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業を、継ぎし者(1)

第十二話。久しぶりの無駄なパート。

ただのラブコメ状態に。


「これでよし、と・・・。 どうだカイト、動くか?」


ジェネシス本部医務室にアルバ、ルドルフ、そしてカイトの姿があった。

椅子の上に座ったカイトは立ち上がり、鏡に映った自分を眺めながらその腕を動かした。

カイトの腕はフォゾン化の影響で片方失われている。 しかし、鏡に映るその姿にはきちんと両腕が存在していた。

ゆっくりとそれを動かし、感動したのか目を輝かせてルドルフに飛びつく。


「うおおおお! 腕動くよコレ! お前天才だな!!」


「きっしょくわりいことすんじゃねえっ!! ただヘイムダルのリンクシステムを応用しただけの義手じゃねえか!!」


「それでも感謝するぜ! いや〜、ぶっちゃけかなり不便だったんだよなあ・・・助かる助かる、すげえすげえ」


「感謝してんなら離せ! いい加減蹴倒すぞテメエ!」


顔を真っ赤にして喚くルドルフを解放し、その腕を何度も何度も様々な角度から眺める。

本人が一番良く分かる。 それは、自分の腕とは違うものだ。 体温もなければ感覚も無い。 だが、確かに動く。


「とりあえずは様子見だね。 何か問題があったら、すぐ僕に報告すること」


「了解ッス!」


カルテに症状を記入し、アルバは立ち上がる。 義手を一度取り外し、接続の方法をカイトに簡単に説明してから再び義手を装着した。


「ただし、あまり無理はしないこと。 君の構成情報が脆くなっているのは今も変わらないんだからね」


「わかってるっすよ。 でも、これで俺もヘイムダルに乗れるってことですよね?」


「・・・カイト。 何度も言っていることだが、強い衝撃を受けたら君の身体は崩れ去ってしまうんだぞ?」


「でも、パイロットスーツは衝撃は吸収するしちょっとした怪我なら応急手当できるように出来てるんスよね?」


「それはそうだが・・・参ったな」


そんなことのために義手をルドルフと作ったわけではない。 しかし、少年は強く戦う事を望んでいた。

それも当然の事かもしれない。 リイドが戻り、アイリスが戦線に立つようになり、これからようやく新しい戦いが始まろうとしているのだ。

やらねばならないことは山積みで、しかし自分だけが何も出来ないまま。 そんな状況が続くのは、カイトにとって全く面白くない。


「後輩ががんばってるのに俺だけ隠居なんて、考えらんねえっすよ」


「・・・君を戦わせまいとみんながんばっている、とは思わないのかね?」


「かもしれないけど、でも俺は戦いたいんです。 やらなきゃならないことが数え切れないほどあるんです」


「それは、イリアの事は関係なく・・・かい?」


アルバの問いかけ。 少しだけ迷い、しかしはっきりとした口調で答えた。


「違います。 俺は、俺の為にレーヴァテインに乗ってきました。 だから、今度も俺の為に、俺自身の為に、ヘイムダルに乗りたいんです」


アルバは腕を組み、溜息をつきながら思案する。

カイトは相変わらず真っ直ぐな瞳でアルバを見つめていた。 こういうとき、この少年はもう引き下がるつもりは全くないのである。

それはもう、長年付き合ってきたアルバならわかっている。 わかっているからこそ、対応には苦慮した。


「僕は何度も言うけど、賛成しかねる。 これ以上、子供が死んでいくのは見たくないからね」


「でも、誰かがやらなきゃもっと多くの人が死ぬ。 だったら俺がやる。 だって俺は出来るんですから。 力があるのに何もしないのは、罪だ」


「だがね・・・」


「いいじゃねえか。 ヘイムダルだったらフォゾン化がこれ以上進む心配もないしよ」


今まで黙っていたルドルフが立ち上がり、カイトの隣に並んで目を細める。


「本人の問題だろ。 それに戦力不足は今だ否めないわけだしな。 同盟軍はヨルムンガルドが配備されてるし、こっちはエースとルーキーのみときてやがる。 ここいらでベテランが参戦してくれれば、確かに助かるだろ?」


「・・・とにかく、それは僕らが判断するところではないからね。 ヴェクターに判断を仰ぐとするよ」


「それじゃあ・・・!?」


「一応、検討だけはしておく。 君は結果が出るまで大人しくしていなさい」


「マジか! やったぜ、ありがとうな、先生っ!」


アルバの手を取りぶんぶん振り回すカイト。

もはや仕方のないことなのかもしれない。 思えばカイトはいつもそうだった。

だからきっと戦うのだろう。 それを遮る手段はなく、きっとそこには意味もない。

曖昧に笑顔を浮かべながら、医師はただ少年達の無事を祈っていた。




⇒業を、継ぎし者(1)




「先輩、起きて下さい。 朝ですよ、先輩」


「ん、んんん・・・?」


何か、誰かに呼ばれている気がした。

その声は次第に大きくなり、ボクの肩を揺らすその力も次第に大きくなっていく。

仕方がないので目を開くと、何故かそこにはなにやらいるはずのないアイリスの顔が・・・ってアイリスがいる!?


「うぅわあっ!? なんでアイリス!?」


「はい、アイリスです。 おはようございます、先輩」


ぺこりと頭を下げるアイリス。 慌てて周囲をきょろきょろ見回してみるが、非の打ち所のないほど完璧にリイド・レンブラムの私室である。

ますますわけがわからない。 確か、鍵はかけて寝たはずだ。 いや、それ以前に、ボクの家の場所を何故アイリスが知っているんだ。

いやいやいや、それ以前にそもそも、なんでアイリスが朝から部屋にやってくるんだ。 何でボクは起こされてるんだ。 なんで。 なんで。


「先輩・・・大丈夫ですか? 顔色が悪いようですけど」


「だ、大丈夫・・・?」


半疑問系な返答だった。

いや、大丈夫といえば大丈夫なんだけど、それ以前に君はだからなんでここに居るんだって話で。

ヴァルハラに戻ってきてから二日が経った。 とりあえずボクは休みっぱなしだった学園に通う日々を送っている。

あれから一度も荒っぽい事は起こっておらず、結局何一つ進展はないわけだが、こんな形での進展は流石に望んでいない。


「先輩、寝巻きとかないんですか?」


「え? ああ・・・。 なんかね、学校無断欠席しまくったせいで大量に宿題出されちゃって。 夜中までやってて、着替えるの面倒でそのままベッドインだね」


気づけば私服のまま眠っていた。 そういえば風呂にも入っていない。 なんだかとっても気持ち悪い状態だ。

今すぐシャワーを浴びて着替えたくてうずうずしているのに、アイリスがいるせいで部屋から出て行けない。


「ところでアイリスはどうしてここに?」


まだ家を出るまでに二時間近く余裕がある。 ボクは毎度これくらいの時間には起きているものの、流石にアイリスに起こされたとなるとちょっと気分も微妙な状態だ。

眠気はすっかり吹っ飛んでしまった・・・のはいいのだけれど、疑問やらパニックやらで逆に頭がすっきりしない。


「はい。 以前先輩にひどい事を言ってしまったので、そのお詫びです」


胸を軽く叩いて誇らしげに語るアイリス。 何ゆってるんだろうこの子は。


「ちなみにこれから朝食の支度や家事なども行います。 先輩はリビングでテレビでも見ていてください」


「え、な、なんで・・・?」


「ですから、お詫びです。 この間のパーティーで、私の言葉をまだ気にしているような事を言っていたので」


あれは冗談なんだけどなあ・・・。


「ともかく、全て私に任せてください。 さあ先輩、起きて」


「お、おきてるよ! ていうか、君がいるとシャワー浴びにいけないっていうか!」


「どうしてですか? 行けばいいじゃないですか」


「下着とか出さなきゃだろ!? ボク昨日入ってないんだよ!」


ボクの腕を引っ張っていたアイリスの動きがぴたりと停止し、それからしばらくすると顔を真っ赤にして慌てて部屋から出て行く。


「そ、そういうことは早く言って下さい! し、下着だなんて・・・変態ですっ」


「え、ええ〜・・・」


一人取り残される部屋が何故かいつもより三割り増しで寂しい。 ていうか変態って・・・ボクが悪いのだろうか・・・。

何はともあれ着替えを手にして部屋を出る。 途中エアリオの部屋を通りかかり、しかしどうせあいつは寝たままだろうと思って先を急いだ。

更衣室で服を脱ぎ、自分で洗濯機に入れてシャワー室に入る。 熱いお湯を頭から浴びながら深々と溜息をついた。

エアリオもカイトもそうだが、ボクの家はいつの間に無法地帯と化したのだろう。 誰でもいつでも出入りOK状態じゃないか。


「そもそもなんでアイリスは急にうちにきたんだろう・・・」


ココ最近つくづく思うのだけれど、女の子ってわからない。

なんだかシャワーを浴びるのも落ち着かなかったのでそそくさと上がり、着替えを済ませてアイリスの様子を伺いに行くと、台所から食欲をそそるいい香りが漂ってきていた。

トントンという包丁とまな板が規則正しく一定のリズムを刻んでいるアイリスの後姿。 ボク愛用の黒いエプロンを着け、慣れた様子で鼻歌を歌っていた。

どこかで聞いた事があるなと思うその歌は、多分機嫌のいい時イリアが口ずさんでいた流行の歌だろう。


「料理、上手なんだね」


「へ? あっ、先輩!? なぜ後ろに・・・というか、妙にシャワー浴びるの早くないですか?」


「あ、うん。 まあ、色々あって・・・」


君のせいで落ち着かないとは言えないけどね。

制服の上からエプロンをつけているアイリスの姿は新鮮だった。 ボクも普段はこんなカンジなのだろうか? エアリオが台所に立つことなんて一度たりともなかったので、なんとも言えない違和感である。

そしてアイリスは眼鏡をかけていなかった。 もしかして学校に通っている時はコンタクトレンズなのだろうか? そういえばこの間出撃していた時は眼鏡をかけていなかった気もする。

眼鏡をかけていないと本当にイリアそっくりだ。 イリアが若返ったらきっとこんなカンジなのだろう。 若返る? まあなんでもいいか・・・。


「じろじろ見ないで下さい・・・何かいけないことでもしましたか?」


「い、いやっ・・・ごめん、なんでもないんだ・・・。 あ、ボクも手伝うよ」


予備のエプロン・・・エアリオに料理をさせようと思って購入した青のチェック柄・・・を身につけて隣に並ぶ。 小さいけれど、つけられないことはなかった。

制服のシャツの袖を巻くって意気揚々としていると、アイリスは何故かボクをジト目で睨んでいる。


「な、なにかな・・・?」


「先輩」


「はい・・・」


「今日は私がお詫びで料理するんですから、余計な事をしないでください。 邪魔です」


「・・・ごめんなさい」


何となくアイリスには頭があがらない。 っていうか邪魔ですって・・・。

仕方なくトボトボ退散する。 しかしいつもあわただしい朝の時間が突然暇になると、何もすることもなく暇をもてあましてしまう。

時計の針が進むのが妙に遅い。 アイリスのリズムのいい包丁の音も相まってどんどん眠くなっていく。


「先輩、普段から全部家事は一人でやってるんですか?」


「うん? そうだけど」


「・・・偏見を持つわけではありませんが、男性の一人暮らしと聞いていたのでもうちょっと乱雑な状態を想像していたんですけど、恐ろしく整理整頓されていて正直期待はずれです」


何故か怒ってらっしゃる!?


「洗濯物も溜まってないし、掃除も完璧。 台所は使い込まれてて綺麗に手入れされてるし、部屋も完全に整理整頓されている・・・これじゃ何しに来たのかわからないじゃないですか!!」


「どうしてボクが怒られてるのかな!? アレ!? 綺麗好きって悪い事!?」


「そうじゃなくて、空気を読んでくださいという事です! 事前に少し手抜きをしておくとか!」


君が来るのなんて誰も予想してないからね!? なんかさっきからすごい理不尽なこと言われてないかボクは・・・。

そして話題が尽きる。 さて、どうしたものか・・・。 何かご機嫌をとったほうがいい気がするけど、何を言えば喜ぶのかまったくわからない。


「アイリスも料理上手だよね。 毎日自分でやってるの?」


「好きで上手になったわけじゃありませんから。 親が何もしない人なので、仕方なくです」


あれ!? 地雷踏んだ!?


「私達の『母親』は最低ですから。 だから別に、出来て当然です。 やらなきゃいけなかったからやってきたんですからね」


「そうなんだ・・・」


母親。 そう冷たく自分の親の事を言う彼女の表情は、何だか少しだけ悲しげだった。


「あ、ええと・・・塩は・・・」


「こっちだよ」


棚の上に手を伸ばし、塩を手渡す。 アイリスはやっぱり少しだけ寂しそうで、だからボクは勝手にフライパンを手に取った。


「せ、先輩・・・!」


「ここはボクの家だから、ボクが好きにするよ。 それに・・・正直、暇で調子が狂っちゃいそうだ。 お願いだから手伝わせてよ」


「・・・・・・まぁ、そういうことなら・・・」


何やらまだぶつぶついっていたが、とりあえず台所に入る許可はいただけたようだ。

男子厨房に入らず、なんてのは少々古過ぎる考えだとボクは思うしね。

ベーコンを炒めていると、アイリスはサラダを盛り付けながらボクの事をちらほら眺めていた。


「誰かと台所に立つのって新鮮?」


「は、はい。 何だかちょっと照れくさいですね」


「そういうもんなの?」


「・・・前言撤回です。 先輩はそういうことばっかりいうので嫌いですっ」


「ははは・・・ごめんごめん」


なんだかんだでボクらの共同作業は続き、テーブルにはいつもの二倍、豪華な料理が並ぶことになった。

我ながら大満足な出来栄えに思わず頷いていると、食事のにおいを嗅ぎ取って現れたのか、寝癖ぼさぼさのエアリオが歩いてきた。


「おぉぉぉ・・・。 なんだか今日はとっても豪華だー」


「うん。 アイリスが手伝ってくれたからね」


「おはようございます、エアリオ先輩」


「ん、おはよう。 いただきます」


早くも席に着き食べ始めるエアリオ。 こいつ、アイリスがいることになんら驚きも違和感も表さないのか。

まあそんなのは予想済みなのでボクらも席について食事をとることにした。

このテーブルを二人以上で囲むのは随分と久しぶりな気がする。 アイリスは行儀よく料理を口に運んでいて、なんだかどこかのお嬢様みたいだった。


「・・・なんで見てるんですか、先輩」


「いや、アイリスが居る状況が珍しくてさ」


「だからってじろじろ見るのはマナー違反です。 先輩がじろじろ見るなら、私もじろじろ見ますよ?」


「そりゃ構わないけど」


「・・・・・・前言撤回です。 先輩はやっぱり変態です。 卑劣です。 愚劣です」


なにやらものすごい勢いで罵倒された。 ついでにものすごい勢いで口にサラダをかきこみ、アイリスはそっぽ向いてしまった。

やはり嫌われているのだろうか。 気づいていたものの、なんだか軽くへこむ・・・。

エアリオは豪華な食事に大満足だったのか、幸せそうに料理を食べていて、まるで会話に参加してくる気配がなかった。

食事が終わればまた二人で後片付け。 食った直後から寝こけているエアリオを放置してさっさと済ませる。


「・・・エプロン」


「うん?」


「これ、先輩の大きすぎて使いづらいです」


綺麗に折りたたんだエプロンをボクに向かってぐいっと突き出し、困ったような顔で言う。

そりゃ仕方ない。 身長も体格も違うんだし・・・そもそも何の可愛げもない真っ黒なデザインだしなあ。

エプロンを受け取り苦笑する。 しかし、それをボクに言われても。


「でも、特に不便じゃなかったように見えたけど・・・」


「いえ、非常に不便でした。 とても使いづらいです。 それともなんですか? 先輩は私の体格が男性並にがっちりしているとでも?」


文句つけるの病的にうまいなこの子・・・。


「そうじゃないけど・・・」


「仕方がないので、次からは自分のエプロンを持参する事にします」


「・・・は?」


「ですから、次からは自分のエプロンを持参する事にしますからっ!」


「・・・えーと?」


「というか・・・私のエプロン、置いておいても構いませんか?」


少し怯えるような、不安そうな眼差し。

多分そんな事をボクにいうのは相当な勇気が必要だったんだろう。 そしてきっと、彼女はそれほどまでに・・・ボクにひどい事を言ったのを気にしているのだ。

なんだかんだでイリアに似て責任感が強いというか。 思わず笑ってしまうけれど、それは彼女なりの和平への道程なのだろう。


「構わないよ」


「・・・む・・・。 どうして笑っているんですか!? 何かよからぬ思考を感じます!」


「何も考えてないってば〜・・・」


「先輩は私を馬鹿にしてるんですか!? そういう人を見下した態度が最低なんです! 先輩なんか嫌いですっ! 嫌いですっ!!」


何故二回言う。

というか・・・こんな調子じゃ君、いつまでたってもボクにお詫びし続けることになるんじゃないかなあ。

そんなことはもちろん、本人には言えないのだけれど。



そんなわけで、今日は三人で登校。 なにやら奇妙な光景だったけれど、慣れてくればどうということもない。

というか、こうしていると本当にアイリスはイリアそっくりだ。 イリアは嫌いだの変態だの言う前に手足が飛んでくるタイプだったけど。


「エアリオ先輩、こっちですよ〜」


「んゆー・・・」


寝ぼけてふらふらしているエアリオの引率をするのも今日はボクではなくアイリスだ。 普段いかに自分が登校時苦労しているのか身にしみて理解してしまった。

しかしアイリスはなにやら楽しげなくらいであり、笑いながらエアリオの手を引いていた。

ボクにもあれくらい愛想よくしてくれたらいいのに、と思うけど、勿論そんなことは、口には出さない。

しかしこうして見ていると姉妹のようだ。 しかもアイリスが姉の方に見える。 それくらいエアリオはちっこいのだ。

二人の後ろに続きながらそんなふうに様子を眺めていると、後方からなにやら元気な声が聴こえてきた。


「うい〜〜〜っす、リイド!」


「うわっ!?」


背中を強く叩かれ、吹っ飛ばされそうになる。 しかしこんな乱暴な挨拶をしてくるヤツ、ボクは一人しか心当たりがない。


「何するんだよ、カイト・・・」


「よっ! なんだ、今日は珍しくアイリスも一緒か?」


相変わらずだらしのない制服の着方をしているカイト。 というか、もう学校に通えるようになったのだろうか。


「珍しいのはカイトのほうだろ? こんな早い時間に・・・っていうか退院したの?」


「ああ。 昨日退院だ。 今日から日常生活復帰ってわけだな。 それにほら・・・じゃーん!」


カイトは両手を広げて見せている。 だから何だって言うんだってうわああああ!?


「腕がある! ど、どうしたのこれ!?」


「義手だよ。 アルバ先生とルドルフが作ってくれたんだ。 お陰で日常生活が格段に楽になるぜ」


「そっか・・・よかったね。 このままじゃ受験、やばいもんね」


その言葉に反応し、カイトの笑顔がピシリと音を立てて固まった。

どうやら本気で今までそれを忘れていたらしい。 カイトが入院していた間も、他の受験生は勉強を進めてきたはずだ。


「カイト、病院で勉強してた?」


「自慢じゃないが、俺は学校以外で勉強をしたことが一度もないぜ」


本気で自慢になってねえ。


「うおおおおおおお!? リイド、前約束したよな!? 頼むから勉強教えてくれ!! いや、リイド様!!」


後輩に泣きすがる男。 なんだか客観的に認識したくない状況だった。


「わかったよ・・・今日の放課後にでも教えるから」


「恩に着るぜえ! っていうか、お前勉強どれくらい出来るんだ?」


「・・・一応学年一位だけど」


「うおおおおお! 神は俺を見捨てなかった!!!」


普段から神と戦ってるくせにまだそんなこといってるのかあんたは。

何はともあれ、狂喜しながらしがみ付いて来る暑苦しい男に、勉強を教えなければならなくなったらしい。

強引にカイトをひっぺがしていると、先に進んでいたアイリスとエアリオが振り返って手を振っていた。


「ほら・・・置いていかれますよ。 みっともないからしゃんとしてください、フラクトル先輩」


「何だその言い方!? 他人行儀過ぎて寂しいぞ!?」


「急ぎますよ、フラクトル先輩」


「り、リイド・・・! 頼むから普段の生意気な口調に戻ってくれ・・・なんか気色悪いぞ・・・!」


「すみません、フラクトル先輩」


「うおおおおーーーーーっ!!?」


朝っぱらから煩いカイトを無視して先を急ぐ。

その先ではエアリオとアイリスが待っていて。


ああ、なんだか・・・一ヶ月前に戻ったみたいだなんて。


やっと日常に帰ってきたんだなあ、なんて。


そんな事を、心の中で想っていた。



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