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優しい、夜明け(3)

第二部終了のお知らせ。

第三部開始のお知らせ。


「―――もう、いいんですか?」


背後からの声に振り返ると、そこには視線を逸らしたアリイスが立っていた。


「何が?」


「皆さんまだ騒いでますけど・・・レンブラム先輩は、騒がないんですね」


「お生憎様。 元々ああいう空気は馴染まないんだ、ボク」


しかし、この部屋でこうして出会うことになったのも何かの縁なのかもしれない。

薄暗い部屋の中、ボクの目の前にはたくさんの生命維持装置につながれたまま眠るイリアの姿があった。

今まで一度も、この部屋に入る事は出来なかった。 入ってこの現実を知ってしまう事が怖くて、逃げていたんだと思う。

パイプ椅子を組み立ててそこに座る。 イリアは眠っているようにしか見えなくて・・・いや、きっと実際に眠っているんだろうと思う。

どんな夢を見ているのかはわからないけれど、それが楽しい夢だったらいいな・・・そう思う。


「・・・・・・あの・・・」


「うん?」


「この間は、生意気な事を言ってすみませんでした」


ぺこりと頭を下げるアイリス。 思わず苦笑してしまう。


「いつの話だよ、それ。 それにもうそういうのはお互い様だから・・・でも、正直言うとあれは結構堪えたよ」


「うっ・・・き、気にしてるんじゃないですか。 嘘はよくないです・・・うそつきは、嫌いですっ」


「ははは・・・。 隣、座る?」


アイリスは無言のままこくりと頷いて隣に立てた椅子に腰掛けた。

二人してイリアの寝顔を眺め続ける。 ボクはここにきて、こうやってアイリスと肩を並べて、ようやくイリアに会いに来る事が出来た。

このままもし彼女が眠りから目覚めなかったとしても、ボクは構わない。 それでも、強くやっていくんだ。 君に恥じないように、生きていく。

その報告をしに来たんだけど、ついでだから心の中で、もう一つ誓いを立てたい。

君の妹は。 アイリス・アークライトは。 今度こそ、ボクがちゃんと守ってみせるよ。

君に似てお転婆でちょっと手がつけられないところもあるけど、でも君と同じで悪い子なんかじゃないから。

嫌われてても、構わない。 だから、それを赦して欲しい。

ああ、許可なんかいらないさ。 君はどうせ、笑って、仕方ないなあなんていいながら、赦してくれるんだろうから―――。


「うん、自己完結終了」


「はい? 自己完結?」


「うん。 イリアに、色々謝ってた。 心の中で・・・色々ね」


でもソレは所詮ボクの押し付けがましい感情を彼女に処理してもらった気になっているだけで。

何も現実は変わらないけれど、少しだけ気を楽に生きて行けるよう、イリアの力を借りたいと思った。

だって、ボクは今でも彼女のお陰で頑張れる。 彼女がいなかったら、きっと今のボクはなかった。


「・・・先輩は・・・姉さんとどういったご関係だったんですか?」


「え?」


「・・・いえ・・・。 姉さん、貴方の事は悪くしか言っていなかったんです。 でも、何ていうか・・・最近は殆ど会う事もなくなっていたから」


「・・・最近は、ね」


イリアがボクをどう思っていたのかは正直よくわからない。

でもきっと最初の印象は最悪だったと思う。 そりゃ、アイリスに悪口を吹き込むくらいはされるだろうな。

後半はどうだったろう? 彼女はボクの手を引いて、歩いてくれた。 導いてくれた。 それは一体どんな気持ちだったのだろうか。

人の心を知りたいとも思わなかったボクがそんな事を考えている―――それを滑稽に思うのは、誰よりもはやりボク自身で。


「さあ、どうなんだろうなあ・・・でも、少なくとも・・・ボクはイリアの事が好きだったよ」


「そ、それはどういう『好き』なのでしょうか?」


「どういう?」


「はい。 好きにも色々あると思うんです。 ええと・・・友情とか・・・愛情とか」


「両方だったんじゃないかな? 多分・・・よくわかんないけど」


そんな事を言われてもそれこそ考えた事もなかったことだ。 思わず腕を組んで首を傾げるけれど、どう好きだったのかといわれるとよくわからない。

でも、大事だった。 大好きだった。 そればっかりが先行して、結局何がどう好きだったのかはよくわからなくなってしまっている。


「でも、キスはしたかな」


「えええええっ!?」


「そ、そんなに驚く事かな・・・」


「・・・ね、姉さんがですか・・・? 驚くべき出来事です、それは・・・」


「うん・・・まぁ、イリアが・・・やられちゃう直前にね」


余り思い出したくない景色が脳裏を過ぎって少し寂しくなる。

けど、こうなってしまった以上責任を取り続けるしかない。 戦って守るしかない。 だから、うじうじしても仕方がない。


「あの・・・先輩?」


「何?」


「ぶしつけで・・・しかも、私自身経験がないので、よくわからないのですが・・・」


顔を赤らめ、アイリスは顔を上げて至極真面目な表情で握りこぶしを作って言った。


「それは、恋というやつなのではないでしょうか?」


「・・・こ、恋というやつですか?」


「お、恐らく・・・」


「そ、そうですか・・・」


「ええ・・・」


「・・・・・・」


沈黙が場を包み込んだ。 何だこの空気。

二人して顔を赤くしてそっぽを向いている。 何でこんな話になったのか、もうよくわからない。


「でも、恋か・・・」


イリアの言葉も声も温もりも、今でも鮮明に思い出せる。

甘くて優しい香りがした。 きらきらと風に靡く綺麗な髪も。 弱弱しく項垂れた、その背中も。

けれどそれが恋なのかといわれるとよくわからない。 だって、今更になってボクは他人を受け入れていく覚悟が決まったところなんだから。

他人なんてどうでもいい、路傍の石ころくらいにしか思っていなかったボクに、そんな感情が理解出来るはずも無い。


「でも、恋だったのかもしれないね。 よく、わからないけど。 相手は今、こんなだしね」


「・・・あの、」


アイリスはフレームの無い透明度の高い眼鏡を外し、一つに結わいていた髪を解いてボクを見つめた。

その姿は素直にイリアそっくりで、思わず声が出なくなる。


「どう、ですか? 自分では、姉さんにそっくりだと自負しているんですが・・・」


「そっくりだね・・・」


「そ、そうですか? で、では・・・んっ、んんー」


何故か咳払いし、彼女はそれをきっかけに、『演技』を始めた。


「・・・リイド」


背筋がぞくりとした。

その声色は、間違いなくボクが知っている誰かの声だったから。

勝気な瞳を細め、髪を指先で弄りながら微笑むその姿は・・・もう、殆ど本人にしか見えないくらい、瓜二つだった。

何故こんな事を始めたのかよくわからない。 ただ心臓の動悸だけが激しくなって、嫌な汗がじっとりとシャツを湿らせていく。

アイリスは少しだけ思案し、言葉を捜していた。 そうして顔を挙げ、強い口調で言う。


「あんたの事、責めたりなんかしないから」


「え・・・?」


「あたしの事、そんなに気負わなくていいから」



『あたしのことは気にせずやりなさい、リイド・・・』



一瞬誰かの言葉が脳裏を過ぎって、思わず目を見開いた。


「あんたの事、みんな信じてた。 だから待ってたのよ? 誰も、あんたを疑わなかった」


「・・・うん」


「だから、あんたは胸を張っていいの。 人に褒められる事をしたんだから、俯いたり落ち込んだりしないで、しゃきっと前を向きなさい」


「・・・そうだね」


「それでも辛い時は・・・あたしがずっと傍にいるから。 だから・・・一人で抱え込んだり、責任を背負ったり・・・しないでください」


どこまで演技で、どこまで彼女の言葉だったのだろう。

良く分からないけれど、でもアイリスはきっとボクの事を心配して、勇気付けてくれようとしたんだと思う。

だから嬉しかった。 嫌われててもいい。 赦してもらえなくてもいい。 そんな他人の気持ちを、幸せに感じる。


「ほら。 情けない顔しない。 別にもう怒ってないし誰もあんたのことなんか責めやしないわよ」


そう言って手を差し伸べるアイリス。 思わずそれを手にすると、何か自分の中でずっと我慢していたものが決壊して、心の中が滅茶苦茶になりそうだった。

その手を強引に引き寄せて彼女を抱きしめる。 一体何を抱きしめているのか最早自分でもよくわからなかったけれど、関係ない。


「せ、先輩・・・!?」


「ごめん・・・少しだけ、こうしててくれるかな・・・」


限界だった。 ずっと、本当は辛くて我慢してて。 イリアの顔を見ただけで、泣きたかったんだ。


「後で、いくらでも怒られるから・・・だから・・・っ」


もう少しだけ、ここで泣かせて欲しい。

薄暗闇の中、抱き寄せたアイリスの温かさは・・・きっと彼女のそれとよく似ていて。

アイリスはボクを拒絶する事無く、イリアのように優しく抱きとめてくれていた。


だから、泣くのはここで終わりだ。


君に別れを告げるよ、イリア。



さようなら。 今度からは、笑って会えるように・・・頑張るから。




さようなら。




⇒優しい、夜明け(3)




「おっ? リイド、どこ行ってたんだ?」


「うん・・・。 ちょっと、イリアに挨拶」


「あー・・・そっか。 みんなもう帰りの仕度してるぞ。 あと目ぇ赤いけど、大丈夫か?」


「・・・うっさいなあ、もー・・・ほら、後片付けあるんでしょ? 食った分だけ働いてくださいよ」


肩を竦めて笑うカイト。 ああ、しかしみっともないくらい泣いてしまった。

でも不思議と気分はすっきりしている。 信じられないくらい泣いたから、悲しい事はからっぽになってしまったのかもしれない・・・そんな事を漠然と考える。

抱き寄せていた柔らかくて温かい彼女の感触はまだ生々しく残っていて、本気で一瞬・・・一瞬だけ、イリアに出会えたような気がした。

しかし嫌われているにしてはアイリスは微妙に親切だった気がする。 人は見かけによらないというか、よくわからないものだ。


「あらリイドちゃん、もうアイリスちゃんといちゃいちゃしなくていいの?」


「ぶっ・・・ちょ、母さん何ゆってんの・・・」


そうして結局、ボクが最も頭を悩ませる原因は今だ健在だった。

母さんが司令官として登場したときは流石に目玉が飛び出るかと思った。 何せ全く知らなかった事だ。

もう大分ジェネシスにも馴染んだと思っていたけど、冷静に考えてみるとヴェクターは副司令。 司令官は他にいるわけで。

でもまさかそれが自分の母親だとは思わないわけで。 それがやけに偉そうな服装で登場したとき、他にどんなリアクションが出来るというのだろう。

何はともあれこの間抜けな顔をした母親がボクら直属の上司であるという事実は変えようがないらしい。


「あら、アイリスちゃんも一緒に部屋を出て行ったからてっきり逢引かと思ったら・・・違ったの?」


「ぜんっぜん違う!」 微妙に違わないけどそれは内緒だ。


「それより、なんで今まで教えてくれなかったんだよ・・・」


「さっきも言ったでしょ? なかなかお家に帰れなくって〜」


「司令部にくればいいだろ」


「司令部にもなかなか行けなくって〜」


「・・・・・・・・」


「リイドちゃんが怖い顔するー・・・」


久方ぶりに見る母親に対して思う事は殺意ってどういうんだろうな。


「まあいいよもう・・・しかし、色々と我が家の謎が解けた気がする」


ジェネシス勤務だからってあんなでかい一軒家を女性の細腕一つで何とかできるとは思えないし・・・。

それにそもそも余りにも帰ってこなさすぎる。 でも本部司令ということなら何となく納得できた。 つまり真っ当なお仕事じゃなかったってことだ。


「我が家に秘密なんかないわよリイドちゃん。 あ、でも母さん今日からもあんまりお家には帰れないんだけど・・・」


「それはいいよ。 自分の母親の立場くらいは理解を示すつもりだし」


「本当!? リイドちゃん優しいのね〜、母さん大好きよ!」


「ひっつくな!?」


引っ付いてくる母親を必死にはがしていると、それをジト目でエアリオが眺めていた。


「・・・何か?」


「いや。 マザコンは悪い事ではないと思う」


「マザコンじゃないッ!! 意外な言葉でボクを表現するなっ!!」


「エアリオちゃん、これからもお家にはあんまり帰れないから、リイドちゃんをよろしくね〜」


「まかされました」


お前の世話をボクがしてるんだろうがああああああ!

とまあ、以下どのような事があったのは省略する。 もう面倒くさいので速く家に帰りたかった。

思えば久しぶりの自宅だ。 ずっとなれない場所で寝泊りしていたお陰で妙に疲れているし・・・思えばつい数時間前に数え切れない敵の大軍団と戦ったばかりじゃないか。 宴会なんかしている暇があったらさっさと休ませてほしかった・・・。

そうしてボクらは家に帰ることにした。 エアリオと肩を並べて歩いていて、何か違和感を覚える。

そうだ。 なにやらさっきからあの恐ろしくしつこかったオリカの姿を見ていない。 というか、途中から会場からも消え去ってしまった気がする。

あそこまでしつこかったくせに、あっさり引き下がるなんて思えない。 けれど今までもずっとボクの前に現れなかった事を考えると、何かあいつにはまだ秘密があるのかもしれない。

というか秘密しかないじゃないか!? あんなに行動を共にしたのに、何一つ聞き出せてないってどういうことだ!?


「やつはプロなのか・・・? 情報戦のプロなのか・・・?」


「大丈夫?」


「あ、ああ・・・平気」


なにやらぶつぶついっていたらエアリオに本気で心配そうな目をされてしまった。

今日は一度に色々な事がありすぎて酷く疲れた。 エクスカリバーのこととかSICのこととかも話さなきゃいけないわけだけど、そういうのは後回しにしよう。

もうあんまり真面目な事は考えたくない。 心機一転、気分も新たに頑張る事を決めたわけだし、頑張るのは明日からでもいい・・・はず。

久しぶりに帰宅する自宅。 そのまま風呂場に直行し風呂を沸かしつつ、リビングのソファに腰掛けてSICの制服を脱ぎ捨てた。


「だはー・・・疲れたぁぁぁ・・・」


今までで最も密度の濃い一日だった気がする。

というか、実際倒れていてもおかしくないスケジュールだ。 眠気で頭がくらくらするけれど、せめて風呂くらいは入りたいから我慢する。

隣にちょこんと座り込んだエアリオはSICの制服を見て目を細める。


「リイド・・・スヴィアに会ったのか?」


「え? ああ・・・って、あ! エアリオに聞きたい事があったんだ!!」


「?」


「あのさ・・・エンリルっていう女の子、知ってる?」


「―――エンリル?」


その言葉を聴いた途端、エアリオは眉を潜めた。


「そう、お前とおんなじ顔してる女の子なんだけど・・・スヴィアが連れてる干渉者で。 知らないのか?」  「知らない」


即答だった。 あまりに速かったため一瞬反応できなかったが、完全にこの話題から興味をなくしてしまったのかエアリオはテレビの画面に集中していた。

だが、知らないという事は無いだろう。 それにこの反応じゃ、まるで知っていますって言っているようなものじゃないか。


「リイドは・・・」


「ん?」


「リイドは、わたしのパートナーだよね・・・?」


「え? あ、うん。 そうだけど?」


「だったらいい。 関係ない事だから、それは。 もう、リイドは忘れていいこと」


「・・・・・・そうなんだ」


納得は行かなかったが、これ以上訊いたところで答えてはくれないだろう。

そうだ、冷静に考えればおかしいことだらけだ。 レーヴァとガルヴァ。 エアリオとエンリル。

何故あんなにも似ているのだろう。 どうして殆ど同一人物とも言えるエアリオとエンリルが互いに存在を否定しているのか。

頭がこんがらがる。 そういえば、母さんは司令ってことは元々スヴィアがレーヴァに乗ってた事も知ってたんだろうか?

だったら、ガルヴァテインのことも、エンリルのことも、知っているのだろうか・・・。

どうせ母さんには色々と話さなきゃいけない事がある。 司令だったらなおさらだ。 次の機会にでも、まとめて質問するとしよう。

焦らなくてもいい。 とりあえず、前に進み出せた。 今はそれで納得しよう。


「・・・あのさ、エアリオ」


「?」


「なんていうか・・・置いてってごめんな。 それ、まだちゃんと謝ってなかっただろ?」


「・・・そう」


二人して並ぶソファの上。 TVからは明るいお笑い番組が流れていて、静かな部屋に喧騒を齎している。


「ボク、さ・・・。 お前の事、ちょっと苦手っていうか・・・避けてたのかもしれない」


「・・・・・・・・・」


「お前が、スヴィアと仲良くしているのを見るのが、嫌だったんだ。 お前を傷つけてしまった事も、なんだか気まずくて・・・。 それに、ボクはいつもほかの事に目を囚われて、いっつも、お前のこと、ちゃんと見てなかったから」


リイドが見ていたのは常に敵視した人間や見返したいと思う人間・・・そして自分を助けてくれたイリアだった。

だからこそ、気づかなかった。 悪気があったわけではない。 ただ、気づけなかった。


「エアリオは、ボクをパートナーだって言ってくれたよな」


「うん」


「最初は、なんだそれめんどくさいなって思ったんだ。 でも、段々・・・エアリオが居てくれたお陰で、毎日の生活が楽しくなったんだ」


ドタバタした朝の風景も。 昼休み、中庭のカフェで食べるBLTバーガーも。

退屈なようで、でも毎日が楽しくて。 大事なものがかけてしまってからは、そんなことさえも忘れてしまっていた。

だから、感謝しなくちゃいけないんだ。 何よりも、誰よりも、いつも傍に居てくれたのはエアリオだったから。


「こんなんで、ゴメン。 でも、もしよかったら・・・もう一度だけ、ボクを信じて欲しい」


虫のいい話しだとは思う。 でも・・・。


「お前じゃなきゃ、多分ボクは駄目なんだ」


イリアは、カイトじゃなきゃホルスを倒せないって言った。

それはきっとそうなのだ。 本当に信頼できる相手でなくちゃ、厳しい戦いは勝ち抜けない。

オリカは確かにずばぬけて高い適正を持っているけれど、信頼できるかと言われるとちょっと違う気がする。

だから、ボクは・・・シンクロした事も無い、今までずっと上っ面だけだったパートナーと・・・本当の意味で、相棒になりたいと思った。


「ボク、みんなを守りたいんだ。 イリアを、アイリスを、カイトを、みんなを・・・お前の事も。 でも、一人じゃ何も出来ないから、力を貸して欲しい」


出来る限り正直に、今の気持ちを言葉にしたつもりだ。

それがエアリオに届いたのかどうかはわからないけれど、複雑そうな表情をしてエアリオは顔を上げた。


「それはな・・・リイド」


「う、うん・・・?」


「わたしが・・・ずっと、言おうと思っていた事だよ」


少しだけ照れくさそうに、いつもの仏頂面を緩ませて、消え入りそうな小さな声でそう言った。

ああ、判ってたとも。 エアリオがいつも、ボクに何をしていてくれたのか。 何を望んでくれていたのか。


「・・・変わったよな、ボクら」


「ん。 変わりすぎちゃったな」


そっと手を重ねる。

最初はお互い興味なくてどうでもよくて、パートナーなんてなるつもりもなくて。

仕方のない同居生活に続き、仕方のない闘いが続いた。

でも、今は違う。 今度こそ、ここからパートナーを始めるんだ。

遠回りしてしまったけど、でも、それでいい。 今日から始めれば、明日はきっと変わるから。


「これからもよろしく、エアリオ」


「こちらこそ」




それからボクたちは夜が明けるまで他愛のない話をした。


どうでもよくて、でも大切な。 いとおしい日常の話を。


彼女はボクの知らない事を語り、ボクは彼女の知らない事を語った。


そうやって分かり合えていけたらいいと思う。 それはきっととても素敵な奇跡の欠片だから。




彼女がこうして笑ってくれるのも。 ボクがこうして笑っていられるのも。


きっと、何かが変わった証拠。 だから、これから明日を始めよう。



そしたらきっと。


イリアも、応援してくれると思うから。



まどろみの中、ボクは確かに夢を見た。


それは、ボクら四人が―――楽しく、馬鹿馬鹿しく、騒いでいた・・・幸せな夢―――。



アイリス「30部突破、おめでとうございます」


カイト「あ、あれ・・・? アイリス、エアリオは?」


アイリス「はい? 先輩がどうかしたんですか?」


カイト「いや、このコーナーはエアリオがメインだったはずなんだが・・・」


アイリス「そうなんですか? メインヒロインが交代になったという事でしょうか?」


エアリオ「ふざけこと言うな! 遅刻しただけだ!」


カイト「お、おお・・・。 真面目に降板かと思ったぞ・・・」


エアリオ「うあああああっ!」



⇒息抜き



アイリス「第二部完結、との事らしいですが?」


カイト「どこから二部だったんだ?」


アイリス「ええと・・・(資料をめくりながら)、どうやら『翼よ、さようなら』までが第一部だったみたいですね」


カイト「思えば随分長いこと続いたなあ、これ」


アイリス「まだ一ヶ月ちょっとくらいじゃないですか? 作中でも大体一ヶ月ちょっとくらいですか」


カイト「そんなもんかー。 いつになったら中学卒業できるんだろうな、俺たちは」


アイリス「永遠に子供のままというのも悪くはないと思いますよ」


カイト「そっか・・・。 ところで、せっかくキリのいいところまで書いたんだからペースが乗ってる内に続き行かなくていいのか?」


アイリス「続きはなにやら色々大変みたいで作者が息抜きをしたいそうです」


カイト「そっか・・・。 じゃあ作者の愚痴でも聞いてみるとしようか。 何々・・・」



『アイリスとイリア、二人の名前を書き間違える』



カイト「これはどうなんだ?」


アイリス「他にも『エンリル、エアリオを間違える』そうです。 もしかしたらそう間違ってるところがあるかもしれませんね」


カイト「・・・いやいやいや、キャラクター名くらい覚えようよ・・・」


アイリス「まあ、確かに若干憤りを覚えますが・・・。 他の作家さんが聞いたら怒りそうな話です」


カイト「その前に貴重な読者を起こらせるんじゃないか?」



〜小休止〜



カイト「しかし、お前はなんか最近目立ってていいな」


アイリス「私より帽子の人のほうが目立ってたと思うんですが」


カイト「まー、確かになー・・・ってあれ、エアリオは?」


アイリス「スタジオの隅で丸くなってますね。 先輩、可愛いです」


カイト「・・・なんかコメントしづらいからほっとこう。 というかお前エアリオと仲よくなったな」


アイリス「先輩ちっちゃくて可愛いのでつい構いたくなるんです」


カイト「そうですか」


アイリス「でもまあ、これからもメインヒロインとしてがんばっていきますから、先輩も応援してくださいね」


カイト「・・・しっかし、エアリオの出番ねえなあ」


エアリオ「それはな。 わたしの話はこの物語の根本に関わるから引っ張ってるんだよ」


カイト「急に復活するな・・・。 しかし、それじゃあ当分出番はないのか?」


エアリオ「んー・・・。 徐々にそろそろフラグを回収してくみたい。 とりあえず次はカイト編だって話だぞ。 よかったな、しね」


カイト「ありがとーってなんか今聴こえたぞ」


エアリオ「何でもない。 で、今後はキャラクターごとのシナリオと同時にこの世界の謎に迫っていくそうだ」


カイト「謎なんかあったか?」


アイリス「謎があるかどうかはともかく、これで先輩の過去なんかも明らかになるんですか?」


カイト「俺の過去って何かあったっけなあ・・・」


エアリオ「この話はそれぞれのキャラクターが物語の根本に深く関わっているから、キャラクターのシナリオをやるとそのまま謎解きになる、予定だそうだ」


カイト「自信ないんかい!」


アイリス「でもうらやましいです先輩。 メインで取り上げてもらえるなんて」


エアリオ「・・・でも、お前もなんか今後出番増えるみたいだぞ? 三部はお前らメインだって・・・って、なんですとー!?」


アイリス「先輩、可愛いけどキャラ崩れてますよ」


エアリオ「何故お前らがメインなんだ!? 意味がわからないっ!!」


カイト「ま、まあ・・・キャラクターシナリオはある意味死亡フラグじゃねえか? イリア的にもさ」


アイリス「うっ・・・確かに・・・」


エアリオ「そっか。 まあお前らしね」


カイト「泣くなよ・・・。 あとあんまりそういうこと言うと人気がなくなるぞ・・・」


エアリオ「元からないからいい」


カイト「ついに割り切ったか・・・」


アイリス「そういえば結構長く続いていますし、そろそろ分けがわからなくなってる人もいるんじゃないですか?」


カイト「そうだな。 正直作者が一番分けわかんなくなってることだし、少し振り返ってみるとするか」



プロローグ 『序』


プロローグにしてエピローグ。 全ての謎はここに回帰する予定。

アイデアが浮かんで序だけ書いて投稿するも、長い間続きを書く事をしなかったため、ここだけ妙に古い文章になっている。



第一話 『夢の、終わり』


主人公リイド・レンブラムの登場に始まり、退屈な日常の崩壊を喜ぶというシーン。

レーヴァテインやヴァルハラなどの設定が殆ど解説されないまま、ただリイドの日常を書きなぐっただけのもの。

とりあえず定番のロボットに出会い、乗って戦う・・・というところまでであり、リイドの身勝手さを主眼に置いて執筆された。

ちなみに他の話に比べ文章量が圧倒的に多く、今思うと四回に分ければよかったなと思う。



第二話 『偽りの、感情』


変化していくリイドの日常を描いたシーン。

レーヴァテインに搭乗し天使と戦うリイドが始めて宇宙に上がる話でもあり、同時に反動について語られた。



第三話 『暁よ、覚めないで』


リイドが始めて敗北し、落ち込むというシーン。

イリアの搭乗するイカロスに初搭乗。 初めてヴァルハラ以外での戦闘が行われる。

ここからイリアとリイドが心を通わせるというシーンが増え、彼女の死亡フラグは段々積もっていく。



第四話 『神話、狩る者たち』


リイドの兄であるスヴィアが登場するシーン。

初めて同盟軍の存在などが明かされ、少しずつリイドの世界観も町の外に向けられていく。

他にもパイロットたちが遊びに出かけるなど数少ない楽しそうなイベントが・・・楽しそうだっただろうか?

ヘヴンスゲートや天使の侵攻についても解説されているが、メインはやはりガルヴァテインとトライデントの顔出し。

三話に続きイリアの死亡フラグは継続中であり、そろそろ死んでもおかしくない雰囲気。



第五話 『弱さの、温度』


メインシナリオの間に挟まるそれぞれの心境と日常を描いたシーン。

リイドがようやく自らの行いを後悔しはじめる。 それと同時にそれぞれの変化した心境が個別に語られた。

今後もこうした中間シナリオは挟まれることになり、その先駆け。



第六話 『翼よ、さようなら』


イリアが倒れる問題の話。

宿敵ホルスとの戦いのみで構成され、ただイリアが駄目になり、カイトが倒れるということだけを長々と描いたシーン。

投稿当時は異常に人気がなかったと思われる話。

せっかく仲良くなり始めていたイリアがいなくなり、リイドが激しく落ち込む。

それと同時に周囲との関係がぎくしゃくし始め、自分の立場が嫌になっていくリイド。



第七話 『きみが、見た夢』


この話の中枢にもあるリイドの夢。 その登場人物であるはずだった少女、オリカが現れる。

リイドの眠りや記憶喪失である事実、夢の存在はこの話を語る上で非常に重要である。

学園祭の日常シーンも描かれたが、学園もののくせに驚くほど学園祭を軽視しているため殆ど楽しそうなシーンはない。

オリカの変人ぶりがいかんなく発揮され、そのためにあった話と言ってもいい。



第八話 『交錯、天空都市』


量産型レーヴァテイン、ヘイムダルが搭乗。

そしてこの話は恐らく全話中最大の不人気。 その理由は戦闘シーンばかりだったからなのか、なじみのキャラが殆ど出なかったからなのか。

何はともあれヨルムンガルドやウロボロスの搭乗などもあり、急にロボットが一杯になった話である。

オリカに強引に引っ張られ、リイドはヴァルハラを後にする。



第九話 『心、擦れ違い』


日常パート。

ヴァルハラを出たリイドの心境を主に描いたものであり、同盟軍戦艦スレイプニル内部での出来事。

スヴィアやエンリル、セトやネフティスとリイドが出会うというシーンであり、実はわりと重要。

ゆっくりと兄弟が過ごせる時間を作りたかったため、殆どそのためだけに書き下ろした。



第十話 『祈り、剣に映る時』


エクスカリバー、SICが登場。 さらに世界は広がっていく。

エクスカリバーの顔出しがメインだが、ここでリイドは自らの考えや守りたいもの、帰るべき場所を考えさせられる事になる。

故郷を必死で守ろうとするエクスカリバーの姿に心を打たれ、自らの守りたいものから目を逸らさず戦う事を決意する。

レーヴァテイン、エクスカリバー、トライデントと三機のアーティフェクタが並んだ貴重な戦闘シーンもあるが、殆ど描写はなかった。



第十一話 『優しい、夜明け』


リイドがヴァルハラに戻ってくる話。

ヘイムダルで出撃したアイリスを助けに現れ、そのままジェネシスに帰還する。

外の世界を眺めたことによりようやくイリアの事をふっきり、強くあるために努力する事を決意する。

それと同時にエンリルやアイリスともきちんと向き合い、対等な存在として関わっていく事を誓うのだった。



カイト「・・・あまりにもざっとだけどこんなもんか」


アイリス「何だか思い返すと色々あったような、なかったような」


カイト「ていうか・・・ほんとこれだけだな。 よーーーやくスタートラインっていうか」


アイリス「そうですね。 ここからレンブラム先輩には頑張ってもらわないと」


エアリオ「・・・なんか・・・わたしほんと出番ないな」


カイト「その再確認をさせられる事になるとは俺も思わなかったな・・・」


エアリオ「・・・・・・」


アイリス「大丈夫ですよ、私は先輩の事好きですから」


エアリオ「うれしくないやい!」



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