具もなく、盾もなく、翼もない。

だというのに、そのレーヴァテインの様子は今まで見たどんな姿よりも神々しく、怒り狂い、全てを飲み込む怒気を隠す事無く放っている。


「エアリオ…」


コックピットの中。 薄暗く、照明さえ存在しない棺の中でリイドはエアリオの亡骸を抱いたまま、操縦桿を強く握り締めていた。

うなだれる視線。 その先には、微笑んだまま目を閉じている血まみれの少女がいる。

少女はもう何も言わない。 背後でいつも見守っていてくれた彼女は、もう冷たくなってしまっている。

あんなに暖かく、触れ合う指先から全てを感じることが出来たはずなのに。 今はもうなにも、なにひとつ、感じることが出来なかった。

脳裏に過ぎる様々な思い出。 銃を向け合い、戦場で出会った二人。 窮屈なコックピット。 近すぎる共同生活。 すれ違う日々。

それでも。 だとしても。 けれども。

少しずつ、触れ合った。 ゆっくりと、理解しあった。 心を、指を、伸ばして。 相手を知りたいと、知ってほしいと、願っていたのに。


「どうして殺したんだよ…」


ゆっくりと顔を上げる。


「殺すんなら、ボクを殺せばいいだろう…」


長い前髪から水滴が零れ落ち、涙と一緒に少女の頬ぬらした。


「何してくれてんだよぉ…テメエエエエエエエエエエッ!!!」


空を仰ぎ、レーヴァテインが叫ぶ。

空を覆っていた雲が裂け、レーヴァテインを中心に円形の光が降り注ぐ。

大気を震わせ大地を砕きその身に雷鳴と光を蓄える叫び。 コックピットの中で兄と呼んだ青年を睨むリイドの瞳は金色に輝き、レーヴァもそれに呼応するように瞳を光らせていた。


翳す掌。 武器などない。 ただの手。 それを強く握り締め、一気に、押し出す―――!


「…何っ!?」


スヴィアが驚くのも無理は無かった。 一瞬で何かが飛来し、ガルヴァテインの身体を直撃する。

フォゾン波動を圧縮した衝撃波。 大地はねじ切れ、そぎ落とされ、レーヴァテインを中心に鋭い巨大な刃物で切り裂いたような痕を残していた。

じりじりと焦げ付くガルヴァテイン。 ぬれていた大地の水分が蒸発し、白い水蒸気を炊き上げながらレーヴァテインを覆い隠している。

最早そこにいるのはアーティフェクタなどではなく、一個の神にすぎない。

人間を内蔵し、人間の感情を持ち、ただそれだけの、一つの神話。


霹靂のレーヴァテイン。


光と雷を武器とする、レーヴァテインそのものの能力。

干渉者も存在しない絶対不利の状況において、それだけの力を発揮できた理由。

レーヴァテインという、一つの神が持つ、レーヴァテインそのものの能力。

故に純粋であり、故にリイドの呼びかけに強く反応する。


全ての生命が畏怖する雄叫び。


雷鳴は空を割り、大地を砕き、全てを無に還す。


それはまるで、レーヴァテインが涙を流し、暴れ狂っているかのようだった。




⇒涙、枯れ果てるまで(2)




「考えたくねえよな…。 エアリオがスパイだったとか、そういうことはさ…」


自室に戻らず、広い廊下の壁に寄りかかったカイトが呟いた。

隣には膝を抱えるアイリスと、ジーンズのポケットに手を突っ込み目深に帽子を被っているオリカの姿もある。

しかし二人はカイトの言葉に反応せず、結果カイトは独り言を続ける状況が続いていた。


「いつからそうだったんだろうな…。 あいつ…俺たちの事…」


「エアリオ先輩は…本気でリイド先輩を信じていました」


割って入ったのはアイリスだった。 顔を上げ、静かに言葉を紡ぐ。


「リイド先輩がオリカさんとレーヴァを無断で持ち出した時も、エアリオ先輩だけは最初からリイド先輩の事、信じてました。 どんなときでも彼女が冷静だったのは…いつも、リイド先輩の事を信じていたからなのではないでしょうか」


「…信じていたから…か」


「きっと、エアリオ先輩にも何か事情があって…。 だからきっと、それは仕方のなかった事で…。 だから私…私…、エアリオ先輩が帰ってきたら、その理由を聞きたいです。 聞いて…それから、顔を思いっきり引っぱたいて。 あの時私にそうしたみたいに…」


ぎゅっと、拳を握り締める。


「それからちゃんと…もっとちゃんと…話し合って…」


「ああ。 そうだな。 あいつらが戻ってきたら、おかえりっていってやろう。 エアリオが怒られても、俺たちが庇えばいいんだ」


「どうかな。 私はエアリオちゃんを許せる自信がないよ」


二人の雰囲気をぶち壊しにする一言。 オリカは顔を挙げ、まだ冷めた瞳のまま、アイリスとカイトを交互に見つめる。


「許される事じゃないと思う。 例えみんなが許しても、私は許せないな。 それでリイド君が死んじゃったら、どう責任取るの?」


「でも…」


「でもも何もねアイリスちゃん。 人間死んだらそこでアウトなんだよ? 次はないの。 責任は取れないしどうにもならない…きみたちだってそれくらい、わかってるでしょ?」


今までにも―――大事すぎる人を失ってきた。

だからわかる。 なんとなく予感があるのだ。 何か大切なものを、失ってしまう予感―――。


「…部屋に戻るね。 ここにいても出来る事は何もないから」


二人に背を向け去っていくオリカ。 カイトもアイリスも一言もオリカの言葉に言い返すことが出来ず、黙り込む。


「頼むから…ちゃんと戻って来いよ…! エアリオも、リイドも…! もう嫌なんだよ…仲間が死ぬのなんて…ッ!!」


壁を殴るカイトの拳。 義手ゆえに血は滲まず、ただ痛みの無い腕の感触だけが鈍く残っていた。



振り上げた爪は。



振り下ろされると同時に大地を引き裂き、光を炸裂させる。

暴発し暴食する落雷。 全てを貫き焼き尽くし、浄化する。

それはまるで暴れ狂う龍のようだった。 大地を失踪し、ガルヴァテインのありとあらゆる攻撃を弾き返す。

瞬間、エンリルが目を見開き、シンクロを強めた。 見る見るうちにガルヴァテインの開放値が上昇し、戦闘能力が飛躍的に高まる。

それは危険な賭けだった。 そこまでシンクロを高める事はエンリルにとっては非常に強い付加を代償とする。 しかし、シンクロを高めなければ一瞬で敗北しかねない敵―――それが今のレーヴァテイン。

純粋な暴力と殺意の権化。 一切の感情を排除し、その殺すという行動のみに特化した能力は、第一神話級という言葉では括りに出来ぬほど強力。

大地を疾走し、空中に跳躍。 上空から遅いかかるレーヴァテインの爪を両手の銃剣で防ぐが、同時に直撃した落雷により一瞬スヴィアの意識が吹き飛ぶ。

途切れる感覚をつなぎとめるように歯を食いしばり、操縦桿を捻る。

二機は超至近距離で白兵戦を続ける。 刃と爪とがぶつかり合い、人知を超えた速度で展開する攻防。

本来、敵の行動予測や自機の運動制御などはナビゲーターでもある干渉者が勤める。 しかし、リイドは単体でそれを成し遂げ、動かしている。

自らの脳の思考効率を限界まで引き上げ、恐ろしい速度で全てを予測するリイドの瞳は、最早未来予知と呼んだほうがいいのかもしれない。

激突する無数の刹那。 迸る閃光の雨。 踊るように刃を振るい、二機は距離を置く。


「腕を上げたなリイド。 だが、そんな戦い方をしていてはお前自身が壊れるほうが早いぞ」


「はあっ…! はあっ…!」


暴走オーバードライブ

今のレーヴァの状況はこの一言に尽きる。

リイド・レンブラムは干渉者を介せず、直接レーヴァテインに精神を繋げた状況にある。

それは驚異的な出来事だ。 人間には不可能な無理難題。 強制的に機械の神の魂に触れる代償は激しく、リイドの肉体を急速に侵食していく。

鎧もなければ力もないただのレーヴァテインでそれだけの力を引き出すという事は並大抵の事ではない。 このまま戦い続ければガルヴァテインを破壊する前にリイドは倒れ、再起不能に陥る事だろう。

それは誰よりリイド本人が理解していることだ。 故に息を切らし、汗だくになりながら必死に考える。 どうすればいいのか。 この状況を打開する手段を。

しかし、思考が正常に働かない。 自分の感情とは別に、勝手に自らの精神が誰かに操られているような不可思議な感触。


「…」


リイドは、その気持ちの悪い感触に覚えがあった。


「反動…」


呟いた言葉。 今まで自分を襲わなかった様々な強烈で鮮明なイメージが脳内をフラッシュバックし、攻撃を止められない。

単身で神の元で戦うという事は許されぬ禁忌。 それはレーヴァテインに魂を取り込まれ、記憶を犯されるという事。 エアリオというデバイスを失い、レーヴァテインの侵食を抑制する役割を果たすストッパーはもう存在しない。

戦いをとめられない。 闘争こそ真理。 人は争う事をとめられぬ生き物。 ならば争い、争い、争い続けるしかない。

最早言葉も無い。 怒りや憎しみさえ今は闘争の愉悦が洗い流していく。 微笑を湛えたまま、白い歯をむき出しにしてリイドは虚ろな目で敵を見据える。

このまま戦っても仕方が無いのに。 止められない闘争。 止まれと思う事さえ、焼き切れた思考では実行出来ない。

二足歩行を止め、砂漠の大地を両手足で這うように駆けるレーヴァテイン。 それは二足で移動するよりも驚異的に素早い。

砂漠という地形で戦うに有利な姿勢を本能的に選択した。 迎撃するために振り下ろすガルヴァの銃剣。 レーヴァテインは笑って両足を天に掲げる。

所謂逆立ち。 そのまま両足でガルヴァの両手を蹴り飛ばすと同時に大地に叩き伏せ、マウントポジションを取る。

白い煙を吐き出しながら笑うレーヴァテイン。 背筋が凍るような化け物を相手にエンリルの機体制御が一瞬、疎かになった。

ほんの瞬く間だけ薄くなったガルヴァの装甲を貫通する拳。 胸に突き刺さった腕の痛みがダイレクトにエンリルを襲い、胸を抑え血を吐き出した。


「ちっ―――!!」


レーヴァを引き剥がそうと伸ばす手。 しかしその指先はレーヴァテインに食いちぎられていた。

鋼の腕を噛み砕き、砂漠にはき捨てる。 全身を損傷し、エンリルは最早それに耐え切れない。

胸に腕を突き刺され内蔵をかき乱され、腕を食いちぎられる恐怖。 涙と汗をぼたぼたこぼしながらどうにか壊れそうな精神をつなぎとめていた。

人工筋肉を引き抜きながらガルヴァの首を絞めるレーヴァテイン。 スヴィアは息を静かに吐き出し、目を閉じる。


「手間を取らせるな―――ッ」


見開く金色の瞳。 レーヴァテインを吹き飛ばすのは頭突き。 凄まじい轟音を立てながらひしゃげるレーヴァの頭部。

立ち上がったガルヴァテインの傷は見る見る内に修復し、引きちぎられた腕でさえ新たなものが生えてくる。 装甲を覆わない生の肉の腕で銃剣を手に取り、ガルヴァも静かに目を細める。

ひしゃげた頭部を修復しながら立ち上がったレーヴァテインを向き合う。 互いに満身創痍。 化け物を行使するということは、言葉以上に重い意味を持つ。

エンリルは気絶する寸前だった。 いや、気絶してしまえばまだ楽になれるし安全だろう。 しかしそうなれば装甲を失い、ガルヴァは無防備になる。

エンリルの精神をかろうじてつなぎとめているのはスヴィアへの忠誠のみ。 それが折れてしまえば、彼女の心も折れて砕け散る。


「…これを使いたくは無かったのだがな」


静かに呟く。

使えば、勝利は可能。

けれども、レーヴァテインは…跡形も残らない―――。

ガルヴァテインが持つ最後の手段でレーヴァテインを破壊しようとスヴィアが決意した直後、事態は急転する。

両手で頭を抱え込み、レーヴァテインが暴れだしたのである。 苦悩する神の姿は神々しく、禍々しくもある。

大地に何度も頭を叩きつけ、砂まみれになりながら暴れ狂うレーヴァテイン。 スヴィアは静かに銃剣を下ろす。


「限界だな、リイド…」


その瞳は何も映してはいない。

弟にかける言葉もなく、戦いの終わりを示していた。




「         」


ボクはどうなったんだろう。


「       」


声が出ない。


何も聞こえない。


何も見えない。


ここはどこだ。


ボクはなんだ。


何のために戦ってきた。


何のために。




「リイド」


誰…?


「リイド」


誰…?」


「起きて」


「誰…?」


アレ? 声が出る…。

ついでに言えばそこはいつも見る夢の中だった。 草原の中、ボクは木陰で眠っていて…その大地の果てには朽ち果てたレーヴァテインが跪いていた。

立ち上がる。 隣にはエアリオの姿があった。 けれど、ボクは特に驚く事もなく彼女と向き合う。

風が吹き、夏の草花の香りが鼻を擽る。 高く上った太陽を見上げ、静かに息を吐いた。


「君は、こんなところに居たのか」


エアリオは答えない。 でもなんとなくわかる。 彼女はずっとここにいた。

レーヴァテインの中に。 ボクの中に。 ボクたちはいつも一緒だった。 同じものだった。 それだけはわかる。

直感的に理解する。 彼女の存在と、ボクとの関係を。


「ごめんエアリオ…。 『また』、きみを救えなかった―――」


謝ることしか出来ない。 視線を落とすボクに、彼女は首を横に振って微笑んでいた。


それは今まで見たどんな笑顔よりも素敵な笑顔で。


これでよかったんだよなんて、そんな都合のいい言葉を妄想する。


溶けるような日差しの中、めまいがする。 何もかも忘れて、真っ白になってしまいそうだ。



ああ―――。



世界ボクは真っ白になったのか………?





「…間に合わなかったのか…っ」


降りしきる雨の中、エクスカリバーが舞い降りた砂の大地。

ハッチを開き、コックピットから身を乗り出したシドが見下ろすその場所には、無残に破壊され跡形を残さないレーヴァテインの姿があった。

めちゃくちゃに砕け散り、大地は鮮血で赤く染まっている。 その血の海の中、エアリオの亡骸だけが放置されていた。


「エアリオっ! エアリ………」


大地に降り、駆け寄り、そこでようやく気づく。

エアリオはとっくに呼吸をしておらず、その身体は氷のように冷え切ってしまっているということ。


「…」


「エアリオ…」


「リイドは…リイドはどこさ…!?」


瓦礫の山の上に立ち、その姿を探す。

どこにも見当たらないリイドの姿、シドは拳を握り締め、その名前を叫んだ。



雨は止む事無く、ヴァルハラをも包み込む。


縦に伸びた塔に雨は降り注がず、しかし誰もがその事実に打ちひしがれた。


レーヴァテイン、大破。 コアを破壊され、すでに修復は不可能。


エアリオ・ウィリオ、死亡。 リイド・レンブラム、生死不明。


それ以上の何も、起こらなかった。 不気味なほど静か―――。 しかし、パイロットたちはその様な事を考えている余裕はなかった。

ただ悲しみに打ちひしがれ、心を塞ぎこんだ。




「何か、口にした方がいい」


部屋に閉じこもったままのアイリスを尋ねてきたルクレツィアは見るに耐えない姿の少女にそんな言葉をかけた。

ベッドの上、膝を抱えて泣き続けているアイリス。 その隣に腰掛け、申し訳なさそうに表情を歪めるルクレツィア。


「私たちがもっと早く着いていれば…。 本当に、すまない…」


「…」


ルクレツィアが悪いわけではない。 そんなことは判っているのに、アイリスは何も言うことが出来なかった。

まるで世界が終わってしまったような気分になる。 自分の大事な人が次々に居なくなる。 自分の好きな人が―――いなくなる。

せっかく、自分の気持ちに向き合おうと誓ったのに。 これから始まるはずだったのに。 まだ始まっても居ないたくさんの言葉と想い。 やり切れず、涙は止まらなかった。

アイリスの手をとり、そっとそれを握り締めるルクレツィア。


「もう、何日も何も口にしていないだろう…? とにかくここから出よう」


「…」


「………ではせめて、医務室に…。 点滴をうつなり、薬をもらうなりしよう…。 鏡を見たか…? ひどい顔だぞ…」


「…」


反応なし。 それでもルクレツィアは強引にアイリスの手を引き、背負い、歩き出す。


「済まないな。 だが、そんなままにしておいては…レンブラムに怒られてしまう」


「…っ」


部屋を出る廊下。 堪えていた思いが弾けて、ルクレツィアの背中にすがり付いて泣いた。

叫び声を抑える事もなく、泣き続けた。 ルクレツィアはその悲しい声を背に、目を伏せ、眉を潜め、悲しみを押し殺す。

こんな世界で。 争いが止まない世界で。 生きるか死ぬかの世界で。 命を失う事は何の不思議もなく、ごく自然のことで。

生きている限りそれは避けようのないことで。 だからそれがたまたま訪れただけで。 いや、レーヴァテインのパイロットなど、最もそれに近い存在だっただけのことで。

だから誰が悪いというわけでもなく、誰を恨めばいいというわけでもなく。 ただ悲しみはそれぞれ押し殺し、自ら処理するしかない。

その感情の処理が追いつかないのは、アイリスにとってその想いが強すぎるから…そして、まだ彼女が子供だからなのだろう。

受け入れがたい現実。 目をそらしたくなる。 逃げてしまいたいのに逃げられない。 そんな矛盾した現実と感情。

廊下を歩いていると医務室の前でカイトと鉢合わせた。 会釈を交わし、黙って共に医務室の扉をくぐる。


「…やあ。 そろそろ倒れる事じゃないかと心配していたところだよ」


白衣姿のアルバは椅子を回転させ振り返る。 泣きじゃくるアイリスをベッドの上に座らせ二人は前に出た。


「何で俺らの謹慎、解けないんすか…?」


アルバに言ったところでどうにもならない事はカイトもわかっている。 しかし口にせずに入られなかった。

大人たちがそうした理不尽な命令を下す。 それに従うしかないのは自分が力も権力も無い子供だからだということをカイトは理解している。

そう、理解はしている。 けれど、それを納得できるかどうかは別の問題だ。 やりきれない思いは、アイリス同様胸の中を渦巻いている。

ただカイトは少しだけアイリスより人の別れに慣れ、少しだけ感情の処理が上手であるというだけのこと。 本当ならば今すぐリイドを探しに飛び出したい気持ちでいっぱいのはずなのに、堪えに堪えてそう訊ねたのだ。

しかしアルバは答えを持ち合わせていない。 しかし少しでも子供たちの不満を晴らそうと立ち上がり、奥へ続く扉に手をかけた。


「ついておいで」


扉を開けたその先、白いベッドの上に様々な機器につながれたエアリオが眠っていた。

確かに一度は命を失った少女だったが、そこで眠る姿は血色もよく、明らかに眠っているだけ…死んではいない。


「どうして…」


「彼女は生き返ったんだよ。 いや、正確には彼女に『死という概念は存在しない』」


誰もが理解できず、言葉を発せ無いまま時間が過ぎた。

アルバは観念したように振り返り、静かに息を吐き出す。


「彼女は人間じゃない。 少女の姿をした―――天使、そのものだ」


安らかな表情で眠り続けるエアリオ。

三人はやはり言葉を発することが出来ず、黙ってその言葉を頭の中で反芻していた。

エアリオは人間ではなく、少女の姿をした天使そのもの。


「―――どういうことだよ、それ」


カイトの呟き。


アルバは目を閉じ、話してはいけない過去のことを語り始めた。


〜普通のあとがき〜


この普通のあとがきを書くのもこれで何度目でしょうか。

こうして50部まで連載を続けることが出来たのも単に読者の皆様のおかげです。本当にとってもべりーさんきゅーです。

そんなわけですでに恒例になりつつある感謝オーラを皆さんに送りたいと思います。

ついでに50部記念ってことでなんか余計なことでもしようかと思います。とりあえずとりゃあああああああああ!!


届きましたね?

もうここまで読んでる人にはとっくに届いているはず。


さて、霹靂のレーヴァテインという作品を連載して早二ヶ月くらい?もうぜんぜん覚えてないですけど、まあボクの中では結構長く続いてるほうです。

というか、50部も続く予定はなかったのですが、まあ例によって長引きすぎてしまったようです。

レーヴァテインはもう残り10部もあれば完結できるでしょうが、色々と丁寧に掻き揚げると全部で六十何部とかは逝きそうですので、もう少しだけお付き合いください。

さてさて、ここからは蛇足。

読者数PVで約二万、ユニークでも二千を超えることが出来ました。人気作家に比べるとたいしたことない数字ですが、これだけの人に読んでもらえて僕は幸せです。

面白い物をかけたという自身はいつでもありませんが、とりあえず期待を裏切らない程度に頑張りたいと思いますので、このままラストまで一緒に来ていただけるとありがたいです。

物語はすでに佳境。次々と連打されるネタバレ。その辺を整理するのに作者の脳内はカオス状態です。

応援メッセージなどがありますととてもヤル気が出ますので、このまま未完結にならないように応援していただけるとありがたいです。

あとさらに蛇足ですが、ランキングに投票してくれた人ありがとーございまーす。なんか急にあがってて笑いました。

えー、もう書くこともなくなりました。それじゃあなにかおまけでも考えてきます。

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